楽曲無料化行進曲は鳴り止まない

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2007年は音楽産業にとっては災難な年となった。いや、音楽レーベルの厄年と言うべきか。

DRMの壁が音を立てて崩れ出し、楽曲CDの売上げは危険レベルまで落ちこんだ。プリンスやNine Inch Nailsといったアーティストは楽曲をタダで配ったり、そうかと思うとファンに楽曲盗んじゃえと言い出し、レーベルの顔に泥を塗っている。今週は、あのレーベル(Capitol Records)の支配から抜けたRadioheadがデジタル新アルバムをネットで発売、みんなが払いたい値段ならいくらでも構わないという異例の価格設定で業界に衝撃を与えている。

楽曲の経済は極めて単純な図式で動いている。まず限界原価、これはゼロだ。ソフトウェアと同じで最初の1枚ができたら、たちまちそれと同じクォリティーのデジタルコピーが原価ゼロで作れる。しかもコピーは誰でも作れるのだ。つまり法的手段(著作権)、技術(DRM)など誰かが人工的に製造に障害を設けない限り、単純な経済原理でいくと楽曲価格は限界原価のようにゼロに落ちる運命にある。 これを裏付ける証拠なら、反論の余地のないものが既にある。今年4月DRMフリー楽曲のベンチマーク価格は$1.29だった。これがたった半年で31%落ちて現在$0.89なのである。

P2Pネットワークもこの問題(チャンス?)にさらに拍車をかけている。P2Pで無料コピー作りにかかる時間は格段に短くなった。本当にこれでいいのかというぐらい。今BitTorrent経由でダウンロードされる楽曲は月間10億曲前後で、そのほとんどが違法コピーときている。

最終的には政府が業界保護の抜本改革(楽曲課税を義務化する法案など)にでも乗り出さない限り経済原理には勝てず、楽曲価格はゼロに向かうだろう。

業界がもう負けを認め、デジタル楽曲にそれほど高く値がつけられない事実に目覚めた時には良いニュースもたくさん出てくるだろう。

まず1つ目。これでみんな他の収入源を探せる(探す)ようになる。特に可能性が高そうなのはライブ公演、マーチャンダイジング、楽曲コピー商品の限定エディションなど。サイン色紙は今もある。今年ライブミュージック業界は活況を呈している。あと例えば“無料”のデジタルアルバム発売に合わせて新アルバムの特別限定版ボックスセットを£40.00で同時発売するRadioheadの動きもある。

2つ目。アーティストとレーベルはデジタル楽曲を収入源と考えるのをやめ、リアルの製品をマーケティングする手段と考え出す。楽曲ダウンロード、視聴、共有をユーザーに推奨し、今のラジオ局のモニターのようにペイを払ってでもお願いするようになるかもしれない。ネットで楽曲ダウンロードして共有するのが趣味のような熱心なユーザーは、ひどい訴訟の標的ではなく一番の大事なお客様、ということになる。

楽曲価格は今日明日ゼロになるわけではない。楽曲から一銭でも取ろうと思ったらクレジットカードも使わなきゃならないし、会計当たり例えば最低$0.20以上とか最低料金も必要だろう。iTunesやAmazonのようなサービスは質が良いから課金もできるが、これがP2Pネットワークだとダウンロードするまで何が出てくるか分からない。例えばウィルス。粗悪コピー。こういう厄介事を避けるためならお金を払って構わないというユーザーも多そうだ。ただまあ、BitTorrentやSkreemrのような楽曲検索エンジンでユーザーは文字通りどんな曲でも数秒で探してダウンロードできるわけだから、課金といっても大した額は取れないだろう。

Update:この記事について一部ブログからは、やはり「フェアじゃない」という反論が寄せられたが、基本経済原理に反論するのは重力に逆らえと言うに等しい暴論ではないかと思う。限界原価ゼロ+競争(誰でも楽曲コピーが作れる)では結局すべからく価格はゼロになるのだ。政府が自由市場に人工障壁でも設けない限り。

Update 2: NBC UniversalのCEOJeff Zuckerが「われわれは全員一丸となって政府の政策検討課題(アジェンダ)にIP(知的所有権)規制問題を提起する必要がある」と言っている。恐ろしいことだ。

Update 3: Paul Glazowskiより反論。フェアネス(公正さ)の観点から議論を展開している。フェアネスについての議論なら、私もコメント欄で散々書いている。そこを読めば分かるが、重力だって必ずしも公正には働かないのだ。でも、避けようがない。Paulはさらに、この表現媒体(音楽)には“価値”があると主張している。その点については異論はない、その通りだと思う。

しかし現実問題どうだろう。限界製造原価がゼロ、プラス、完全な競争(みんな消費者であると同時に全員どんな曲のプロデューサーにもなれるという状況)、イコール、やっぱり価格ゼロになってしまうのはこれ、仕方ないのでは? おそらく口にこそ出さないがPaulが一番言いたいのは、政府が介入し、“公正”価格をアルバム1枚$5~8 に設定すべきだということだろう。もちろんそのためには政府を巻き込んで(Update 2にあるような)関連法を施行するか、あるいは音楽税(music tax)のようなものを設けなくてはならないだろう(インセンティブとしては本当に本当、最悪だが)。

Update 4: コメント欄の議論(原文参照。150件以上ついて大激論が進いてます)、すばらしいね。強硬な反対意見の誰かを呼んで一緒にポッドキャストかビデオ討論会でもやりたいぐらいだ。強硬は強硬だけども知的に反証を展開してくれているPaul Glazowski(update 3参照)なら乗ってくれそうな気がする。レーベル支持派の読者も大歓迎なので、ご連絡ください。たぶんScobleかGillmorにお願いしたら動画中継してくれるかもしれないしね。

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