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SXSW2012オースティン戦記: Compath.meの闘いとTech Cocktailの熱過ぎる夜

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編集部注:この寄稿記事は頓智ドットの井口尊仁氏(@iguchiJP)によるSXSWレポートの第二弾である(第一弾はこちら)。

SXSWではコンベンションセンターでのトレードショーやヒルトンで開催される様々なパネルやキーノートだけでなく夜通しカフェやバー、クラブなどでもテック系イベントが数え切れないほど開催されている。そしてそのなかには有力企業の主催イベントもあれば名も無いスタートアップの自社イベントもある。

僕は今回Tech Cocktailと言う、かなりの影響力を持ったテック系イベントに参加して来た。ピッチトークとブース出展が組み合わせられていて、お互い楽しくビールを飲みながら新しい製品を深く語り合えると言う実に素晴らしいイベントだ。この体験は本当に印象的だった。SXSW2012最大の収穫とも言える出会いがあったと感じた。特に世界から選りすぐりの製品が選ばれていたことと会場の雰囲気が最高だったと思う。

中でも気になったのはロケーションベースのグローバル地域通貨と言えるKULA、ティーンエイジャー向けのZaarlyとも言えるRock Your Block、ロケーションベースのソーシャルレコメンデーションサービスGauss、ビジネス向けパーソナルCRM Five Degrees等。それぞれサービスの特徴付けやセールスポイントがしっかりしているのと、製品デザインも非常にセクシーに仕上がっていたのが強く記憶に残っている。すでに著名製品のSpringPadのファウンダーが直接プレゼンするのを聴きながら対話できる機会にも巡り会えた。

日本からはCompath.meが選ばれており、世界中から選抜された強豪達と互角の闘いを繰り広げていた。今回は直接詳しい話を聴くことのできたRock Your Block(ミネアポリス)とドイツのGauss、そして日本のCompath.meを取り上げようと思う。

Rock Your Block

ミネアポリスに拠点を置くスタートアップ「Rock Your Block」は、13歳から17歳のティーンが近所で仕事を見つけ、パートタイムの仕事を始めるのをロケーションベースのモバイルアプリで支援する。彼らのコミュニティー内でのインターンシップ機会を提供するためソーシャルメディアを活用した手法によって今までの“近所の店でチラシをポスティングする”などの旧来手法を書き換える様子をぜひ想像して欲しい。自分もこういうサービスが大学在学時にあったらなあ!と思ってしまうのだが、位置情報系ソーシャルとしての新味だけでなく様々なアイデアが刺激される製品だと言える。

もちろん、TaskRabbitSnagAJobZaarlySitterCityなど、この分野にはライバルがたくさんいることは知られているだろう。ただ、”Rock Your Block”はティーンのジョブマッチに特化している。ユーザーは仮想履歴書を作成し、ネットワーク内でジョブリストを参照し、ジョブマッチの機会に恵まれるように支援を受けられる。確かにセグメンテーションによって、より細やかで効果的なジョブマッチを行うのは特に位置情報系スタートアップにとって有効な戦略だろう。

「ティーン失業率はいま、北米では空前の高さだ。次の世代を担う彼らのために雇用機会を創出するほか、ハードワークとレスポンシビリティ(激しく働き責任を果たす!)の価値を学ぶことをぜひとも助けたい」と言うのが、彼らの主張だ。

利用者のジョブが完了し、その成果が認定され、雇用主からの推薦が行われる。そして特定のタスク活動を完了し経験を積むことによってステータスが上がって”レベルアップ”を得ることができるゲーミフィケーションを積極的に導入しているのも彼らの製品の特徴だ。

現在は2つの都市でしか利用できないが、普及フェーズに入るまでは計画的に着実な成長を計画していると述べる。ブロック毎のティーンエイジャーの貢献による恩恵を受けるだろうメンバー基盤を持った学校、コミュニティ組織などとの連携を大事にするため、継続的で着実な成長をイメージしているようだ。10代の学生の意欲を巧く引き出す今風アプローチと、ワンブロック範囲でも起業家魂が有効なんじゃないか?という実にクールなアイデアには強く惹かれるし、きっと多くの共感を呼び起こすだろう。

