シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド3――米国ビザ取得にまつわるエトセトラ

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編集部注:この記事は先日開催されたTechCrunch Tokyoでもスピーカーとして登場したシリコンバレーでAppGroovesを起業した柴田尚樹(@shibataism)によるゲスト記事だ。すでにシリコンバレーで起業を目指す人にとって役に立つ2つの記事を提供してくれたが、これが最終回となる。今回はもっとも難しく重要なビザについての話である。

前々回の「投資家へのプレゼン」、前回の「資金調達」に続き、次に多い質問が「ビザ」に関して、今回は整理します。ちなみに、この3つのテーマで私に寄せられる質問の約8割を超えます。

私のところにやってくるシリコンバレーで起業したい日本人の多くの方が、ほぼ全員ビザの問題に直面しています。米国籍や米国での永住権を持たない人が米国で働くためには、就労ビザが必要です。そして、ビザ取得は皆さんが思っているよりも、ずっと大変で、かつ時間がかかり、かつ、(資本構成等にも影響してくるため)後戻りができない非常に重要な最初のステップです。

日本国籍を持っている読者の皆さんが日本の中で働く限りにおいてまったく意識する必要がないことですが、(米国から見た)外国人が米国で働くというのは想像以上にハードルが高いです。日本の大企業の米国駐在員として働く、あるいは、米国の大企業に就職する場合は、企業の資金力や存在感に対しての疑問が少ないため、まだマシです。スタートアップというのは、シリコンバレーであっても「まだどうなるかわからない会社」です。そうした会社で、ましてや創業者が外国人である場合、ビザを取るのはそう簡単ではありません。

また、稀に「とりあえず観光ビザでの90日間滞在を繰り返しながら考える」という人がいますが、絶対におすすめしません。日本のパスポート保有者は、ESTAで一回あたり90日以内の滞在が認められていますが、これはあくまで「観光」目的の場合です。90日の滞在を複数回繰り返そうとすると、米国入国時に別室送りになったり、入国を拒否されることがあります。これらの履歴は記録が残りますので、将来、米国でビザを取る時にネガティブな影響があるでしょうから、最初から無計画な行動はおすすめしません。

以下では、シリコンバレーでスタートアップを起業する日本人にとってどういったビザの可能性があり得るのか、という点を整理します。前述の通り、すでに上場企業等で働いている人等は、資金的な余裕もあるでしょうから、本稿では議論の対象にしません。

注:実際に実行される場合は、必ず移民弁護士に相談の上、自己責任でお願いします。
注2:本稿では国籍や「外国人」という記述をしますが、筆者には国籍/宗教等で差別する意図はまったくありませんのでご了承ください。ビザを議論する上で国籍は必ずついて回る問題です。

米国のビザに対する考え方

米国は、世界中でもっとも移民に寛容な国であるとは思いますが、「ビザ欲しいです」と言う人全員にビザを発行してくれるわけではありません。米国政府のポリシーは非常に明確で、原則として

  1. 米国市民の雇用機会を脅かさない
  2. 米国の経済に良い影響をもたらす

という2つの条件を満たす人にのみ就労ビザを発行します。よく考えれば当たり前です。外国人が大量に流入して、米国民の雇用が減るようでは、米国政府は困りますよね。したがって、就労ビザを取るためには、「(普通の)米国民にはできない仕事ができる人で、かつ米経済に良い影響をもたらす(米国民の雇用機会を増やす)人」である必要があります。

2011年現在、シリコンバレーの投資家を中心になり米政府へ「起業家ビザ」という新しいタイプのビザを新設すべく活動中です。このビザの背景にある思想も「世界中から優秀な起業家が米国に集まれば、米国の雇用を増やし、経済活性化につながる(はずだ)」という明快なものです。しかし、仮にこのビザが新設されるとしても、実際にが運用が開始されるまでには、数年単位の時間がかかるでしょうから、現時点では現実的なオプションではありません。

具体的なビザの種類

ゼロからシリコンバレーで起業する場合、以下のようなオプションがあります。普通の人の場合、

  1. H1B(専門職):米国の企業に「専門職」として就職する場合。
  2. E2(投資家):日本人が相当額を米国の会社に投資し、50パーセント以上を日本人が保有していて、その会社のマネージメントをする場合。
  3. L1A/B(関連企業間転勤):日本企業の米国の関連会社に出向する場合。

のいずれかが一般的でしょう。また、裏技的なビザとして、

  1. O1(スポーツ・芸能・科学):一芸に秀でている場合。
  2. 永住権

の2つも可能性があります。詳細は、米国大使館や移民弁護士事務所のウェブサイトでご確認ください。

どのビザが一番良いか?

