新プラットフォーム戦争に備えよ。Google GearsはMicrosoftの利益を直撃する

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LooptがBlackBerryユーザーでも使えるように

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グーグルGearsを立ち上げたのは昨年5月。リリース1年目は、Webアプリをオフラインで使いたい一部デベロッパーとユーザーが利用する程度のマイナーでニッチな製品と思われた。

きっとみなさんも当時こんな議論があったのを覚えているのではないか。「オフラインのアクセスなんて誰が要るの?」、「どのみちどこでも接続できるわけだしね」、「こんなの、対応するアプリだってロクに揃わんだろう」などなど。

グーグルがエースのカードを切ったのはそれから1年後。この何週間か前になってからだった。:MySpaceメッセージがGears実装で超高速になった。そう。Googleは新Web APIプロバイダのレースに参入していたのだ。そしてこの1年の間ほとんど誰一人としてそれに気づかなかった。

未来のブラウザはバーチャルマシンになる公算が高い。バーチャルマシンがほぼ全アプリをホストする。このシナリオが現実になればOSは透明になる。従ってマイクロソフトに死守すべき牙城を抱えていることになる(=自社利益源)。今最も広く普及し、堅実なWebバーチャルマシンをFlashで提供しているアドビにしても、それは同じだ。グーグルはマイクロソフトを標的に危害を加える計画を秘密にはしていない。それを実行に移す最善の道が、レイヤーを上に動かし、ブラウザを標準の、しかしパワフルなアプリケーション用バーチャルマシンに作り変えることでOSを骨抜きにしてしまうことだというのも、彼らは知っている。

GearsがWebアプリの機能をどう変え、どう加速するのか。これをレビュー記事でお伝えするのは難しい。ブラウザベースのJavascriptの時は、MySpaceの機能、例えばメールのリスティングやソート、友だちリストのフィルタリングなど含め、とても遅く感じられた。ブラウザがサーバーに複数のリクエストを出すと、砂時計が回りっ放しのままロード表示バーがフリーズしたりした。それがGearsをちょっとの時間でさっとインストールして、確認をクリックし、ロード時間数秒待つだけで、どうだろう。それまでは使ってるこちらまで発狂寸前だった同じ機能が、あたかもブラウザの一部みたいな感じで使えるのだ。 グーグルはGearsができることが何か、このMySpaceで見せつけた。これで俄然みんな残らずこの製品に込められた本当の意図に目覚めた。「これはもはやオフラインのブラウジングなんて代物ではない。アドビとマイクロソフトに直接狙いを定めた一撃なのだ」と。

最後に僕が数えた時には、グーグルのWebベースのアプリケーションスイートには計28種のアプリがあった。どれも世界中の何百万人という人々に利用されている。彼らがウェブアプリ実行で使う技術は常に標準ベースのHTML、CSS、Javascriptである。単にベストなソリューションでいいならAjaxを選ぶことも考えられそうなものだが、なにしろ他のWeb開発技術のスタックはほぼ全て直接ライバルが製作・コントロールしているので、むしろそちらの懸念の方が大きいのだろう。

グーグルはオープンソースのWebブラウザ「Firefox」の開発を強力に後押しし、自社が選ぶ技術スタックとしてオープンなWeb標準もサポートしてきた。その理由は単純で、自社のWebアプリケーションがこれに依存していたからだ。Firefoxが軟弱ではインターネットエクスプローラ(IE)の復活を招き、引いてはWebの支配をマイクロソフトの手に戻す結果に繋がりかねない。

前はWebアプリがブラウザベースのJavascriptだけで走っても、グーグルにとって特に問題はなかった。しかしそれも競合他社が1歩踏み込んで各自個別の第2世代WebプラットフォームをFlex/AIRSilverlightというかたちでリリースするまでの話だった。 マイクロソフトとアドビはこれでデスクトップライクなインターフェイスと機能を打ち出し、Webベースのアプリに実現可能なものという面で、大きな1歩を踏み出した。大手も中小もライバルはこぞって(グーグルに)競合する技術プラットフォームを使って競合するアプリを作るだろう。そうすればGoogleアプリスイートはまるで1990年代で時間が止まった過去の遺物のようになり果てる。そうなるのは時間の問題だ。

