
このゲスト記事を書いたPaul FisherはヨーロッパのベンチャーキャピタルAdvent Venturesの投資家だ。彼のポートフォリオ企業は、Zong.com、Qype、Adeptra、DailyMotionなど。彼のブログはThe Coffee Shops of Mayfair、Twitterアドレスは@paulfishだ。
最近Appleへの風当たりが強くなっていることを、私は興味深く見守っている。どうやら、App StoreがAppleの致命傷になりそうだ。ここヨーロッパでは、起業家たちもVCの連中も、これはただごとではないと感じている。
Chris Messinaが、いいことを言ってる。彼は、AppleのApp Storeは短命の線香花火だと見ている。なぜならそれは、一私企業の権利下にあるプラットホームだから。誰もが使える共通語や共通の標準規格と違って、一私企業が独占する規格は消費者の利益に反する。アンチMicrosoft派が増えたのもそのせいだ。でも、なぜAppleにアンチの感情を持つ人が増え始めたのだろう?
そこには、人の知性を刺激する3つの側面がある:
1) 行動経済学者と起業家は同じことを言う: 感覚や情緒にうったえる“クールな”製品に人びとは惹かれる
ファッションの購買動機は合理的ではない。自分が持ってるすべてのMP3がAppleの形式なら、誰でも分かるように、そのユーザはAppleブランドに幽閉されている。理性的な行動とは言えないが、多くの人が自ら進んでその牢に入る。しかし今やっと、彼らはそのことに目覚めつつある。そこで、App StoreやiTunes〔それしかない独占ショップ〕に対する不満が爆発する。
虫が這う方向を変えるのは、見ていておもしろい。でも、消費者行動の専門家である行動経済学者にとっては、それはちっとも意外ではない:
“選択は最初のランダムなアンカー(anchor)*によって決まることが多いため、消費者の選択と購買行動は、その製品から得られる本当の快楽や利便性を必ずしも反映していない…。”〔*: anchor, アンカー, ぱっと目がとまり心が惹かれる箇所や特徴、消費者の目や心を固定する‘錨(いかり)’。〕
これを書いたDan Arielyは、起業家たちに“ユーザ選好”について教えようとしているのだ。それは、学問的な分析作業によって理解が得られるものではない。たとえばうちが投資しているQypeは、単純に人が見て好きになる製品を作っている。
行動経済学ではこのことを、Qypeは強力な“初期アンカー(initial anchor, イニシャルアンカー)”を作り出すことに成功している、と言う。開発チームが何を考えていようとも、会社が考えるのはクールな製品を作ることだ。おいしそうな、セクシーな製品、人びとのあいだに情緒的共鳴が起きる製品を。経営学部を主席で卒業して、複雑詳細なスウォット分析(SWOT analysis)で徹夜をするよりも、単純に、人がそれを見たとたん好きになるもの、好感を抱(いだ)いてしまうものを作ることが重要だ。Appleは長年、このワザのベテランだ。
2)Appleは企業競争で優位に立つ方法を教える
Appleは起業家やVCたちに、“クール(cool)”とか“スウィート(sweet)”のような、形のない製品特徴が、投資価値のあるよりベターなビジネスモデルを作り出すことを教えた(たとえばSpotifyは製品の外見やUIを、きれいに、かっこよく、一新することによって投資家たちが投資決断をしやすくした)。
単純化して言うと、AppleはiPhoneの美しさに開発の力点を置き、また人気デザイナーなどにブログでMac Book Airについて語らせるなどのコミュニティ戦略によって、消費者に製品を買わせている。そのような努力の結果として、Appleの製品ははBest BuyやDixonsなどでもPCなど他製品の倍の価格で売れ続けている。
自分のビジネスにとってそれがどんな意味を持つのか、と疑問に思っている起業家には、Joel Spolskyの言葉をプレゼントしたい。このビデオで彼は、Appleは製品を、どきどきするほど美しくすることによって成功した、と主張(論証?)している。だからギークたちも、売り上げや利益を今の3倍にしたかったら、もっと美学を勉強すべきだ。もちろん、出口〔将来の企業売却など〕における企業価値もぐんと上がるはず。.
3) iPhoneのApp StoreはモバイルWebにおける過渡的な存在かそれとも長寿命か?
iPhoneのApp Storeは4年前のモバイルオペレータたちの“刑務所の庭(Walled Garden)”(たとえばVodafone live)とそれほど違わない(過去にあったとしても今は亡きモデルだが、ここでいちいち名前を挙げて業界のあら探しをするつもりはない)。
だから、この“刑務所の庭Mark II”〔iPhone App Storeのこと〕がうまくいってるように見えるのはやや意外だ。すでに消費者は、このような特定私企業のプラットホームに背を向けたのではなかったか?
しかしエコノミストたちはノーと言うだろう。Carlota Perezなら、“刑務所の庭”は市場の“発育期”によくある現象だと言う。それはいずれ失敗するが、アプリケーションの市場が成功するためにはその前段階として欠かせない:
“このような先駆者的な機関がその後の道を照らす。そしてその道の上に、ひたすら増加する外部性やさまざまな条件付けが生まれてくる。そうして先例が築かれると、あとに続く者は楽になる。”
この論理に従うなら、AppleのApp Storeも先駆者的機関の一つだから、それは手段であって、それ自身が目的ではない。Messinaは、(かつてのモバイルオペレータたちの)刑務所の庭と同じくApp Storeも過渡的な発育期に属していて、未来は、今はまだ未完成状態のモバイルブラウザ〔いろんなサードパーティサイトからの直接の自由なアプリケーションダウンロード〕だと言う。なーるほどね。
このような経済理論の起業家にとっての意味は?
モバイルアプリケーションの会社を作りたい人には…それ賢明な起業意図だ…問題はほとんどない。しかし、App Storeだけ用に開発しているデベロッパ企業が今は多い。連中は、ほかに何もしていない。同時にモバイルWebをやっていない。そんなの、賢明と言えるだろうか?
複数のスマートフォン向けに開発しているところもある。Android用もやるし、Apple用もやる。それは今現在、ベターなやり方か? 消費者による“発見”は、GetJarやApp Storeまかせか? それとも直接プロモーションに金を使うか?
それとも、完成されたモバイルブラウザが登場するまではモバイルのことはしばらく忘れるか? どれが正しいやり方だろう?
もちろん、答えは誰も知らない。1年後には分かるかもしれないし、5年後かもしれない。でも、起業家もVCもタイミングが死命を決する。今資金を調達してモバイルの戦場に出向くなら、今の市場に合わせる必要がある。でも、その市場が今後はなくなったり、別の場面に変わるとしたらどうする? 5年後のことぐらい、Appleはすでにちゃんと手当て済みかな、本当に?
うーむ、これは難しい問題だね。この、タイミングというやつは実に難しい。John Maynard Keynes(ケインズ)も言っている:“市場はあなたの資金力が対応できる期間よりもずっと長く不合理であり続けることもある”。
あなたは、どう考えるだろうか。
* Appleに困らされている人たちに関するリンクをいくつか挙げておこう:
[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))