また、ミネアポリスは、ハイテクハブとしては全く知られていないのだが、実はかの地には継続的に新興企業を刺激する地元の創業者達の緊密なコミュニティーがあり、常に地元のスタートアップコミュニティーを活性化し、シード企業の活気に満ちたムーブメントがあるのだと彼らは語っている。なるほど、そこは僕らのアンテナになかなか引っ掛からないエリアには違いない。ただ、その一方でTech Cocktailという世界水準のイベントに招かれている以上、彼らの実力は折り紙付きだ。しかも、ロケーション系ソーシャルのビジネスモデルとしては非常にユニークな視点と実装を提供しているのも事実。彼らのRock Your Blockがワンブロック(町内レベルの範囲)をロック(震撼)させられれば起業家魂はもっと普遍化するだろう。

Gauss

近距離で共通の友人関係やインタレストに応じてオンラインとオフラインとのソーシャルな相互作用を橋渡しするのがGauss。ドイツ、ケルンに本拠を置くGaussは、実際の生活とオンラインとの間に横たわる巨大なフラストレーションからインスピレーションを得た。“ポケットに入った人々のマグネット”を標榜している。

「私はローカルなソーシャルネットで充溢した外国で突然失業者になった。私はストレンジャーだったので新しい地域社会でのネットワーキングの育成機会を持てなかった」Gaussの共同創立者ヴィダル·アンダーセンは語ってくれた。

「私は他の人が実際の生活の中でソーシャルに接続するため多くの時間を消費する必要がないようGaussを始めた。われわれはネットワーク経済に住んでいると信じているし、お互いがお互いを知り合う事に多くのコストを掛けるべきではないと言う信念で働いている」。

Gaussはまだ外部資金を調達していないが、この夏にシードorエンジェルラウンドを獲得するために目の前の遠大な技術課題にチャレンジしている。その熱さは語り合った数十分の間にもしっかり伝わった。

ユーザーはFacebookやTwitterあるいはFoursquareのアカウントと同期することで即座にあなたの近接した人々のリストが入手できる。彼らは現実空間型サービスの抱える多くの課題に果敢にチャレンジしている。「Gaussはユーザーのパラドックスが無いだろう、あなたが世界で唯一のGaussユーザーである場合でも、あなたの周りの新しい関係者を発見することができるようにデザインされている」と言うのが彼らの主張だ。

つまり、それだけ多くのチェックイン情報がすでに都市では存在しているということだと思う。そして、今回のSXSWでHighlightやGlanceeが注目されたのも、それだけ位置情報×インタレストを成り立たせるのに充分なソーシャルインフラが構築済みである事と無関係ではないだろう。

ただ、Gaussだけがわれわれの社会的な橋渡し役になろうとしている訳ではない。オンラインとオフラインの統合を狙うプレイヤーはすでに多くが名乗りを挙げている。Highlight、Glancee、Sonar、Banjoなどはこの領域を狙っているし今後もますます熾烈なエリアになるだろう。FoursquareやFacebook、Twitterなども例外ではあり得ないし、アップルやグーグルが虎視眈々と狙い続けている事も忘れてはならない。

では、Gaussの傑出した部分はどこなのだろうか? アンダーセンは、いくつかのソーシャルネットワークをGauss統合すると同時に、「インタレストとソーシャルを融合した、より有効なレコメンデーションを行う技術開発をわれわれは実現する」と言い切った。

そして、ここまで意欲的でユニークなスタートアップがなぜケルンで生まれたのか訊いてみると、非常に興味深い答えが返って来た。「ケルンはトーキョーと同じ様にテクノロジーベンチャーが多く輩出されているし、その競争と協力も日々盛んだ。僕はフレネミー(フレンド&エネミー=敵で有り味方でもある存在)と呼んでいるのだけど、毎日エキサイティングなんだ。」なるほど、確かにその通りだ。トーキョーもその技術やマーケティングで世界基準に満たないとは考え難い。単に世界規模のビジネス展開を仕掛けるプレイヤーがまだ少ないだけだ。

最後に今のチームの状況を訊かせてもらおう。

「Gaussでは、今フルタイムが4人いてその内2人がエンジニアだ。テクノロジーには自信が有る。」

では、次に、今回唯一日本からTech Cocktailに参画したコンパスミーの安藤氏に話を訊いてみよう。

Compath.me

――このハードなピッチ&ブース出展のプログラムに敢えて挑戦したのは、どういうキッカケだろう?

