視線追跡VRの「FOVE」がコロプラ、鴻海、サムスンらから12.3億円を調達

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foveVRヘッドマウントディスプレイに視線追跡機能を付けた「FOVE」を開発する日本発スタートアップのFOVEが3月23日、シリーズAとして1100万ドル(12.3億円)の資金調達を終えたことを発表した。

このラウンドをリードしたのはColopl VR Fundで、鴻海ベンチャーキャピタルファンドの「2020」、Samsung Venture Investmentらも投資に参加している。TechCrunch Japanのインタビューに対して、FOVE共同創業者でCEOの小島由香氏は、「(VR開発は)資金だけでは続かない。ディスプレイ供給や量産体制に備えた座組」だと話している。2014年の設立以来、FOVEは今回3度目の資金調達。累計調達額は非公開ながらも十数億円のレンジだという。

VR市場で急速に注目を集める視線追跡

FOVEはディスプレイ内にあるオブジェクトに視線を向けることでVRの「入力」の問題を解決する。「VRでジェスチャーやWiiコントローラーのようなものを実際に使ってみると疲れるんです」と小島CEOはVRの入力方式として視線追跡の優位性を話す。これまでにも視線追跡は研究開発分野では長らく蓄積があった。ただ、その用途は限定的で、例えばWebサイトの効果測定(視線追跡でヒートマップ作成)をしたり、福祉で応用したりといった程度だった。

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FOVE共同創業者でCEOの小島由香氏

「2年前にFOVEが出てくる前は誰もVRで視線追跡とは言ってなかったと思いますし、1年前は不要だよね、という雰囲気でした。それが先日のGDC(Game Developer Conference)なんかだと、もう誰もが視線追跡の話をしている感じです。長らく研究していたけど陽の目を浴びなかった視線追跡ですが、VRで初めて実用用途がでてきたのかもしれません。研究でVRに取り組んでいた人たちが一気にVR、VRと言い始めています」。

FOVEを使ってFPSゲームをやれば標的に対して視線で狙いを定められるし、RPGならキャラクターとアイコンタクトでコミュニケーションが取れる。ぼくは2014年7月にプロトタイプを体験させてもらったのだけど、映像の中のキャラクターと「目が合う」というのはなかなか新鮮な体験だ。

小島CEOは、VR市場の立ち上がりは何だかんだ言ってもゲーム市場から起こるとみている。向こう2、3年はすでに3500万台ほどを売ったプレイステーションのVRが牽引する一方、モバイルデバイスのVRで重要になってくるのはスペックとの戦いだという。ネットワーク帯域もCPUパワーも限られたモバイルデバイスでVRをやるとなると、いかに負荷とトラフィックを下げるかという技術が重要になる。例えばFacebookが1月に発表したVRストリーミングの新フォーマットはデータ転送量を抑える技術だったが、このような取り組みが不可欠だとFOVE小島CEOはいう。

「ユーザーが見てないところはぼかす」で負荷軽減

視線追跡ができると、ユーザーが注視しているところだけ高精細にレンダリングして、それ以外の部分をぼかすことができる。これは自然な映像表現として「VR酔い」を抑える効果があると今のところ考えられているし、デバイス側に転送すべきデータ量やGPU処理負荷を抑える効果があるのだという。すでにNVIDIAなどはフォービエイテッド・レンダリング(Foveated Rendering)と呼ぶ技術で9区画に分けた描画領域の中心部だけを高精細に表示する技術を持つが、人間はいつも真ん中だけを見ているわけではない。今後、VRが2Kから4Kの世界になっていくと考えると負荷を減らす要素技術として視線追跡は重要性を増す。低スペックのデバイスでゲームが動くことがVR普及の条件すればなおさらだ、と小島CEOは話す。ちなみに、4Kというと無駄に高精細と思う人もいるかもしれないが、2次元ディスプレイと違って全周の場合10Kくらい必要だという人もいる。

FOVEの競合としては、NHNやIntelから総額2160万ドル(約24億円)を調達しているEyefluenceや、StarVRといったところがある。FOVEでは自分たちでデバイスやコンテンツを集めるだけでなく、視線追跡技術のライセンスビジネス展開も考えているという。FOVEの出荷は秋を予定していて、今のところ予約は日米合わせて1500台程度と控えめ。ただ、日韓のネットカフェとの提携を進めているそうで、もし提携が決まれば台数も大きく伸びそうだという。ネットカフェは日本で1500店、韓国で6000店舗という。

VRプラットフォームはAndroid対iPhoneにも似てきた?

FOVEはヘッドマウントディスプレイを作っているが、コンテンツはどうするのだろうか?

「VR界隈以外の人にはあまり知られていませんが、Oculus対SteamVRという構図があります。FOVEはSteamVR対応なので、誤解を恐れずに言えば、同じSteamのHTC Vive対応ゲームはFOVEでも動きます」

ちょうど、iPhone対Android、あるいはMac対PC(Windows)のような構図がVRプラットフォームに生まれつつあるそうだ。OculusのSDKで開発するとOculusでしか動かないが、SteamVRはマルチプラットフォームを指向している。だから当面のゲームコンテンツで考えると、Steamがリードを続けると小島CEOは見ているそうだ。もともとSteamVRを提供するValveはXbox開発者たちがスピンアウトして作った会社。ユーザーの5メートル四方の動きを正確に追跡できるLighthouseと呼ぶデバイスの技術を開発者に無償開放するなどSteamはPCゲームに関しては有力なのだそうだ。もちろん、まだまだAppleやGoolgeが何を出してくるか、ということは分からないのだろうけど。

ところでFOVE創業の背景には、ソニー・コンピューター・エンターテイメントに勤務していた時の小島CEOの蹉跌があるそう。小島CEOがそもそも作りたかったのは「インタラクティブ・シネマ」で、プレイヤーの表情でストーリーが分岐するような、今までにない映像作品だそうだ。そのプロジェクトが社内で頓挫してしまって週末に作り始めたのがFOVEだとか。

現在の映画では、ロードムービーで旅を疑似体験するといっても、視聴者と、すでに映像の中にいるキャラクターだけの世界。これをVRの世界の中で他のユーザーとアイコンタクトをしながら体験できるようにするのがインタラクティブ・シネマの世界だと小島CEOは説明する。そこでは視線追跡技術が必須になる。「今後キーになってくるのはアバター同士のコミュニケーション。感情表現が重要になるんじゃないかと思っていて、だんだんジェームズ・キャメロンの映画アバターに近づいていくんだと思います」。

最近ロサンゼルスにもオフィスを構えたという小島CEOはディズニーやピクサーといった映画業界のトップクラスの人たちが毎週のように開いている勉強に参加して、彼の地の人々の何でも知見を体系化してシェアする文化に触れながら、インタラクティブ・シネマのアイデアを語ったりしているそうだ。ピクサーだって、「フルCGの映画」なんていう当時としては荒唐無稽な夢を当初は語っていたわけだし、FOVEには、ぜひインタラクティブ・シネマをいつか実現してほしいね。