[jp] Appleをめぐる永遠のすれ違い論議

次の記事

[jp] レポート:Startup Meeting vol.3 ネットと家電のこれから

トンネル内すれ違い

最近はTechCrunchにかぎらず、大小有名無名さまざまな技術報道/論評サイトで、Apple批判の記事を多く見かける。これは第一に、Appleをほめそやす記事にはもうみんな食傷しているから、批判記事のほうが注目度を稼げるという、商業的動機が大きいと思う。

でも個人的には、Appleをほめる記事も批判する記事も、根本的なところでピントがずれていると感じるのだ。だいたいそもそも、そういういわゆるテク系の記事には、御大Steve Jobsはもとより、Appleの人たちがあまり反応を示さない。つまり、当事者である相手との議論がまったく紡がれていかない。それらは、Appleにとってどうでもいい記事であり、どうでもいい人たちだからだ。

私という人間は今はApple無関心派だが、数十年前にはApple批判派だった。当時の生かじりの正統的コンピュータ科学をもとに、AppleのOSのアーキテクチャは正しくないと感じていたのだ(事実、当時は、MS-DOS〜Windowsは3日に一回クラッシュするがMacは3時間に一回クラッシュすると言われていた)。その後FreeBSDをベースOSにするなどして、OSに関しては相当改善はされたようだが、今日のMac OSの現状については私はほとんど無知だ。

無関心派になった契機は、Macはコンピュータではなく「コンピュータ応用機器」だと悟ってからだ。たとえば今の医療機器や工作機械などの多くが、やはり「コンピュータ応用機器」だ。それは、ある日たまたま、Macについてカリカリ言っていると、通りかかった年配の技術者の方が笑いながら一言、「Macはファミコンだよ」と言った、その一言が私の脳に対するガツン!の一撃だった。

今日のiPhone/iPadに至るまで、Apple製品は「コンピュータ応用機器」であり、しかも医療機器などと違ってほぼ完全に「消費者製品」である。

「消費者製品」を作るにあたってメーカー企業の姿勢として最高に重要な要件が3つか4つあると思うが、その一つがfoolproofだ。この英語の直訳は“馬鹿が扱っても大丈夫”になるが、フールプルーフというカタカナ語のほうが日本で定着しているだろう。馬鹿というと言葉は悪いが、どんな技術〜知識分野でも、毎日そればっかりやっている専門家から一般消費者を見れば、彼/彼女らは少なくともその技術〜知識分野に関しては“馬鹿”である。

カスタマサービスのお笑い集のサイトには、「買ったばかりのプリンタがどうしても動かないというので出張サービスに行ったら、電源コードがコンセントに差し込まれていなかった」というレベルの話がたくさんある。これ的な意味で、一般消費者はハイテク機械類に関しても“馬鹿”なのだから、しょうがない。

だから、「消費者製品」というものは、ユーザに難しい設定などをさせるものであってはならないし、馬鹿の思考や感性に合ったユーザインタフェイスになっていなければならないし、壊れにくいものであること。さらに、彼らお馬鹿消費者にとってわけの分からない、手の施しようのない、途方に暮れるような不具合が生ずるものであってはならない。つまり、それはフールプルーフでなければならない。

そこで、TechCrunchなどが最近のApple批判記事で取り上げるAppleの“悪業”はすべて、フールプルーフな消費者製品を作らなければならない企業にとっては、当然の行為なのだ。たとえば、ブラウザやシステムを頻繁にクラッシュさせるFlashはおことわり、というJobsの態度は至極当たり前だし、弊社がちゃんと検査して検査に合格したアプリケーションでなければユーザに使わせない、という姿勢も非常に納得できる。ライセンス方式による互換機の生産を禁じた件も、ある立場に立てば批判したくなるかもしれないが、フールプルーフの徹底を目指すかぎり、どこかの馬の骨に安物のMacやiPhoneクローンを作らせるわけにはいかない。

というわけで、Appleはそもそも何のメーカーかということを、冷静にわきまえたとたんに、多くの批判記事は無意味と化すのである。批判は、Appleに対して、見当外れなのである。Appleを批判する人たちが、では何を求めているのか。それが何であれ、それは、昔から今日までAppleが作ってきたものとはまったく無関係な、なにものかである。相手は建物の一階で作業してるのに、三階の窓から叫ぶようなことをしてたのでは、議論は永遠にすれ違いだ。

TechCrunchの読者の多くが、iPhone/iPadのユーザさんなどもエンドユーザ==お客さんとするところの、「生産者側」の人たちならば、今後どんどん載るべきApple記事は、先日のGmailのiPad向け最適化みたいな、どうすればiPhone/iPadのユーザに満足してもらえるかという、生産howto記事にかぎるだろう。

たとえば今私が読みたいのは、「iPad向けWebサイトはこう作れ」といった記事。いや一般的に、タッチパネルのタブレット機ならではのコツや注意点が、いろいろあるはずだ。また、タッチ型タブレット機の特性を生かした、新しいタイプのアプリケーション(ネイティブおよびWeb)を考えるのも、おもしろい。われわれ生産者は、「iPad」という固有名詞で考えるのではなく、「タッチタブレット」という普通名詞でビジネスを考えればよい。

自分で、自分の好きな、あるいは必要な、アプリケーションを作って動かせなくては困る(あるいは、そういう他作アプリケーションを自由に導入できなければ困る)という人は、「コンピュータ応用製品」ではなく「コンピュータ」のユーザになる人だ。そこには、ありとあらゆる苦難が待ちかまえているが、同時に、フールプルーフ製品からは得られない深いおもしろさもある。

ま、どんな品物でも、職人技の名品は大量生産はできないし、値段は高い。Apple製品は永遠にニッチ製品であらざるをえないし、それでいいんじゃないの。でも、もうそろそろ、フールプルーフ製品の「ユニクロ」が世に登場してもいい頃合いだとも思うけどね。近未来の、どこかのAndroid携帯orネットブックが、ほぼそれに該当するのかもしれないが。

でも、そんなことより、非常に歴史の長い機械であり消費者製品である「自動車」を、なるべく早くフールプルーフにしてもらいたい、と切に望む者であります。毎年、事故死が多すぎますよ。

[写真提供: ほくと]