YCombinatorのベンチャーキャピタリストPaul Grahamインタビュー

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Paul Grahamは「今はバブルではない。スタートアップはビジネスモデルの心配をするな。いちばん良い会社は古い独占体制を打ち壊す会社だ」と信じている。GrahamはMountain ViewのベンチャーキャピタルYCombinatorのパートナーの一人。同社は起業したばかりの非常に早い時期のスタートアップに投資している。YCombinatorが投資した会社にはソーシャルニュースサイトのReddit、オンラインフォーム作成ツールWufoo (われわれの記事)、オンラインカレンダーのスタートアップKikoなどが含まれる。 Kikoは先月、eBayのオークションに売りに出されて議論を呼んだ(英語) (日本語記事) が、結局最終価格25万ドルで売れた。 YCombinatorが投資する会社で次にサービスがスタートするのは、Sequoiaも投資しているモバイルプレゼンスサービス, looptだ。YCombinatorのサイトには「わが社は、良いアイディアを持っている2、3人のハッカーの若者のグループが、会社を立ち上げるためのいくらかの資金とアドバイスを必要しているような場合に向いている」と書いてある。

Grahamはまたテクノロジーにおけるイノベーションと経済についての明快な発言で知られている。 彼は3冊の本を書いており、最新の著作はO’Reillyから刊行されたHackers and Paintersだ。PaulのエッセーはPaulGraham.comで読める。左の写真は今年のRailsConfでのキーノート講演の時のもの。

以下の短いインタビューで、ベンチャーキャピタルの一回の投資が少額になってきた傾向、スタートアップのビジネスモデル、Kiko、バブルとWeb 2.0、などについてPaulの考えを尋ねた。

Marshall:スタートアップが直面する問題の一つに、ベンチャーキャピタルは巨額の投資ばかり考えてい て、小さいスタートアップには向かないということがある―Diggがいちばん有名な例だが。しかしこれは変わってきたという意見もある。ごく早い段階のスタートアップに少額の投資をするというのは現在のトレンドになっていると考えていいのだろうか?そうだとすれば理由は?

Paul: 投資が比較的少額になってきているのは間違いなくトレンドだ。理由は、現在では起業に必要な資金のうんと減っているからだ。最初にあまり多額の資金を集めなければ、スタートアップ側でその後の選択肢が増える。いっぺん2、3百万ドルというような単位のベンチャーキャピタルの投資を受けてしまえば、早い段階で会社を売りに出すというオプションはなくなってしまう。

それに(多額の投資を受けると)企業の成長を加速するよう強い圧力を受ける。そういう圧力を受けると会社のデザイン上のエラーをしがちになる。 FlickrとDel.icio.usが通常のベンチャーキャピタルに頼るルートを避けたのは偶然ではない。両社ともクチコミなどの微妙なソーシャルな要素を適切に備えておく必要があった。そういった面でうまくやるには自然に成長していくほうがいい。

今ベンチャーキャピタルの資金を導入した会社の例としてDiggが出たが、彼らは280万ドルを調達した。しかしDiggの最大のライバルの redditはわずか8万8000ドルしか集めていない(なぜ知ってるかというと、投資したのが私たちのYCombinatorだからだが)。それでも redditは立派に競争できているばかりか、もっと本物らしい参加意識がはっきり感じられる。Diggのフロントページの56%はトップ100人のユー ザーの投稿だという記事を読んだ。redditのフロントページの投稿はもっと広い範囲のユーザーから来ている。その理由はおそらくredditが自然に 成長してきたからかもしれない。クチコミとかFlickrやDel.icio.usが辿ってきた道だ。

理由がどうであれ、8万8千ドルの投資しか受け入れていない会社が、280万ドルの会社と渡り合えるというのは面白いデータだ。ウェブ以前だったら考えられなかったことだと思う。

Marshall: あなたは「良いビジネスモデルを持つことはスタートアップにとっては重要ではない、なぜなら優秀なスタートアップは何度もモデルを変えることになる場合が 多いからだ」と言っている。しかし「実現可能性の高いビジネスモデルがないことが現状がバブルであるの証拠の1つだ」と主張する人も多い。これには同意し ない?

Paul: 私がスタートアップのファウンダーに言っているのは、最初からビジネスモデルにあまり重点を置くな、ということだ。出だしで一番大切な仕事は、何であれ人々が求めるもの作り出すことだ。それができなければいくら巧妙なビジネスモデルを考え出しても役に立たない。

もちろん最後にはビジネスモデルが必要になってくる。しかし今までの経験からすると、人気のあるサービスから収益を上げる方法を考え出すのは、人気のあるサービスを考え出すよりはるかに簡単だ。

私がファウンダーに「まず何かスゴイものを作ることに集中しろ、金を儲ける方法を心配するな」と言っているのでえらく非難されてきた。しかしそれが Googleがやったことだ。それをいえばAppleもそうだ。私の言っていることが正しいと信じてもらうのに十分に立派な実例だと思うが。

現状はバブルの再来か? そうとは思えない。少なくともまだ現在は。ダメなスタートアップがたくさん出来ているかもしれない。しかしそれでバブルと は言えない。バブルというのはダメなスタートアップに大金が投資されるようになって初めて言える。まだそうなってはいない。現在これほどたくさんのスター トアップが設立されるようになった理由は、設立費用が下がったからで、投資される資金が増えたからではない。

Marshall: 今どんなタイプの企業、あるいはテクノロジーに刺激を受けるか?

