ユーザー獲得をハックする

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編集部注:この原稿は高橋雄介氏による寄稿である。高橋氏はデータサイエンティストとして大学で研究教育に従事した後、Individual Companyを創業している。現在は彼はシリコンバレーおよび東京を行き来して米国でのビジネスの立ち上げの準備をする傍ら、米国滞在で得た生の情報を執筆してくれている。オープンネットワークラボのベンチャーパートナーも務めている。

Growth HackerやVP of Growthという職種をご存知だろうか? 日本語で表現するならユーザー獲得担当のエンジニアや副社長といったポジションになる。最近、FacebookやTwitter、Quora、Voxerといったシリコンバレーの成長企業が、マーケティングでもビジネス開発でもない“Growth(成長)”専属のチームを設置している。

Growthチームの役割は、Quoraのユーザー獲得チームを率いるAndy Johns氏(写真上)によれば、「(ファイナンスチームが現金の収入と支出を測定するのと同じように)製品を使ってくれるユーザーの流入と流出について測定し最適化をする」ことだという。AndyはOpen Network Labのイベント登壇のためにこの7月に来日し、FacebookやTwitterのGrowthチームに従事した経験について語った。Andyによれば「ハッカー中心のGrowthチームというのはまだ新しい概念だけれど、10年以内には50パーセントくらいの会社が採用することになるんじゃないかな」と続けた。

Growthチームの重要性

シリコンバレーではその文化の中に浸透しつつあるGrowthチームだが、まだ日本では馴染みが薄い。“エンジニア経験があり、UIのデザインやUXにも明るく、技術力を駆使してマーケティングをハックするユーザー獲得担当副社長”といったポジションの人に、僕自身、出会ったことが日本ではまだほとんどない。

けれど、実際の店舗等のみならず、モバイルのアプリやウェブサイトを中心にビジネスを展開することが多くなっている今日、従来の意味での全社的なマーケティング戦略やビジネス開発だけではカバーしきれないようなスキルや知識、ノウハウ、経験と言ったものが要求されるようになってきているため、ユーザー獲得担当者の役割はますます大きくなっていくものと思われる。

実際に、シリコンバレーで有料のマーケティングの替わりにユーザー獲得に注力して成功している企業は、ユーザー獲得の重要性を次のように表現する。

ヴァイラルなユーザー獲得で有名な、リアルタイム音声メッセージングアプリのVoxerのGrowth担当VPであるGustaf Alstromer氏は次のように語ってくれた。

生得的に製品自体をヴァイラルに作り上げることが重要だよ。Draw Something、Skype、そしてVoxerが好例だよ。Gwowthというものは、“理論上良いもの”と“実際に成長しているもの”の違いにあるんだ。

製品自体の価値がユーザーを増やしてくれるような製品を開発をする際には、Growthだけにフォーカスした機能横断的なGrowthチームを社内に持つことが非常に重要だ。Voxerでは伝統的なマーケティングやPR活動を一切していなくて、Voxerの新規ユーザーはすべて、技術的な成長戦略による純粋な口コミのみから来ている。Voxerでは最初に多大な時間を割いてすべてのユーザーフローについて方法を用意した上で、(ユーザー獲得)ファンネルのトップで異なる方法を試してた。Voxerに関して最終的にもっとも機能していたのは、口コミと招待だったよ。

チームに関しては、Voxerにはマーケティング系の人材はひとりもいなくて、僕が唯一エンジニアではないメンバーとしてGrowthに取り組んでいる。User Growthに関して僕らが実施することのほとんどがソフトウェアによって行うものなので、このようなチーム構成が意味をなすんだ。

Justin.tvやEXEC.の創業者でシリアルアントレプレナーとして有名なJustin Kan氏(Y CombinatorのVenture Partnerであるとともに、3度のクラスを卒業しており、3度目はAnyPerkと同級生としてEXEC.を創業)も「製品を作ってからマーケティングや広告をするのではなくて、そもそも製品そのものが成長しやすいように作り込むことが大事」と語ってくれた。実際に、EXEC.もSocialCam(Justin.tvからのスピンアウト)も、Voxer同様、よく設計されている。

良い製品を作るだけではなく、その製品自体に成長する仕組みを入れておくこと、さらに、製品を作った上で実際に成長していくために必要なことを、技術的なハックを通じて着実に実践していくところにGrowth担当者の役割があり、その重要性があるということだ。

どのように始めるか?

ではどのようにして始めたら良いのだろうか。

この「Growthチーム」が考えていることはほんのいくつかのことで、そのために技術とアイディアを総動員して取り組んでいる。Growthは、具体的に、以下の4つの基本的な質問に分解できる。

  1. 新規サインアップ数をどれだけ増やせるか?
  2. 新しくサインアップしたユーザーを一定日数以内にどれだけ素早くアクティブにできるか? 非アクティブユーザーになる比率をどれだけ下げられるか ?
  3. エンゲージメントやリテンションを高めるためのレバーは何で、どうやったらそのレバーを引けるのか?
  4. 非アクティブユーザーをアクティブに復活させられるか?

