シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド――受け入れられる投資家へのプレゼンとは

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編集部注:この記事はシリコンバレーでAppGroovesを起業した柴田尚樹(@shibataism)によるゲスト記事。AppGroovesについてはTechCrunch Japanでも以前に紹介している。柴田氏は楽天で執行役員を務めたり東京大学で助教を務めた経験を持つ。

私がシリコンバレーでAppGroovesを起業してから、ほぼ毎週のように、日本のスタートアップから「シリコンバレー進出したいのですがどうしたらいいですか?」という問い合わせを受けます。彼らが決まって言うことの1つは「アメリカ人はプレゼンがとても上手なので、自信がない」ということです。

これは、一理あります(確かにアメリカ人の中には、信じられないくらいプレゼンが上手な人がたまにいます)が、日本人=アメリカ人よりプレゼンが下手、と言っている限り、何も先に進みません。シリコンバレーはスタートアップのメジャーリーグなので、日本人から来たという理由だけで優遇してくれる人はほぼいません。むしろ、シリコンバレーの投資家は、いい投資家ほど毎日山のようにアプローチを受けていますので、英語がネイティブでないということ自体が非常に大きなハンディキャップです。

私が思うに、多くの場合、「シリコンバレーの投資家が期待する形でプレゼンテーションをしていない」というのがほとんどです。実際に「僕にピッチ(注)してみてください」と言って聞くと、大半の場合は、「あぁ、これじゃぁ門前払いされるだろうなぁ」というものが多いです。そのスタートアップやサービスやチームがダメだと言っているのではありません。素晴らしいサービスやチームを持っていても、相手が期待する形で伝えていないため、せっかくの良さが伝わる前に門前払いされているように思います。要は「郷に入りては郷に従え」ということです。

(注:アメリカでは投資家へのプレゼンテーションをピッチする(pitch)と良く言います)

シリコンバレーの投資家が重視するポイント

明確なルールがあるわけではありませんし、もちろん個々の投資家ごとに好みはありますが、AppGroovesにも投資している500 StartupsのDave McClureは、以下の5つの点が重要だと指摘しています

  1. Market
  2. Product
  3. Team
  4. Customers
  5. Revenue

創業直後であれば、この5つすべてで100点満点である必要はありませんが、全部がまぁまぁという状態だと恐らく投資されないでしょう。創業直後であっても、この5つのうち、いくつかは、世界基準で飛び抜けている必要があります。

シリコンバレーの投資家へのプレゼン(ピッチ)のフォーマット

これも特に決まりがある訳ではありませんが、KissMetrics創業者兼CEOのHiten Shah(500 Startupsのメンターでもあります)は、

Simple #startup pitch: 1. Problem 2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Future – thats it.

Tweetしています。彼はシリアルアントレプレナー(複数回起業している起業家)であるため、投資家が何を求めているかをよく理解しています。

非常に短いtweetですが、実に的を得ていると思います。私がこれまで聞いた良いピッチはほぼこの順番で構成されており、すべての要素にエッジが立っている内容でした。

  1. どういった問題を解決しようとしているのか
  2. どういった解決策(サービス)なのか
  3. 現時点でどの程度ユーザーがいるのか(増加率はどの程度か)
  4. 創業チームは誰なのか
  5. 今後どのような計画か

の5つです。これ以外のことはすべてAppendix(付録)で十分です。

シリコンバレー投資家は、1日に何度も起業家のピッチを聞いています。従って、平凡な内容だと「またかぁ」となります。その中に埋もれないためにも、この5つの項目に関しては、真剣に考えて、シリコンバレー水準で「おぉ、こいつら凄そうだ」となるようにしておかないと、投資家の興味を引くことは難しいでしょう。

実際には、私は、上述の5つ(1. Problem 2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Future)を含んだ「30秒バージョン」「1分バージョン」「3分バージョン」を3つ用意してあります。ちなみに、これは私の好みかもしれませんが、相手がわれわれに強い関心を持っていると分かるまでスライドを使いません。3バージョンともすべて、口頭で説明します。相手が関心を持っていることが分かって、細部の議論になってはじめて、スライドを使って説明します。

