ラッキーはない――ノボットで考える日本のスタートアップの出口

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もしかしたら一部の読者にとってノボットのmediba傘下入りに疑問があるかもしれない。たとえば、評価額の高低についてやそもそも現在ぶっちぎりで成長しているのにバイアウトの道を選んでいるということなどだ。実際、評価額についての疑問は、Twitterなどでも流れていた。そこで、僕はそんな話をするためにノボット代表取締役の小林清剛氏に話を聞いてみた。

「海外展開しようと思っていた。けれど、このままでは海外展開できなかった」というのが彼の第一声だ。たしかにノボットは急成長していることは認めながらも、海外展開できるだけの体力がないことを話してくれた。実際、ここ数カ月、彼がひっきりなしに日本を離れている話は聞いていた。僕も海外のコンタクト先を彼から紹介してもらったことがある。海外を周りながら、肌身で彼が感じたのは勝負の厳しさだったようだ。日本から一歩外にでれば数億円から数十億円単位で投資を受けているスマートフォン関連の広告事業を手がける企業はたくさんある。結局は資本の勝負では勝てないと悟ったようだ。

海外で事業を作って成功することが彼の当面の目標であり、そのための手段としてのバイアウトだったわけだ。実際、以前の記事にも書いたが、ノボットは売上、利益ともにスタートアップとしては堂々たる数字を出しており、このまま国内であれば有力事業者としてビジネスを続けるということも可能だった。だが、小林氏はそれを選択しなかった。バイアウトについても、ウワサされる評価額を上回る額を提示した会社もあったそうだが、海外展開ができるかどうか、そのために資金を費やすかどうかが条件であり、それに同意してくれたのがmedibaだったようだ。

ただ、決してラクな道ではなかったと小林氏は言う。2年数カ月という時間の中に「ラッキーはなかった。すべてが計算どおりだったけれど、それは決してラクな計算ではなかった」。そして何よりも大変だったのが買収交渉だったという。これに一役買ったのがノボットの顧問であり、元ngi group投資事業本部長の渡辺洋行氏(つい最近退職し、現在自身によるベンチャーファンド設立を準備中)だったことを明かしてくれた。そもそも、どの会社にどうやってバイアウトの話しを持って行けばいいのか分からなかったし、交渉の仕方も知らなかった。バイアウトは彼がいなかったら成立しなかったし、もし成立したとしてもその条件は低くなっていただろうという。

スマートフォン向けの広告事業という新市場を選んでいたために、バイアウトという結果を選択できたのだと考えられるが、そうであったとしてもスタートアップの出口としてのバイアウト案件はあまりにも国内に事例が少ない。IPOを目指すといっても、この数年はほとんどIPOはなくて(最近上場したモルフォにしても本来はもっと早くに上場できたものがズレこんだという話しがある)、新興市場でのIPOはあまりにもハードルが高すぎる。

小林氏と僕とで話していて一致したのは、昨今のスタートアップを取り巻く環境についての問題だ。シードマネーを投資するインキュベーションのプログラムが数多くできているのは、TechCrunch Japanでも散々紹介してきているので、読者のみんなもよく知っているだろう。それはそれで、僕はいいことだと思っているのだけれど、一方で、若い人たちを炊きつけて、最終的に誰がその出口を作るのかという問題がある。小林氏はたまたま渡辺氏のようなベンチャーキャピタリストとの出会いがあったために、うまくいったともいえるが、次々と会社が設立されたとしても、ちゃんとした出口までいきつけるのはほんの一握りである。米国ではIPOであれバイアウトであれ可能性が見えているからこそスタートアップを立ち上げる環境が整っているが、国内にそれはない。「数多くの会社ができているけど、みんなどうするんでしょうね」という彼の言葉にはまさに同感である。

IPOが難しいからと言って、今回のノボットのケースのようにバイアウトがあるよというような気軽なものは、ここ日本にはない。

もちろんスタートアップを目指す人たちに、挫けそうな話をしたいわけじゃない。突き放したいわけでもない。むしろ、そういう人たちがいい方向に向かうべき市場環境をどう作るかをいつも考えている。

ノボットの事例を見ながら、シードマネーを入れる人たちが果たして出口までのストーリーを起業家とともに作れるのかということに疑問がある。起業家たちが寝る間も惜しんで仕事に集中できるのは3年。その間に出口や企業の向かうべき先を作ることをベンチャーキャピタリストたちはサポートしなければならない。もう5年前のような多くのIPOが期待できる時代ではないのは誰もが知るところではある。なのでスタートアップもそういった投資家を選ぶべきである。それは日本にもまだまだいるはずだ。そうすれば、ノボットのように首尾よくバイアウトすることも国内でも可能だということだ。ただし、勢いだけの投資家を選んでしまうと、あっという間に厳しい現実に直面することになるだろう。小林氏もいうようにラッキーはないのかもしれないのだから。

“ラッキーはない――ノボットで考える日本のスタートアップの出口” への13件のフィードバック

  1. 「スマートフォン向けの広告事業」が新市場ではなかったということが大きかったと思います。
    単にスマートフォン向けってだけで、広告事業自体は既存の市場があり、ニッチな市場だったが、市場が大きくなってきて資本の少ない新しい企業には難しかったということですね。
    スマートフォン向けとうだけでは参入障壁はないですから、いつかはどっかと提携する必要はあったでしょう。

  2. 別所宏恭 より:

     こんなに安い値段でバイアウトする必要がある状況が日本のネット産業の成長を阻害しているのでは。
    逆に事業の成功を最優先させてバイアウトを決断した事は素晴らしい。

  3. 哲也 村上 より:

    それでは、スタートアップを目指す人を、挫折させる小ネタを1つ

    リリース1年で月間ン億PVのサービスを持っていますが、
    政府から民間まで投資、融資を尽く断れた経験があります。

    その理由は「収益でてない」から。
    成長を優先させていると説明しても、上記の理由で断られ、
    いきなりマネタイズを求めてきます。

  4. 哲也 村上 より:

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    政府から民間まで投資、融資を尽く断れた経験があります。

    その理由は「収益でてない」から。
    成長を優先させていると説明しても、上記の理由で断られ、
    いきなりマネタイズを求めてきます。

  5. 哲也 村上 より:

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    政府から民間まで投資、融資を尽く断れた経験があります。

    その理由は「収益でてない」から。
    成長を優先させていると説明しても、上記の理由で断られ、
    いきなりマネタイズを求めてきます。

  6. Keiichi Kojima より:

    凄いです、やりとげた実力と情熱に熱いものを感じうれしさに浸っています。

  7. Shunya Saito より:

    いろんな意味で泣ける記事。

  8. Yuya Watanabe Jp より:

    国内でバイアウトするために、キャピタリストの能力が必要とされる記事に大きく共感します。
    海外の投資家からも資金調達できる能力はさらにハードルが高いです。
    投資家の嗜好を理解し、タフな投資契約交渉が必要です。

  9. Inouehideyuki829 より:

    将来を見据えた勇気ある決断だと思います。

    しがみつかない姿勢っ かっこいい

  10. Inouehideyuki829 より:

    将来を見据えた勇気ある決断だと思います。

    しがみつかない姿勢っ かっこいい

  11. Inouehideyuki829 より:

    将来を見据えた勇気ある決断だと思います。

    しがみつかない姿勢っ かっこいい

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