Marc Benioff

なぜ日本市場が重要か: iPad騒動, クラウドコンピューティング, そしてソーシャルインテリジェンス

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[jp] 東京Camp vol.3に参加してくれたデモピットをご紹介。ー後編

編集者注記: Marc Benioffsalesforce.comの会長でCEO、大の日本好きだ。彼は、スタートアップのファウンダやテク企業の役員は全員、大の日本好きになるべきだと考えている。このゲスト記事で、彼はその理由を説明する。内容は、彼の最近の日本出張から得た見聞と考察だ。


先週は、iPadの発売に何千人もの列ができた。気がつかなかった? そうか、場所が東京だったからね。

私は過去3週間、日本で暮らしていたから、この国にiPadの発売がもたらした狂喜乱舞を見逃すはずがない。この新しい”マジカルな(magical)”コンピュータ*に、これほどの需要があるなんて、信じられなかった。なにしろ日本は、世界でいちばん人気の高いPCの一部を開発した国なのに、それが今では、どこかよそで設計されたiPadをあがめている。iPadは、高貴な賓客のように迎えられている(日本の経済誌や技術誌の約半数が、表紙にiPadを載せたそうだ)。今年世界中でiPadが1000万台売れるとしたら、そのうちの50万から100万は日本だろうね。〔*: magical, Steve JobsがiPadに関して多用した形容詞。〕

先週は、このようなApple祭りのさなかに驚くべきことが起きた。Appleの株式時価総額が、Microsoftを抜いたのだ。この4月に書いた“The end of Microsoft. A door opens to a new cloud”〔Microsoft時代の終わり. 扉はクラウドに向けて開く〕と題する記事の中で、そういう新時代の到来を告げる事件が起きるだろうと述べた。Steve Jobsは感想を聞かれて”シュールだね”と答えた。信じられないほど奇想天外な事件という意味では、まったくシュールだ。それはコンピューティングの大きな変化を表す、歴史的な重大事件だ。Windowsが衰退し、iPads、iPhones、Android、Googleの検索、クラウドコンピューティングといった新しいテクノロジが台頭してきたのだ。

ここで告白すると、私は日本が好きだ。人びとも、文化も、言葉も、建築物も、食べ物も、全部好きだ。京都の寺院や庭園を歩くのが好きだ。”禅”の哲学も好きだ。東京で仕事をすることが好きだ。東京にみなぎる熱気は、ニューヨークに勝ると言っても過言ではない。

日本に長く滞在した理由は、日本がsalesforce.comの世界で二番目に大きな市場になったからだ。われわれは、日本人がクラウドコンピューティングを好むことを知った。それは、ソフトウェアが、その導入に余計な負担がなく、どこで使っても均質で、しかもアップグレードの手間も要らないからだ。Oracleにいたころの日本の顧客は、いつも特製の”J”製品(英語版を日本語に移植したもの)を待ちこがれ、またその”J”製品のバグフィクスを要求してばかりいた。彼らは長期間、じっと我慢して待たなければならないことが多かった。クラウドコンピューティングは、そういう問題をすべて解決する。日本の顧客は新しいソフトウェアを初日から使えるようになり、バグフィクスも早い。それは、インスタントラーメンならぬ”インスタント満足”だ。

日本で驚いたことの一つは、ソーシャルネットワークの大普及ぶりだ…日本版のFacebook Imperative〔邦題: 企業はFacebookを見習え〕が進行中だ。日本はすでに、Twitterの最大の市場の一つだし、日本独自のソーシャルサイトMixiはものすごくビッグだ。ソーシャルネットワークは、日本人の共同体重視の伝統的文化に合っているので、普及も速かった。また、モバイルがソーシャルネットワーキングを加速する点でも、日本は世界の中で群を抜いている。3Gの高い普及率が、それに弾みを付けるだろう。InfoComのデータによると、3Gが一番普及している国は日本である。ソーシャルネットワークの高いマーケットシェアと、ブロードバンドワイヤレスの普及が、日本のIT産業を強力に後押しするだろう。

