1億ドル企業は過小評価されている――身の丈にあった資金調達の重要性

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【編集部注】本記事はFounder CollectiveのEric Paley(マネージング・パートナー)とJoe Flaherty(コンテンツ&コミュニティ担当ディレクター)によって共同執筆された。

ユニコーン企業中心の現在のスタートアップ界では、成功の定義が大きく変わった。10億ドル規模のエグジットがもてはやされる中、かつては成功と考えられていた数字の価値が下がってきてしまったのだ。実際、自分が設立した企業を1億ドルで売却出来る確率は、純粋な可能性としては極めて低い。しかし今日では、1億ドルという数字は成功と呼ぶには小さすぎると考えられてしまうことが多々ある。

もちろん全員がこんな歪んだ見方をしているわけではないが、驚くほど多くのVCや業界関係者が、数億ドルのエグジットでは騒がなくなった。

一方で、刺激を追い求める現代社会で上記のような変化が起きているのは、そこまで驚くべきことではないとも言える。政治記者が州政府よりも大統領や最高裁判所について書きたがるように、テック記者はミリオン企業ではなく、ビリオン企業を求めているのだ。10億ドル規模のファンドは、各スタートアップに5000万ドルをつぎ込むのもいとわず、1億ドル程度のエグジットは成功どころか残念賞くらいにしか考えていない。そう考えると、1億ドルちょっとのエグジットは大型のアクハイヤー(人材獲得を目的とした企業買収)のようにさえ見えてくる。

この考え方がどれだけ歪んでいるかを確かめるため、私たちはここ数十年間に成功をおさめたファウンダーの中でも、その後VCになった人たちにフォーカスした調査を行うことにした。さまざまな分野で活躍するVCから、起業経験を持つ63人の投資家をピックアップしたところ、10億ドルを超える金額のエグジットを経験した人の数はたった11人だった。

素晴らしいスタートアップを創設した著名投資家はたくさんいるが、今の歪んだ基準で見ると、彼らの経済的な成功度合いは”そこそこ”ということになる。例えばY CombinatorのPaul Grahamは、過去10年でもっとも影響力のあるVCの1人だが、彼が設立したViawebは”たった”4900万ドルで売却された。現実的な基準で考えると、Viawebは間違いなく成功したビジネスだったが、今日の派手なサクセスストリーや資金調達のニュースに照らすと、そうでもないように見えてくる。また、Viawebは買収されるまでに250万ドルしか調達していない。しかしGrahamはかなり大きなリターンを得ることができ、このエグジットはその後の彼の将来を左右するような出来事となった。どうやら”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性はあるようだ。

注:このリストには抜けがあるかもしれないので、もしも漏れている人がいれば是非教えてほしい。ドットコムバブル期のエグジット額は正確に評価するのが難しいため、別途出典をまとめている。金額に関する情報が明らかになっていないケースについては、買収額が売却先のマテリアリティスレッシュホールドを下回るという仮定に基いている(出典:Founder Collective)。

過小評価されている1億ドルのサクセスストーリー

自分の会社を1億ドルで売却するというのは、VCだけでなくスタートアップコミュニティ全体からも冷笑されることがある。Mint.comのファウンダーとして有名になったAaron Patzerは、サイトの革新的なUXを評価したIntuitに同社を1億7000万ドルで売却した。彼は「大きく出るかやめるか」いう哲学を信じていなかったのだ。しかしMint.comの売却でひと財産を築いた彼は、その後批判を受けることになる。さらに、1億ドル規模の”小さな”エグジットに対する軽蔑心がスタートアップ界に蔓延するあまり、Urban Dictionaryには自分の企業を低すぎる価格で売却することを表す表現さえ登録されている。「Pulling a Patzer」というフレーズで調べてみてほしい。

私たちの投資先が大手テック企業に1億ドル強で買収されることが最近決まった。私たちは短期間で大きなリターンをあげることができ、共同ファウンダーたちは昨年のレブロン・ジェームズの年収を上回るほどの金額を手にした。現実的に見て、この売却は当該企業にとっては最善の結果であっただろうし、関係者全員にとっても大きな成功と言えるものだった。

ユニコーン企業の存在にとらわれている現代のスタートアップ関係者が、もしもこのエグジットを失敗と考えるのであれば、彼らのビジョンには問題があるし、最悪の場合は単に皮肉を言っているようにさえ映る。

