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民間による月面探査を実現するために:日本から唯一参加するチームがただいま資金を調達中

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宇宙開発はいま大きな転換期を迎えているんです――ホワイトレーベルスペース・ジャパンの代表執行役員CEOを努める袴田武史はそう切り出した。ホワイトレーベルスペース・ジャパンは2015年までに月面に探査用のローバーを送り込もうとしている日欧混成のチームだ。実は彼らは、GoogleがスポンサーとなってX Prize財団が開催するコンテスト、Google Lunar X Prizeに参加するために合同会社として作られたチームである。

Google Lunar X Prizeでは、2015年までに月面上で探査用のローバーを500メートル以上走行させて、地球に映像などのデータを送信することに最初に成功したチームに2,000万ドル(およそ16億5,000万円)の賞金が支払われることになっている。ほかにも賞金がもらえるチャレンジ項目があるが、賞金の総額は優勝賞金も合わせて3,000万ドル(およそ25億円)である。

TechCrunchをはじめとしたテック系メディアもこの手の話題についてはずっととりあげてきているが、個人的にはIT業界のビジネスにどっぷり身を置いていて、最近の宇宙開発にはあまり明るくはなかったのだが、実はIT業界と宇宙開発とは関係性が薄いわけではない。

たとえば、よく知られていることだが、PayPalやTesla Motorsの共同創業者でもあるElon Muskは宇宙ロケット開発のSpaceXを創業している。SpaceXは近頃、民間企業として初めて、国際宇宙ステーションに補給物資を輸送するための宇宙船Dragonの打ち上げに成功している。

また、AmazonのJeff Bezosも低コストに宇宙に飛び立つための技術開発を行うBlue Originを設立していてるし、GoogleのEric SchmidtとLarry Pageは小惑星探査のPlanetary Resourcesに出資している。毛色は違うが起業家でいえば、Virginグループ会長のRichard Bransonは宇宙観光のためのVirgin Galacticを設立している

このようにIT長者や起業家たちはこの何年もの間、宇宙に対して真剣に取り組み始めているのだ。

この背景には、彼らがアポロ計画やスペースシャトル計画、あるいはスターウォーズやスター・トレックのような事象や文化に小さいころに触れている、いわゆるスターウォーズ世代だからというだけでは、壮大な事業を成し遂げようとしている理由にはならない。

過去冷戦下に巨額の資金を投じてきた宇宙開発に対して、米国政府は最近では予算を縮小して、必要な手段などを他国や民間に委託しようとしている動きがそこにはあるのだと袴田はいう。これが冒頭の転換期を迎えている理由で、NASAのような国家機関は火星探査など高度な技術や新たな調査を必要するプロジェクトに予算を振り向け、月などの近隣の宇宙には外部の力を使おうとしている背景がある。

民間企業が参入することで宇宙開発も1つの事業として成長する可能性がある。それを後押しするのがGoogle Lunar X Prizeのようなコンテストなのだと袴田は教えてくれた。かつて、リンドバーグがスピリット・オブ・セントルイス号によってニューヨーク=パリ間の無着陸飛行に成功したのも、オルティーグ賞というホテル王による賞金コンテストにチャレンジした結果だった。この偉業が手伝って航空産業はその後、飛躍的に発展していくのはよく知られたことだ。

宇宙開発にかかわるコンテストで言えば、Google Lunar X Prize以前の2004年にAnsari X Prizeという有人の宇宙飛行コンテストが開催されている。1,000万ドルを賭けた「地球の100km上空の宇宙を同一機体を使って有人で2週間のうちに2回飛行する」という課題を達成したのは、Scaled Compositesが開発したSpaceShipOneである。SpaceShipOneはマイクロソフトの共同創業者であったPaul Allenの資金を受けていることでも話題になったが、このコンテストが民間の手による宇宙への扉を大きく開き、Virgin GalacticがSpaceShipOneの技術供与を受けてSpaceShipTwoの開発に着手するといったことが起きている。

前置きが長くなってしまったが、Google Lunar X Prizeも2015年に向けていろいろと動きが始まっていて現在このコンテストには24チームが参加しているが、日本から参加した唯一のチームがホワイトレーベルスペース・ジャパンである。

彼らが開発するのは月面を動きまわる無人探査ローバーで、月面に到達するために必要な打ち上げのためのロケットや月面着陸に必要な着陸船のランダーなどは外部から調達する。これだけでもトータルで少なく見積もって11億円という規模のコストがかかる。そもそもは55億円の予算をかけて、四輪で駆動するローバーを打ち上げることを検討していたが、現在はよりコンパクトな2輪駆動のタイプのローバーに計画を変更しようとしているのだそうだ。

そもそも袴田は名古屋大学とジョージア工科大学で航空宇宙工学を学んだ宇宙の専門家である。しかし、国家主導で行われる失敗が許されないが故の歩みの遅い現在の宇宙開発の道を選ばずに、コンサルティング会社に就職する。なぜなら、将来実現したかった宇宙開発のためのマネージメント力をそこで身につけたかったからだという。そして満を持して、ホワイトレーベルスペース・ジャパンのプロジェクトのリーダーとして現在にいたっている。

ローバーの開発は実際には東北大学大学院工学研究科の吉田和哉教授を中心として進められている。吉田教授は航空宇宙工学専攻のこの分野の専門家だ。ほかにもホワイトレーベルスペース・ジャパンには各分野のさまざまな専門家が集まってプロジェクトを実現しようとしている。

袴田の話を聞いていて改めて感じたのは宇宙がすでに身近なものになっているということだ。たしかに、何年も時間をかけて、何十億もの予算を費やしてやっと小さなローバーを月に送り込むのが精一杯だといえばそうなのだが、国家でなくても、こういった若い世代が取り組める実現可能な領域へと宇宙への道は開かれているということだ。この積み重ねが袴田が言うように宇宙産業として発展していくのかもしれない。

宇宙開発は資金調達レースだと言い切る袴田率いるホワイトレーベルスペース・ジャパンは現在、Google Lunar X Prizeに勝利すべくクラウドファンディングのCampfireにとどまらず、その協賛を大きく募っている。日本のIT長者たちも、シリコンバレーよろしく、このプロジェクトに資金提供をすると、その名が後世に残る……かどうかはわからないが、袴田らはどうやらそれを期待しているようだ。
(敬称略)