野心作Google Waveの壮大なビジョン. 新しいWebには新しいコミュニケーションプラットホームを

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昨日(米国時間5/27)のGoogle I/Oのキーノート(keynote, 基調講演)でGoogleの生産技術担当副社長Vic Gundotraが、HTML 5の時代に向けてGoogleが進むべき方向性について、大枠的なビジョンを述べた。HTML 5はまだ先の話だが、Microsoft以外の有力ブラウザは全員、その日に備えている。それはたとえば、ブラウザ上でプラグインなしで3Dのゲームができ、ムービーを視聴できる日だ。しかしGoogleはそれだけではなく、まったく新しいコミュニケーションの方法を投入して、Webの未来をさらに一歩前進させようとしている。それが、Google Waveだ。

今では誰もがWebの上でメールやインスタントメッセージング(instant messaging, チャット, 略記: IM)を使っているが、この二つの通信形式を結びつけて、さらにその上にいろんな機能をくっつけたら、どうなるだろうか。実は、Waveの基本的な部分がまさにそれなのだ。シドニーのGoogleオーストラリアでLars Rasmussen/Jens Rasmussen兄弟とStephanie Hannonが開発したWaveは、メールとインスタントメッセージングは今でも盛んに使われているが、実は相当に古い技術だ、と彼らが気づいたところから発想がスタートした。今では、コンテンツが圧倒的に豊富でしかも共有化の欲求に容易に対応できる、Webという技術がある。それはメールやIMよりもずっと堅牢な技術だ。そこでLars Rasumussenはこう言う: “電子メールが今の時代に発明されたら、Waveのようなものになっただろう”。

お前はアホかと言われそうだが、長時間のデモを見たあとぼくは、Lars Rasumussenのこの言葉をやっと納得できた。WaveはWeb上のコミュニケーションをナビゲートし、コミュニケーションに参加するための、とてもすっきりした使いやすい方法を提供している。それに比べると今のメールやIMは、いかにも古めかしい。たまたま、以前Googleにいた人たちが始めたFriendFeedというサイトがあるが、WaveはFriendFeedに似ていると言ったほうがよく分かる読者もいるだろう。ただしWaveにはFriendFeedと異なる点がいくつもあるし、目指しているものがもっと大きい。以下、それについて説明しよう。

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Waveの機能

デモのときWaveの開発チームは、この製品はまだ未完成で未熟だと何度も繰り返した。Jens Rasmussenの着想は2004年だが、その後ずっと棚上げされていた(彼と弟のLarsは、のちにGoogle Mapsへと結実するものの開発に追われていた)。Waveの開発着手はやっと2007年からで、社内テストにこぎ着けたのはわずか数か月前だ。Googleが未熟だと繰り返すのは、今現在実装されている機能が最初の構想のごく一部でしかないからだ。とはいえ、それすら、すでに相当なものだ。

Waveの画面の左上には”Navigation”というサイドバーとその下に連絡先/連絡相手のリストがある(Google Contactsからのもの)。画面の中央の大きなスペースは、Waveのインボックス(受信箱)だ。Gmailのインボックスに似ているが、会話の各スレッドに参加している人たちの顔写真がある。各スレッドの未読メッセージや新着コンテンツの数を示す白抜き数字のマーカーもある。Gmailならメッセージだけだが、Waveではどんなコンテンツでも送受できる。そこで、複数の人が参加しているこれらのそれぞれのコミュニケーションの持続状態を、‘スレッド(糸)’(==電子メール用語)とは呼ばずに‘ウェーブ(波)’と呼ぶ。

どれかのウェーブをクリックすると、インボックスの右に別のパネルが出てそのウェーブの全体を見せる(ウェーブのタイトルがそのパネルのフレームタイトルになる)。たとえばそのウェーブが友だちからのメッセージで、それに返事をしたいとしよう。その友だちが今オンラインでなければ、Gmailの場合と同じく元のメッセージの下に返信を書く。ただし、Gmailのような返事作成用の場所ふさぎなエディタウィンドウは出ない。単純に、友だちからのメッセージの下に返事を書いていくだけだ。メッセージの特定部分に対して返事を書きたいときはどうするか? ノープロブレム、その部分の下に返事を書けばいい。とても簡単だ。