グーグルに残された選択は明白だった。:ブラウザベースのJavascriptおよび標準の開発を投げ出して新技術のうち一つを採るか、あるいはこれにしがみつき、他社に対抗しうるオルタナティブになるところまでコアのWeb技術を育てていくか。グーグルにとって差し当たっての問題は、新標準も発表され、計画ではリッチなWeb技術をすぐ実現できるブラウザ機能もあるのはいいんだが、こうした標準の開発の進捗が遅く、広い普及を見るまでにまだ何年もかかりそうなことだった。その点、新HTML標準「HTML5」なら、プロプリエタリのランタイム追加の必要性抜きにネイティブのブラウザ内でWebアプリのケーパビリティが拡大できることを特に目指したものなので、これと同じ機能に他の機能を加えたらそれで新たなGoogle Web APIの基礎固めができる。

標準開発作業の遅れが、よりベターで、より高速な、それでいて無料&オープンなWebアプリ開発への道を塞ぐ中、グーグルは独自にその市場に参入することを決断した。Google Gearsを通してね。アイディアはシンプルだ。「明日のWebテクノロジーの機能を今のブラウザで提示すること」。 具体的な機能の大半は、標準化団体が何年も費やして開発した新HTML5の仕様規格から取った。彼らが製作着手するのを手をこまねいて待つ代わりに、グーグルは単にプラグインでブラウザを拡張しながら可能な限り最善を尽くし、これを実装した。自社Webアプリを、FlashとSilverlightに反抗する恐れもあるリッチな次世代標準で走らせるとなれば、短期的には標準を犠牲にすることになる(つまり“考えるのは後回し”ということ)。

Gears開発を担当するのは、グーグル内部のオープンソース団体に属する30人かそこらのデベロッパーだ。皮肉なことに、グループを率いる長のVic Gundotra(写真)は、グーグル入社前マイクロソフトでデベロッパーエバンジェリズム(開発者啓蒙)をリードしていた人である。この少数精鋭のデベロッパー集団が、Javascriptおよびオープンブラウザ・バーチャルマシンにおけるグーグルの利益の選抜・温存を手がける。 マイクロソフトとアドビは各々、湯水のごとくプラットフォームに予算を注ぎ込んでいる。書類上は、大手グループに軍事力・予算ともに敵わないように見える。そこでグーグルは自社の置かれた状況に弾みをつけようと、Gearsをグーグル本体から切り離し(文字通りの意味でも。-本プロジェクトの名前も“Google Gears”から単なる“Gears”に改称となった)、オープンソースライセンスのもとコード公開に踏み切った。

最初のリリースでは、HTML5で提案され、最重要と見なされてきたいくつかの機能にフォーカスした。つまり、クライアントベースの構造化データとオブジェクトストレージだ。このように最初に実装するものにクライアントストレージを選んだことで、Gearsは続く年のオフラインのアプリケーションソリューションという枠組みで世間には見なされた。意図したものではなかったにせよ、結果的にはこれで競合他社がもっと大きなゴールに気づけなかった可能性もあり、その点ではグーグルに非常に有利に働いたことは確かだ。グーグルなら自社独自のブラウザを開発し公開することもできたし、まさにその通りの未確認情報や噂もブログに出回った。が、ブラウザ市場は競争が激しく、退屈で、総じて厄介なものだ。しかも、新ブラウザ開発完了後もユーザーをブラウザ導入に誘導しながら、市場規模がクリティカルマス(全体に影響を与える人口)に達するまで待たなくてはならない。そこまでやっても相変わらず市場の残り70%、80%、下手したら90%は「Googleのブラウザは使ってくれないのにGoogleアプリだけは使いたがる人たち」ということだって充分考えられる。

むしろ一番の近道は、こうしたブラウザを一跨ぎに飛び越えて、その上に新たなレイヤー…つまりGoogleのWebレイヤーを追加することだった。人気ブラウザはどれも、デベロッパーがブラウザ機能を拡張できるメカニズムを提供しているので、グーグルは単に各ブラウザ対応プラグインを開発するだけで良い。 これならユーザーにわざわざブラウザ乗り換えを頼まなくても、自分たちの新Web APIを下手すると100%のブラウザにも実装が可能だ。何よりも重要なのは、ブラウザ市場に参入するより迅速かつ面倒のない方法でそれが実現できることだった。このプラグインを入れると、HTMLのレンダリング、インターフェイス提示、ユーザーオプションといった退屈な部分はすべてブラウザがやってくれて、その間、グーグルは既にそこにあるものをレバレッジして猛ダッシュをかけていける。