「大きく出るかやめるか」という崩壊したロジック

私たちはなるべく早くエグジットを目指したほうが良いと言っているわけでもなければ、自分の会社の可能性を低く見積もれと言っているわけでもない。私たちは次なるUberやGoogleやFacebookに投資したいと考えている。しかし現実として、全ての企業が彼らのような規模になるべきだとは言えない。これほど多くの(元起業家の)VCが、ユニコーンのステータスには遠く届かないようなスタートアップで成功をおさめられたのは、早い段階でのエグジットという選択肢を残せるような評価額で、適切な額の資金を調達していたことが関係している。

シードステージで将来10億ドル規模のビジネスに成長するであろうと思えるようなアイディアも、その道中で予想外の障壁にぶつかることがある。身の丈にあった資金調達を行ってきたスタートアップにとって、この障壁が生死を分ける問題になることはほとんどない。しかし残念ながらほとんどのVCは、その規模のせいでポートフォリオ企業のいくつかを10億ドル以上でエグジットさせなければいけないのだ。そのためVCは必要以上の資金をスタートアップにつぎ込むものの、企業が思い通りに成長しなければ、現実的かつ実り多いエグジットの可能性が無くなってしまう。

例えばあなたの企業が、前年度に1000万ドルの売上を記録し、直近のラウンドで5000万の評価額がついたとしよう。人気の業界にいるこの企業は、売り上げを今年度中に倍増しようと考えているが、利益は薄く、なかなかユニットエコノミクスも成立させられないでいる。普通に考えると、この企業が次回のラウンドで達成できるのは、プレマネーの評価額が8000万ドル、そして調達額が2000万ドルといったところだろう。

”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性があるのだ。

しかし今日のVCは、企業が成長している様子や市場の盛り上がりを見るやいなや、ファウンダーに「大きく出るかやめるか」と言い聞かせようとする。すぐにでも手元に残った2000万ドルを投資しようとしている(次なるファンドを組成するために手元資金を使いきろうとしている)このVCは、先述の現実的な数字の代わりに、2億6000万ドルの評価額で4000万ドル(うち半分を当該VCが出資)を調達するようファウンダーを説得するのだ。そうするとポストマネーの評価額は3億ドルになり、VCが求めるようなリターンを実現するには、この企業を10億ドルで売却しなければいけなくなってしまう。

1000万ドル程度の売上と薄い利益しかないにもかかわらず、この企業は5億ドルのエグジットというオプションを捨ててしまったのだ。もしも調達額が少なければ、5億ドルのエグジットでも関係者全員がハッピーになれていたはずだ。恐らくこの企業のバーンレートはその後上昇し、さらなる資金調達が必要になってくるだろう。もしもインフレした評価額を受け入れられるような売却先が見つからず、VCも輝きを失いつつあるこのビジネスへの投資をやめたとすると、かつては将来有望と考えられていた企業が倒産してしまう可能性もあるのだ。

ファンドの規模が全てを物語る

1億ドルのエグジットを実りあるものにするためには、過度な資金を調達しないように細心の注意を払わなければいけない。自由が欲しければ戦略的な資金調達を行わなければいけないのだ。これは自分の企業にあった投資家探しからはじまる。Founder Collective パートナーのDavid Frankelは「ファンドの規模が全てを教えてくれる」とよく言っている。かなり大雑把な目安として、スタートアップは少なくとも投資を受けるファンドの規模と同じくらいの金額でエグジットできるようにならなければいけない。例えば5000万ドル規模のファンドから資金を調達した場合は、1億ドルでのエグジットでなんら問題ない。しかし10億ドル規模のファンドから資金を調達したとすると、エグジット時の期待値も膨大な額になるため、投資家選びは慎重に行い、どんな契約を結ぼうとしているのかしっかり把握するようにしたい。

1億ドル規模のスタートアップは恥ずかしくない

テック企業の大半は1億ドル未満で売却されているし、実のところ、必要最低限の資金を調達し1億ドルで事業を売却できれば御の字だ。元起業家のVCの多くも、自分たちのスタートアップを売却したときはこれが成功だと考えていた。ファウンダーにとっては、数千万ドルでのエグジットの方が、数億ドル、はたまた数十億ドルのエグジットより儲かるケースさえある。

ある程度成功したスタートアップを売却すれば、ファウンダーは残りの人生を心地よく過ごせるくらいのお金を手にすることができる。中には新たな事業をはじめる人もいれば、後に世界的に有名になるアクセラレーターを設立する人もいる。実際に多くのファウンダーが、起業家の世界における”まぁまぁの”成功をおさめた後に、ベンチャーキャピタルの世界で素晴らしいキャリアを築いているのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter