スタートアップはオンライン教育にどのように取り組んでいるか

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編集部記Roshan ChoxiはCrunch Networkのコントリビューターである。Roshan ChoxiはBlocの共同ファウンダーでCEOを務めている。

1984年、教育心理学者のベンジャミン・ブルームは、教え方に関する調査内容を公表した。これは、一般的にブルームの2シグマ(σ)問題と呼ばれている。Wikipediaはこれについて次のようにまとめている。「1対1で完全習得学習(マスタリー・ラーニング)に基いた指導を受けた生徒は平均的に、既存の指導方法を受けた生徒より標準偏差2領域分パフォーマンスが向上した。言い換えれば、平均でチューターの指導を受けた生徒は統制群となるクラスで指導を受けた生徒より98%パフォーマンスが良かった」。

「2シグマ(σ)」という名称はこの研究結果から来た名称だ。1対1のメンターと完全習得学習を組み合わせた指導を受けた生徒は、既存の教室環境での指導を受けた生徒より、パフォーマンスが2標準偏差(標準偏差を表す記号がシグマ)高くなった。

別の言い方をするのなら、1対1のメンターによる完全習得学習の指導を受けたほぼ全ての生徒(98%)が、比較対象となる教室で授業を受けた生徒の平均より成績が良くなった。

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ブルームの研究はこのような結果を得るには2つ必要な要素があると示している。

  1. 生徒は1対1で指導を受けること
  2. 指導者は完全習得学習による指導を行うこと

完全習得学習とは教育方法を指している。完全習得学習では、教育者は生徒が1つの課題やスキルを習得するまで必要なだけ指導を行い、習得できてから次に進む。完全習得学習は少人数のクラスや1対1のメンターシップの場で行うことができる。

ブルームは個別指導が最も学習に効果的だが、広く採用するのにはコストがかかり過ぎると結論付けていた。彼は以下のように述べている。

この教育方法は、ほとんどの生徒が高いレベルの学習を習得することができることを示しています。研究と施策における最も重要な課題は、1対1の教育指導をより実用的で現実的な方法を探ることです。1対1の教育方法を大規模に採用するコストを社会が負担することは難しいでしょう。

テクノロジーで2シグマ問題を解決する

ここ5年の間にいくつかのテクノロジースタートアップが「オンライン・メンターシップ(個別指導)」のプロダクトをローンチしている。Thinkfulは構造的なオンライン・メンターシップ・プログラムを2012年に制作し、AirPairとHackHandsもオンデマンド・メンターシップのサービスを2013年にローンチした。

Udacityも自社のオンラインプログラムに「コーチ」を導入した。PluralsightはHackHandsを買収しUdemyは昨年CodeMentorと提携している。これらのプロダクトはテクノロジー特有の強みを活かし、メンターシップを多くの人に届け、2シグマ問題を解決しようとしている。

リモートの動画カンファレンスの実現で、メンターと生徒の流動的なマーケットプレースが生まれた。生徒がいる地理的な位置という制限がない場合、生徒は容易に最適なメンターとつながることができる。

ブルームはきっとメンターがその場で授業を行ったり、レクチャー指導を行ったりすることを前提にしていたのだろうが、レッスンやレクシャーは録画することができる。(ライブ授業より高品質のレクチャー動画を残すことができるだろう。)そのためメンターは個別の生徒の対応に注力することができる。

教室という制限がなくなれば、生徒は自分のペースで教材での学びを進めることができる。これにより、指導者は各生徒に合わせた完全習得学習と個別指導を提供することができる。

また、オンラインプログラムにおける生徒の学習過程の全ての要素は最初から量的に測定することができ、メンターは生徒の進捗を詳細に知ることができる。毎月試験を実施しなくても、指導者は生徒のエンゲージメントや進捗をリアルタイムでモニタリングすることができるのだ。

スケジュール管理、メッセージの送受信といったやりとりを自動化するツールのおかげで指導者はより多くの生徒を担当することができるようになる。(それでもそれぞれの生徒に注意を向けることが可能だ。)既存の教室環境より多くの生徒を見ることもできるかもしれない。

  • Screenshot of a HackHands session (source: CrunchBase).

