SXSW2012オースティン戦記:ロケーション系ソーシャルの主戦場で日本発のスタートアップが闘いを挑んだ

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マイク・デイジーの苦痛と恍惚

編集部注:これを寄稿してくれたのは頓智ドットの井口尊仁氏(@iguchiJP)だ。井口氏はSXSWに1000人の日本人を送り込もうと、”1000 Japanese Samurais to SXSW Austin”をオーガナイズしている。そして実に200人もの日本人が今年は参加するに至った。今回はそのSXSWレポートの第一弾である。

年に一度、テキサスの州都オースティンで行われるSXSWインタラクティブは過去にTwitterやFoursquareなどをスターダムに押し上げただけでなく、その年のテクノロジートレンドを方向付ける場としても高い影響度を誇る巨大イベントだ。

そこではいわゆるビジネスカンファレンスやトレードショーだけでなく、SXSWミュージックSXSWフィルムなど、同時期に開催されるマルチメディアフェスとも相乗効果をもたらしながら、数え切れないコラボレーションが即頻発する壮大な社会実験場だ。

クリエイティブな人間ばかりが一定期間、しかも非常に高密度に生活を共にする環境が実現したらどんな事が起こるのか? 1週間の間に数万人が参加し、数千回に渡って催されるパネルディスカッションやワークショップ、ピッチバトルやテクノロジーショーケース、音楽パフォーマンス、映画の新作ロードショーなど群を抜いた規模と頻度で開催されるのがSXSW。まずはそのスケール感と熱狂的なムードに誰もが圧倒されるだろう。

そういったなか、今年のSXSWには200人を越える日本人が海を渡って参戦した。今回はそのなかからSXSWトレードショーに参加した日本のスタートアップから3社を取り上げよう。彼らは、特にロケーションベースサービスの新機軸を世界に問う為にオースティンにやってきた。TechCrunch Japan読者なら周知のようにFouresquareはここオースティンで2009年に開催のSXSWにて一躍脚光を浴び、チェックインという機能が世界に伝播する大きなチャンスを獲得した。また、その後毎年新機能を投入することで製品進化のアピールの場としてSXSWを積極的に活用してきた。それこそFoursquareの牙城とも言えるオースティンで、彼ら日本のスタートアップが何を目論み、どういった経験を得たのかをインタビューした。

Zakuri

Zakuriはナスカークラフトの開発したロケーションベースの宝探しアプリだ。Zakuriとは、地面をシャベルで掘るときの効果音。彼らはオースティンの展示会場周辺にAmazonのクーポンを埋めておき、それをどんどん宝探しして掘り起こしてもらおうというキャンペーンを仕掛けた。シンプルな仕掛けだがその分わかり易さが受けていた。トレードショーの2日目、ナスカークラフト代表の沼倉氏に開発意図や海外展開について訊いた。

――そもそもSXSWで激しい競争の見込まれるロケーション系ソーシャルを仕掛けるにあたっての狙いは?

「Zakuriは、ロケーションベースのパチンコと言って良い。射幸心を煽る仕組みでリアル空間の人々を刺激したい。今のところジオロケーション系で成功しているサービスが未だ存在しないと考えている。これは凄く大きいチャンスだ。Zakuriの場合はAmazonクーポンを掘り起こせるだけでなく、クーポンをアイテムとして所有出来るし他人とも交換することができる。ちょうどドラクエの「調べる」コマンドをリアルにやる感じ。ユーザー同士がアイテムを交換できるのがとても楽しい」

なるほど、RPGの楽しい部分を抽出して現実空間で遊んでもらう。Foursquareのチェックインよりもずっとエンゲージメントが高い可能性は感じ取れる。

――では、それが受け入れられたときのビジネスモデルは何だろうか?

