ミドクラがシリーズBで2000万ドルを調達、OpenStack/コンテナ技術の需要増に応える

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大規模プライベートクラウド向けネットワーク仮想化ソフトウェアを提供するミドクラは、総額2000万ドルのシリーズBラウンドの資金調達を完了した。リードインベスターは日本政府系の投資ファンド産業革新機構であり、このほか金融系IT企業シンプレクス、ミドクラの取締役でもあるアレン・マイナー氏らが出資する。今までの調達総額は4400万ドルとなる。調達した資金は同社の主要プロダクトであるネットワーク仮想化技術Midokura Enterprise MidoNet(MEM)や新プロダクトの開発、マネジメントや開発チームの強化に充てる。

ミドクラのビジネスをざっくり説明すると、AmazonやGoogleが作り上げてきたような“非常に少人数で管理できるソフトウェアで定義された大規模なクラウド”を構築・管理するソフトウェアコンポーネントを提供する会社ということになる。IaaS(Infrastructure as a Service)構築向けオープンソースソフトウェアOpenStackに関わっている人であれば、同社のMidoNetの名前を聞いたことがあるだろう。取締役会長共同創業者である加藤隆哉氏は「OpenStackの発足直後からミドクラは積極的に貢献してきた」と説明する。

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ミドクラ取締役会長共同創業者の加藤隆哉氏

ミドクラは2010年に日本で創業した。2013年4月、産業革新機構をリードインベスターとしてシリーズAラウンドで1730万ドルを調達、同時に本社をスイスに移転して社名がMido Holdings Ltd.となり、日本法人はミドクラジャパン株式会社となっている。東京、米国サンフランシスコ、スペイン バルセロナを主な拠点として活動するほか、ドイツ ミュンヘン、イスラエル テルアビブと世界6カ所にオフィスを持つ。今回の記事ではグローバルな同社の事業全体を指して「ミドクラ」と表記することにする。ちなみに、この社名は「グリーンIT」にかけて「緑のクラウド」から付けられた社名だそうだ。

ミドクラの社員数は50名、うち40名がエンジニアだ。同社CEOのDan Mihai Dumitriu氏、CTOのPino deCandia氏は、共にAmazonで分散コンピューティングの開発に取り組んでいたエンジニアだった。deCandia氏は、NoSQL DBの先駆者的存在といえるAmazon Dynamoの開発者として知られる(例えばこのペーパーの筆頭著者だ)。CTOのdeCandia氏の現在の勤務地はバルセロナである。加藤氏によれば「Pinoがバルセロナの大学院に行きたかった」からだそうだ。deCandia氏の知名度が高いこともあって、バルセロナでのエンジニア求人は順調だそうだ。

プライベートクラウド/OpenStackの市場に賭ける

同社のMidoNet(MEM)が今まで勝ち残ってきた市場は「OpenStackによる大規模プライベートクラウド」というグレートニッチだ。ここで重要なキーワードが「大規模」だ。OpenStackのネットワーク仮想化コンポーネントNeutronを使えばネットワーク仮想化を実現することは可能なのだが、加藤氏は次のように説明する。「サーバー数100台を越える巨大でセキュアなプライベートクラウドを作ろうとするとNeutronだけでは実装が大変すぎる。大規模な領域でMEMのメリットが出る。OpenStack市場では、1000コア以上の規模では我々の製品が商用ではシェア1位だ」(詳細は同社の発表資料OpenStack User Surveyを見てほしい)。

「今やMidoNetはグローバルに使われるOpenStackのNeutron代替コンポーネントとして普及している。Dellや富士通にもライセンスしており、彼らのビジネスとともにMidoNetは広まっている」と加藤氏は説明する。高価なネットワーク専用機器を使わなくても、x86ベースのPCアーキテクチャに基づく「ホワイトボックス」にオープンソースのMidoNetを導入すれば「今日からスイッチ、ルーター、ロードバランサが手に入る」(加藤氏)。他のオープンソースのNeutronコンポーネントに対する「売り」は分散型のアーキテクチャだ。エージェントを各ノードで動作させるオーバレイの分散型アーキテクチャにより単一障害点を作りにくい。またL2(レイヤー2)のスイッチやL3のルーターに留まらずL4のロードバランサやファイアウォールまでも仮想化できる。