    HackHandsセッションのスクリーンショット(参照: CrunchBase

    ブルームの研究は、指導者の教育方法が生徒の学習能力に大きな影響を与えることを示唆するものだ。これは、特定のスキルの学習が上手くできる生徒を判別することにあまり意味がないと示すものでもあるだろう。教室環境では平均以下のパフォーマンスの生徒でも、チューターによる個別指導に切り替えることで大きく向上することが期待できる。テクノロジーを持ってメンターシップを広めることで、このような良い結果を増大させることにつながるだろう。

    教育ブレークスルー

    ブルームの研究は、90%の生徒が通常の教室環境で学ぶ生徒の上位20%が獲得するのと同じ成績を残す方法を提示した。最近の研究もこれを裏付ける研究結果を出している。2004年、 ハーバードの研究では、数学の個別指導を受けた生徒が比較対象となる教室環境の学生より、州の共通数学テストで200%上回る成績を残した。これらの統計が支持するアプローチを実践することができれば、ブルームの2シグマ問題を解決し、ソクラテスの時代から現在までで最も偉大な教育におけるブレークスルーをもたらすことができるだろう。

    すでに多くのスタートアップはオンライン・メンターシップでテクノロジーの強みと個人がそれぞれに持つ能力を活かし、教育方法に根本的な変革をもたらそうとしている。

しかし無作為抽出された実験ではない、統制されたオンラインのメンターシッププログラムと既存の教室環境を比較する場合、オンラインのプログラムでどのようにブルームの調査結果を実証し、再現することができるだろうか?オンライン・メンターシップはブルームが特定した課題を解決するものだが、オンラインでの教育環境は1対1の個別指導と完全習得学習の効果を相殺してしまうようなトレードオフとなるマイナス要素はないのだろうか?

例えば、MOOCs(広範囲に開かれたオンラインコースの略。edXやCourseraといったサービス)は、 学生のエンゲージメントの獲得に苦戦し、リテンション率もとても低いことが知られている。オンラインプログラムには物理的な教室に通うという制限がないため、学生のエンゲージメントを保つのが困難になるのだろう。

「オンライン・メンターシップ」の特定の構造に関する研究はないが、一般的なオンライン教育に関する研究ならいくつかある。サンノゼ州立大学はedXと協力し、「逆転クラスルーム」モデルを試験的に行った。そのモデルで修了率が46%向上したという。しかしこの検証は無作為抽出のトライアルではなかったため、「逆転クラスルーム」モデルに参加すると表明した生徒はそのモデルでパフォーマンスが上がる素地があったのかもしれない。

アメリカ合衆国教育省の研究では、オンライン教育は対面での教育と同レベルであることが示唆されたが、双方を組み合わせたモデルの方がどちらか単体の教育方法よりも良いとした。

最近の実験と実験研究に近い検証から、オンラインと対面での指導を組み合わせた指導方法と、既存のクラスでの対面の指導方法を比較した結果、双方を組み合わせた指導方法の方が効果的であり、そのアプローチの実装を検討することが合理的であることが判明した。オンラインだけの場合、既存の教室での指導と同程度の効果があったが、それ以上ではなかった。

もう一度言うが、これらの研究はオンライン・メンターシップに特化した研究ではなく、オンライン教育全般に関するものだ。この研究における対面は「オフラインでのクラスルーム環境」という意味だ。しかし、このオンライン教育と対面指導の要素を組み合わせるモデルは、オンライン・メンターシップの利点を示唆するものだ。

このアプローチに関する研究の余地は多く残されている。しかし、すでに多くのスタートアップはオンライン・メンターシップでテクノロジーの強みと個人がそれぞれに持つ能力を活かし、教育方法に根本的な変革をもたらそうとしていることに変わりないだろう。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

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