スタートアップ
zortrax

ポーランドの3DプリンターメーカーZortraxがDellとの契約を偽造

次の記事

ウォルマートがeコマースの有力スタートアップ、Jet.comを30億ドルのキャッシュで買収と発表

2年前、未だ世界の3Dプリンター業界で激しい競争が繰り広げられていたとき、Zortraxと呼ばれるポーランドの小さな企業が、Dellと3Dプリンター5000台分の契約を結んだというニュースで大きな話題になった(そしてそれを利用して同社は資金調達を行った)。

私は2014年にこのニュースを報じ、同年にその示唆についてもっと深く調査したところ、Zortraxの投資家やファンに関係するような情報をほとんどみつけることができなかった。Zortraxは、DellのアジアにあるR&D子会社とプリンター供給の契約を結んでいたが、子会社に対する質問の回答は得られないままな上、Zortraxの共同設立者であるRafał Tomasiakは、一貫して私との個人的なやりとりを通してニュースの正当性を主張していた。2014年の4月に、私は契約が嘘だったという噂について尋ねたが、彼は嘘を突き通した。しかし同年5月に私はこのニュースを追うのをやめ、色んな意味で諦めてしまった。それに関して後悔しており、この記事ではその続きについてもう少し深く触れてみたい。

まず、国際的な舞台に押し出された小さなスタートアップのメンタリティについて考えてみたい。Zortraxは、ポーランドのオルシュティン(Olsztyn)出身の仲間たちで設立された後、Kickstarterでのプロジェクト成功をうけ、爆発的な成長を遂げた。彼らの3Dプリンターは良い製品だったし、私自身も同社製品がしっかりしていて実用に耐えうるものだと感じていた。そして、Zortraxは2010〜2015年という投資に勢いがあった時代に、小さなスタートアップが必要だったもの全てを持っていたのだ。カリスマ性があり前線に立つ女性幹部のKarolina Boladz、業務に熱心なCTO、前述のTomasiak、良い製品、そして良いストーリーの全てだ。

そして、そこに大きな契約が加わった。

しかし、Zortraxは依然スタートアップだった。彼らの戦略は、ポジティブな面を強調し、ネガティブな面を隠すことにあったのだ。Zortraxは、契約の背景や契約自体に関する質問を無視するばかりか、その代わりに発表から数ヶ月にわたって、投資家向け資料にDellとの契約に関する情報を詰め込んでいた。そのため、もしも契約が嘘ではなかったとすると、それは楽観的かつ注意深い情報の省略であったと言える。スタートアップは、基本合意書やそっけない了解の全てをサイン済みの契約書と同等に考えようとするもので、Zortraxのケースも明らかにそうだった。

さらに当時、私はある程度の余裕を与えるのもいとわなかった。スタートアップ各社の評価額が(今でも)低く、投資額もシリコンバレーに比べると小さいヨーロッパでは物事の進め方が異なるからだ。ヨーロッパからの良いニュースは、少し誇張されたものばかりだった。ヨーロッパで行われた買収や投資ラウンドの金額に関する情報を入手するのは至難の業で、簡単な計算をしてみるとその理由が明らかになる。アメリカでの巨額のラウンドと比べると、金額が恥ずかしくなってしまう程小さいのだ。

ZortraxとDellの契約について2014年1月に初めて話を聞いたとき、私はその内容に関する簡単な記事を残した。その際、Tomasiakからは「正直言って、Dellのような企業であっても、あんな注文をしようする企業がいることに驚きました!しかし、しばらくして私たちのオフィスでは何台の3Dプリンターが使われているか気付きました。数多くのプロトタイプをプリントしなければならないデザイナーにとっては、同時に動く10台の小さな3Dプリンターをひとつのデスクの上で使う方が、1台の大きな3Dプリンターを使うよりも便利なんです」というコメントを受け取った。このニュースは他のサイトにも浸透していき、2014年の3月にはロイターにも記事が掲載されていた。

ロイターに記事が掲載されてから1ヶ月後、私はDellにはZortraxとの契約について知っている人がひとりもいないという情報を入手した。Dellの広報担当者にこのことを尋ねると、2014年の4月4日に以下の回答を受け取った。

Johnヘ

お問い合わせについて、現在休暇中の同僚Lauren Mauroから話を聞きました。私たちの記録によれば、DellとZortraxの間にはこれまで何の取引も行われていません。Dell Asiaの調達チームにも確認を行いましたが、彼らとZortraxの間にも取引記録はありませんでした。

