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ムーアの法則が曲がり角を迎えた今、コンピューティングはどうなって行くのか

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【編集部注】著者のMark PapermasterAMDのCTO(最高技術責任者)兼上級技術担当副社長である。

私たちは、コンピューティングの真の変化を迎え、テクノロジーと接する手段が変化していく日々の真っ只中にいる。

埋め込みセンサーとインターネット接続性が次々に取り込まれることで、私たちの利用する多くの機器が「スマートデバイス」へと変化しつつある。それらの機器は私たちの声に応答することが可能で、その一方で大量のデータを生成し、ネットワークの端にあるハブコンピュータや、クラウドの中でデータの解析が行われている。

私たちは、仮想ならびに拡張現実(VR / AR)の応用がまさに始まりつつあることを目撃している。よりリアルな体験を得るためには、それらのテクノロジーは膨大な計算とグラフィック処理を必要としている。これは、大量のデータをふるいにかけて、タイムリーでコンテキストにふさわしい情報を提供したり、日々のありふれた仕事を引き受けることができるように教育できる機械学習アプリケーションの、驚異的な進化と強く結びついている。これらの新しいアプリケーションは、より手頃な価格レベルでより多くの計算能力を提供するために、業界に挑戦している。

この増え続ける多くの計算需要に対する供給が、特に困難なものだ。半導体の進化を示すムーアの法則(Moore’s Law)のペースが鈍化しているからだ。

ムーアの法則とは、より高いパフォーマンスとエネルギー効率を実現し、回路サイズも縮小しながら、約2年ごとにチップ上のトランジスタ数が倍になるという傾向として定義されている。かつては、それぞれの世代の半導体テクノロジーは、次世代のコンピュータチップを安くそして速くすることができるということに、疑いを抱いていなかった。

しかし物理学の法則を欺くことはできず、私たちは物理的に設定されたトランジスタの微細化の限界に突き当りつつある。それでも新しい半導体技術群が、まだ今後10年の間には更なる小型化と省電力化をもたらすだろう。しかしそのコストは増大し、速度に関してはこれまでのような改善は期待できない。

物理学の法則を欺くことはできず、私たちは物理的に設定されたトランジスタの微細化の限界に突き当りつつある。

ということで、私たちはムーアの法則によるこれまでの改善速度が鈍化する一方、新しい計算集約型のアプリケーションが指数関数的に増大する能力を求めるという、対立的図式に直面しているのだ。これは、より多くのデータとデータ処理、更なるリアルタイム情報、およびより素早いサービスを飽くことなく求める消費者たちの需要によって、突き動かされている。自動運転車、ドローン、ロボットといったものすべてが、大規模でよりリアルタイムな、情報の処理、推論、そして解釈を必要としている。

フェールセーフ動作や迅速な応答性のためには、計算を全てクラウド内で実行することはできない。私たちは計算がネットワークの端を離れ、さらにユーザーに近付く必要性があると考えている。スマートアプリケーションとAR/VRインターフェイスの登場が、車そして、家庭やオフィスの中で、クラウドとの接続は行いつつも、手元での高い計算能力を必要としている。

数百万もの「モノのインターネット」デバイスの中にすみずみまで埋め込まれたセンサーたちが、私たちの生活と仕事のデジタル化と歩調を合わせて、データ量の爆発を招いた。この巨大なデータ宝庫が、膨大な量のデータのリアルタイム処理と分析の必要性を導いている。私たちは、情報を視覚化して重ねたり、私たちがいる環境の周りにイメージを混在させて表示できるような、ハイブリッドVR/AR空間で、そうしたデータを利用したいのだ。そのような需要は、私たちがテクノロジーとのインターフェイスを行うやりかたを根本的に変え、さらなるテラフロップス計算パフォーマンスを必要とする。

この計算パワーは、仮想ならびに拡張現実をリアルな映像としてレンダリングすることを可能にし、コンテキストに関連した情報や映像を、実世界のビューの上にオーバーレイ表示する。

ロイヤルカレッジ医学校(The Royal College of Medicine)では、既に手術をVRで記録しており、そしてARオーバーレイが、外科医のより正確な手術を助けるために、リアルタイム情報を提供することも容易に想像できるだろう。これらは本当にディスラプティブ(破壊的なほどに革新的)なアプリケーションだ。

もしコンピューティング進化の速度がこのままならば、こうしたディスラプション(破壊的革新)が多くの産業に次々と影響を与えて行くことだろう。しかしムーアの法則が鈍化するこの時代に、速度を維持するためには、どのようにすることが最も良い方法なのだろう?どのようにより多くの計算能力を提供して行くのだろうか?

