日本ユニシスがCVC設立、50億円のファンドで7月にもスタートアップ投資を開始へ

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老舗の大手ITサービス企業、日本ユニシスがスタートアップ投資を始める。すでに5月19日に、いわゆるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)としてキャナルベンチャーズ株式会社を設立済みで、専任2名、日本ユニシスの本業との兼務3名の体制で7月にもスタートアップ投資を開始する。ファンド規模は50億円。この1号ファンドへ出資するのは日本ユニシスのみだが、キャナルベンチャーズ設立の立役者でありCOOに就任する元日本ユニシスCTOの保科剛氏によれば、2号以降のファンドについてはLP出資を募る可能性もあるという。

キャナルベンチャーズ代表取締役COOの保科剛氏(右)とキャナルベンチャーズ取締役CSOの浜田大輔氏(左)

50億円のファンドの3分の1は日本、米国、アジアのVCへのLP出資をする。残りの3分の2をスタートアップへ投資していく。「投資の中心はシリーズA以降。ただ、シード・アーリーステージでも良い関係性が築けるのであれば投資していく」(保科氏)という。50億円の1号ファンドで40〜60社程度のスタートアップ企業に投資していくことになる。CVCとして協業による事業シナジーのある投資をしていくが、「しっかり関係性ができて、より大きなシナジーを作っていく場合にはユニシス本体側からの出資というのもある」(保科氏)という。

日本ユニシスは1958年設立の老舗で、CRMやERPといったパッケージを企業へ導入するSI事業のほか、エネルギー、医療、製造、農業、金融、運輸、建築など多くの産業で利用される、いわゆる基幹システム、情報系システムを手がけている。2016年実績で売上高2822億円、営業利益143億円の大手SIerだが、最近の日本ユニシスは「SIからプラットフォーム」へという目標を掲げていて、今回のCVC設立もその文脈の中で理解することができる。

日本ユニシスは大手企業の基幹系システムを保守・運用する立場にあるので、各産業のプレイヤーが持つデータを預かる立場にもある。一方で、顧客のエクスペリエンスに近い場所での知見やデータというのは、小回りが効いてネットネイティブのスタートアップ企業が作るもののほうが優れていることが多く、顧客周りのデータもスタートアップのほうが良いものを持つことがある。そこで大手事業会社のデータをAPIで開放してスタートアップ企業と協業を進めるなど「橋渡し役」ができるのではないか、というのが保科氏らの考えだ。大企業が持つ基幹システム並みにセキュアな形でデータを集めるのはスタートアップには荷が重いのではないか、ということもある。

例えば現在、インバウンド旅行者向けサービス領域で多くのスタートアップが出てきているが、切符の手配や、宿の空き状況の照会といったことができれば、これはスタートアップにとってもメリットが大きいだろう。すでに金融系ではAPIによるメガバンクとスタートアップの連携が起こり始めているが、日本ユニシスが他の産業でも同様のAPI化を推進しつつ、スタートアップ企業との協業を進めれば同様の連携が広がる可能性がある。

API連携による協業だけであれば、API利用料という小さな話にしかならない。そうではなく、日本ユニシスにとっても、協業することになるスタートアップ企業にとっても、双方に事業益が増える形で作っていくことを考えたときには出資という関係性が必要だと判断した、というのがCVC設立の背景だ。

60年に渡って多くの業種でシステムを手がけてきたことから、幅広い販路を持つことと、官公庁とのパイプによるロビイング活動ができることも、スタートアップ企業との協業で日本ユニシスがメリットを提供できるポイントだという。最近の日本のスタートアップ界隈でもFintechを中心として、官公庁詣でを厭わない起業家が増えている。それでも「スタートアップ企業はもっとロビイング活動をすべき」と保科氏はいう。CVC設立以前からVCや起業家との付き合いも多かった保科氏は「大手企業に売り込みたいとか、経団連に行って話をしたいとか、規制の相談に乗ってほしいなど、これまでにも橋渡しの相談役をやってきた」そうだ。

日本ユニシスが投資だけにとどまらず、スタートアップ企業をM&Aで買収するようなことは数年後に起こるだろうか? 保科氏は明言を避けたものの、一般論として「日本の中ではM&Aは増えるべきだと思っている」と話している。ネット系企業に加えて、日本の伝統的大企業がエグジット先になり得るとなれば、これは起業家やVCにとって朗報となりそうだ。

余談だが、キャナルベンチャーズという名前は、豊洲にある日本ユニシス本社から見下ろす豊洲運河から連想したもので、スタートアップ界のプレイヤーと大手事業会社の「橋渡し」という意味合いも込めているという。

これぞ伝統的日本の大企業という立派な「応接室」から、ひとけのない豊洲の大通りや運河を見下し、遠く都心のほうへ目をやると、どうにも大企業とスタートアップ企業との文化的、言語的な距離の大きさを思わずにいられない。CVC設立にあたってジーンズ禁止の社内規定と戦うことになったと苦笑いする保科氏だが、そんなエピソードにも大企業とスタートアップ界の「分断」と、それを乗り越えようという意気込みを感じる。

日本ユニシス内でCVC設立に向けた検討は1年ほど前から本格化し、社内的には「出島」のような位置付けとなっているそうだ。日本ユニシスの「参戦」によって、言語や文化の違いを超えて、日本の大企業が外部から新しいものを吸収する機運が高まればと思う。逆にスタートアップの起業家にとっても大手企業(大口顧客!)への扉が1つ開きやすくなったのだとしたら、これは歓迎なのではないだろうか。