Steve Howard
Dell エンドユーザーコンピューティング広報担当ディレクター

このニュースを持ってTomasiakに連絡をとったところ、彼が知っているDellの窓口は記者に対してコメントできないと語った。以下がその後の彼とのやり取りの抜粋だ。

John Biggs(この記事の執筆者)
4/4, 9:57am
もしも誤解なんであれば、すぐに部下に解決してもらえばいいのではないでしょうか。
この件についてはこれ以上議論したくありません。
よい休暇を。

Rafał Tomasiak(Zortrax CEO)
4/4, 9:58am
休暇ではなく仕事中です。
Dellからは何の連絡も受け取っていません。
もしも、契約を否定するような話を聞いているのであれば、私たちの誰かがDellと確認します。

John Biggs
4/4, 9:59am
私と確認すればいいんじゃないでしょうか。
いずれにしろ、もうどうでもいいです。

Rafał Tomasiak
4/4, 9:59am
あなたは広報担当者であってDellの従業員ではないですよね。

John Biggs
4/4, 9:59am
私は広報担当者ではありません。

Rafał Tomasiak
4/4, 9:59am
🙂

John Biggs
4/4, 9:59am
記者です。

Rafał Tomasiak
4/4, 9:59am
それじゃあなたは記者であってDellの従業員ではないですよね。 🙂

 私はさらに彼を追い込んだ。

Screen Shot 2016-08-07 at 8.58.04 AM

Screen Shot 2016-08-07 at 8.56.25 AM

Screen Shot 2016-08-07 at 8.58.44 AM

(二人のやりとり)

John Biggs
アメリカのDellがZortraxとのプリンターの契約についてコンタクトしてきて、
彼らは何も知らないと言ってましたよ。

Rafał Tomasiak
何でアメリカのDellなんですか?

John Biggs
DellはDellだし、アメリカのDellはDell Asiaが何をしているかくらい知ってますよ。
あなたが知ってるDellの窓口の連絡先を教えて下さい。それが難しければ、この場でDellに連絡しますが、彼らは契約について否定すると思いますよ。

Rafał Tomasiak
分かりました、対応します。

John Biggs
どうも。

John Biggs
その後どうですか?

Rafał Tomasiak
Dellの担当者から連絡します。あなたの連絡先を彼に伝えておきました。

John Biggs
まだ彼から連絡がないんですが。

Rafał Tomasiak
彼は忙しいからもう少し待って下さい。

John Biggs
了解。金曜日まで待ちます。

John Biggs
何か進展ありました?

Rafał Tomasiak
発注はR&D部門からでした。

John Biggs
それじゃR&D部門の担当者に「あぁ、うちの部署のためにこのプリンターを発注しましたよ」とメールするようにお願いしてもらえますか。電話でもいいですよ。
その情報さえ確認できれば、ただの誤解ということで何の問題もありません。
でも確認できなければ、あなたが嘘をついているように見えてしまいますよ。

Rafał Tomasiak
John、これはR&Dの問題で広報の問題ではないんです。

John Biggs
それは関係ないですよね。

Rafał Tomasiak
R&Dの人はちょっと変わってるんですよ。

John Biggs
それはどうでもいいです。

私はTomasiakにDellからのコメントを送り、それに対してコメントするように依頼したが、彼は質問を避け続けた。これはもちろんフラストレーションのたまる経験ではあったが、Tomasiakとのやりとりではいつものことで、彼は2015年までZortraxの新製品やニュースに関する報道陣への発表を担当していた。

mmh-brochure

同時に、Dellとの契約はZortraxの投資家向け資料の主要な項目となっており、Tomasiak自身、同ニュースの重要性を注意深く振り返る程だった。2014年3月にTomasiakは、Stockwatch.plに対して「Dellとの契約は、現在交渉を進めている案件のひとつですが、私たちが成功するためには、個人を含めて、できるだけ顧客数を増やさなければいけません。それが私たちのゴールで、その影響もあって私たちの顧客ポートフォリオは、世界中の様々な分野に分散されています」と話していた。

しかし、彼はDellとの契約がとてももうかる話だと言っていたばかりか、それに関連した値上げを行ったとも話しており、契約がもちろん締結されるであろうことを示唆していた。