将来のパフォーマンス向上を促すために、エンジニアたちに操作できる沢山のレバーがあることが判明している。これは私が「ムーアの法則プラス」(Moore’s Law Plus)と呼んでいるものだ。それは、エンジニアたちがよりクリエイティブで学際的になり、そして異業種コラボレーションを推進することを求める。ムーアの法則プラスは、主に4つの要素に基いて技術革新のための扉を開く。

  • 新しいコスト効率的なパッケージングおよび相互接続技術と、より小さな半導体デバイスの統合。これは、斬新な方法でチップ技術をまとめる柔軟性をもたせる。
  • 専門アクセラレータと共に、計算プロセッサ(CPU及びGPU)のヘテロジニアス(異なる種類)な組み合わせを利用し、先進的なメモリからデータをこれらのエンジンに送り込む。
  • プログラミングを容易にしヘテロジニアスな計算資源の利点を活かす、オープンソース・ソフトウェアと開発フレームワーク。
  • 機械学習、データ分析、およびVR / ARのためのレンダリングといった高度な計算を使うアプリの開発を容易にするソフトウェアアプリケーションのエコシステム。

ムーアの法則プラスの時代には、大学と産業界が、パフォーマンス向上のためにこれらのレバーを操作する。製造の最前線では、極端紫外線リソグラフィ(Extreme ultraviolet lithography)が小さなプロセスノードを推し進めるために有効な役割を果たし、新しくより小さなトランジスターへと導くだろう。これらは、新しい低抵抗の金属構築物と一緒に配線される。半導体の製造に更なる進歩があるだろう。

PC上であるかモバイル上であるかを問わず、将来のアプリケーションはより多くのメモリを必要とする。サーバーの場合には、特に機械学習、仮想化アプリケーション、およびデータベース処理などの特定のワークロードが、より多くのメモリに対する貪欲な需要を持っている。しかし、メモリの対前年比密度の上昇は鈍化している。こここでも、イノベーションが、新しい不揮発性メモリおよびスタックドメモリで見ることができるような、新しい拡張へと導くのだ。

1つの有機パッケージに複数のダイを接続するための、より安価なパッケージングテクノロジーの進化もある。CPU、グラフィックス、スタックドメモリなどのチップ要素が、下支えするウェハーなしに接続される、3Dダイスタッキングがもっと増えるだろう。さらには、光接続をダイに対してネイティブに行うことのできる技術も現れ始めている。これらは、パフォーマンスのためだけでなく、システムデザインの柔軟性にとっても重要だ。そして電源を切ったときに、コンテンツが失われないように、より深く密度の高い不揮発性の永続的メモリに効率的に接続できる、新しいコンピューティングへのアプローチのためにも。

私の見解では、ムーアの法則プラスの18〜24ヶ月の成長率にとどまるための努力は、これらの新しいアプローチを簡単にプログラムできるようにできなければ、全て無駄なものとなる。CPUのためのエコシステムはそこにあるが、もしGPUや他のアクセラレータを活用したいなら、オープンアプローチが必要だ。独自のアプローチを取るものもあり、それは動作してはいるものの、コスト高だ。

AMDはHeterogeneous Systems Architecture(HSA:ヘテロジニアスシステムアーキテクチャ)財団を共同設立して、これらの異なる技術(CPU、GPU、そしてFPGAなども含む固定機能アクセラレータなど)が同時に働き、メモリを共有し、システムの立場から最適化されることを目指している。

ムーアの法則プラスの世界での進歩を継続するには、複数のメーカーによる半導体産業を横断した共同エンジニアリングと協力的アプローチが必要であり、大学とも協働して、更にはプログラミングを容易にする環境を作成するためのオープンスタンダードが必要だ。これが、企業たちがより多くのトランジスタを加え、コストカーブを管理することができると私が信じている理由だ。

これら全てを合わせれば、コンピューティングの更なる加速が実現される。ムーアの法則プラスならば、ムーアの法則の速度に遅れをとることはなく、ディスラプションに燃料を加え続けることができる。

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(翻訳:Sako)