日本人がソーシャルなコミュニケーションに対して積極的であることを、私自身が直接的に知る機会があった。ここ数週間は、salesforce.comの企業向けソーシャルネットワーキングサービスであるSalesforce Chatterのデモをしていたのだが、日本人の顧客が合衆国では例のないほど早々と、採用の決断をするのにはびっくりした。合衆国などそのほかの国では、試験や評価にかなりの時間をかける。しかし日本人は、これは企業向けのTwitterやMixiだとすぐに理解し、じゃあうちでも使おう、となるのである。私はかねてから、ビジネスインテリジェンスの次に企業のコンピューティングの重要なテーマになるのは”ソーシャルインテリジェンス”だと感じているが、日本での経験は私のこの感覚を確信にまで高めてくれた*。〔*: social intelligence,ネットからつねに最新の顧客〜市場情報をナマの声として豊富に入手し、ネット上でつねに活発でフレンドリな顧客〜市場との対話関係を維持する、企業の知的指向性。〕

東京では、友人のJohn Hinshawと夕食を共にする機会があった。彼はBoeing社のグローバルCIOだが、私はすでに、Boeingが世界最先端の航空機であるDreamlinerを近く発売することを知っていた。しかし私が知らなかったのは、そのDreamlinerの35%が日本製品であることだ。その完全な複合材主翼は、これだけの大きさのものは世界初であり、しかも今後の商用航空機製造のスタンダードになると思われる製品だが、作ったのは名古屋の三菱重工業だ。その長さ98フィートの主翼が、一つ一つ、Boeingの専用貨物機”the Dreamlifter”でワシントンの組み立て工場へ空輸される。これでもまだ日本の高度な技術力を信じられない人は、エネルギーや環境関連のパテントの件数では日本がトップであることと、エネルギー関連の研究開発やエネルギーの効率的利用でも日本が世界をリードしていることを、知ってもらいたい。次世代航空機の重要部品をBoeingが日本に発注するのは、だから当然なのだ。

iPadやiPhone 4、あるいはiPodを手にとってみると、そこには間違いなく”designed by Apple in California”と書かれている…この言葉に対して評論家たちの一部は、ほんとは中国製じゃないかとイカっている。でも、ほとんどの人が知らないのは、その部品が世界中各地で作られていることだ。とりわけ重要な部品は、日本、韓国、そして台湾で作られている。たとえばiPod Nanoの場合は、フラッシュメモリは東芝、リチウムイオン電池は三洋とソニー、カラー液晶はシャープと東芝と松下で、製造コストに占める日本製品の比率は81%だ。iPodの生産が可能なのは、世界でもっとも重要な技術…その多くが日本…のおかげだ、というのが現実だ。iPadも、10%は日本製部品だ(そのほかは台湾と韓国のメーカー)。高度に複雑な部品に関しては、最先端の研究開発を行っているのは日本企業であり、だから、Appleなどが採用せざるをえない製品が日本では作られるのだ。

日本滞在中に、日本の政治家や技術分野の指導者たちが、新技術の採用と基礎的インフラの開発の重要性を十分に理解していることを知った。新幹線や日本の高速道路、あるいは東京で使う携帯電話、これらを経験した者は誰でも、日本がこの二つに深くコミットしていることを理解するだろう。クラウドコンピューティングは、日本にとって重要な次のステップだと見られており、日本のIT産業におけるもっとも高成長な部分だ。日本はつねに、次の時代の重要技術を正しく取り入れようとする(実際に正しく取り入れている)。先週見た、iPadを取り巻く熱気は、彼らがCloud 2を今すぐにでも採用できることの証しだ。それは、クラウド+ソーシャル+iPadの組み合わせによって推進される、コンピューティングの次世代の変容の姿だ。

今回の出張で最大の驚きは、当時の鳩山首相が私に会いたいと言ってきたことだ。1時間近く私は、日本におけるクラウドコンピューティングのパワーについて説明した。その後彼は、首相としての最後の仕事として中国のトップと会い、そのあと辞任した。任期の最後の最後というとき、なぜ彼はクラウドにそれほど関心を持ったのか? 彼は、この新技術が日本の将来にとってきわめて重要であることを、周囲に対し信号したかったのではないか。