先に結論を書きます。外国人(日本人)がシリコンバレーで起業、かつ、シリコンバレーを主たる拠点として活動するという前提であれば、H1B > E2 > L1A/Bの順にフレキシビリティが高いと思います。もちろん個人の好みやケースにも依ります。前述のように真の意味で外国人起業家のためのビザはまだ存在しませんので、それぞれのビザに一長一短があります。それぞれのメリット/デメリットを以下で説明します。

まずはE2(投資家)ビザに関して。よく移民弁護士がE2ビザをおすすめしてくるのを見かけます。それはE2ビザが3つの中で書類の準備が大変で、弁護士料が高いからである場合もあります。ちなみに、移民弁護士はもちろん最善は尽くしてくれますが、彼らはビザ取得を保証しません。弁護士費用は、通常、ビザ取得の成功/失敗に関わらず請求されますので、移民弁護士の選定には十分注意してください。E2ビザを申請して拒否されているケースも多数見ますので、注意した方がいいでしょう。E2ビザは良いビザであることは間違いありませんが、ほかと比べて好ましくない理由をあげると、

  • H1Bに比べてビザの申請に時間とお金がかかります。
  • 日本人(と日本人が50パーセント以上を保有する企業)の議決権を50パーセント以上に保ち続ける必要があります。これは将来の資本政策に大きく影響します。最初は問題ありませんが、シリコンバレーで増資をし続けていくと、将来、日本人の保有率が50パーセントを割る可能性が出てきます。以前「もうすぐ会社の現金が尽きる。投資をしてくれるという投資家もいる。でも、この投資を受けると、自国からの資本が50パーセントを割ってしまいE2ビザが無効になる」という会社を見たことがあります。こうした状況下では、もう倒産するしか方法が無くなります。
  • 創業直後にConvertible Notes等のローンで資金調達をしていると、a) ローンは資本金と認められない可能性がある、b) 仮に認められても、Convertible Notesの場合、外部投資家の将来の持ち分比率がビザ申請時点で決まらないので、最初からE2ビザを拒否されるリスクがあります。
  • ペーパーカンパニーでないことを証明するのが大変。米国に会社を作っているだけでは不十分で、ビザ申請前に米国人を雇用したり、オフィスを借りたり、モノを買ったり、目に見える形での投資が必要です。
  • dual-intentビザでないので、E2で滞在中に永住権申請が困難(となる場合がある)。

次にL1A/B(関連企業間転勤)ですが、こちらはすでに日本に会社が存在していて、その会社に1年以上働いている人が、米国に子会社に出向するような形の場合のためのビザです。このビザは一見問題なさそうですが、最大の問題は、シリコンバレーの投資家が投資を躊躇する要因になりうるということです。

第一に、投資家の視点に立つと、日本が親会社、米国が子会社という形の場合、シリコンバレーの投資家はほぼ投資しません。日本という(彼らから見れば)アウェイのルールで投資をする人はほぼいないでしょう。前回の記事で書いたように、日本で十分な量を資金調達していればいるほど、シリコンバレーの良い投資家から投資を受けるのが難しくなり、サービスの善し悪しに関わらずサービスが花開くのはほぼ不可能です。

第二に、仮に第一の問題がクリアできたとして、投資家側の心理的な問題として、主たるビジネス、事業、チームが日本に残っていることを非常に大きなリスクと感じます。L1A/Bビザでシリコンバレーに来るということは、まだ日本に事業の大部分が残っているということになります(そうでないとこのビザは取れません)。これは投資家から見ると「ちょっと上手くいかないようなことがあると、こいつらは日本に逃げ戻るのではないか?」という疑問を抱かせます。つまり、起業家のコミットが十分でない、つまり退路を断っていないように見える可能性があります。

逆の立場になって考えてください。あなたが日本の投資家で、中国の会社が日本進出したいと言ってきました。大半の事業はまだ中国にあります。この状態で自分のよく知らない国(中国)に逃げ帰るかもしれない人に投資をするのはやはり躊躇するでしょう。投資家にこれと同じ恐怖を抱かせる可能性があります。

