ブログによる大衆の心理的操縦について

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もし私がまた本を書くとしたら次の3つのテーマのいずれかになるだろう。第一は、ジャーナリズムの舞台裏の真相だ。いわば「ソーセージが作られる現場」の暴露である。マスコミの報道ががいかに主観的で恣意的な混乱に満ちたものかを詳しく解説したい。二番目の候補は、ブログのメディアとしての優位性に関するものだ。ブログは常に読者からのフィードバックに晒されているために、大衆を心理的に操縦する訓練の場として絶好なのだ。三番目のアイディアはまだ今のところ私の中で温めているだけだけだが、スタートアップに関するものだ。

ところで最近私がよく考えているのはこの二番目のテーマについてだ。というのは、それなりに価値のあるブログの運営者は簡単に戦闘的なカルト集団を組織することができそうだと気づいたからだ。

ブロガーなら誰でも初期の苦しい時代を覚えているだろう。誰かに―それこそ誰でもいい―リンクを一つ張ってもらうのせひと苦労だったはずだ。そしてようやく最初のコメントがつき、等々。そして読者が増えるにしたがって、匿名の人間集団の行動の第一原理というものを思い知ることになる。それは暗愚で凶暴である―人類が文明化されたといってもほんの上っ面に過ぎないことが分かる。人間として最低の悪口が投稿される。それも繰り返し繰り返しだ。

そこで治安の維持がブロガーの重要な仕事になってしまう。匿名のコメントを許すか否か、いやその前にコメントを許すか否か決めねばならない。コメントを編集・管理するか? もしそうするならどのような基準を設けるか? 記事に対する反対意見や(こちらの方が多いが)人身攻撃にどう反応するか? そうしていくうちにブロガーはいやおうなく読者の反応というフィードバックのループの中に巻き込まれてしまう。しかしこれはまだ純粋な喜びや悲しみが支配する牧歌的な時代だ。

やがてブロガーは経験を積んでいく。ある記事を書いて轟轟たる非難を受ける。次回は少しアプローチの仕方を変える。するとコメント欄には賞賛が溢れる。こうした対応はほとんど無意識に行われる。しかし年数を重ねるにしたがってブロガーの対応は上達する。そしてどんな記事についても読者の反応を正確に予測し、さらには読者の反応を自分の望むように操ることもできるようになる。

Zyngaはゲームについて常時A/Bテストを行っており、これが競争力を強化して収益の増加に絶大な効果を上げているという。ブロガーは記事を1本アップするたびに同様の経験をする。

伝統的なマスコミのジャーナリストはこういう経験をすることが少ない。彼らには編集方針があり、記事の執筆にあたっての様々な規則があり、なによりまず編集長を満足させる必要がある。読者との間に多くの層があるため、直接のフィードバックにさらされることがないので、彼らの反応は概してのろい。それに対してブロガーは読者の集合的意識に常時さらされている。

これは牧師やユダヤ教のラビ、職業的政治家の経験に似ているのではないかと思う。公衆の前で繰り返し意見を述べているうちに、どうしたら自分の望む方向に聴衆やカメラを誘導できるか分かってくる。もちろんすべての個人を操ることはできない。しかし群集を操ることは比較的簡単なのだ。しかもそれが自分のファンであれば操るのはますます容易になる。つまりある人間の意見を繰り返し読んでいる人間はその意見に染まりがちだし、もともと反対の意見を持つ読者は次第に離れていってしまう。

先週私はIT分野の女性問題について書いた。TechCrunchはCEOも上級ライターの半数以上も女性だし、女性起業家についても折に触れて記事を書いてきた。したがってこの問題で恥じるところはないという確信があった。実のところ、どう書けばわれわれの読者から拍手喝采を受けること間違いなしかあらかた予想がついていた。まずは問題がどれほど広汎であるかを大げさに述べ、次にわわれれ自身が女性の進出を直接に助けていることを控え目に述べる(しかしさらなる努力が必要なことを忘れず付け加える)。それからこの問題をネタにしてメシを食っているオピニオンリーダーたちに敬意を表する(ただしもちろんそいつらが食わせ者であることは指摘しない)。そうした記事を書いていたら、読者は全体として大いに満足したことだろう。実際、男のブロガーが書いたまさにそういうトーンの記事をいくつも指摘することができる(十分な経験のあるブロガーなら必要とあれば読者受けする記事を自由に書けるものだ)。