今やGearsはたくさんの新機能をサポートしている。中にはマイクロソフトやアドビの次世代Web API推進事業と共通のものもあるし、自社独自の技術革新の成果も。 デベロッパーに入手可能なファンクションコール(関数呼出し)には、バックグラウンド処理(砂時計アイコンよ、さようなら)、クライアントサイドの画像修正(処理)、位置認識、より優れたファイルアップロード、ブラウザ内ローカルデータベースなどある。

新APIと開発プラットフォームの採用には2つの面がある。 ひとつはユーザーサポートで、今回の場合それを受けるにはプラグインのインストールが必須だ。もう片方はデベロッパーサポートだが、Gearsではこれがこの上なく簡単にできる。アプリは他のアプリ同様、ブラウザベースのJavascriptを使っているので、サポートと言ってもただブラウザ内でできることをもっと沢山デベロッパーに提供するだけでいいのだ。JavascriptとWebのデベロッパーには新しく学ばなくてならないことは何もない。ユーザーとはプラグイン1個の隔たりがあるだけだ(バンドルの契約が出てくるのは必至だが、それさえも妨げにはならない)。 普及が行き渡り、デベロッパーも自信をもってターゲットにできるところまでなるのに、Flashは5年か6年かかった。Googleの応援もあってそれだ。Gearsならその半分もかからないかもしれない。

この競争では、グーグルに失うものは何もなく、得るものは山とある。グーグルはたった一発のショットで、標準ベースのオープンソースなオルタナティブの新Web APIを大変な初速でスタートさせた。競合他社と違い、グーグルにはプラットフォームを支配することにも、そこから直接利益を得ることにも関心がない。彼らが追求しているのは、むしろ今あるステータスクオー(体制)を維持していくことだ。:ブラウザのJavascriptで大体のアプリが使えて、それでちょっと足りない時はFlashか別の手段を使う―。

最後のプラットフォーム戦争から随分長い年月が経ったが、テクノロジーにこれが起こる時は決まっていつも、最も大きな企業が陥落し、最も小さな企業が栄える下克上が見られる。この方程式にオープンソースを加算したところで「一社単独で独占できる企業が皆無」という結果に変化は起こらないかもしれない。が、これだけ多くの物事の行方を左右し、これだけ大きな企業が絡んでいることだけに、戦いは確実に長期化の様相を呈するだろう。Webを次段階に進めるグーグルのアプローチは果たしてうまくいくだろうか? それを教えてくれるのは、時だけだ。

(本稿は、次世代ウェブを説くNik Cubrilovicの連載特集の一部です。他のシリーズはこちらでどうぞ)

[原文へ]

(翻訳:satomi)

“新プラットフォーム戦争に備えよ。Google GearsはMicrosoftの利益を直撃する” への6件のフィードバック

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  3. […] ANNAIで企画しているサービス案件でFlashを調べていて見つけた記事から、 えふしん(藤川さん)ブログより F’s Garage:FlashのSEO対策 2008/07版 F’s Garage:FlashでSEOな話(2005/07版) 納得の議論です。 ちゃんと作れば作るほど、検索エンジンにクロールされにくいという話。 MTでXML吐いてからFlashで表示みたいな流れもNG。 さらに、クロールされたとしてもソースの構造がHTMLのように階層化されていないので重み付けができず、インデックスする際に他のサイトに負けるのではなど。 使い道をしっかり限定して使いましょうねと。 確かにベタなパーマリンク問題一つ取っても悩ましい。これはJSライブラリ系ギャラリーでも同じなんですが。 かっこいい表現とのと両立ってむずかしい。 で、今後Google(Yahoo)側がFlashのクロール+インデックスをちゃんとする方向に向かうかというと、望み薄ではないでしょうかね。Adobe AIR と Gearsがガチンコ対決になりそうだから。 Gearsはまだまだ謎多いですしGoogleDocsもオフラインで新規ファイル作れないとか、RIA的な使われ方も少ないですがキマすよ。Gmailが対応したら絶対使うし。今はThunderbirdでIMAPバックアップ取ってますがもっと楽に早く使えるようになります。 AIR(FLEX)の素人さんお呼びでないおっそろしい複雑さを考えたら、GearsのXHTML+CSS+JS+SQLite構成の参入障壁の低さは勝負あったじゃないでしょうか。 次期Wordpressは管理画面にGears対応してかなり早くなるらしい。 MySpaceがメッセージ機能にGears導入しましたし、そのうちmixiも考えるんじゃないですかね。 この記事もかなりおもしろかったです。ITアサヒ芸能みたいなノリでも楽しめます。 TechCrunch Japanese アーカイブ » 新プラットフォーム戦争に備えよ。Google Gearsã… […]

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