最後にH1B(専門職)ビザですが、これがこの3つの中では、将来のシリコンバレーでの活動に与える制約が一番小さいと言えるでしょう。ただ、このビザは、あくまで特定分野(例えばソフトウェアエンジニアリング)のスペシャリストとして「雇用される」ことが前提なので、創業者全員が日本人という状態では申請できません。米国人が先に会社を作り、その会社に「雇用される」必要があります。また、自分の学位と専門性が合致している必要があります。ビザを審査する「移民局」も所謂、お役所であるため「僕/私、文系だけどエンジニアとしてすごいです!」と自分で主張しても、客観的な根拠がない限り相手にされません。よく見かける「H1Bが却下される例」としては、例えば「法学部卒ソフトウェアエンジニア」です。H1Bの申請者は、最終学歴と職業が一致している必要があります。(米国移民局は)法学部卒の人にエンジニアとしての専門性を見いだせない、ということです。H1Bで雇用される人は「特定の分野で、普通の米国人にはできない仕事ができる人」である必要があります。

O-1や永住権という「裏技」ビザ

O-1ビザはスポーツ・芸能・科学等の分野で、飛び抜けた成果を出した人に発行されるビザです。よく、オリンピックに出た、あるいはノーベル賞や世界的に著名な賞を受賞した等が必要という話を聞きますが、「博士号を持っていて、当該分野で目覚ましい研究成果」というレベルでもO-1ビザが取れたケースを見たことがあります。

最初から永住権というオプションもあり得なくはありません。米国人と結婚する、抽選に当選すると永住権が取れます。さらに、以下の2つのケースでは、特例的に、企業のスポンサーなしに個人として、永住権に直結するビザを申請できます。これら2つは非常に準備も大変かつ、難度も高いですが、勤務先に依存せずに永住権を取れるビザであるため、可能性がある人は検討する価値はあると思います。

  • 卓越した能力を持つ人(EB1)
  • 米国の国益になる人(EB2, National Interest Waiver)

私のケース

私もビザに頭を痛めてきた一人です。米国に住み始めて約2年ですが、すでに米国のビザを6つ取りました(自慢できることではありませんが、それだけ苦労してきました)。最終的には、起業する前に申請してあったEB2, National Interest Waiver(永住権ビザ)が許可されました。このビザは、「私は米国の国益になる人だから永住権をください」と申請するため、書類の量が膨大で、途中で何度も嫌になりました。最終的に提出した書類の山約10cm以上の厚みでした。

また、起業後に保険のつもりで申請したH1Bも、ほぼ同時期に許可されました。それまでは、米国からの出国に制限がかかったり、働けなかったり、非常に頭の痛い思いをしました。資金調達とビザ取得を並行して行わねばならず、「万が一ビザが取れなかったらどうしよう。投資家に何と説明すればいいのだろう」と思うと、毎日、お腹が痛い思いをしていました。

私からの一番のアドバイスは「ビザはほぼ100パーセント頭を痛めることになるので、本気でシリコンバレーで起業するつもりがあるのであれば、早い段階から経験豊富な移民弁護士を雇って、早期対策を行うこと」です。

TechCrunch Tokyo 2011に登壇する柴田尚樹氏(写真:Aito Kodama)

まとめ

上記では、「H1B > E2 > L1A/B」という順に望ましい書きましたが、まとめると以下の順に検討/実行していけばいいということになります。

  1. 永住権が申請できる可能性があるなら、手を打っておく(抽選に申し込む、EB1, EB2 NIWに応募する。これらは個人として実行可能)。
  2. 米国人の共同創業者がいて、かつ、自分の学位と職業の専門性が同じであればH1Bビザ。
  3. H1Bは難しく場合、日本人による議決権を(未来永劫)50パーセント以上に保つという制約を受け入れ、かつ、十分な現金がすでにある場合はE2ビザ。
  4. H1BもE2も難しく、かつ、日本の親会社に1年以上勤務しているのであれば、L1A/Bビザ。

また、最初はE2やL1A/Bを取得して働き始めたとしても、会社が大きくなった後で、H1Bビザに切り替えるというのは、上述の制約条件をクリアする意味では十分検討する価値があると思います(ビザは複数持っていてもまったく問題ありません)。

繰り返しになりますが、実際に実行される場合は、必ず移民弁護士に相談の上、自己責任でお願いします。

“シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド3――米国ビザ取得にまつわるエトセトラ” への2件のフィードバック

  1. Non Umemoto より:

    なんという良質記事。文系があっちでスタートアップするぞとなると投資家ビザになると思うけど、50%の資本を日本人で固め続けるとか、行く前に3千万ぐらい投資されないとビザも降りないとか、デメリットのほうが大きい気がしてた。途中でH1Bに切り替えたら50%で固め続けなくてもよいのかな? Ycomとかは世界中から来てるけど、みんなどうやってビザ問題をクリアしてるのかケーススタディが知りたいな。

  2. どうしても急ぎたいというのなら話は別だが、2年間専門教育を受けながら企業で働くという手段もあるということ。

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