ウェーブに、ほかの友だちを加えたくなるかもしれない。それは、連絡先リストからその人の写真をウェーブにドラッグするだけだ。しかしここから、話はだんだんおもしろくなってくる。その友だちがそのウェーブに関心を持ち、これまでの会話を知りたいと思ったら、”Playback”(プレイバック、再生)機能を使う。それはウェーブを巻き戻して最初から再生するような機能だ。議論の変化の過程などが分かる。

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ウェーブに関わっている二人以上の人間が同時にオンラインなら、メールではなくリアルタイムのチャットをそのウェーブの中で使える。単純に言葉をタイプしていけば、相手はそのとき同時にそれらの言葉を読める。もちろん、相手がタイプすればこちらは同時にそれを読める。単なるIMのアプリケーションやWebサービスと違うのは、IMがコミュニケーション全体の構成要素の一つにすぎない点だ。言葉をタイプしていくと、間違いでもなんでもそれが同時に相手に見えてしまうというリアルタイム機能がいやなら、”Draft”(ドラフト、下書き)モードを使って現在タイプ中の文字や言葉を送信しないようにすればよい。

ウェーブの中の特定の個人にだけメッセージを送りたいこともあるだろう。それも簡単にできる。そういう非公開の会話もウェーブ全体の流れの中の一要素なので、ウェーブのコンテキスト(文脈)は維持される。

しかしウェーブは、従来のメールやIMのような、単なるメッセージと返事の積み重なりではない。Wikiふうに同時並行的にグループがコラボレーションして、いろんなものを編集していける。Google Docsなどでドキュメントのグループ編集を経験した人は、この機能をすぐに使えるようになる。しかしWaveのユーザインタフェイスはよくできているし、編集の結果がリアルタイムで反映されるから、かなりの数の人が同時に共同編集をやっていても、衝突や妨害は起こらない。誰かがどこかを編集していると、その箇所の横にボックスが出てその人の名前が高輝度で表示されるから、編集中であることが分かる。混乱してきたら、上で述べたPlayback機能を使ってそれまでの編集過程を見ることができる。〔画像やビデオの共同編集機能は?〕

そして、ここからが深い。何かの写真を、Wave上で共有化したいとしよう。そのためには、Google Gearsをインストールした状態でブラウザを使っていることが必要だが、ただ単純にその写真をウェーブのウィンドウにドラッグ&ドロップするだけだ。なおこの機能は、特殊なブラウザアドオン(ad-on, 追加機能)を必要とするという点で、Waveの弱点の一つと言えるかもしれない。Googleは、Gearsのような機能がHTML 5に盛り込まれたら、このような共有化が簡単にできるようになるんだけど、と言っている。

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これは、とても便利だ。そうやって写真をウェーブの仲間たちと共有化すると、そのサムネイルが彼らのWaveの画面に表示される。そして全員がコラボレーションして写真のタイトルを変えたり、複数の写真を集めたスライドショウを見たりできる。

写真だけではない。そうやって共有化できるのは、Google Maps(編集できる)、ゲーム、イベントの招待などなどいろいろだ。しかもそれらは、Waveの開発チームがたまたま現時点で実装している共有化機能にすぎない。そしてここから、Waveの別の側面のお話が始まる。

WebコミュニケーションとしてのWave

GoogleはWaveを、Googleが作ってそれをユーザがどこかのサイト…たとえば自分のホームページが置かれているサイト…から使う、従来的なふつうの単なるWebアプリケーションと位置づけていない。むしろGoogleは、ユーザがWeb上のいろんなサイトからWaveを使うことを期待している。たとえばあるユーザには、ホームページのサイトのほかにブログのサイトがあるだろう。Waveのウェーブは、ブログの記事としても投稿でき、それをみんなと共有したり、そのウェーブの仲間がやっていることをほかの人が見たりできる。さらに、そのブログを訪れた人がブログ上でただちにウェーブに参加することもできる。ブログ上で入力された新しい情報は、もちろんそのウェーブ本体にただちに入る。