同社のプロダクトMidoNetには、オープンソース版のMidoNetと商用版のMEMがあり、オープンソース版だけを使っているユーザー企業もいる。例えばサイバーエージェントもオープンソース版のユーザーの一社だ。「我々のビジネスはオープンソース版を出したことでより広がっている」と加藤氏は話す。プロダクトの採用基準として「オープンソースであること」を掲げる企業は多いからだ。

同社は、SDN(Software Defined Network)市場の中での自らの市場セグメントを「オーバレイ方式に基づくクラウドネットワークの仮想化」と位置づけている。同じセグメントに競合は数社いるが「特定ベンダーのネットワーク機器に依存しない、完全なオープンソース製品はミドクラだけだ」と加藤氏は胸を張る。

大規模プライベートクラウド、オーバレイ方式のSDN、OpenStackのネットワーク仮想化コンポーネントNeutronの代替、分散型アーキテクチャ、L2〜L4仮想化、特定のネットワーク機器に依存しない、そしてオープンソース──これらがミドクラのMidoNet(MEM)を特徴付けるキーワードだ。

AWS全盛時代のプライベートクラウドの需要は?

パブリッククラウドのAWS(Amazon Web Services)が全盛期にあり、Microsoft Azureも猛烈な勢いで勢力を伸ばす中、OpenStackで大規模プライベートクラウドを作りたいと考えるのはいったい誰なのだろうか?

加藤氏は「スケールメリットを求める企業や、IT統制によりパブリッククラウドを使えない企業は実は多い」と話す。DropboxがAWSから自社インフラに移行した事例は記憶に新しいが、ある規模を越えると自社インフラを持つ経済合理性が生まれる。パブリッククラウドはスタートアップには最適なインフラだが、会社規模がスケールするとコストもスケールしてしまう問題があるからだ。

またIT統制の問題でパブリッククラウドを利用できない事例も想像以上に多い。国によっては、「パトリオット法」が適用される米国企業のクラウドに公共性があるデータを置くことが禁じられている場合もある。特に重要なのが中国市場だ。中国政府は米国ベンダーのプロプラエタリな製品/サービスではなくOSS(オープンソースソフトウェア)を使うように企業を指導している。「“オープンソース徳政令”のようなものだ。中国市場は非常に重要だ」(加藤氏)。

要するに、大規模プライベートクラウドを必要としている企業は、例えばIoT由来の大量データや、IT統制上の問題からパブリッククラウドには載せられないデータを載せるための情報システムを求めている大企業だ。こうしたニーズをOpenStackで解決する機運が世界各地で高まっており、そこにミドクラの商機がある。

現時点でAWSのメリットをエンジョイしている企業も、ビジネスがスケールすれば自社インフラが欲しくなる場合があるだろう。そのとき、ミドクラ製品が、コストを押さえつつ大規模なシステムを構築運用する上で重要な役割を果たす可能性がある訳だ。

OpenStack/SDNの市場で勝ち残る、次の一手はコンテナ技術

ミドクラが2010年の創業から今まで生き抜いてきた理由は、加藤氏に言わせればネットワーク仮想化ソフトウェアという市場の中での「場所取りゲーム」に勝ち残ってきたからだ。「OpenStackの市場は年率50%ほどのペースで伸びている」と加藤氏は話す。今はこの市場でビジネスを伸ばしていく考えだ。

ミドクラが次の一手として進めているのは、(1)コンテナ技術への対応、(2)ホワイトボックススイッチ(Linux搭載の低価格スイッチ)への対応、(3)マネジメントルツールの機能拡張(機械学習による運用の自動化など)である。特に、Dockerを筆頭とするコンテナ技術はOpenStackの次の市場として重視している。例えば、OpenStackのネットワーク機能をDocker向けに提供するプラグインKuryrの開発にも積極的に関わっている。

加藤氏は次のように語った。「日本に存在感があるテックベンチャーがないと感じ、創業してから6年経つ。OpenStack市場が本格化するのはまだこれからだ。その先にはコンテナ技術の市場がある。低レイヤーに取り組んで頑張っている会社があることを知って欲しい」。