例えば、上記の1番にあたる「ユーザー獲得」については、次のようなことにフォーカスして技術的な施策をし続けることになる。Andyによれば、「セクシーな作業ではないけれど、大事だよ」とのこと。そして、Growthチームの仕事で大事なことは、以下のようなことを予算をかけたマーケティングプランとして実施するのではなく、製品開発や精錬のプロセスにおいて無料で実施するということだ。

  • 招待の送信
  • アドレス帳のインポート
  • 招待メールの開封/クリック率
  • 招待後のコンバージョン率
  • ログイン前ページのデザインとそれによるユーザーのサインアップ誘導施策
  • サインアップフォームの各ステップ
  • サインアップ後のアカウント認証
  • そのほか

実際にGrowthという言葉や役割が何をさすのかはまだ初期段階であり、必ずしもまだ明確ではないけれど、「ユーザー獲得に重要なことは1にも2にも3にも個々の戦術」だという。

Andyが来日時のセッションの中で紹介していたユーザー獲得のための戦術の中から、興味深い(そしてとてもクリエイティブな!)事例をいくつか紹介しようと思う。これらは、どれもクリエイティブであり、まさにユーザー獲得をHack(=高い技術力を駆使してシステムを操って創造的に課題解決)している。

Hack1:トップページはドア、だから開けてユーザーを入りやすくして待つ

まず、AndyがTwitterでユーザー獲得に取り組んでいたときの話だ。ここ3年間でのTwitter’s logged out homepage(Twitterをサインインしていない状態で開いたトップページ)の変化をお気づきだろうか。

3年前まではコンサルティング会社のアドバイスに従って、サインアップボタン、サインインボタン、検索フォーム、トップツイート、ビデオなどのさまざまな情報を掲載していた。サインアップしてくれるかもしれないユーザーを逃さないために、このように大量の情報を掲載することは一般的だ。しかし、当時、コンバージョン率(サインアップのボタンをクリックしてくれる率)は15パーセントしかなかった。そこで、さまざまなテストを繰り返す中で、沢山の情報を掲載して本来の目的の邪魔をせずに、真っ先ににTwitterを使ってもらえるような変更を加えた。

上のスクリーンショットはTwitterの3年前のログイン画面、下のスクリーンショットは1年半前までのログイン画面。情報が整理されているのがよくわかる。

1年半前にはよりシンプルな形に変更した結果、10パーセントほどコンバージョン率が上がった。Less is moreという考え方が重要であり、最終的にクリックしても何も起きない大きなイメージ画像と、サインイン、サインアップをするためだけのページに変更をした結果さらに6パーセントコンバージョン率を改善できた。

現在のTwitterのログイン画面。シンプルになっている。

ユーザー獲得という仕事を果たすのみならず、ここでの教訓は、自分の家や店に入ってきてもらいたいときに、「なぜそのドアを開けるべきなのかについて沢山書いておくよりも、ドアを明けておいて入りやすいようにしておくことが大事」なのだ。

Hack2:読み込み速度を短縮する

Facebookでは、ウェブサイトの表示速度に気をつけようにしていた。Googleもロード速度には取り組んでいるし、Amazonでは、100ミリ秒ロードが遅いと、毎日100万ドルの売上を失っていると言われている。MySpaceとの競争の中でその明暗を分けたのがページのロード速度の可能性は高い。MySpaceではプロフィールのページをカスタマイズをして沢山の情報を掲載できることもあってロードタイムが遅いが、彼らはそれを検証しなかった。Facebookでは、ページのロードタイムが0.5秒遅れるとコンバージョン率が10パーセント下がることが分かったので、改善を重ねてきている。

Hack3:Facebookの友達の顔写真はサインアップには有効

Quoraではソーシャルな関係性もとても重要で、サインアップボタンの横に、すでにアプリを使っていたり、Facebook上でLikeをしている友人の顔を表示させることで(Facepileを使う)、サインアップをしてもらえる率が20パーセント向上した。

Hack4:クレージーなアイデアも試してみる――人名検索連動型広告のハック

中にはクレージーなアイデアを試すこともあるという。その中の1つがこのFacebookで試した人名検索のアイデアだという。知り合いや友達の名前をGoogleなどの検索エンジンで検索することはよくあると思う。そこで検索広告でその名前をキーワードとして買ってFacebookに誘導するキャンペーンを実施した。具体的には、実験地域としてロシアを選び(ロシアだったらこういうアイデアはクレームがこなさそうだったからだということだが)、検索キーワードとしてロシア人の名前を購入して、「Yuri Milnerさんを探していますか? Facebook上で探そう!」というような広告を表示させた。そこからFacebookにサインアップしてもらい、その名前のユーザーを検索してもらう導線を作った。このためにかかった費用は、ほんのわずかで、ロシア人の実名の名前を1000万人分持っているという人物から購入したリストの3000ドルと、まだ価格が安かったことのろGoogleアドワーズの費用だけだった。


(人名検索連動型広告ハックによるGrowthハックのイメージ)

最後に、ユーザー獲得チームを運営するときには、その成果が資金調達などにも関わるし、会社がどう成長するのかということに関わるため、周囲の期待も大きいし大変なプレッシャーもかかる。だから、沢山のクレイジーな戦術を試していけるような社内のカルチャー、優先度付け、人材獲得も戦略や戦術を上手く達成していくために重要とのことだ。

Growthについては、今後も関連した話題や事例を紹介していく予定なので、これに関しての意見やフィードバックあるいは読者の方がご存知の事例などがあったらこの記事のコメント欄かtwitter(@aerodynamics)でいただきたい。

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