しかし私はそのような記事は書かなかった。私が書いたのはIT界における女性の地位に関する前提に疑義を呈する記事だった。その結果どんな反応があるかもはっきり予想できた。ハイファイブよりもファックユーの方が多いいだろうと分かっていた。

私はそれでまったく構わない。 私は大衆のご機嫌取りをするより自分の意見を正直に書く方を選ぶ。自分の人気取りにふけるにはこれはあまりに重要な問題である。

ブログに氾濫しているくだらない記事を見ずにすめばたいへんけっこうだ。しかしそのためにはいまより賢い読者が必要だ。見え透いた常套句の先を見通す練習を積み、よく訪問するサイトの記事に実質的な内容を求めるような読者だ。率直に言うが、優秀なブロガーなら誰でも自分の読者を集団として自由に操れるものだ。私は読者に操られる側になって欲しくない。

読者がたやすく操縦されないようにするため、私は後続の記事で読者操縦のポピュラーな手口のいくつかを詳しく解説するつもりだ。念のために言っておくが、TechCrunchでは読者を操ろうとしていない―少なくともその影響力を悪用することを最小限に止めようと努力している。また私の好きなブログもこの点で概ね公正な態度を維持している。

しかしこれだけは覚えておいてもらいたい。われわれの記事を読んで腹がたったら、まずは立ち止まってもらいたい。もしかすると今正しいと思っていることの正反対が正しいかもしれないのだ。逆にある記事を読んで、何かお世辞を言われたようにいい気持ちになるようなことがあれば、目を覚ませ! もしそんなことがあるようだったら、すぐわわれわれに警告してもらいたい。

それにしてもこの記事に対する読者の集団的反応がどのようなものになるか私は正確に予測できる。もし私があれこれ言えば結果はもちろん変わるだろう。しかし全体として私の言っていることが
実であるのは読者も心の底では認めざるを得ないはずだ。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦/namekawa01

“ブログによる大衆の心理的操縦について” への6件のフィードバック

  1. yoko8ma より:

    この記事自体が、ある特定の読者、つまり自分は他の人間より洞察力に優れ観察眼を持っているという人間へのご機嫌とりになる可能性を感じます。難しいですね。

  2. はる より:

    感動しました。私はブログを始めて1年足らずなので、経験のあるブロガーとも言えないし、大衆の心理誘導が出来るとも言えませんが、既存のメディアを叩き、twitterや2chなどの、自分の読者層が利用しているメディアを褒め、強者を糾弾し、弱者を正当化し、「あなたは何も間違っていない、社会がいけないんだよ」と責任を読者以外の誰かに転嫁しながら、読者に具体的な行動を促さないような、慰めの記事のみばかりが良い反響を呼ぶ現状に、悲しい気持ちになっていました。

  3. […] ブログによる大衆の心理的操縦について:まぁ冷静に客観的に記事を読むように心がけましょうという話でしょうか。記事に記載してある「後続の記事」を読んでから判断したいですね。 […]

  4. ともちん より:

    『強者を糾弾し、弱者を正当化し、「あなたは何も間違っていない、社会がいけないんだよ」と責任を読者以外の誰かに転嫁しながら、読者に具体的な行動を促さないような、慰めの記事のみばかりが良い反響を呼ぶ現状』ってどうすれば変わるのだろう?弱者にルサンチマンが残るだけで何も変わらず生み出しもしない状況は不幸だと思う。私は、弱者の視点を変えるのがよいと思うけど、人を変えるのは難しい。ならば弱者に後ろ指指されようとも自ら進んで行くしかない。弱者を弱者たらしめ弱者が互いの傷に塩を塗りあい弱者であることを互いに良しとするような風潮を、社会の警笛系ブログは助長してしまっているような気がする。

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