4月中に話の真偽の程が分からず、私は本件を諦めた。結局、どうやらDellもそうしたようだった。契約の話は、当初の盛り上がり以降再浮上することはなく、Tomasiakがさらなるコメントを発表することもなかった。

ZortraxとDellの契約が具現化しなかったことにどんな影響があるのだろうか?結局、契約に関する言及がなされているのは1番最近で2014年の後半で、Zortraxは5000台のプリンターの売上を2014年度のバランスシートには反映していなかった。つまり、Dellとの契約は現れたと思ったらすぐに消え去ってしまったのだ。それはまるでニュースレーダーの一時的な反応のようなもので、ポーランドの小さな企業がDellと契約を結んだかもしれないが、最終的には恐らく正式な形では契約に至らなかったということになる。

しかし、ヨーロッパでは、噂となったDellとの契約は大きな意味を持っていた。この噂によって、Zortraxはポーランド・東欧地域の強豪としての評判を勝ち取ったほか、Invista Brokerage Houseを通じて、1枚あたり1000ポーランド・ズロチ(329ドル)の無担保社債を1万枚発行し、合計350万ドルを調達できるほどの知名度を獲得したのだ。社債が問題なく売れたZortraxは成長を続け、良いニュースが途絶えることはなかった。2月には、3DPrintのMichael Molitch-Houが「Zortrax CEOのRafał Tomasiakは、Zortraxの国への貢献を讃えられ、ポーランド共和国大統領のAndrzej Dudaより名誉の赤白旗を受け取った」と報じていた。

つまり、最終的に失敗に終わったDellとの契約は、小さいながらも成長を続けるZortraxにとって良いニュースだったのだ。バルザックを引用するに値するような罪ではないものの、同社が嘘でちょっとした財産を築いたのは明らかだ。

この話からどんな教訓が得られるだろうか。スタートアップは成功を喜んではいけないということだろうか?Zortraxが自社の利益のために嘘をついたということだろうか?どちらも違うように思えるが、これまでの話を考えると、どちらの示唆も読み取ることができる。真実を2年間隠すことで、Zortraxはポーランドの競合他社との戦いに巻き込まれることなく、有利なニュースを使って資金を調達することができたのだ。

この部分に関し、Zortraxは3DPrint.com向けに以下の説明を行った。なお、私のメールへの反応はなかった。

「私たちのデビュー作となる3Dプリンターの販売開始に先駆け、2013年の終わりから2014年のはじまりにかけて、同製品に対する関心が高まっていたことを受け、私たちの3Dプリント業界への参入見通しは上々でした。記事に書かれているDellのアジア部門との契約見込に関する情報は、両社の契約締結にむけた誠実な努力の結果、さまざまな広報チャンネルを通じてやりとりされていました。守秘義務にもとづき、両社が条件面で互いに合意できるような内容に至ることができなかったということ以外、契約の詳細については明らかにすることができません。

私たちは、本件に関する情報がこれまでも投資家候補の方々に対してハッキリと伝えられてきたということを、しっかりと伝えたいと考えています。記事中のように、Zortraxは、Dellとの契約が合意に至らなかったことを受け、広報活動や、市場とのやり取り、投資家との対話において、本件に関する情報発信を中断しました。

しかし、記事で引用されている経営指標が、ハッキリと現実の数値を反映していることを表しているという点に注目してください。締結されていない契約に紐づいた見込利益は報告されておらず、会社の評価額のもととなる情報にも含まれていません。

2011年から、Zortraxは3Dプリント技術の分野で最高品質の製品とサービスを提供すべく努力を続けてきました。この努力は、数ある中でも、多くの称号や賞、さらには会社の成長に伴う雇用増加や、革新的な製品やサービスのさらなる開発という形に表れています」

Zortraxは今ではその口を閉じて契約の話には触れなくなった。ポーランド人記者のRafał Badowskiは、「Zortraxは、本件に関する質問へ回答すると8月5日に約束していたが、その後、Zortraxの広報リードのMarcin Niedzielskiから、どの時点で本件に関してさらなるコメントを発表して良いのか、現在(Dellとの)機密保持契約を確認しており、恐らく来週の前半頃には回答できるだろうとの連絡があった」と書き残している。

そして「いずれにせよ、まだこの件は臭う(”Tak czy inaczej, niesmak pozostaje,”)」とも。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter