3メガバンクと生保がbitFlyerと資本提携、金融システムはブロックチェーンに置き換わるのか?

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bitFlyerは、三井住友銀行グループ、みずほフィナンシャルグループ、第一生命を引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施した。調達額は3社合わせて約2億円と日本経済新聞は伝えている。

bitFlyerは2015年8月に三菱UFJキャピタルから資金調達しているので、今回の増資により日本の3大メガバンクのすべてと資本関係を結んだ形となる。その背景には、メガバンク各社がブロックチェーン技術の導入へ向けた検証、検討を進めていることがある。

2016年11月30日、デロイトトーマツグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループが「国内の銀行間振込業務におけるブロックチェーン技術の実証実験に係る報告書」と題する文書を公開している(関連記事)。報告書では、日本の市中銀行を結ぶ全銀システムにブロックチェーン技術を適用するメリットがあると結論付けている。この実証実験で使われたのが、bitFlyerが独自開発したプライベートブロックチェーン技術Miyabi(関連記事)だ。

この実証実験と今回の増資が直接結びついている訳ではないが、3大メガバンクと生保大手の第一生命がbitFlyerとの資本関係を持った背景として、各社が次世代の情報システム基盤としてブロックチェーン技術を真剣に検討しているということは強調した方がいいだろう。

各社の検討対象となっているのは主としてプライベートブロックチェーンである。念のため記しておくと、プライベートブロックチェーンは情報システムの一部なので運用主体を持ち、仮想通貨発行は必須ではない。運用主体がなく仮想通貨発行のインセンティブにより機能するパブリックブロックチェーンとは大きく異なる技術なので、両者は区別して考える必要がある。

なぜ、大手の銀行や生保がブロックチェーンに注目するのか

ブロックチェーン技術は議論が多い分野だ。なぜ、プライベートブロックチェーン技術が銀行や生保のシステムに役に立つのだろうか?

bitFlyer代表取締役の加納裕三氏は「消せない、落ちない、安いデータベースには意味がある」と話す(なお加納氏は「ブロックチェーンはデータベースの一種だ」と説明する立場を取っている)。加納氏の意見では、データベースとして見たブロックチェーン技術には(1)分散型であること(可用性がきわめて高い)、(2)内容がimmutable(不変)であること(耐改ざん性がきわめて高い)、(3)ビザンチン障害への耐性があること(ある比率までのノードが乗っ取られ悪意を持つ挙動をしたとしてもシステム全体には影響を及ぼせない、高度な耐障害性を備える)という特徴がある。これらの特徴が、信頼できる分散型台帳を実現する技術としてブロックチェーンが期待されている理由だ。それは銀行や生保が必要としている情報システムの要件とも重なっている。

全銀システムの次世代版への要求の中でも重要なものが、システミックリスク(金融機関の決済不履行が連鎖して危機が拡大するリスク)を押さえ込めることだ。そのためには遅延決済ではなく即時決済にすること(リアルタイム決済)が求められる。それも、一部の大口決済だけでなく全取引をリアルタイム決済にできた方がいい。また、口座残高と送金指示が帳簿上バランスするように設計することで不正な決済の可能性を減らすことができれば、さらに良い。

bitFlyerが開発したプライベートブロックチェーン技術Miyabiの場合、前述の高度な可用性、耐改ざん性、耐障害性の3要件に加えて、全銀システムの要求に耐えるトランザクション処理性能(秒間1500トランザクション以上)を確認しており、また帳簿上の残高を確認する「通貨型」(これはビットコインのデータ構造であるUTXOを参考にしたとのこと)をサポートし、ファイナリティが確保した(挙動が確率的ではなく確定的な合意アルゴリズムを独自開発したとしている)。これらは次世代の銀行間送金のシステムの基盤となることを想定した要件といえる。

また保険会社の場合、例えば保険証書をブロックチェーンにより管理することが考えられる。消えない記録を提供するブロックチェーンはこのような用途には適しているだろう。

ブロックチェーン導入をめぐる真剣な検討が始まっている

科学者や技術者にとっては新しい概念を批判的に検討することは仕事の一部である。「同じ要件のシステムを作る場合、プライベートブロックチェーンはベストな選択肢なのか? 他の技術の方が良い結果を出せるのではないか?」との疑問も当然出てくるだろう。この問いに答えるには「どの技術が目的をより合理的に達成できるのか?」の比較検討を進めていく必要がある。Miyabiの詳細な技術情報やソースコードは一般には開示されていないのだが、先に紹介した報告書の存在から明らかなように、水面下での評価検討が進んでいる。「Miyabiは複数のブロックチェーン技術と比較検討して選ばれた」と加納氏は語っている。

プライベートブロックチェーン技術のメリットを一般化するなら、先に挙げた複雑な要件(高度な可用性、耐改ざん性、耐ビザンチン故障、一定水準のトランザクション処理性能、「お金」を扱うためのチェック機能)をひとつのソフトウェアプロダクトの標準的な利用方法によりワンストップで提供できること、と言える。銀行や生保のような大規模な情報システムでは、システム全体の複雑性によるコストとリスクの増大が大きな課題となっている。上記要件に加えて、「複雑性を抑え込めること」には大きな価値があるのだ。

逆に言えば、別の技術が上記の要件をより少ない複雑性、コスト、リスクで提供できると分かれば、それが採用される可能性もあるだろう。

大事なことがもうひとつ。新技術が普及する過程では、技術の可能性を信じて能力を発揮する技術者グループの存在が欠かせない。まだ少数派かもしれないが、ブロックチェーンに可能性を感じて取り組む技術者たちは存在している。しかも皆、忙しそうだ。

はたしてプライベートブロックチェーン技術が社会インフラとして受け入れられるかどうか。その答は、今回の記事で取り上げた各社を含めて技術検証が一段落付いて、システム構築プロジェクトが本格化する頃には見えてくるだろう。仮想通貨ビットコインの技術をお手本として日本のスタートアップ企業が開発したプライベートブロックチェーン技術が、次世代社会インフラの基盤を提供する可能性があるのだ。