運転者失神による死亡事故を未然に防ぐウェアラブル―、日本IBMがスタートアップと大企業連携のデモデイ開催

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日本IBMは約3年前からインキュベーションプログラム「IBM BlueHub」を続けている。シード資金調達前後のスタートアップ企業を中心に、IBMが戦略・マーケティング支援、ビッグデータの分析や活用方法、外部メンターによる経営戦略支援などを提供するプログラムだ。2014年末の第1期からこれまで3期を開催。それぞれ5社のスタートアップ企業が参加している。TechCrunch Japanで取り上げたことのあるYAMAPLink SportsはIBM BlueHubの参加企業だ。

IBM BlueHubはもともと「オープンイノベーション」を掲げ、大企業とスタートアップ企業のハブとなることを目指してきていたが、2016年10月からは枠組みを拡大。自動車業界とヘルスケア業界の大手企業とスタートアップ間の連携促進を目指した取り組みを進めてきた。参加企業として大企業側にはアルパイン、アルプス電気、ゼンリン、ソフトバンク、東京海上日動火災保険、大東建託、武田薬品工業などが名を連ねている。

取り組み開始から3カ月と短期間だが、この取り組みの成果のお披露目の場として12月7日に東京・大手町で「Innovation Field 2016」というイベントが行われた。イベントは、みずほ証券、あずさ監査法人の共催、日本IBMは特別協賛という形だったが、ほかにも多くの大手企業、大学、官公庁の関係者らがスピーカーや審査員、あるいは聴衆として参加していた。

ここでは大企業の技術やインフラを活用することに知恵を絞ったスタートアップ側のデモから、TechCrunch Japanが面白いと思った3社を紹介したい。

運転者の体調不良による死亡事故を防ぐウェアラブル

最近、高齢の運転手が突然意識を失って起こる交通事故が報道されることが増えているように感じているが、実際、日本やスカンジナビア諸国の研究調査によれば、全交通死亡事故のうち10%は運転者の体調変化に起因するのだという。多いのは脳疾患(28%)、虚血性疾患(26%)、失神(9%)。

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トラックやタクシーなどプロドライバーは健康診断や運転前チェックを受けてはいるが、こうした突然の体調変化は予見しづらい。そこでsdtechが発表したのは「生体データによる疾患の予兆検知をする」という新サービスだ。

まず、sdtechとは別のスタートアップ企業、Arbletが開発したリストバンド型の血圧測定デバイスをドライバーに付けてもらう。Arbletは無圧迫を特徴とする血圧測定技術を持っている。付けていて不快感の少ない血圧測定技術だ。ここの技術についてはシャープが主催するアクセラレータープログラムで有効性を検証済みだそうだ。

このリストバンドから得られる脈拍、心電図、体温、呼吸数、血中酸素濃度をクラウド上でモニターして、異常が検知されたらドライバーに警告したり、車両を安全に停止させるというのが狙いだ。

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いずれは一般ドライバーにも普及させたい考えはあるが、無圧迫とはいえハードルは高い。そこで当初は運送会社に対して1台あたり月額1000円の総合サービスとして販売する。国内だけで運送会社は6万社、80万人のドライバーが140万台のトラックを運転している。その走行距離は年間480億キロメートルに及ぶという。

sdtechはUI/UXを得意とするシステム開発系のベンチャーだが、今回Arbletのほかにも、安全な通信経路を確保する技術をもつPLANET WAY、カーナビ製品を持つアルパインと組み、自動車向けクラウドインフラの「IBM Watson IoT for Automotive」上にシステムを構築することを検討しているという。

スタートアップ3社と大企業2社というオープンイノベーションと呼ぶにふさわしい枠組みを描いたこともあってか、審査員から最も高い評価を得て、この日のデモデイでは5社による、このプランが最優秀賞を受賞することとなった。