「リアル店舗側は簡単にCMSを通じてZakuriの利用が可能だ。割引インセンティブだけでなく金券も提供可能だ。従来は端末側の位置精度が低かったのでなかなか出来なかったが、今はそれが可能になりつつある。近い将来のシームレスGPSを利用した使い方を想定している。

ユーザー同士のアイテム交換型インセンティブを提供するのは新しい価値提案。当初は埋められているアイテムの密度が余り無いので、キャラクターのモーションデータなど、デジタルのお宝データをどんどん手掛けて行くつもり。お宝を掘り起こすキャラクターのアニメーションを通じてキャラクター自体に愛着を増してもらう仕組みだ。キャラクターの勝手な振る舞いが可愛らしく、それもセールスポイントになるだろう」

――では、今後の展開について聞かせてもらおう。

「現在はWebアプリとして提供中だがiOSとアンドロイドに向け開発を進めている。4月末にはアプリをローンチする予定。Foursquareにはぜひ対抗したい。リアル店舗ともどんどん組みたいと考えている。リアル店舗は自前のホームページの更新なども含めてまだまだIT化が大変だ。リアル店舗のCMSを通じて来客をモニターする機能が売りになると考えている。海外パートナー開拓が急務でと考えていて、その事前リサーチとして提携可能性を探りにオースティンにやって来た」

実際ナスカークラフトのブースにはデジタルPRのプロ達が訪問してくれ、NIKEなど世界的ブランドのPR担当者が多数強い関心を示してくれた。ここから大きなプロジェクトに繋がればアプリの認知も増すだろうし、リアル空間での宝探しがチェックインの代わりに大いに使われる日が来るのかも知れない。ただ、Zakuriという擬音は北米では分かり辛いだろう。実際、ブース展示の際には「これはScavenger Huntだ!(アメリカでは非常にポピュラーな宝探し的リクリエーション)」と説明をすることですんなり意味が伝わっていたようだ。狙った市場に合致したネーミングやキャッチフレーズの選定もマーケティング的には大きな要素と言えるだろう。こういったことをシビアに学べるのも実際に現地でプレゼンする事による効果だと言える。しかも世界規模のマーケター達と直接対話できるのは貴重な機会と言えるだろう。

Curioucity

Curioucityは各種モバイルアプリを開発しているOne-Rのグローバル戦略製品だ。One-Rの手掛けるヒット商品、「不良の花道」というケータイSNSはご存知の方もいることだろう。今回、特定の場所にチェックインした相手に対して、直接チャットを申し込めるCurioucityを開発してオースティンへと乗り込んだOne-R代表の中仮屋氏に話を訊いた。

――なぜ、位置情報+コミュニケーションの仕組みを今回開発しようと思ったのか?

「最初はイマココの感情表現をその場その時にアイコン化することで自己表現し合えると楽しいと思った。ところがプロトタイプ開発して触ってみると物足りなかったので、それでチャットを付けようと思いついた。それが2011年の12月。開発は相当タイトだったが、敢えて方針変更を決定した。自分の問題意識は初めての場所で知らない事が沢山あったとしても、グーグル検索で見つかるデータを単に眺めても仕方がないということだ。データをただ眺めるのではなく生の対話をしたいと思った。それがCurioucityのコア体験になる筈だ」

――でも、そういう機会はかなり特殊なのでは?

「初めての場所だと分かり易いのだけども、いつもの場所でもそういう欲望は必ずあると思う。どういう所で、いったいどういう状況なのかの生情報を知りたいという欲求は強い。例えば、いつもの街でも美味しいお寿司屋さんを探そうと言う時、その寿司屋の動画、あるいはソーシャル情報、まとめサイトなどでは決してリアルな情報は伝わらない。生々しい、今どうなっているの?の情報が常に欲しくなる。旬のネタ、店の込み具合や雰囲気などをその店にいる人間の生の言葉で伝えてもらいたい」

――でも、そうはいってもオンタイムでリアルな情報を得る機会は情報密度的にかなり得辛いし、発信側のコストもとても高い。そこをどう乗り越えるのだろうか?

