個人資産運用のデファクトになるか―ロボアドバイザー「ウェルスナビ」がローンチ

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テクノロジーによる自動運用を取り入れた個人向け資産運用サービス、いわゆるロボアドバイザーの「ウェルスナビ」が今日7月13日に一般公開となった。1月中旬から実運用を開始していたウェルスナビは、これまではクローズドな招待制だったが、今日から誰でもサービスの利用ができる。

財務省、マッキンゼー勤務を経て柴山和久氏が2015年4月に創業したウェルスナビは、2015年7月に5000万円のシード資金をIVPから、同10月にはSMBC、みずほ、三菱UFJの3大メガバンク系CVCなどから約6億円のシリーズA資金調達を行っている注目のFintechスタートアップだ。

日本でもロボアドバイザー市場は立ち上がるか

ロボアドバイザーについておさらいしておこう。

もともと機関投資家や富裕層向けプライベートバンクでは、現代ポートフォリオ理論に基づく金融アルゴリズムを使った国際分散投資が行われてきた。地理的にも性質的にも異なる複数の「資産クラス」に分散投資することで、予測不能なさまざまなイベントに関するリスクに対して比較的安定した資産運用ができる方法論だ。

この国際分散投資をソフトウェアで自動化してクラウド経由で一般消費者向けに「民主化」したのがロボアドバイザーだ。

ウェルスナビ自身は自社サービスをロボアドバイザーとは呼んでいないが、米国では同ジャンルのスタートアップとしてWealthfrontBettermentFutureAdvisorといったサービスが立ち上がっている。例えばWealthfrontはサービス開始以来3年半で預かり資産が26億ドル(約2700億円)となっていて、ロボアドバイザー市場全体では2015年末で600億ドル(約6.3兆円)となっている。2020年に2.2兆ドル(230兆円)を超えるという予測もある。

一方日本では、今回一般公開したウェルスナビのほか、お金のデザインの「THEO」(テオ)が2016年2月に本サービスを開始しているし、Finatextもある。現在1700兆円程度ある個人の現預金が投資へ大きく動くことになるのか、もしそうなったときロボアドバイザーが日本市場でどの程度受け入れられるのか注目される。ちなみに、規制や税金のことがあるのでFacebookのようなサービスと違ってロボアドバイザーのような資産運用サービスが国境を超えることはまずないだろう。

手数料1%で50カ国、1万1000銘柄以上に分散投資

ウェルスナビでは利用開始時に運用の目的や年収、年齢を始めとする簡単な質問にいくつか答えることで、リスク許容度を5段階で決めて資産運用を開始できる。運用ポートフォリオは6、7種のETF(上場投資信託)となり、50カ国、1万1000銘柄に分散投資が行える。手数料は預かり資産の1%。ETFの売買やリバランス時には手数料やスプレッドはかからない。

ウェルスナビではアメリカで上場しているETFを全部データベース化していて、それぞれのETFが「いかに良くインデックスに連動しているか」、「純資産総額が大きく、流動性があるか」(低いと長期運用に向かない)、「流動性を加味したコストが安いか」といった客観的基準で選んでいるという。ウェルスナビが選んでいるETFは、一番小さいもので5000億円規模、最大6兆円、平均3.5兆円規模という。

想定される運用パフォーマンスは個々人向けに用意されるポートフォリオによって異なるが、ウェルスナビは「世界経済の成長率を上回るリターンを目指す」という説明の仕方をしている(世界経済の成長率は近年3〜5%で推移している)。

将来のパフォーマンスは確率の話なので確実に言えることは何もない。代わりにウェルスナビでは「30%の確率で3000万円を超える」、「50%の確率で2000万円」、「70%の確率で1000万円」などと予測値を見ることができる。この予測シミュレーションは、初期投資額のほか積立額や運用期間、リスク許容度をユーザー自身で変えてみることで、たとえば退職時の30年後の総資産額を実験してみて直観的に把握しやすくなっている。