音楽フェスやスポーツイベントの遠乗りでライドシェア「nori-na」

もう1つ、自動車関連で興味深い取り組みを発表したのがZERO TO ONEの「nori-na」(ノリーナ)だ。nori-naは、いわゆるライドシェアサービスだが目的がハッキリしている。

サッカーのカシマスタジアムや、FUJI ROCK FESTIVALなどの音楽フェスの会場は、公共交通の便が悪い。そうした大きなイベントには東京など都市圏から向かう人も多いわけだが、こうした人々をマッチングすることで相乗りを実現。利用者はガソリン代と高速代を割り勘する形になる。

ZERO TO ONEによればメジャースポーツの動員数だけでも年間3450万人。マッチングは、好きなスポーツや乗っているクルマの種類などのデータから相性診断を行った上でランキングで表示。この相性診断部分でIBM Watsonをバックエンドに使っているのだそうだ。サービスは10月にリリース済みで、来春からはプロスポーツチームとの協業も予定しているという。

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アプリで脳梗塞再発率を34%から2.8%に下げる「Mystar」

名古屋大学医学部発ベンチャーとして発表したプリベントの「Mystar」(マイスター)は、脳梗塞の再発予防アプリだ。

脳梗塞は5年間で30%が再発すると言われるほど再発率が高いが、実は生活習慣を改めるだけで再発率をガツンを下げることができる。毎日少しずつ運動しろ、正しく食べろ、ということだ。

2013年に論文発表もした名古屋大学が行った追跡研究調査によると、通常の外来診療だけのグループと「指導」を実施したグループとで、それぞれ脳梗塞患者の5年間での再発率が34.3%、2.8%と大幅な違いが出たそうだ。指導というのは運動と食事についてで、指導を受けた脳梗塞患者は歩行数で1日あたりプラス2228歩、食事で食塩摂取量がマイナス1.3グラムと「良い生活」を送った。脳梗塞は動脈硬化で起こるから生活習慣の改善には劇的な効果があるのだ。

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プリベントの狙いは、この研究結果のような指導をアプリ化して、個々人にあったアドバイスやプログラムをチャット型ナビゲーションと教材で提供していくこと。プリベント創業者で代表の萩原悠太氏は「人間にできた指導が、どこまで自動化できるかはチャレンジ」としていて、細かく聴取した患者ごとの違いに対して、どれだけ細分化した健康作りの方策を提供できるかがカギとなるだろうと話している。

こうした健康系アプリが難しいのは継続利用するインセンティブがユーザー側にないこと。ただ、プリベントは、これまで多くのアプリやサービスが対象としていた「健康層」や健康に関心がある層ではなく、発症手前の未病層から、現に疾患を患っている患者にサービスを提供する。すでに発症している人は再発リスクを周知することでニーズは高いだろうという。プリベントの萩原CEOは「一病息災。それが医学部発の自分たちの役割と思っている」と、従来サービスとの違いを指摘する。

サービス提供方法としては、生命保険会社を通して患者にリーチしていくとして、2020年までに生活習慣病の1%の30万人に使ってもらうことを目指すという。

プリベントのMystarはInnovation Field 2016ヘルスケア部門の最優秀賞に選ばれた。

Innovation Field 2016のデモデイは、このほかにもカーメンテナンス(給油・洗車)のUberとも言うべき「Cuculus」(キューユー)、スマホカメラによる皮膚の連続撮影で心拍数や、そのゆらぎを測定してストレスを推定する「COCOLOLO」(WINフロンティア)、運転者とリアル店舗を結ぶクロス・マーケティングの「OTOKU Drive」(Switch Smile)、家族向けドライブ向けの手のひらサイズのパーソナルロボット「ZUKKU」(ハタプロ)などが発表した。また、全国に賃貸住宅を95万戸もつ大東建託は、イサナドットネットテクニコルトラヴォスクオリアらスタートアップ企業とともに賃貸入居者向けIoTサービスの構想を発表していた。今回のデモデイを通して、相乗りサービスのZERO TO ONEとプリベントに対してTechCrunch Japan賞をお贈りさせていただいた。