職人が適切な所得を得られるように——縫製マッチングプラットフォーム「nutte」の挑戦

次の記事

ハンガリー生まれのキャタピラー車Codieは子どもがプログラミングして動かすロボット、iOSやAndroidから操作

nutte03

「10年縫製をやっていたが貧乏で嫁にも逃げられて…でも何かこのビジネスを変えるいい方法がないかと考えていた」——招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2015 Fall Kyoto」のプレゼンバトル「LaunchPad」で第2位となった縫製特化のクラウドソーシングサービス「nutte」。サービスを提供するステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏との会話は、こんな話から始まった。

縫製職人の厳しい環境

大学生の頃からファッションブランドを立ち上げることを目標にしていた伊藤氏。大学卒業後にまず広告デザインの会社で働き、資金を貯めて縫製の専門学校に入学。専門学校の卒業後に晴れて縫製職人となるが、同氏を待っていたのは厳しいビジネス環境だった。

伊藤氏に聞いたところだと、一般的に縫製職人は個人が自宅で、もしくは少人数が小さなアトリエで作業するのだという。そして取引先から発注される仕事を受けることで生計を立てている。だが職人側から積極的に取引先たるメーカーなどに直接取引の提案を行うことはあまりないのだそう。

ステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏

ステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏

さまざまなケースがあるのであくまでざっくりとした話になるのだが、「振り屋」と呼ばれるエージェント的な業者(これはOEMメーカーだったり、商社だったり、エージェント専業だったりと状況によって異なる)がメーカーからの生産依頼を受けて縫製職人に仕事をアサインすることが多い。

これはメーカー側、工場や職人側の手間を減らす構造とも言えるが、一方で中間業者ありきの構造とも言える。職人が新規の取引先を自力で開拓することは難しいし、安価な海外への発注が増えるなどして価格競争に陥り、職人に支払われる金額は下がる一方なのだそう。

その結果、著名ブランドのサンプルを作っているような技術を持った職人であっても、1枚2000円のシャツまでを縫製しないと生活が難しいという状況もある。振り屋側もビジネス。注文量や注文額大きくないと自分たちの事業が成り立たないため、サンプル縫製など小ロットの注文を受けることは難しいという。

クラウドソーシングの仕組みで職人を支援

伊藤氏はこの小ロットの注文と縫製職人を直接繋ぐことで、縫製業者の収入を確保する道を模索していたのだそう。そんなときランサーズのサイトを知る。そこからクラウドソーシングの仕組みを使うことで、この課題を解決できないかと考えるようになった。

そこからの動きは速かった。東京都が2014年に開催したビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」に参加。それと並行してエンジニアを口説き、開発体制を整えた。そしてビジコンで出会ったメンバーも巻き込むかたちでチームを組成。2015年2月にnutteを公開した。

nutteは縫製を依頼したいユーザーと、登録した縫製職人をマッチングするサービス。ユーザーが制作物の詳細や金額、納期などを設定して案件を登録すると、興味を持った縫製職人がユーザーに連絡、条件が折り合えば案件成立となる。職人は期限内に縫製を終えて納品(一度nutteに送付し、検品した後ユーザーに送付することになる)。ユーザーが支払いを行う。料金の20%が手数料としてnutteに支払われる。商品は1点から発注可能。作り手を検索してメッセージを送ることもできる。近いサービスとしては、縫製工場のクラウドソーシングサービスである「シタテル」がある。

当初は100人程度の職人をネットワークし、ノンプロモーションでサービスをスタート。展示会用のサンプルなど、小ロットの発注を積み重ねていった。現在は1800ユーザー(発注者)、登録する職人は数百人にまで拡大した。3000万円のシードマネーを調達した11月以降、広告の配信も始めた。10月比で売上数は4倍に伸びた。

法人向けの発注を中心にしつつも、CtoCコマースのような個人発注も拡大中だ。例えばコスプレ衣装の縫製などはニーズの高い案件となっている。案件は発注者側が登録するが、その成約率は約90%。「よほど安い、納期が短いという案件でない限りは成約している」(伊藤氏)。最近ではセミプロクラスの職人の登録にも積極的だ。ドレスやジャケットのような本格的な縫製ニーズだけでなく、ぞうきんや巾着袋といったちょっとした縫製のニーズも高いためだという。

今後は一級和裁技能士の登録も促し、本格的な着物の縫製までに対応できる仕組みを作るほか、技術力の高い職人がほかの職人の品質テストをするような組みも導入する予定だ。「これまで誰も儲からないで幸せにならない状況。縫製職人が適切な所得を得られるのが最大の目的。それを実現できる状態をつくるのがまず最初の目標」(伊藤氏)

11月に3000万円の資金を調達

ステイト・オブ・マインドは11月にみずほキャピタル、ガイアックスグループのほか、元クックパッドCFOでミューゼオ代表取締役の成松淳氏、ピクスタ代表取締役社長の古俣大介氏、公認会計士で元みんなのウェディング社外監査役、エルテス社外監査役の本橋広行氏などから合計約3000万円の資本調達を実施。このほかにも著名なスタートアップ企業家複数人がエンジェルとして同社を支援している。

中でも古俣氏はビジコン時代に出会って以来のメンター的な起業家だという。「1年前まではガラケーを使って、デットとエクイティの違いも分からなかったが、ITや起業に強い人たちが支援をしてくれている」(伊藤氏)。同社では、2016年12月までにユーザー数3万人、累計取引件数5000件、流通額2億円を目指す。