そのやり方はいろいろある。ウェーブ上でコラボレーションを「匿名」に設定して、そのサイトのやり方でユーザにサインインさせ、ブログにコメントを書くときのようなユーザ名を使わせる。あるいはユーザのWave名やGoogle名でサインインさせる。Facebook Connectのようなやり方でウェーブを編集できるようになるか尋ねてみたが、Lars Rasmussenはそういう機能を具体的には考えていないと言った。しかし一般的なレベルではすでに真剣に考えているはずだ…もちろんGoogleのことだからFriend Connectを使うことになるだろうね。

ウェーブそのものをWeb上で公開することもできる。するとそのウェーブとそのコンテンツがGoogle検索のインデクシングの対象になる。しかしWaveの開発チームは、Web上で単独のリソースとしてウェーブを一般公開すると、メインのWaveパネル内のウェーブの中に“一般公開されているぞ!”という大きな警告マークが出る、と忠告した。

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それに、GoogleがWaveを乗せたいのはブログだけではない。要するにどんなサイトでもいいのだ。ユーザも、多種多様なユーザだ。たとえば、メールやIM以外に、何らかの管理システムをコミュニケーションの手段として使っている企業は多い。本誌はYammerを使っているし、前にVentureBeatにいたときにはFriendFeedのプライベートルームを使っていた。Yammerはいいけど、でもそれは社内で動かすTwitterみたいなものだ。FriendFeedのルームはそれに比べると柔軟性があるが、FriendFeedがホストしているサービスだ。しかしWaveなら、この二つの良いとこ取りができる。しかも企業や個人が自分のサーバの上でWaveをホスティングできる。

この点が、Waveの重要なところだ。Googleは単に自分がホストするWebアプリケーション/WebサービスとしてWaveを提供したいのではない。GoogleはWaveをコミュニケーションのためのプラットホームと見なしているので、今後Web上のいろんな場所で動き出し、Webの至る所すみずみにまで広まっていってほしいのだ。では、そうなるためには何が必要か。

一にデベロッパ、二にデベロッパ、三にも四にもデベロッパ

以前MicrosoftにいたGundotraは、Windowsの成功のためには強力なデベロッパコミュニティが必要だ、というかつてのBill Gatesの言葉を引用した(今のCEO Steve Ballmerはデベロッパについてこう考えている)。AndroidやiPhoneのような新しいプラットホームが成長するためには、デベロッパ重視が重要だ。そしてWaveが成功するためにも、やはりそれはデベロッパ次第だということを、チーム全体が痛感している。

Rasmussen兄弟とHannon、プラスおよそ50名のデベロッパがGoogleでプロジェクトを担当し、とてもおもしろいフレームワークを作ったわけだけど、デベロッパのコミュニティがそれを今とても歓迎しているのはあくまでも、Waveの可能性の一端を示すにすぎない。金曜日(米国時間5/29)にGoogleはWaveのAPIを公開し、ダウンロードと自由な使用ができるようになる。それは、短期間で大量のガジェットやブラウザ拡張機能やマッシュアップやWaveを軸とするおもしろいサイトなどが、雨後の竹の子のようにぞろぞろと生えてきてほしいからだ。

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そのために、システムをできるかぎりオープンにしたい。誰かが作ったWaveがほかの人が作ったWaveとコミュニケーションするところを見たい、とチームは望んでいる。“Waveを、今のeメールのような完全にオープンなシステムにしたい。Googleと競合関係にあるサイトも、Waveを使ってサービスを構築してほしい”、Lars Rasmussenは本誌のインタビューでこう語った。

というわけでGoogleは、Waveのオープンソース化を計画している。それは、Google Waveの第三フェーズになるだろう。最初のフェーズは、Googleが作った製品としてのGoogle WaveがWebアプリケーションとして一般に公開される。第二フェーズのGoogle Waveはプラットホームだ。上で述べたように、一般のデベロッパが参加して何かを作っていく。そして第三フェーズでは、Google Waveはプロトコルだ。すなわち、Webコミュニケーションのための開発プラットホームになる(実装は自由で多様化)。詳しくは、Waveprotocol.orgのサイトを訪ねていただきたい。