実際のサービス利用開始は、マネーロンダリング防止のための「犯収法」対応のために簡易書留による本人確認のステップが入るが、それ以外はきわめてシンプルだ。マイナンバーや免許証をスマホで撮影してアップロードしたら複雑な書類の記入などもなく、2営業日程度でアカウントが開設される。あとはユーザーごとに用意される専用口座に運用資金を振り込めば運用が自動でスタートする。

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追加投資でも随時リバランス、税金対策「デタックス」も実現

今回ウェルスナビの一般公開では2つの機能が加わっている。

1つは追加投資を行う際に、最適ポートフォリオと現実のズレを優先的に埋める形で各ETF資産の自動発注をする「リバランス付き追加投資機能」。機能的には似ているが、積立にもリバランス機能を持たせるという(積立機能自体は8月リリース予定)。

もう1つの機能は税負担を軽減する「DeTAX」(デタックス)と呼ぶもの。具体的には、分配金やリバランスから生じる税負担が一定額を越えた場合に、自動的に含み損を実現して税負担を繰り延べる。「含み損の実現」というのは、ユーザーが所有する含み損のある資産の一部をユーザー側からウェルスナビに売却し、0.1秒後にまたポートフォリオを元に戻すこと。多くの場合、これだけで年間0.4〜0.6%程度の負担減となるため、ウェルスナビの運用手数料1%というのは事実上その半額のようなもの、と柴山CEOはそのメリットを説明する。

「まさかの離脱」でも大きく動かなかったポートフォリオ

ぼくはウェルスナビを5月末から招待ユーザーの1人として使っている。だから6月末の「まさかの離脱」も経験することとなった。初めて乗ったジェットコースターがいきなり落下して内臓が5センチほど空中で動いた気分になるぐらいの金額を預けていたので、ちょっとした洗礼になった。1カ月半程度の1ユーザーの体験談で「長期」分散投資の何が分かるものでもないかもしれないが、個人的には分散投資の合理性を体感する材料となったので少し書いておこう。

Brexit直後には各地で株価は下がるし、為替も信じられない速さで円高に振れていく「市場の混乱」に直面した。あっという間に資産が1割ほど減って、正直「向かい風の中でのスタートになったな」と思った。その一方なるほどと思ったのは異なる資産クラスによる変動の相殺だ。

米国株や日本・ヨーロッパの株がガクンと評価額を下げて運用損が増えていくなか、ゴールド(金)のETFだけはグングンと値を上げて行き、ちょうど各資産評価額の上下動が相殺する形になっていたのだ。不動産評価額も微増していた。円建てで見ると1カ月ほどで10%近くも下げた評価額だが、実際にはほとんどは為替変動によるもの。ドル建てでは思ったほど影響を受けていなかったし、むしろトータルでは1カ月半たった今は資産額は増えている。ぼくのリスク許容度の診断は5段階中「4」で、そのポートフォリオには、米国株(VTI)、日欧株(VEA)、新興国株(VWO)、米国国債(AGG)、金(GLD)、不動産(IYR)というETF銘柄が入っている。このうち運用開始1カ月半でドル建ての評価損が今もかすかに出ているのは日欧株のみだ。

イギリスのEU離脱(の蓋然性の高い国民投票の結果)という大きなイベントがあったわけだが、それに対して株価と金では値動きに真逆の反応が起こった。ぼくは投資素人なので知らなかったが、そういうものらしい。市場が混乱すると安全資産への逃避が起こる。「金属は成長しないが企業は成長する。だから金や銀なんて買っても意味がない」と、これまでぼくは思っていた。だけど、これは素人の浅はかな考えだったようだ。負の相関のある資産クラス同士を組み合わせることで安定した運用を目指すという現代ポートフォリオ理論の基本を目の当たりにしたように感じたのだった。

