Deep Binary Tree
エイシング

深層学習とは異なる機械学習モデル「Deep Binary Tree」を開発するエイシングが約2億円を資金調達

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人工知能の活用と聞くと、先日トップ棋士に連勝して引退を表明したAlphaGoのDeepMindや、IBM Watsonなどがまず思い浮かぶだろうか。日本でもPreferred NetworksNextremerといったAIベンチャーのほか、さまざまな企業が機械学習モデルの開発やサービス提供に乗り出している。これらの企業で採用されている機械学習モデルの共通点は、ディープラーニング(深層学習)を利用しているところだ。

ところが、エイシングが提供する「Deep Binary Tree」は、ディープラーニングとは別のアルゴリズムを採用した、独自の機械学習モデルだという。そのエイシングが6月21日、テックアクセルベンチャーズが運営するファンドを引受先とする第三者割当増資により、1億9800万円の資金調達を実施したと明かした。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏は、2007年、早稲田大学大学院修士課程在学中に、エイシングの前身となるベンチャー企業・ひらめきを創業。卸売・小売・医療機器販売事業のかたわら、水面下で人工知能の研究開発を進めていたそうだ。2016年12月、ひらめきからAI開発事業をスピンアウトする形でエイシングを設立。岩手大学准教授の金天海氏とともに開発した独自のAIアルゴリズム、Deep Binary Treeの提供を行っている。同社は2017年2月には、日本総合研究所が主催するアクセラレーションプログラム「未来2017」のピッチコンテストで日本総研賞を受賞している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏

Deep Binary Treeは、機械学習モデルではあるもののディープラーニングとは異なるアルゴリズムで動く、機械制御や統計解析を得意とするAIプログラムだ。ニューラルネットワークを使ったディープラーニングでは多数の情報を処理することが可能なため、画像認識や音声認識に強く、囲碁の対局など複雑なタスクにも対応できる。ただし学習精度を高めるためには、エンジニアが適切な学習データを与えたり、パラメーターの調整を行ったりする必要がある。また計算量も多く、時間もかかる上に、一度できあがったモデルで最適化されると動的な応用は難しくなる。例えば物をつかむ学習を行ったロボットアームが、缶をつかむ学習を強化して最適化されると、ビンをつかむことが難しくなってしまう、といったことが起こる。

Deep Binary Treeでは、ディープラーニングのような大量の入力には対応していないため、画像の解析などには使えない。しかし、機械制御や統計解析の分野では高精度な学習・解析が可能で、動的な追加学習もできるという。パラメーター調整が不要で学習速度も速く、学習アルゴリズムファイルが約40KB、獲得学習ネットワークが3MB〜50MBと軽量なため、IoTデバイスでのリアルタイム学習も可能。速く、小さく学習して、新たな情報をどんどん覚え直して修正していく、というイメージだ。エイシングでは「ディープラーニングは認識をつかさどる頭頂葉的な働きに近く、Deep Binary Treeは反射的な反応ができる小脳的な働き」と説明している。

ディープラーニングでは発生しやすい過学習問題(ある特定の学習データにモデルが特化してしまうことで、それ以外の新たなデータに対して正しい解を出せなくなってしまう問題)や局所解問題(ある範囲内で収束した解を最適解としてしまうことで、本来の最適解に到達することができなくなってしまう問題)の影響も、Deep Binary Treeでは受けることがない。エイシングによれば、ある機械メーカーで、ディープラーニングによる解析で問題があり、行き詰まっていたところをDeep Binary Treeで解決した例もあるそうだ。

Deep Binary Treeがどういった用途で採用されているのか、出澤氏に聞いてみたところ、機械制御分野では「自動車メーカーのエンジン制御ユニット(ECU)の制御チップの最適化や流体力学シミュレーターに利用されている例がある。また、センサーのオートキャリブレーション、ファクトリーオートメーションでの異常検知や、職人の勘をエキスパートシステム化するための動作データ学習などでも使われている」とのこと。統計解析分野では「金融業界で株価予測や与信調査に採用されたり、コールセンターのオペレーターの需給予測や、本の増刷冊数の予測などにも使われている例がある」ということだ。

こうした大手企業向けのカスタマイズ提供のほかに、エイシングでは、2017年3月からSaaS版Deep Binary Treeも提供を開始している。また出澤氏によれば「AIチップ(SoC:System on Chip)の開発も各社と共同で進める準備をしている」ということだ。海外からの引き合いもあるそうで「グローバルな半導体メーカーや、ヨーロッパの自動車メーカーからも声がかかっている」と出澤氏は言う。

今回の調達資金について、出澤氏は「研究職・技術職の人材確保と営業力の強化、研究開発のさらなる強化に投資していく」と話している。