eBook戦争の行方を占う―Amazonが後に引けぬ理由

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守るは則ち足らざれば なり。攻るは則ち余り有ればなり。—孫子 兵法

Apple iPadがまだ出荷もされていないにもかかわらず、すでにAmazonはさまざまな手段でKindleのeBookビジネスを防衛する必要に迫られている。Amazonはすでに古くさい印象のKindleをリフレッシュするためだろうが、タッチスクリーン技術を開発しているスタートアップを急遽買収した。iPadの出現に勢いづいた出版社は、現在Amazonでは最高$9.99でしか販売できないeBookの価格をiPad同様、$14.99で販売させるようAmazonに迫った。Amazonはこれに降伏せざるを得なかった。以前は傲慢な態度だと批判されていたKindleチームだが、強力なライバルの出現に、出版社との関係を修復すべくあちこちで譲歩を余儀なくされているようだ。「Amazonの態度が明らかに変わった」とある編集者は語っている。

今後、AppleとAmazonの戦争はいろいろな方面で起きるだろうが、Appleが本当にAmazonの痛いところを突けるのは価格だ。AppleがiTunesでやった一曲一律99セントという戦略を模して、AmazonはKindleストアでベストセラーは一律$9.99という価格戦略を採った。単一価格は新しい製品市場を立ち上げるには適している。その価格が従来の物理的な媒体より安価な場合は特にそうだ。デジタル音楽の世界では一律99セント戦略はうまく働いた。しかしAppleはeBookではAmazonの意表をついて、出版社に値付けの自由を与えた。そこでMacmillanは$14.99で販売できるようにすることを要求し、NewsCorpのRupert Murdochも傘下のHarperCollinsについて同様の不満を漏らしている。

Macmillanとの小競り合いが始まる前、 iPadのローンチの当日にSteve Jobsはこのことを予言していた(このビデオ参照)。JobsはWall Street Journal’のWalt Mossbergのインタビューに対し「KindleとiPadの価格は同じになるだろう…出版社は〔価格が不満なので〕Kindleへの搭載を控えている」と語った。どんぴしゃだ。この闘争で一時Macmillanの本がAmazonから全部消えた。ライバルのBranes & Nobleは大喜びだ。Macmillanの本はすぐに(要求どおりの高い価格で)戻ってきたが、他の出版社がこれに続こうとする動きがAmazonに大きな圧力となっている。

Jobsは単に$14.99という価格を許可するだけでAmazonから出版社に対するKindleの優位性を奪った。一見すると、Amazonは何も損をしていないように思える。ベストセラーを$9.99で売るより$14.99で売る方が売上が大きくなるはずだ。まず、現在Amazonはベストセラーの場合、出版社に定価の50%を払っている。定価は平均して$28だ。つまりKindleでベストセラーを売ると$4の損になる。Macmillanとの新しい契約によれば、$13から $15の定価の70%を出版社に払うので、Amazonは1冊あたり約$4を得られる。このトレードオフを補うために、出版社はデジタル版へのシフトがあまり急激に起きないよう、この新たなオンライン市場では定価を高めに保って、印刷版を守ろうとするだろう。

一見したところとは逆に、これはAmazonの勝利ではない。なぜなら、AmazonはeBook市場で出版社に対する価格決定権を失ったからだ。CitiBankのアナリスト、Mark Mahaneyはこの点について今週、こういう説明をしている。

これは直感ではわかりにくい。普通、価格決定権といえば、価格を上げる権力を言う。ところがAmazonの場合、価格を下げる力こそ支配権なのだ。もしAmazonがベストセラー(通常書籍市場の約5%を占める)を$9.99で販売することをすべての出版社に強制することに失敗するなら、他のeBookのチャンネルに対する競争上の優位性を失うことになる。

その点でAmazonのeBook戦略はつまづいた。Amazonは5%のベストセラー市場で損をしても、それによって顧客をeBook市場に呼び寄せ、Kindleストアでやがて他のタイトルを買わせることで全体として利益を最大化しようとしていた。典型的な「損して得取れ」戦略である。Amazonは送料無料サービスと同様、ベストセラーで損をしてもユーザーを引付けマーケットを拡大することで元を取ろうしていた。

Mahaneyに試算によると、Amazonは今年350万台のKindle、1億冊のeBookを販売できる見込みという。Kindleの本体とeBookの売上合計は($9,99だとした場合)、$1.9B(19億ドル)に上る。これは2010年のAmazonの売上予測全体の5%にあたる。もしAmazonが$9.99という価格を守れなければ、1億冊を売るのは難しくなる。それに加えて(要するにベストセラーを非常に安い価格で買えるのがKindleの主要な魅力だったので)Kindlesの売上も減少するだろう。Kindleの売上が100万台減るとAmazonの売上全体が1%減少する(Barclayアナリスト、DouglasAnmuthの推定では今年のKindleの売上は300万台にとどまるだろうという)。さてiPadはKindleとKindleストアのeBookの売上をどれくらい減らすことになるだろうか?

Amazonはこの戦争に負けるわけにはいかない。今年の売上が問題というより、長期的にデジタル市場の人気が出るのに伴ってこれがAmazonの主要な収入源になっていく見通しだからだ。eBooks版のiTunesの地位を誰が勝ち取るのかという戦いだ。Amazonは現在その地位を得ている。しかしiTunesがレコード・レーベルを骨抜きにしたのを見ている出版業界は、それがeBookでも繰り返されるのを恐れている。それをいちばんよく理解しているのは他ならぬSteve Jobsだろう。それがAppleにeBookでは音楽の場合と違った戦略を取らせている理由ではないだろうか。

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01