シード投資にスピードと透明性を―、投資契約書「J-KISS」を500 Startups Japanが無償公開

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ソフトウェアの分かる人なら「KISS」と聞けば「Keep it simple, stupid」(バカみたいにシンプルにしておけ)という「KISSの原則」を思い出すかもしれない。500 Startups Japanが今日公開した「J-KISS」は、たぶんこのKISSをもじったものだろう。J-KISSというのは、シリコンバレーの著名アクセラレーターの500 Startupsが2014年に自分たちが使っているものをオープンソースっぽく公開して、実際に使っている投資契約の標準ドキュメントに付けられた名称「KISS」(Keep It Simple Security)の日本語版だ。

ここでいう「Security」(セキュリティー)というのは情報通信用語ではなく、金融でいう債券・証券のほうのことだ。シリコンバレーでは過去数年、シード投資に適した転換社債の一種であるコンバーティブル・ノートを使った投資が広く行われてきた。コンバーティブル・ノートとコンバーティブル・エクイティーの両方をまとめて、500では「コンバーティブル・セキュリティー」と呼んでいる。

KISSというのは、これまで500が経験してきた複数のシリコンバレーの法律事務所との様々なディール、多くのシードステージ投資家のノウハウをベースにして業界標準となるべく作成した投資契約書だ。一般に公開することで起業家と投資家双方の時間と費用を節約することを目的として2014年に文書をリリースした。実は500 Startupsに先駆けてY Combinatorは2013年にSAFE(Simple Agreement for Future Equity)という同様の文書を公表している

日本では多くの場合は第三者割当増資ということになるが、エクイティー(株式)による投資契約では、さまざまな選択肢があって交渉に時間がかかることがある。最近日本でも利用が進んでいる優先株は、例えば議決権制限を設定できたり、残余財産分配請求権を設けるなど、投資にかかわるリスクや権利について柔軟な設定ができるようになっている。それは逆にいうと優先株では投資する側、される側で交渉すべき点が多いということ。まだプロダクトやビジネスモデルの有効性を検証できていない段階のスタートアップ初期投資段階でこうしたことを議論するのは非効率だ。株式の希釈化を議論しようにも、そもそも正しいバリュエーションなんて出せないよね、ということがあるからだ。

そんなわけで、500 Startups Japanパートナーのジェームズ・ライニー氏によればシリコンバレーではコンバーティブル・セキュリティーを利用することが多く、その標準ドキュメントがKISSとSAFEなのだという。優先株ではなくコンバーティブル・セキュリティーを使うことで、その後の大規模な資金調達までバリュエーションを含めた複雑な交渉の一部を先送りすることができる。

今回のJ-KISSはその日本版。日本の法規制や税務に合わせる形で設計されたコンバーティブル・エクイティーとなっている。森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏により設計され、KPMGによる税務面からのレビューも経ている。J-KISSには日本語版と英語版がある。どちらも内容や条件は同じで、それぞれの言語で自然な契約書となっているという。

summary

500 Startups Japanとしては、J-KISSという文書を公開することで、スタートアップ業界へ透明性をもたらしたいという狙いもあるという。日本でも、ほんの数年前まで知識不足の起業家が初期の資本政策で失敗したために、その後の調達ラウンドで身動きが取れなくなったという話をときどき聞いたし、驚くような悪条件の出資比率を飲まされた起業家の話を聞いたこともある。それは、日本では投資契約の絶対数が少なくて密室で行われるものだったからという側面があると思う。だとすれば、多くの失敗と成功を積み重ねてきた500 Startupsのようなシードアクセラレーターの知見が詰まった投資スキームは、日本のスタートアップ業界としては歓迎すべきものではないだろうか。シリコンバレーでの過去の失敗を振り返りながら500 Startups Japanは「将来のスタートアップが同じ道をたどる必要はありません。私たちはJ-KISSが、起業家と投資家が資金調達プロセスをシンプルに、そして効率的なものにするためのベースとして活用されることを願っています」と発表文で語っている。