「30秒バージョン」は文字通りエレベーターピッチ用です。500 Startupsのオフィスはビルの12Fにあり、投資家もよく出入りしているので、よく彼らとエレベーターで一緒になり「お前何してんの?」と聞かれます。その時には「30秒バージョン」を使います。ここで気に入られれば、「もう少し話聞かせてくれ」と言って、私のデスクまで来ることもありますし、「今度、コーヒー飲もう」と言われて別のミーティングを設定することもあります。

「1分バージョン」はパーティーなどではじめて会う人に使うためのものです。エレベーターよりは時間を使えますが、そもそも大勢の人がいるパーティーで、特定の人に対して自分だけに関心を持ってもらうのは1分間が限界だと思います。これで気に入られれば、われわれのプロダクトはiPhoneアプリなので、その場でダウンロードしてもらい、フィードバックをもらったり、上述のようにより詳細を聞かせてくれ、ということになります。

「3分バージョン」は、事前にアポを取ってカフェやオフィスで投資家に会う時に使います。この場合、相手は私がスタートアップの創業者で、現在、資金調達の最中であるということは分かっている前提ですが、それでも相手の関心が続くのは3分程度でないでしょうか。もちろん、3分のピッチで相手が気に入れば、途中であっても、どんどん質問してきます。そうなればこちらの勝ちです。そこからお互いに会話が始まります。3分のピッチで相手の関心を引けなければ、5分やっても10分やっても一緒です。お互い時間が無駄なので、要点だけを3分にまとめる方がずっと効率的なのでこうしています。

よくありがちな失敗例とその対策

500 StartupsのDave McClureは日頃から、

Problem, NOT solution. Customer, NOT technology. UX, NOT code. Distribution, NOT PR. Acq cost, NOT revenue projections.

言っています。多くのスタートアップはこのことを理解しないで、投資家にピッチをして、その結果投資を受けられずにいる、という彼の経験則です。これは日本人だけに対して発せられたメッセージではありませんが、私が見る限り日本から来た人でこのことを理解している人はほぼいませんでした。

「Problem, NOT solution.」というのは、解決策(サービス)よりも、自分が何を解決しようとしているかの方がずっと重要だよ、ということです。サービスは将来変わることがあります。シリコンバレーではそれを「ピボット(Pivot)」と呼び、むしろ推奨されているくらいです。他方、解決しようとしている問題というのは、変えられるはずがありません。創業者は、自分が解決したい問題に関しては、世界中の誰よりも熱意があるはずですから。

最初の1. Problem部分で「ストーリーを語れ、感情的に相手を納得させろ」とよく言われます。なぜその問題を解決しようとしているのか、という点でまず投資家に感情移入させられないと、その後の2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Futureというところまで話が行かずにピッチを打ち切られてしまうことがあります。5つの要素で一番大事なのは何かと聞かれたら、間違いなく1. Problemです。何を解決しようとしているサービスなのか、なぜそれを始めようと思ったのか、ということです。

典型的にダメな例を一つ挙げます。今年(2011年の)TechCrunch Disruptにて、Y CombinatorのPaul Grahamがオフィスアワーを設けていましたが、その中に典型的な例がありました。この中のOmniplacesという会社です。22分21秒からビデオを見てください。27分20秒くらいに注目です。Paulがイライラしてし始めます。

Paul「なぜこの会社を始めようと思ったのか?」

創業者「モバイルの位置情報検索をより良くしたいから。」

これにPaulは全く納得していません。

Paul「スタートアップのアイディアというのは、カフェに座って考えて、『よしモバイルの位置情報検索をより良くしよう』というような形で思いつくもんじゃないんだよ。」

Paul「スタートアップのアイディアというのは、明確な解くべき問題ありきなんだ。以前に働いていた会社が抱えている問題とかね。もっと君の身の回りで起こった具体的なストーリーを説明してくれない?」

