EvernoteのMac App Store公開で得た4つの教訓

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編集部注:この記事はEvernoteのCEO、Phil Libinの寄稿。Evernoteは現在Mac App Storeでダウンロード数で5位に入っている。またこのアプリはAppleが目立つところに置いている点も特筆もの。

EvernoteがMac App Storeに登場してからちょうど1週間が経った。Evernoteの歴史でももっとも重要な1週間だった。どういうことが起きたか、そしてそこからわれわれは何を学んだか、簡単にご報告しよう。

1. 実力主義はいいことだ

中学生の頃、初めて読んだコンピュータ関連記事(80年代の初め頃で、たぶんByte誌の記事だった)を今でも覚えている。そこにはわれわれコンピュータおたく向けのアンケート記事が掲載されていた。「コンピュータ・ソフトウェアを買っているか?」というのが最初の質問だった。回答の選択肢は、A)頻繁に買っている、B)時々買っている、C)ほとんど買わない。自分で作る方がいい、だった。C)という選択肢が入っていること自体、当時のソフトウェア産業の幼年時代の楽観的な雰囲気をよく現している。何かすばらしいソフトを書けばあとは自然に世界中に広まると皆考えていた。今となっては遠い昔の記憶だ。

その後、2、30年の間に、ソフトウェア産業には強固な独占体制が出来上がり、参入障壁は巨大なものとなった。幸福な時代の記憶は薄れていった。と、そこにモバイル・アプリの爆発的成長の時代がやってきた。

昨年1年で、Evernoteの新規ユーザーの70%はモバイル・アプリストアから来た。その大部分はiOSとAndroidだ。これはわれわれはインディー系デベロッパーの関心を引くためにもっとも重要なのはモバイル・プラットフォームだと思い込ませるのに十分だった。しかし先週の経験で実態にはもう少し複雑なニュアンスがあることがわかった。実は、圧倒的に重要なのはモバイルではなく、アプリストアだったのだ。先週まで、すべての重要なアプリストアはモバイル・デバイスのためのものだった。しかし先週になって、ぴかぴかの新しいMacbookを買ったユーザーはぴかぴかの新しいiPhoneを買ったユーザーと同じくらいベストなアプリの導入意欲に燃えていることが判明した。

よくできたアプリ・ストアを持たないプラットフォームはデベロッパーを惹きつける上で大きなハンディキャップを負う。そうしたプラットフォーム上で成功するためには、デベロッパーは良い製品の開発にかけるのと同程度の金と時間を販売チャンネル、物流、提携先の開拓などにかけねばならない。ところがひとたびアプリストアが機能し始めると、ソフトウェア市場は実力主義が支配するようになる。もちろん理想的なシステムではない。しかしこのアプリストアの世界では、良い製品を作ることに集中することが成功を呼びこむもっとも効果的な戦略となる。この事実は世界中のコンピュータおたくにとって大きな励みとなった。そして過去2年の間にモバイル・アプり、モバイル・サービスの爆発的な成長をもたらした。デスクトップもこの動きに加わってもよい時期となっていた。

2. デスクトップ・ソフトウェアの復活

実を言えば、既存のMacクライアント・アプリをMac App Store向けにコンバートするには一方ならぬ努力が必要だった。それでなくても過密な開発スケジュールから数週間をひねるり出すのには大いに苦労した。そして12月というのも最悪のタイミングだった。しかしわれわれが主要な問題点を解決してからはAppleのデベロッパー支援担当者はよい助けとなってくれたし、承認手続きもまずまず順調に進んだ。

その成果は一目瞭然だ。Mac App Storeがオープンしてから最初の1週間で約32万人のユーザーがEvernoteクライアントをダウンロードした。このうち、12万人は初めてEvernoteを使うことにしたユーザーだった。 これは先週のEvernoteの全新規ユーザーの50%を上まる人数だった。Evernotユーザー中で、Macはそれまで、iOS、Android、Windowsに続いて4位だった。それがわずか1週間で首位に躍進した。

後から考えれば当然のことのように思える。よく出来たアプリストアが、サードパーティーのデベロッパーにとっていかに決定的に重要かがはっきりわかった1週間だった。私はこれを一歩進めて、あらゆるプラットフォームにおいて健全なサードパーティーのソフトウェア市場が存在することが成功のカギであると言ってよいと思う。

Windowsにも一日も早くアプリストアがオープンすることを期待している。

3. マルチプラットフォームのユーザーがベストなユーザーだ

Mac App Storeは単に新しいユーザーをもたらしただけではなく、われわれの既存ユーザーの価値を一層高めた。いったいどうやって? それはこうだ。

まず32万人がEvernoteクライアントを最初の1週間でダウンロードし、うち12万人が新規ユーザーだということはすでに言った。では残りのユーザーの内訳は? 8万人は以前からMacクライアントのユーザーで、直接ダウンロード版をApp Store版に乗り換えた人たちだった(ダウンロードはすませたが未登録のユーザーを含む)。あとの10万人は他のプラットフォーム(主としてiPhone)を利用しているユーザーで、Mac版を初めて追加した。

