braintree
battlehack

日本は評価が甘め? Braintreeのグローバルなハッカソンで審査員をやって感じた厳しさ

次の記事

SaaSアプリケーションのオンプレミスバージョンを簡単に提供できるコンテナツールReplicated

PayPalの子会社であるBraintreeが世界規模のハッカソン「BattleHack 2015」の東京予選を6月14日、15日に開催した。ぼくは審査員を務めさせていただいたのだけど、その審査過程で軽いカルチャーショックを受けた。評価が厳しく、歯に衣着せぬ感じ。ダメなものは本当にダメとしか言わないのだ。これは今までぼくが参加した国内のハッカソンとだいぶ違う。Braintreeのハッカソンそのものの紹介と合わせて、そのことを少し書いてみたい。ちなみにぼくはTechCrunch Japan編集長という肩書きと、ときどきコードを書くテック系ジャーナリストということで、いろんなハッカソンに審査員として呼ばれることが多い。

battlehack04

battlehack02

世界14都市、優勝賞金1230万円のグローバルなハッカソン

BattleHackがどういうハッカソンか紹介しよう。BattleHackは世界14都市で週末の2日間(実際の作業は24時間)を使って予選的なハッカソンを行い、各地で優勝したチームがシリコンバレーに集まって決戦を行い、優勝チームに10万ドル(約1230万円)が贈呈されるという大がかりなイベントだ。決勝戦にはeBayのCEOが参加したり、PayPalからメンターがついたりするなど、かなり手厚い待遇だ。

ここ数年、ぼくの周囲ではPayPal決済のAPIのつなぎ込みで泣いている開発者をたくさん見かけるようになった。ドキュメントが分厚い、そもそも上手く動かない、意味が分からないという声を良く聞くのだ。反対に、Stripeのような新しいモバイル決済サービスのAPIの使いやすさの話を聞くようになっている。使いやすいAPIという面で遅れを取っていたPayPalが、2013年9月に8億ドルのキャッシュという巨額で買収したシカゴのスタートアップ企業がBraintreeだ。Braintreeは決済ゲートウェイで、PayPalだけでなく、Apple PayやAndroid Pay、Bitcoinも使える。現在、AirbnbやGitHub、OpenTable、Uber、TaskRabbitなどがBraintreeを使っている

BattleHackというハッカソンはBraintreeのマーケティングの一貫だ。Uberの採用事例のように国際展開でモバイル決済を必要とするニーズには適しているということを、スタートアップ企業で決済を実装することになるハッカーたちに触って理解してもらいたいということだ。国境を超えるたびに決済回りの実装を継ぎ接ぎするよりも、1つのゲートウェイで済むならそれがいいでしょうというのがBraintreeが提供する価値だそうだ。

優勝は余分な部分を自動カットする動画編集アプリ「talk’n’pick」

Battle Hack Tokyo 2015で優勝したのは「talk’n’pick」という動画編集アプリ。動画を撮影すると、動画ファイル全体で音声レベルを解析し、声がある部分(会話しているところ)だけを残して残りをカットしてくれる自動動画編集アプリだ。AWSのクラウド上でキューを使って動画の解析と編集をやるなど、24時間で作ったと思えないクオリティだし、デモを見ても、すでにかなり実用的にみえた。無駄な無音部分を削除するというのは一部のYouTuberがすでに実践してるテクニックに近いし、市場ニーズもあるのではないかと思う。

聞けば、このプロダクトを作ったチームメンバーの4人のうち2人は、すでにスタートアップをやっていてプロダクトを準備中。IPAの未踏プロジェクト出身者でもある。1人はニュース記事から自動で動画を生成するというプロジェクトに取り組んでいたこともあるというから、「プロの仕業」という感じでもあった。イベント後のインタビューでは、今回作成したプロダクトは実際にリリースまで持って行きたいと話していた。

battlehack01

BattleHack Tokyoで2位に選ばれたのは「SNSHOT」というイベント向けのオンサイトプリンタだ。結婚式やパーティー、イベントなどに設置するのを想定したもので、プロトタイプとしては厚紙で作ったケースにiPadを入れただけのものだったが、会場で撮影した写真にロゴやスタンプを入れた上で、その場でプリントアウトしてくれる。写真はTwitterやInstagramで共有したものでよくて、EstimoteによるiBeaconを使ってユーザーは自分の写真を受け取れる仕組み。こちらのチームも、実は創業準備中のスタートアップ予備軍だった。

3位に選ばれたのは、「Cheers」。Chrome拡張として実装されていて、GitHub上のプロジェクトに「寄付ボタン」を設置することができる。バグ修正や機能実装のリクエストごとに寄付することができ、早く直してほしいバグがあるなどした場合に、それを望む人がパッチのコミッターに対して対価を支払うことができる。これまでであれば善意とか遠回りなインセンティブで結びついていた利用者と開発の間で、対価を直接流すことでオープンソースのエコシステムが変わる可能性がある。報酬が逆説的に内発的動機付けを低下させる「アンダーマイニング効果」は心理学では古くから知られていて、こうした明示的な報酬との結び付けがエコシステムにマイナスの影響を及ぼすことはないのか? というのは気になるけれど、とても興味深い提案だと思う。ちなみに、ぼくは15年ほど前にフリーソフトウェア活動家でFree Software Foundation代表のリチャード・M・ストールマンにインタビューしたことがあるのだけど、その時に彼が口にしていたのは、まさにこの開発モデルだった。

日本はアイデアに対する評価が甘め?