創業者「僕は大学で研究をしているんだ。このサービスは僕の研究を応用して..」

Paul「これは、研究の事業化なんだね。こりゃダメだ。研究内容の事業化というのは、自分で妄想上の問題を作り出しがちなんだ。僕はこんな技術があるから会社を作りますってね。そのサービスを欲している人がいるかどうか気にしない。」

という具合に、Paulはこの創業者が解こうとしている問題が、彼の日頃の生活の中に無く、単に彼の研究内容からきているという点を第一に疑問視しています。研究内容の事業化そのものが悪いというわけではありません。「本当に誰かが困っている問題を解決しているんだ」というストーリーが無いと、この例のようにサービスの説明をする前に話が終わってしまうのです。これは実に本質的なのですが、逆に多くの創業者がこの問いに答えることが出来ないというのも事実です。「何となくおもしろそうだから」や「市場が大きいから」というだけでは、不十分です。

(注:よく私が研究者バックグラウンドなので誤解されやすいので説明しておきますが、AppGroovesの場合も、私の研究内容があったからこのサービスが出来たのではなく、私にとって身の回りにある一番大きな問題がApp Disoveryだったからこのサービスを作りました。たまたまレコメンデーションなどに私が研究してきたことが役立っていますが、もっと良い方法が見つかれば、これらのアルゴリズムは今すぐにでも捨てる覚悟があります。)

「web2.0」という言葉が流行した頃、「トラフィックさえあれば、お金は後から稼げるからビジネスモデルは気にしなくて大丈夫」と言う人がたくさんいましたが、これは半分以上間違えています。あるシリコンバレーのVCと話していた際に「重要なのは、起業家が解決しようとしている問題なんだ。解決しようとしている問題が十分に大きいということは大きな市場があるということ。創業初期からビジネスモデルが固まっている必要なないけど、解こうとしている問題が曖昧だったり、どれだけ社会を変えられるものなのかが伝わってこないと多分投資しないだろうね。テクニックを使ってトラフィックを増やしてもダメだよ。そんなことより、自分たちが解決しようとしている問題に困っている人がどれだけいるか、今はまだ小さくても、自分たちのサービスがどれだけその問題を解決して顧客を幸せにしているかを伝えた方がいい。」と言っていました。

話を元に戻します。次の「Customer, NOT technology」というのは、技術の素晴らしさを語るのではなく、顧客にどういった価値を提供できるのかを説明しなさい、という意味です。いかに技術が素晴らしくても、顧客に価値が無いのであれば、それは単なる自己満足に過ぎません。

「UX, NOT code」というのは、顧客に見えないコードではなく、顧客に見えるユーザーエクスペリエンスを重視しなさい、という意味です。コードが汚くていい、ということでは決してありませんが、スタートアップのミッションは世の中をより良くすることなのですから、常に顧客を意識しなさい、という意味です。

「Distribution, NOT PR」というのは、少し分かりにくいですが、PRのことばかり言わないで、実際にどのように顧客を獲得していくのかを語りなさい、ということです。例えば、良くあるダメな例は「このサービスをxx日後にリリースして、プレスリリースを出して、メディアにコンタクトして…」というものです。スタートアップが山ほどある中で、自分でプレスリリースで出しても誰も関心を持ってくれません。そうではなくて、例えば、「facebookとtwitter上にバイラル作る仕掛けがあります」、「facebook adsを買うと、CTRがX%, CVRがY%なので、1ユーザーあたり$xで獲得できます」といったような具体的な顧客獲得方法を述べなさい、という意味です。

「Acq cost, NOT revenue projections」というのは、創業直後の売上計画なんてどうせ分からないんだから、それなら顧客獲得コストを述べなさい、という意味です。具体的に、どのような施策でどの程度のユーザーが獲得出来ているのか(出来る予定なのか)という点を具体的に述べる必要があります。

おわりに

以上、シリコンバレーの投資家に受け入れられるピッチについて書きましたが、何事も習うより慣れろです。シリコンバレーでの資金調達にトライしたい方は、ぜひ現地にて切磋琢磨してください。そうでない方にも、新しい何かを始める場合には役立つことがあれば幸いです。

また、プレゼンテーションに関する本で1つおすすめを挙げるとすれば「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」(Amazon, 楽天)を挙げさせていただきます。単なるHow Toだけでなく、その背景にある思想まで説明してある良書です。

(写真:株式会社プロコミット

“シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド――受け入れられる投資家へのプレゼンとは” への23件のフィードバック

  1. 匿名 より:

    Simple #startup pitch: 1. Problem 2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Future – thats it. これはすばらしいまとめ。その中でもproblemが飛び抜けて重要なんですね。なるほど!