Paul: それはいろいろある。私が特に気に入っているのはネットワークの威力をうまく利用したものだ。Sunのキャッチフレーズじゃないが「ネットワークこそコン ピュータ」だ。ただし今では単なるローカルなLANじゃなく、Internetプラス電話ネットークだ。これが全てを変えた。

率直に言って、私は投資家ということになってはいるが、私が一番興奮させられる相手は、必ずしも一番金を儲ける相手ではない。私が興奮するのは悪し き独占を打ち砕くようなものだ。たとえば私が共同的なソーシャルニュースを気にいっているのは、それが大金を稼ぎそうだからではなくて―稼ぐかもしれないが―オールドメディアがいかにだらしない仕事をしてきたか証明してくれるからだ。

まだたいていの人はスタートアップがどれほど強力な社会的力になりうるか理解していない。企業化されなければ決して実現できないような種類の変化が いろいろある。私の夢のひとつは、レコード会社をやっつけるようなスタートアップに投資することだ。だいたい自分の顧客を裁判に訴えなきゃならないような ビジネスモデルは破綻している。新しいビジネスモデルがある、どこかにあるはずなんだ。私の考えでは悪い奴らをやっつける方法は政治的な道ではなく(少な くともそれだけではなく)、古いモデルにとって代わるような新しいモデルを発明することだと思う。

Marshall: あなたはオンラインカレンダーのスタートアップKikoに投資した。ファウンダーは最近会社をeBayで売りに出した。最初に会社がオークションにかけら れたとき、あなたは「Kikoを行き詰まらせたのはGoogle CalendarのリリースとGmailへの統合だった。スタートアップが学んだ最良の教訓は、Googleと競争しないこと、Googleと競争しない 最良の方法はGoogleの社員が仕事で使いそうなツールに手を出さないこと」と書いている―そう要約してよいだろうか? 実は私も最初に記事を書いた後さらにいろいろ考えてみて、Kikoの行き詰まりはGoogle Calendar APIが公開されていろいろなことが可能になった影響が大きいのではと思っている。オンラインプロダクティビティーアプリケーションに関してはすでにゲー ムオーバーと考えてよいだろうか?

Paul: それは正確な要約だと思う。Googleが得意な分野で競争しないように私は勧めている。ではGoogleが得意なのは?第1近似として、Googleの ディベロッパー自身が仕事で使うようなツールだ。だからGoogleはビデオシェアリングサイトの構築よりオンラインカレンダー作りの方が得意だ。多分 Googleの社員は仕事中にビデオなんか観賞してないだろうから。

もうひとつGoogleの弱点は大企業だということだ。私はあそこのハッカーから新しいものをリリースするまでに乗り越えなければならない官僚的障害について本物のホラーストーリーを聞いている。ということはGoogleは、社内官僚が尻込みするような革新的なサービスには手をつけないだろうと考えられる。

だからスタートアップもGoogleと競争できる―どんな分野にしろ、Google社内の門番が怖がるようなワイルドなアイディアがあれば。

Kikosの場合、残念ながらカレンダーという分野ではワイルドなアイディアを組み込む余地が少なかった。Google Calendarが開発中なのはもちろんわれわれも皆知っていたが、Orkut系のカレンダーになるのではと考えていた。まずいことに最終的に出てきた製 品はGMail系カレンダーだった。今考えれば明らかだが、Google社内のハッカーが仕事で使いそうなのはGmailといっしょに使うカレンダーで、 Orkutではなかった。

Marshall: Kikoの開発チームが作った新しいスタートアップに投資しているらしいが?

Paul: まだ発表できない。しかし今まで投資してきたなかで最高に面白いアイディアだ。正気じゃないと言ったほうがいいかも。とにかくそれが連中のやりたいことなんだ。

Marshall: 大部分のWeb 2.0テクノロジーは比較的狭いニッチ分野にのみ興味をそそるものだという見解をどう思うか? テクノロジーが定着して市場に現実的な足がかりを築くためにどういうことが助けになるか、意見を聞かせてもらえばありがたいし、読者も喜ぶと思うのだが。

Paul: 私にとって“Web 2.0″というのは要するにウェブだ。ウェブテクノロジーは決して狭いニッチにアピールするだけのものではない。ウェブベースのメールのユーザーは何億人もいる。ネットワーク(広い意味でのインターネット、プラス電話網)はありとあらゆるところに浸透している。

どうやったらテクノロジーが定着するかはっきり主張してきた。われわれはTシャツを作った。そこにはこうプリントしてある。人が欲しがるものを作れ。“Make something people want” スタートアップを成功させるコツを4語で言えというなら、たぶんこれがいちばん適切なフレーズだと思う。

人が欲しがるものを作るいちばん簡単は方法は自分が欲しいものを作ることだ。まだ現在ないもので自分が欲しいものは何だ? たとえばこれは90年代初めの話だが、友達の1人が長距離電話料を払わずに台湾にいるガールフレンドと話をしたいので音声をデータにコンバートするソフトを書いたことがある。これなどはスタートアップにできたらすばらしいプロジェクトになっていたはずだ。

もし少し年齢が高かったり特定の分野に十分な経験があるなら、自分は欲しくないが、人が欲しがるかもしれないと思うものを作ろうとしてもよい。しか しこれはずっとリスクが大きいやり方だ。ほとんどの偉大なスタートアップはファウンダー達が欲しいものを作ることから始めたと思う。Google、 Yahoo、 Apple、それにMicrosoftでさえそうだ。

【日本語版ひとこと】
Paul Grahamはベンチャーキャピタリスト、Lispプログラマー、画家という才人。Painters and Hackersはハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たちとしてオーム社から邦訳刊行中。

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