「Tech Cocktailを知ったのは、SXSWアジア事務局さん経由。2010年にはFoodspotting、2011はTangoを生み出した著名イベントだと知った。ピッチ資料やアワード履歴などを細かく提出するし、メールでのセッションも複数回待った。そしてターゲットユーザーに製品をどう届けるのか? どうマネタイズするのか? ファイナンスは? など詳しく訊かれる。他に、どういうパートナーがキャッシュを入れているのか? ファイナンスのステージは? なども訊かれるので相応の回答を求められる。アワードは、大きくはアーリーとグロースとに分かれており、エンジェルラウンドはアーリーに入るので、同じスタートアップでも参加プレイヤーのレンジは広いと言えるかも知れない」

――今回の挑戦プロセスを振返ってどう評価する?

「ジャッジメントが30人順々に来てインタビューされる。彼らに代わる代わる詳しく訊かれるのだが、マネタイズと集客の為のアトラクションなどが課題と感じた。ジャッジの半分が女性なのが特徴的だった。起業家の先輩に色々訊かれる感じ。それが終わったら、パブリックセッションに移行する。

ジャッジメントの段階で先ずはTech Cocktailのアワードが決まる。そして2つのステージ毎にそれぞれアワードが出るし、他にも幾つかアワードが設定されている。でも、33社のうちで29社は北米選出で非常にハードルは高い。特に北米でもすでに著名キャピタルからインベストされているようなスタートアップが多数参画しているので物凄くレベルが高かった。われわれとは知名度が全く違うし、今後、日本から参画する際にはそういうギャップが存在する事を意識するべきだろう。ただ、そのハンディを越えて闘うことで得られた成果は物凄く沢山あったし、今後の製品に必ず活きると考えている」

――日本のスタートアップへのアドバイスは?

「ジャッジにはいきなりAOL創業者のスティーブ・ケースが飛び入り参加していたりして、非常に手強いのがTech Cocktail。課題としてはイベントまでの知名度向上の困難さがあった。事前に、2、3カ月はリードタイムを設けてローンチするべき。ユーザー認知とコア体験サイクルが廻っている状態でTech Cocktailには臨むべきだ。もし、それができていれば、提供サービスによってはトレードショーよりも効果的なのでは無いかと思った。逆にTeck Cocktail単体で何とかしようと思うのは難しいだろう」

――では、並みいる競合を相手に勝ち抜く為のCompath.meのチャレンジを訊かせて欲しい。

「Foursquareの次を狙うというとき、インタレストグラフの視点がどの程度突き刺さるのか? そして、その体験性がどの程度までユーザーに広がるのか? そこをわれわれは考えたいと思っている。

Compath.meはYelpとかFoursquareじゃなくてTwitterが凄く近く、要は気になるお店はなかなか覚えられないし、じゃあ、それで本当に出かける価値はあるのか? という時にCompath.meが出て来る。まずは自分のお気に入りの場所を残して、それをフォローワーが共有できるという体験性が最初に有ると考えている。それが満たされる状況になって、今後充実する予定のディスカバー機能がようやく活きると目論んでいる」

――なるほど、では、改めて今回のSXSW進出とその後の展開を聴かせて欲しい。

「現在のCompath.meはTwitterと良く似た体験性だ。ただ、TwitterやFacebookは話のネタにはなるが行動を喚起する部分は弱い。一方Foursquareはライフログだ。SXSWでわれわれの方向性は凄くニーズがあることを現地でしっかり確認できた。現実の体験が楽しくなるのを早期に実現しないといけないと思っている。そのための準備としては、先ずアプリがダウンロードされている必要があるし、その上でコアの体験サイクルが廻る為のコンテンツを提供すべきだと考えている。2012年のCompath.meを楽しみにして欲しい」

この情熱溢れるマインドと冷静な計算とのバランスこそがCompath.meの魅力だろう。そして、これからも海外の有力イベントで彼らと遭遇する機会はますます増えるだろう。ロケーション系ソーシャルの市場競争は激しいが、彼らのスピリットと行動力、そして開発力は世界レベルで勝ち抜くための基準を充分にクリアーしていると感じさせてくれた。