  2. Yoichi Shirono より:

    問題の大きさ=ポテンシャルの大きさですね。ただ日本で米国流をやると結構引かれます…日本だと、市場(所謂流行りものかどうか)、技術/製品(技術的な差別性があるかどうか)、顧客(実績があるかどうか)、知名度(意思決定者に説明しやすい人かどうか)、計画(数字の辻褄があっているかどうか)かな。

  3. Yoichi Shirono より:

    問題の大きさ=ポテンシャルの大きさですね。ただ日本で米国流をやると結構引かれます…日本だと、市場(所謂流行りものかどうか)、技術/製品(技術的な差別性があるかどうか)、顧客(実績があるかどうか)、知名度(意思決定者に説明しやすい人かどうか)、計画(数字の辻褄があっているかどうか)かな。

  4. Naoki Chiba より:

    Problem statement は研究を行う際にも重要ですね。Acq cost, NOT revenue projectionsと言われているのは、知りませんでした。なるほどです。

    ベイエリアでは、Venture Conferenceがよく行われているので、値段は張りますが、見に行ったり、実際にスピーカーとして参加したりすると、参考になります。

    11月にDow & Jones社のイベントFastTechがRedwood City, CAであり、注目されているスタートアップのCEO達が話すようです。参加費は$2100/personで高価ですが、交渉次第で割引きがあるらしい。LytroのRen Ng (スタンフォード大出身)も話すようです。

    http://fastech.dowjones.com/index.php/program#tuesday-november-8-2011

  5. ”Problem, NOT solution”のひと言に要約されますね。このフレームワークは起業家のピッチだけでなく、営業資料の作成などにも使えますね。

  6. ”Problem, NOT solution”のひと言に要約されますね。このフレームワークは起業家のピッチだけでなく、営業資料の作成などにも使えますね。

  7. ”Problem, NOT solution”のひと言に要約されますね。このフレームワークは起業家のピッチだけでなく、営業資料の作成などにも使えますね。

  8. プレゼンが下手っていう固定観念には辟易している。家電芸人みたいなのも多いよ。

  9. func より:

    非常に参考になりました!!

  10. func より:

    非常に参考になりました!!

  11. エレベーターの30秒タイプは良いですよね。
    「お前何しているの?」
    で1発で興味をそそる30秒の内容って、奥が深いと思う。

    たぶんハッタリ系が一番だよね。
    常にハッタリが言えるように、それでも訓練すべき。
    「1億ドルのECサイトを運営している「予定」ww」
    とか、かなぁww

  12. ITWizard より:

    アップグルーブスのどちらのアイフォンアプリが好きですかゲーム。めちゃくちゃつまんなそう。冷静になりましょう。HotorNotは可愛い女の子を選ぶゲームだから面白いんです。むしろこのアイディアが門前払いされなかったのに驚き。50万ダウンロード行かずに終わりますね。

  13. 良記事。Solution, NOT problem そしてTechnology, NOT customerなサービスがいかに多いことか。
    自省も含め、多くの人に伝えたい。

  14. マサお より:

    メモメモ

  15. マサお より:

    メモメモ

  16. マサお より:

    メモメモ

  17. マサお より:

    メモメモ

  18. マサお より:

    メモメモ

  19. マサお より:

    メモメモ

  20. pekepon より:

    ビックリするくらい同意。まず強烈な問題意識があって、それを解決するために立ち上がるのが起業家ってもんだろう。確かに私もAppGrooves自体にはそれほど萌えないけれど、
    柴田さんご本人が気が狂うほどこのソリューションを欲しかったのであれば、distributionの方法さえうまくやれば必ず顧客はいると思うよ。

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