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なぜシリコンバレーのトップ投資家たちは今、ラテンアメリカに投資するのか?

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ベンチャー〔編集部〕Julie Ruvoloは元TechCrunchライターで、現在はLatin American Private Equity and Venture Capital Associationの論説主任を務めている。

ラテンアメリカは、今地球上で最も見過ごされている市場かもしれない。

ラテンアメリカのベンチャー市場規模はインドや中国には及ばない。ウォールストリートジャーナルによれば、2016年前半の中国における新規ベンチャーキャピタルファンドは118億ドル(14%減)に上るのに対し、ラテンアメリカでは2億1800万ドルだった。「真のスタートアップ」となるには10億を超えるユーザーが必要だと考える投資家たちは、同地域の6億人という人口規模も見落としている。

しかしAndreessen Horowitz(コロンビア)、Founders Fund、Sequoia Capital(ブラジル)、QED(メキシコおよびブラジル)からの初投資によって、その様相は変わりつつある。

自分はここ数年、TechCrunch向けにラテンアメリカでの投資について書いてきた。VivaRealPSafeComparaOnlineDescomplicaなどのスタートアップのラウンドについて取り上げたこともある。また、幅広く成功中のMercadoLibreが設立した「KaszeK Ventures」や、その名のとおりRedpointとe.Venturesのジョイントベンチャーである「Redpoint e.Ventures」のようなラテンアメリカ地域の主要なローカル投資家を取材したこともある。

ローカル投資家の視点から見た場合、ラテンアメリカにおける機会には次のようなものがあるだろう。

  • インターネット人口は3億人から6億人へと倍増する見込み。
  • 人口の半数が銀行システムを利用していない(たとえばメキシコではわずか15%しかクレジットカードを所持していない)。
  • 人々のほとんどが安価なAndroid経由でオンラインに接続している。

注目に値するのはブラジルで、その人口2億人のうち、半数しかオンラインにいないにもかかわらず、すでに主要ソーシャルプラットフォームで世界2位または3位を占めている事実だ。また、データよっては、ブラジル人は(不思議なことになぜかOrkutに端を発して)世界のどの国民よりもオンラインで時間を過ごしているという。

ではベンチャーに関するデータはどうだろうか。ベンチャーキャピタルによる投資はこの5年間で着実な増加をみせている。2015年には過去最高となり、総額5億9400万ドル、182件以上の取引があった。ブラジルは経済的・政治的危機にもかかわらず、調達額と投資額の点でラテンアメリカのベンチャー市場ではトッププレイヤーだ。

Latin American Private Equity and Venture Capital Association(LAVCA)による年半データによると、ラテンアメリカでのベンチャーキャピタル取引は前年比で46パーセント増加したという(ちなみにLAVCAは筆者が勤務するOmidyar Networkがサポートする非営利団体だ)。

アメリカ国境よりも南では「大したことは起きていない」と思っているあなたのために、以下に自分が気づいた投資トレンドをいくつか紹介しよう。

シリコンバレーのトップ企業がラテンアメリカで投資を始めた

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ちょうど今年、Andreessen Horowitzがコロンビアの食料品宅配サービスRappiに、ラテンアメリカで初めての投資を行った。

Founders Fundもラテンアメリカでデビューを飾った。投資先は弁護士マッチングプラットフォームのJusbrasilと、フィンテック関連のスタートアップNubankだ。Nubankは昨年にかけてFounders Fund、Sequoia Capital(同キャピタル初のブラジルへの投資)、Tiger Global、KaszeK Ventures、QED Investorsから8000万ドルを調達し、さらに今年に入ってゴールドマンサックスによる5200万ドルの債務投資も受けた。

またゴールドマンサックスは今年、ブラジルの物流系スタートアップCargoXに対する1000万ドルの投資も率いた。その際にはValor Capitalと、Uberの共同設立者Oscar Salazarの参加があった。

メキシコではAccel PartnersとQED Investorsが初めての投資を行った。Accelは同国の食料品ショッピングサービスCornershopへのシリーズAで670万ドルを出資したのだ。このラウンドはラテンアメリカで最もアクティブなベンチャーキャピタルの1つ、ALLVPが率いた。QEDはKaszeK、Quona Capital、Accion Frontier Inclusion Fund、Jaguar Ventures(メキシコの投資会社)とともに、融資プラットフォームKonfioに向けた800万ドルのシリーズAに参加した。

