悲しいお知らせ:CrunchPadは始まる前に終わってしまった…

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もう本当にそこまで来ていたのだが…。2週間前、われわれはCrunchPadを公開する準備がすっかり整っていた。マシンはデモ用に十分に成熟していた。クラッシュせずに何時間も作動するようになっていた。われわれは友達に実際に触ってもらったが、ユーザーインタフェイスは大変上出来で、誰もが何の説明もなしですぐに使えた。何人かの部外者がこのデバイスを楽々と使うのを見ると1年半の苦労が報われた思いがした。

われわれはCrunchPadを11月20日のReal-Time Crunchupカンファレンスの壇上からお披露目しようという計画だった。さらにこのデバイスに Google Chrome OSやWindows 7を載せて、誰もが好きなOSに乗せ換えて利用できることをデモしたいとも考えていた。まず1千台用意して、先行予約の受付をすぐにも開始できるよう準備していた。2010年の前半にはいよいよ量産体制に入れるはずだった。

ところが、このプロジェクトは、あっという間に崩壊してしまった。原因は貪欲、嫉妬、勘違いだ。

11月17日は3日後にCrunchPadを発表するかどうかを決定する最終日だった。そこへCrunchPad開発・製造のパートナー、Fusion GarageのCEO、Chandra Rathakrishnanがメールを寄こした。「悪い知らせ」だという。やれやれ、どうせまたタッチスクリーンに問題が出たんだろう、と私は思った。12インチのタッチスクリーンの製造は生易しいものではない。 メールは私が思ったとおり、「悪いニュースばかりだ。改良版のハードウェアはまだ完成しない。タイミングはぎりぎりです。金曜日は難しいかもしれない」と始まっていた。

しかしメールはそこで終わらなかった。奇怪至極にも、TechCrunchは「もうこのプロジェクトに関係ない」と通告されたのだ。TechCrunchがCrunchPadに関係ない? Chandraは「株主からの圧力によりFusionGarageはTechCrunchと無関係に製品を直接販売することに決めた」と書いていた。

何だって? これはまるでiPhoneの製造を委託されているFoxconnがAppleに「iPhoneはAppleと関係なく自分たちだけで勝手に売ることにした」と通告したようなものだ。

またChandraは株主の一人からだという部内メールを引用していた。中でも私が驚いたのは次のような部分だ。「われわれはArringtonとTechCrunchがこのプロジェクトにとって依然多少の価値があることは認めている。もしArringtonがわれわれの条件に応ずるなら彼をエバンジェリストないしマーケティングの責任者としてもよい。私はそんな価値があるとは思わないが、きみ(Chandra)はCrunchpadという名前になぜかこだわっているようだから、Fusion Garageはその商標名を買い取ってもよい

こういう次第で全プロジェクトは崩壊した。

CrunchPadの知的所有権はFusion Garageとわれわれの共同管理となっている。Fusion Garageには13人程度の従業員がおり、シリコンバレーの借家とわれわれのオフィスの一区画で活動してきた。Fusion Garageのチームとわれわれのチームは区別なく入り混じって開発作業をしていた。われわれのリーダー、Brian KindleはVuduの元ハードウェア開発製造担当副社長で、それ以前にはTiVoで初期のハードウェア開発を担当した経験がある。開発コストもわれわれは折半してきた。向こうのチームがシリコンバレーに来る一方でわれわれのチームはシンガポールや台湾に飛んだ。われわれはFusion Garageと共同でPrototype BPrototype Cを開発した後、製品版プロトタイプを完成させていた。

CrunchPadデバイスに関する知的所有権は共有だが、CrunchPadという商標はTechCrunchが100%所有している。

したがって法律的に、Fusion Garageがわれわれの同意なしに単独でこのデバイスを製造販売することはできない。

それでもわれわれはFusion Garageの真意を測りかねていた。Fusion Garageを買収することになっている親会社の株式の持ち分をめぐって交渉を蒸し返そうとしているのかとも思った。再交渉はよい。しかしデビューのイベントの3日前になってわれわれを侮辱し、頭にピストルを突きつけるような通告をするのは交渉を始める方法ではない。われわれは先週から今週にかけてFusionGarageと連絡を取ろうとしたが失敗に終わった。電話にもメールにも返事がなかった。依然、いったい何が起きたのかはっきり分からなかった。

そこへ昨日、Chandraが次のようなメールを寄こした。“前回の電話での会話の後、 私は再度株主と話し合った。株主は自分たちの立場は正当であるとして妥協には難色を示している。逆にCrunchpadについてそちらの提案を聞きたい。”

私は次のように答えた。われわれはあなたが引用したメールに述べられた通告に対して一切逆提案はしない。なぜなら、そのメールによれば、あなたと株主はわれわれの同意を得ずにプロジェクトを進めることが合法的であり、正当化しうると考えているからだ。言いかえれば、あなたがたはは知的所有権を盗み取ろうとしているものと考えざるをえない。

何事にも両面がある。彼らは彼らの言い分を述べるだろう。われわれとしては間違いなくFusion Garageに対して複数の訴訟を起こすだろう。おそらくはChandra、株主個人も訴えることになりそうだ。やがて司法手続きの中で決着がつこう。

しかしそれでも残念な気持ちでいっぱいだ。私はCrunchPadが巨大ビジネスになるとは始めから思っていなかった。ソファにのんびり座ってインターネットを楽しめるような手頃なタブレット・コンピュータが欲しかっただけだ。私はいつもオープン・ソースの味方だ。このプロジェクトは金だけが目的ではなかった。ビジョンを同じくするチームでものづくりをするのはスリリングな経験だ。それがこうして突然不可能になってしまった。友達も失った。1週間と少し前まで、Chandraは何カ月もわれわれのオフィスに出入りしていた。彼は若く意思の強い起業家だと思い、尊敬もしていた。彼が一生の友人になるだろうと思っていた。

いっそう残念なのは、世界中のパートナーからCrunchPadに信じがたいほどの期
と支援が寄せられていたことだ。100億ドル級の巨大な量販店は何カ月も製造やマーケティングに関して何くれとなくアドバイスをくれて、しかもわれわれの成功を助けるためにローンチ当初はマージンをゼロにして販売しようと約束してくれていたのだ。しかもこの量販店は、通常の「納品30日後の支払い」ではなく、注文確定と同時に仕入れ代金を支払ってくれることになっていた。これはスタートアップにとってはまことにありがたい支援で、われわれはキャッシュフロー上の過大なリスクを追うことなく製造を拡大できるはずだった。それに加えて、この会社は運送費を節減するためにCrunchPadを自社の貨物機に混載して中国から運んでくれる予定だった。Atom CPUを製造するIntelもさまざまなアドバイスをくれた上に、こっけいなほど少量のわれわれの仕入れに対して信じられないほど寛大な価格を示してくれた。加えて多くのパートナーが利益を度外視してプロモーションを約束していた。CrunchPadの原価は$300台になりそうだったが、ほとんどその原価で売ってくれるというスポンサーも多数いたのだ。

資金の手当ても問題なかった。この春から一流のエンジェル投資家やベンチャーファンドがこのプロジェクトに投資しようと手ぐすね引いていた。われわれは万一のリスクを考えて、デバイスが実際にローンチされるまで外部からの投資を待ってもらっていた。

今日はTechCrunchオフィスにとって悲しい日となってしまった。今この「公開」ボタンを押せばすべてが終わりになるのだが、気が重い。私はむろん腹が立ってならない。面子もつぶされた。しかし、とにかく悲しい。…CrunchPadはここにデッドプール入りした。

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01