帰国する直前に、合衆国の日本大使John Roosに会った。Johnは元Wilson SonsiniのCEOで、ベイエリアの出身だ。おもしろいことに、大使に任命されるまでは一度も日本に来たことがないそうだ。彼は私に、日本というすばらしい市場に関心を持つ合衆国の起業家が少ないのはなぜか、と尋ねた。私は、日本のIT市場は世界第二位の規模だが、多くのアメリカ人にとって日本は、どこに何があって何をすべきか分かりにくい魔の世界だからだ、と答えた。私の場合は、日本通の上司Larry Ellison〔Oracle CEO〕に感謝しなければならない。Oracleにいた13年間、彼と一緒にこの国に何度も出張したことが、今思えば幸運だった。彼からの直々(じきじき)の教育がなければ、今のsalesforce.comの日本での成功もなかっただろう。

日本へは、サンフランシスコからの直行便が1日に何度も出ている。しかし、日本市場と日本の顧客が最新の技術と情報を待っているとき、合衆国の連中…起業家やそれにVCたちも…はもっぱら中国やインドの市場を目指している。ソフトウェアなどの重要技術に関しては、中国やインドの市場は日本に比べて桁違いに小さいのに、なぜそうなるのか、私には理解できない。インドや中国は成長率が高いが、今現在の買い手は日本にいる。私の見方はこうだ: 日本を無視することは合衆国で西海岸全体を無視することと等しい。日本の一都市である大阪の経済の規模は、カリフォルニア州よりも大きいのだ。

合衆国に次いで二番目に大きなIT市場である日本を、無視するとしたらそれはまったく非現実的だ。世界は今、抜本的に変わりつつある(私の好きなApple vs. Microsoftの評価額のグラフを見てみよう)。しかしそれでもなお、世界に対し強い影響力を発揮し維持している、従来からのな巨大勢力がいくつかある。起業家たちは、企業向けソフトの売上の85%が、依然として、合衆国、日本、イギリスの三市場からであることを自覚すべきだ。日本を忘れることは、もっとも重要な機会を見忘れることに等しい。そして、この市場で手助けが必要なら、次の私の出張に同行してもらいたい。今の私は、日本に早く戻りたくてたまらない気持ちなのだ。

[原文へ]
[米TechCrunch最新記事サムネイル集]

(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

“なぜ日本市場が重要か: iPad騒動, クラウドコンピューティング, そしてソーシャルインテリジェンス” への7件のフィードバック

  1. 最近の日本に関するニューズは暗いばっかり。
    前向きに話してくれる人って嬉しいね。自分も日本でのクラウドコンピューティング導入を実感してます。

  2. Mr.G より:

    日本初のワールドワイドなクラウドサービスがどんどん出来てほしいですな。

  3. yuyans より:

    これはかなり気分が良くなる記事

  4. ひでき より:

    ま、そりゃそうだ。日本を無視してはITは立ちいかないと。

    でも、ITで生産性が日本ではあがったきにならないのはなぜなんだろう。

  5. さけ より:

    単に日本ておいしい市場だよねって言われているだけで何を喜んでるのか。。
    日本市場が魅力的なのは昔からだし。

  6. 日本市場への評価…

    ●なぜ日本市場が重要か: iPad騒動, クラウドコンピューティング, そしてソーシャルインテリジェンス まずは上記の記事をご覧になってみて下さい。 そして、そこに溢れる日本市場への高い評価と愛情を感じる時、どうして当の日本人自身が自国のマーケットにポジティブになれないのか悲しくなります。 確かに日本には色々深刻な課題があります。 先の見えない構造改革、それに伴う不況の長期化・活力の低下、悪化する一方の財政、政治のリーダーシップ不足。 それでも日本は世界に冠たる経済大国であることは揺るぎない…

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