ハッカソンの審査員には、ぼくのほかに、Braintreeシニアディレクターでハッカーのジョン・ルン氏、BEENOSの投資家 前田ヒロ氏、Asakusa.rb創設者でRuby on Railsコミッターの松田明氏の3人がいた。

審査は各チーム10点満点で、アイデアの新規性、市場性、実装レベルで評価した。それで驚いたのは、ぼくと松田氏という日本育ちが付ける点数が中央の5点に寄りがちだったのに対して、ジョンと前田氏の評価は1点が少なくなかったということだ。「狙いが全く分からなかった」「動いてなかったよね」「誰が使うのか理解不能」「そもそも仮定が成立してない」「ほぼ同じものが2年前からあるのに調査不足すぎる」というような評価だ。

ちなみに前田氏は日本育ちだがインターナショナルスクールで英語で教育を受けているので、英語のほうが日本語よりも得意という投資家だ。投資先も最近は完全にグローバルになっている。

ぼくの評価は最低でも3点、多くは5点から7点の間としていた。いちばん良いのが8点だった。5点というのは「すでに確立したジャンルで何も新味はないけど、いちおう何かが動いていた」「新規性はないが日本では市場はあるかも」とか、そういうものも含まれる。

ぼくは審査員としての自分のガラパゴスっぷりを痛感してしまった。つまり、日本市場で日本のハッカーたちが作っているという前提でプロダクトを「甘く」見ていて、日本市場で可能性があるかどうかを考えていたのだ。

すでに海外に類似スタートアップやプロダクトがあっても、日本ではこれからという市場もある。だから、ぼくとジョンで評価が大きく違ってくることがあった。でも、Braintreeのハッカソンは14都市から勝ち残ったチームがシリコンバレーで決戦に臨むので、日本市場なんて関係がない。日本市場でしか通用しないプロダクトを作る、そういう目線のチームを日本から代表としても良いのかと言えば答えはノーなのだった。

これは、ふだん日本の起業家と会っていても同じことを感じている。「これって、アメリカのxとyに似てますね」とか「abc市場だとグローバルにはxとyがありますよね」という話をすると、キョトンとする起業家が少なくない。別に海外のスタートアップやプロダクトに超詳しくなくても良いとは思うが、自分が作っているプロダクトの競合や、技術・市場動向を知らないというのではガラパゴスそのものだ。

アイデアの新規性に対する要求が日本では低いのではないか? 日本という個別市場に依存しない普遍的なアイデアで勝負することを、ハナから諦めているところがあるのではないか?

確かに新しいことが価値とは限らない。まだ日本市場になければコピーキャットと言われようが、やる価値はある。そもそも、すでに海外のどこかで証明されたビジネスモデルやプロダクトで、まだそれに相当するものが日本に存在しないのであれば、それを提供することも大事だ。成功する起業家が増えることが重要なのだとしたら、やれ「1000億円企業を作れ」だとか、「ゴー・グローバルだ!」と言い過ぎるのもいかがなものか、むしろやるべきことは起業のハードルを下げて小さな成功事例をたくさん増やすことではないかとの意見も良く耳にする。ぼくも同感だ。ただ、そのことで必死に新しい何かを考えるという基礎体力やメンタリティーが削がれているという面がないだろうか。ハッカソンで多くのチームやプロダクトを見てきて、そんなことを考えている。

TechCrunch Disrupt San Franciscoのハッカソンも過去2回ほど現場で見ていて、ハッカソンにバカげたアイデアや意味不明のプロジェクトが入るのは普通のことだとは思っている。お祭りだから、それもいい。ただ、それに対して10点満点中1点だとハッキリと言うことは、審査の公平性という意味でも、もともと市場は厳しいものなのだからスタート地点だって本音で「これって誰か使う人いるの?」「これ、もうあるよね」と言うのは大切なことなのじゃないだろうか。と、審査員としての我が身のガラパゴス感を反省したのだった。内向きに褒め合うぬるい文化では、結局大きく勝てるチームもスタートアップも出てこないだろうと思う。もう1つ言うと、プロダクトの評価と、それを作った人の評価を切り分けて考えるということをしたほうがいいのじゃないかということも思ったりしている。