メキシコは2015年、資金調達で初めてブラジルを追い抜いた

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2016年上半期には、メキシコの資金調達件数はラテンアメリカでトップとなった。取引数は47件(2015年上半期と比較して4.2倍)で、政府機関であるFondo de FondosとNational Institute of the Entrepreneur(INADEM)がここ数年で提供した資本によって活気づいたところが大きい。

(ちなみに、ブラジルにおけるベンチャーキャピタルのエコシステムも、BNDESFINEPからの政府出資で活性化した経緯がある。また、多数国間投資ファンドFOMINのSusana Garcia-Roblesが、ラテンアメリカ地域における70ファンド以上で個人的にアンカー投資を率いているのも注目に値する。)

今のところラテンアメリカのベンチャー投資ではフィンテックが優勢

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IT関連の投資では、フィンテックが投資額面で2015年には29パーセント、2016年上半期では40 パーセントを占めた。メキシコでは前述のKonfioに加えて、同じく融資プラットフォームのKueskiがCrunchFund、Rise Capital、Variv Capitalなどから1000万ドルを調達した(さらに2500万ドルの借入もあり)。ブラジルではIFCが1500万ドルを調達したGuiaBolsoのシリーズCを率い、KaszeK Ventures、Ribbit Capital、QED Investorsが名を連ねた。興味深いのは、ラテンアメリカでは人口の半数が銀行サービスを利用していないため、ほとんどすべてのフィンテック系スタートアップは直接的、あるいはそうと意図せずとも、市民の金融サービスへのインクルージョンに影響していると言える点だ。

MonsantoやQualcomm、BASFによる大規模投資で、アグテックもヒートアップ中

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ブラジルは、アメリカに次いで世界第2位の農業ビジネス市場だが、ラテンアメリカにおけるアグテックは全くといっていいほど注目されておらず、2011年以降は同地域におけるベンチャー投資の1パーセント以下しか占めていなかった。しかしこれも変わりつつあるようだ。Monsantoが、ブラジルのアグテックファンドBR Startupsに最大9200万ドルを投資することになった。このファンドはMicrosoftがQualcomm Venturesとの協力のもと管理しているものだ。

またQualcomm Venturesは、ブラジルで200万件以上あるすべての農場にドローン1機を配置するプログラムをローンチした。さらにドイツの大手殺虫剤メーカーBASFも、アグテックアクセラレーターのAgrostartを先頃ローンチしたばかりだ。

買収に精を出すブラジルのモバイル複合企業Movile

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ラテンアメリカ関連のデジタルM&A取引については、公に入手可能なデータが十分とはいえないが(これについては現在改善中だ)、現在最も活発に買収活動を行っているのはMovileのようだ。

Movileの子会社で、ラテンアメリカでオンデマンド式フードデリバリーの先陣を切るスタートアップのiFoodは、シリーズFで調達したばかりの3000万ドルでSpoonRocketを買収した。これは過去2年以内で15件目の買収にあたる。

また、メキシコではMovileのオンデマンド式デリバリー・配送サービスのRappidoが、ブラジルでのライバル会社99Motosを合併し、ますます勢いを増している。

注目の集まるアルゼンチン

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新たに選出されたマウリシオ・マクリが大統領となったアルゼンチンでは、起業を促そうと構造改革が進行中だ。

マクリ大統領とNational Secretary of Entrepreneurship(起業庁)長官のMariano Mayerは、起業家精神と新規企業設立の促進を目的とした一連の法案を発表した。このLey del Emprendedor(起業家法)では、起業家はオンラインから24時間かからずに登記して会社を設立できるようになる。Ley de Sociedades de Beneficio de Interés Colectivo(集団的利益に関する会社法)は、持続可能な環境的・社会的影響について定義し、ビジネスを承認する法律としてはラテンアメリカ地域で初めてのものとなる。

加えて、新たに10件のファンドを設立して起業家が資本にアクセスできるようにする計画(このうち3件は今年末までにそれぞれ3000万ドルを調達する予定)や、クラウドファンディングの許可に関する法案も提出予定となっている。これと似た企業の新設を後押しするための法案プロジェクトは、メキシコシティとブラジルでも進行中だ。

<筆者付記>ラテンアメリカのベンチャー資金調達や投資データ、ローカルおよび世界で最もアクティブな投資家と最大規模の取引などについては、LAVCA発行の5年間の動向レポートをお読みいただきたい。最新のベンチャーキャピタル取引をフォローするには、同じくLAVCAが隔週発行するLatAm Venture Bulletinの定期購読をおすすめする。

 

画像提供:LEIRIS202/FLICKRCC BY 2.0ライセンス)

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(翻訳:Ayako Teranishi / website