これらのグループは両方とも興味深く、かつわれわれにとって重要な示唆を含んでいた。興味深いというのは、これらのユーザーの大部分は、(1)すでにMacを所有しており、(2)Mac版のEvernoteクライアントの存在を知っていたが、Mac App Storeがオープンするまでダウンロードしてインストールしようとは思わなかった人々である。重要だというのは、複数プラットフォームを利用するユーザーは、Evernoteを長期にわたって利用する可能性が大きく、したがって将来有料版に転換する確率も高いからだ。これは直感的に言えることだが、裏付けるデータも入っている。フリーミアムモデルではユーザーは自分が愛着を持つサービスに金を払おうとする。多くのデバイスでEvernoteを使うユーザーはそれだけ愛着も深くなり、有料化の可能性も高くなるはずだ。

Mac App Store効果は逆方向にも働く。ストアでEvernoteを初めて知った新しいユーザーの多くはモバイル版のEvernoteクライアントをダウンロードしている。われわれのiTunesストアからのiOSデバイス向けダウンロードはMac App Storeがオープンしたあとの1週間だけで54%もアップした。この間、iOS版のクライアントに関しては新バージョンのリリースその他特別な動きは一切なかった。

4. クロスプラットフォーム開発の神話

もしEvernoteのデスクトップ版がAdobe AIR上で書かれていたら、私は今頃こうして喜んではいられなかっただろう。iPhone App Storeに続いてMac App Storeでも即座に大成功を収めたことは、選択の余地がある場合、ユーザーは必ず最良のユーザー体験を与えるソフトウェアに引き寄せされるものだという私の確信を一層強めることになった。クロスプラットフォーム開発という、最大公約数を狙ったテクノロジーで、個々のプラットフォームのネーティブアプリなみのユーザー体験を実現するのは至難の業だだ。

ソフトウェア企業のCEOとして、私はこれが事実でなければいいのにと思う。一つのバージョンだけ作って、それが全てのプラットフォームで作動するならどんなに良いことか。ところがわれわれはWindows版、Mac版、Web版、iOS版、Android版、BlackBerry版、HP WebOS版、そして(近くリリースされる)Windows Phone 7版を開発してきた。その理由はネーティブアプリの方が高い品質を実現できるからだ。率直に言ってわれわれにはそれ以外のことはは重要ではない。もし単一のクロスプラットフォームによる開発戦略をとれば、おそらく開発コストを70%節約できるはずだ。しかし同時に80%のユーザーを失うに違いない。同時にほとんどアプリストアから閉めだされ、自前の販売チャンネル構築に追われることになっている。

さて、それではウェブアプリには未来がないのか? もちろんそんなことはない。しかし成功しているウェブアプリは、ウェブ特有の利点―情報の共有、コミュニケーション、他のサービスとの連携等々―に開発の焦点を絞り、そのプラットフォームのネーティブアプリをしのぐユーザー体験を届けることができるようなプロダクトに限られるだろう。ちなみに、これはEvernoteのWeb版の開発の目標でもある。

金融危機以来の暗い経済ニュースの陰に隠れて、ソフトウェア・ビジネスに参入するのに現在ほど恵まれた環境が揃ったことはないという事実が見失われがちだ。アプリストアの登場と、必然的なその台頭は、ソフトウェア業界の既存秩序を根本的に破壊してしまった。Evernoteが、定期的にシュリンクラップされた箱に入れたアップデートを売らねばならないソフト業界やデジタルデータがコピーされるのを恐れるソフト業界に属していなかったことが嬉しい。Evernoteのようなサービスはわずか3年前でもとうてい現在のような規模と影響力を持つことはできなかっただろう。アプリストア、クラウドサービス、マルチプラットフォーム・ユーザー、フリーミアム経済モデルが現在のEvernoteを可能にした。Mac App Storeについては、最初の1週間の熱狂が過ぎて、ダウンロード数は下がっている。いずれ維持可能なレベルで安定することだろう。しかしストアのオープンはデベロッパー・コミュニティーに対してはっきりと、かつ恒久的にプラスの影響を与えたことは間違いない。

実際、待った甲斐があったというものだ。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦/namekawa01

“EvernoteのMac App Store公開で得た4つの教訓” への2件のフィードバック

  1. RememberMe より:

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    http://bit.ly/dI3hcF

  2. RememberMe より:

    Can life get any better? I submit that it cannot!

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