オープンソースになるとWaveの将来はGoogleの制御の手から離れてコミュニティに浸透していく。Androidの場合と同じく、何がどうなり何が起きるかは、すべてデベロッパのコミュニティが決めていく。それが、GoogleがWaveに込めている期待だ。

新しいWeb

ここまで読んできた読者は、Waveはグレートだと思っているか、よー分からんと思っているかのどちらかだろう。実際に動いているところを見ないと理解できない製品の一つ、と言えるかもしれない。残念なことに、今のところは、デベロッパでない人には見る機会がない。最初に述べたように、今のWaveはまだ赤ちゃん段階だ。しかしGoogleはそこに大きな可能性を見ているから、デベロッパコミュニティの早期の関与を望んでいる。だから、デベロッパの大会であるGoogle I/Oで発表したのだ。

さらに重要なのは、Waveの重要な基盤がHTML 5を前提にしていることだ。キャンバス要素、ビデオ要素、位置情報、アプリケーションキャッシュ、データベース、Webワーカー(バックグランド並行プロセス)、などなど。これらについてはO’Reilly Radarや本誌の昨日の実況中継記事で勉強できるが、Waveにとってとくに重要なのはWebワーカーだろう。ブラウザの外でバックグラウンドプロセスを動かすことによって、リッチなアプリケーションを動かしている場合でもブラウザが牛歩にならないようにする。リッチなアプリケーションとは、Waveのことだ。

Webワーカーがあればブラウザは、次世代Webアプリケーションのための強力な受け皿になりうる。これが昨日のキーノートの趣旨であり、今日のビデオ等はWaveによる新しいスタイルのアプリケーションの、今のところ最良の実例を見せてくれている。

たいへん興味深いコンセプトなので、ぜひ実物をご覧いただきたいし、また‘単なるGoogleの製品やサービス’にとどまらず、ものすごく大きなビジョンを持ち野心的でもある…本誌好みだ。しかしもちろん、無惨な失敗の可能性もある。それが、偉大な製品に共通している生まれ方だ。しかし、Googleの努力が先がけとなって、将来、人類の情報的生活と情報的社会が完全にWeb上で営まれるようになるなら、Waveが生まれたことの意義はきわめて大きい。

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アップデート: 今(米国時間5/28)は、Google I/Oの二日目のキーノートでGoogle Waveのチームがデモをしている。この記事には書けなかった印象的な機能がいくつもある(そう、現状ですでに相当機能が多い)。ぼくが気に入ったのは、検索がリアルタイムであるだけでなく、ライブであることだ。たとえば、”Here”という言葉から’e’を削除すると、Hereに該当する検索結果はさっと消える。再び’e’を書き加えると、瞬時に前の結果に戻る。

スペルチェッカーがすごくて、辞書を見るだけではなく文章の文脈を見る。文脈で言葉や綴りの正否を判断するなんて信じられないが、デモはその信じられないことをやっている。〔訳注: 文脈による判断は今の「かな漢字変換」ソフト…ATOKなど…もやるけどな。〕

おっと、そうだ、WaveはTwitterともたわむれる。Google Waveのチームがそのためのガジェットを作って”Twave”と名付けた。ユーザのストリームからいろんなつぶやきを持ってきて、そこにユーザの友だちなど(つぶやきの発言者)のTwitterアイコンを付ける。そうするとWaveの中でユーザは彼らへの返事を送れ、それらがユーザのTwitterストリームに戻っていく。でもベストの機能はTwaveの検索で、それはTwitterをリアルタイムでスキャンして、新たな結果が生ずるとライブでアップデートする。これを使うと、リアルタイムで何でもトラック(track, 追跡)できる。

あ、今、リアルタイムで翻訳ができるウェーブをデモしている。これも、なかなかすばらしいね。

Google I/Oのデモは今、スタンディングオベーションで終わった。こいつは、ビッグになりそうな予感がするね。

アップデート 2: これはGoogle Waveの作者たちへのインタビューの記録だ。製品について自分たちの言葉で語っている。

アップデート 3: これはキーノート後のQ&Aセッションだ。

アップデート 4: そしてこれは、今日行われたデモを完全に収録したビデオだ。Waveに関心のある人は必見。

[原文へ]

(翻訳:hiwa)