市場が混乱する中でも分配金によって投資すべき元手が増えたら、ウェルスナビが淡々と追加で各ETFを買い増ししてくれていた。ロボなので当たり前だが、この「淡々と」というのが素人には頼もしく思えた。というのも、リバランスや買い増し時の微調整というのは理屈で理解していたとしても難しく思えるからだ。まず計算や実際の細々した売買が手間だ。それに加えて心理的に逆のアクションの誘惑にかられる、ということもある。値が上がった資産は一部を売却しないといけないが、調子が良さそうなものはもっと買いたくなるのが心情だ。逆に値が落ちていくものを買い増すのは慣れていないと抵抗感を覚える。でも、そうしないとポートフォリオの形が崩れることになって中長期にはパフォーマンスを落としてしまう。長期国際分散投資の運用は20年とか30年の話なので、実はBrexitレベルでも気にするような話じゃなく淡々とポートフォリオの形が崩れないように運用すればいいだけの話なのだろう。これは感情的バイアスのない機械がやるべきこと。皮肉なことに、ぼくはBrexit騒動によってロボアドバイザーのメリットを体感した気がしている。

5年後に1兆円の預かり資産、金融インフラとなることを目指す

一般公開に先立って都内で行われた記者向け説明会でウェルスナビの柴山CEOは、「次世代の金融インフラを構築して、働いている人たちが豊かさを実感できる社会を実現したい」とサービスの狙いを語った。

働き盛りの世代は金融商品を購入しようにも金融機関の窓口は週末行っても閉まっているし、就業後に行っても閉まっている状態だ。いま資産運用のための金融サービスの多くは60代以上をターゲットとしたものが多い。1700兆円ある個人金融資産のうち66%は60代以上が所有している(数字は総務省統計からウェルスナビが推計したもの)からだ。

これはこれで企業として合理的戦略だとしながらも、柴山CEOは20〜50代の働き盛りのための資産形成サービスが必要だと説く。ウェルスナビのアンケート調査によれば金融資産が1000万円を超えていて資産運用をしてない人のうち3割の人は「情報収集が大変そう」とし、4人に1人が「相談できる人がいない」「何を信じていいか分からない」と回答しているという。

従来の金融機関が提供するサービスと比べると、ユーザーと利益を一体化している「運命共同体」であるところがウェルスナビのポイントの1つという。「提供する側にとって一番良いものではなく、お客さん(ユーザー)にとって最適化されたものを提供していきたい」(柴山CEO)。ウェルスナビは金融商品の売り手ではなく、売買手数料も受け取らない。だから顧客の預かり資産を増やすことだけがウェルスナビにとっても収益増のインセンティブとなっている、というわけだ。

メガバンク系CVCからの資金も調達しているウェルスナビは、今後独立を保ったまま事業を推進するのだろうか、それともどこかのグループ傘下に入るエグジットを目指すのだろうか? そもそも顧客開拓チャネルとして、あくまで自前ブランドでやるのか、それともメガバンクや地銀の一商品としてOEM提供して行くのか?

「口座開設の3分の2以上は金融機関経由になっていくと見ています。提携先候補は預金を一番持っているところですよね、すでに提携の話は来ています」

独立したブランドにこだわるよりも、社会的インパクトを重視しているという。

「金融インフラとなっていくのが目標です。インフラというのは1度できてしまえば、例えば交通機関であれば事故の心配をしたりせずに利用できますよね。目標は数百億円とか数千億円という単位ではありません。預かり資産として1兆円を上回る金額になっていかないと社会が変わっていきません。5年後に1兆円の預かり資産を目指しています」

エグジットについては以下のように語った。

「VC出資なので株主に対する責任を果たしていく。その意味ではIPOが適していると思います。ただ、起業家として申し上げると引き裂かれる思いがあります。エグジット自体にエネルギーを割きたくない。足元でより良いサービスを目指したい、そのための文化作りをしたいと考えています」。

提携先やM&Aの可能性としてネット企業も候補になり得ることを柴山CEOは示唆する。「5年後や10年後となるとAmazonやGoogle、LINEが金融機関になってるかもしれませんよね。いまの金融のプレイヤーとは限りません。一番良いものをユーザーに提供していく、という理念が一致すれば積極的に考えていきたい」。