「でも、そこで生々しく情報を発信したいという発信側の欲求は必ずあると思っている。チェックインして僕はここにいるよ!となっている状態で他人から問いかけられたら、恐らくそれに応えたくなる。そういった自己顕示欲を我々は刺激したい」

――なるほど、確かにそういう欲求は普遍的にあるのかも知れない。では、初めてのSXSWを中仮屋氏はどう捉えているのだろうか? そこで勝機を感じたのか? 訊いてみよう。

「SXSWは決して大規模集客には向かないと思う。アイキャッチにはなるけど、ダウンロードには決して向かない。最初のエンゲージメントと知名度獲得が出来ていた上でファイナンスや提携ディールに繋げるのであればとても向いていると思うが。日本で流行中のOceansやSXSWで一躍話題になったGlanceeは強く意識している。今から今回の反省を踏まえて製品を作り直し、1年後にもう一度再チャレンジしたい。個人的には現実世界でのチャットにコダワリを感じている。2013年はSXSWインタラクティブアワードを獲得してステージにぜひ登りたいと思っている」

中仮屋氏は海外在住経験があり英語も堪能なだけでなく、どんどんアクションを起こして人を巻き込めるカリスマ性もある。実際Curioucityのアートワークは海外有力デザイナーに発注して開発を行っている。SXSW2013では注目株になれる若手起業家のひとりとして今後も注目したい。

Vongno

カラクリが手掛けるVongno(ぼんのう)はBluetoothを使った近接通信でユーザー同士がコンタクト情報を交換するアプリだ。2011年の9月13日にサンフランシスコ のTechCrunch Disrupt当日にリリースされたこのアプリは、2013年SXSWの有力株であるHighlightやGlanceeを先取りしただけでなく、自動的にコンタクト交換できるという点ではさらに先進的なアプリと言えるかも知れない。そして、カラクリ代表の中本氏はSXSW2012に参戦した起業家のなかでもとりわけキャラ立ちのしたムードメーカーだ。その彼に、今回の挑戦について訊いてみた。

「なぜVongnoを作ったのか? それは、自分がインタレストグラフに懐疑的だからだ。自分としてはもっと根本的な欲求を刺激したいと思っている。ディスタンス、つまり物理的に“身体と身体”が近いのかどうかが凄く重要だという認識でVongnoを開発した。人間同士にとって、お互いが空間を共有しているかどうかは関心のシェアよりも強い関係性だ。仲良くなるには、お互いが現実空間を共有するのが手っ取り早い。SXSWに来たきっかけも、現実にそこに出掛けて話し合えばなんとかなるという原体験が有るからだ」

――でも、リアルな出会いは億劫な場合も多いしリスクも大きい。それでもそこを狙いたいという気持ちは何なのだろうか?

「Vongnoは人の行動に働き掛けたい。Vongnoは人と人の出会いを捉えて自動的にコンタクトを交換する仕組みなので、実はユーザーの行動コストは限りなく低いのだ。要するにアプリを使うだけで自然に人間行動に働き掛けられるのが、このアプリだ。

人は誰でも移動をするし、何かが物凄く好きでも現実には自分の行動半径内で行動している。インタレストだけじゃなくリアルな距離やリアルな行動空間こそが人に強く影響する。気が合うかどうかと恋愛や結婚は余り関係ないだろう。六本木で7、8時間使ってナンパしてみた時、それを深く考え込んだ。その際に調べまくって分かったのは、共通の趣味趣向じゃなくリアルな空間共有こそが実は人間の関係構築上凄く重要だったということ」

――さて、それではSXSWでの手応えはどうだったのだろうか?

「Vongnoは目に見える範囲で繋がることを強く意識している。だが、北米だと、もっと距離感のグリッドが長いアプリにする必要があるのかも知れない。VongnoはHighlightやGlanceeが競合だとは思っていない。それよりもBUMPのような凄く近い距離で繋がるタイプのアプリを意識している。さらにVongnoは1:n(1人対複数人)が特徴だ。BUMPよりもずっとリアルに拡散ができるメカニズムで作動している」

――では、Vongnoの今後に関して訊かせてもらおう。

「我々はカジュアルかビジネスかをもっと明確に意識して切り換え、特化したいと考えている。現時点ではビジネス色を増やして、例えばSXSWのトレードショーの様な場でビジターがビジネスオーナーと繋がる様な仕組みを考えている。どこかのブースに来た事を近接通信で捉える事が可能なので、これをBtoB利用してもらえる。

そうすれば特別な装置が無くてもユーザーの訪問が分かる仕組みを提示できるだろう。今後は近接通信のビジネス利用を提案したい。この仕組みができれば、展示会だけでなくリアル店舗でもサービス提供できる。リアルに訪問した顧客のコンタクトリストを簡単に入手可能なツールになると思っている。近接通信の場合は、3Gネットワークに依存しないのも強味で、リアル空間でのリワードが出来る仕組みを提供しているスカベンチャーの様な仕組みへ進化できると考えている」

SXSWチャレンジャーとして日本のスタートアップが本格的に乗り込んだ2012年。彼らは多くの経験から、成功失敗の双方を学び取ったうえで新たなアクションに考えを巡らせている。彼らはSXSW 2013ではよりシビアな闘いを挑むだろうし、そこからTwitterやFoursquare、GroupMeやBelugaなどを越える世界水準のスタートアップが出て来ないとも限らない。彼らの挙動からは目が離せない。

“SXSW2012オースティン戦記:ロケーション系ソーシャルの主戦場で日本発のスタートアップが闘いを挑んだ” への7件のフィードバック

  1. 匿名 より:

    最近のスタートアップは楽しいことやおもしろいことに注目しているスタートアップがやや多いような気がする。そういうのもいいとは思うけど・・・一時的な流行だけだったり、次から次に新しい同じようなものが出てきてマネタイズが難しい気がしてならない。

    そういうスタートアップもいいと思うし、楽しさや面白いことを入口にすることもありだと思うけど、いろんな業界を徹底的に調べて、根深いけれどもなかなか解決できない、多くの人たちが抱えている問題や企業による解決が見いだされていない問題に着目している、ビジネスモデルが光ってる骨太なスタートアップが日本から出てきて欲しいなぁ。

  2. Ayako Sonono より:

    本当に同感です。

  3. Takahito より:

    顧客価値創造のプロセスは本当に多岐に渡ると思いますし、方法論も一様じゃないですね。ビジネスモデルのイノベーションと、凄く深く鋭利な製品価値仮説とが見事に一致した状態を高速度で回す為にも「まずはイノベーティブな顧客層にごく早期にプロトタイプをぶつけることで相互作用を引き起こす」手法はSXSWの様な場でも有効じゃないかと思っています。
    位置情報とソーシャルを組み合わせた新製品開発はホットな領域で、市場規模のポテンシャルも取り沙汰されている割にはFoursquare以降大きなヒットが有りません。次の原稿でも引き続き触れているのですが、各国あるいは各地域で非常に多様なアプローチが競争しながら多様な進化系を描いています。その全体像や俯瞰図を何か示唆出来る様なレポートを意識して寄稿したのですが、まだまだ力不足と思っています。

  4. Takabedai より:

    なんていうか結局foursquareの変種かな、っておもってしまう
    本当の意味で独自の視点、問題意識があるのかな?
    自分が使ってみてここ変えたいなあ・・・ぐらいではちょっと浅いような気がします
    いや、えらそうなこといってすいません。

  5. takahito より:

    まだまだ国内ベンチャーの存在感は希薄ですし、今回の出展でもかすった程度かも知れません。ただ、少なくとも製品を持ち込み現地で多くの世界水準プレイヤーと直接交渉して得られた体験は小さい物では有りません。行動して、試して、体験したことを取り入れて、製品を改善改良して再度持ち込む。このサイクルをいかに独自価値を元に臨機応変にやり抜けるか?これは本当に個々のスタートアップ次第です。物見遊山に終わるか?本格的な世界進出に繋がるか?

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