ベンチャーキャピタルと大学教授と死の谷と
by Vivek Wadhwa on 2009年9月30日

【編集部より:本稿は、起業家出身の学者、Vivek Wadhwaによる寄稿である。同氏は現在UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事を務めている。Twitterアカウントは@vwadhwa。】

誰もが、世界を変える次の大発見を待っているようにみえる。しかし、まさかと思うだろうが、次のインターネットや半導体あるいは革新的MRIテクノロジーは既に発見されているかもしれない。毎日通勤途中に横を通っている大学にある研究室の棚に眠っているだけかもしれない。大学の研究者たちは、自分たちの発見を商業化する術を知らないし、次のLarryかSergeyに会いたいと願っている賢明でハングリーな起業家たちは、彼らを見つける術を知らない。この2つのパラレルワールドは、まず出会うことがない(まあスタンフォードでは起きることもあるか)。

2007年に米国の大学全体で使われた研究費は$48.8B(488億ドル)に上り、1万7589件の米国特許が申請された。同じ年に大学が受け取った特許の契約料または使用料は$2B(20億ドル)に満たない。この収益には、過去40年間にわたってライセンスされたあらゆる研究成果による進行中のロイヤルティーも含まれている。ここから推測されることは明白である。研究室には、夥しい数の価値ある研究成果が残されているのだ。

このことを大学関係者に話すと、驚くほど守りに入る(私が前回の記事で叩いたVCたちと変わらない)。彼らは大学の役割は教育と世界の知識基盤を増やすことにある、と正論を振りかざす。真の利益は、そこで教えられ、AppleやMicrosoftのような会社に行き、会社を起こす学生たちからこそ得られるのだ。議論の余地はない。しかし、閉ざされた大学の研究室の中には、知識やイノベーションの素になる金鉱がある。この金鉱が今後20年の経済成長を支えるのだ。そろそろ金鉱を堀る時が来たようだ。

今週に掲載予定の本稿の第2部では、ちょっとした宝の地図をお見せするつもりだが、その前に必要なのは、別次元に住む人たちをもっと良く知ることだ。大学には、世界で最も優秀な人たちが何人もいる。理学修または工学の修士号(これがあればシリコンバレーで6桁ドル稼げる)を取得した後、最低賃金並みの仕事を4~6年間続けてから博士(PhD)になる。さらにもう10年かけて〈たぶん〉教授になるために、大ていは標準以下の町や村にある格の落ちる大学を転々として働く。こうして終身雇用先を得たPhDでさえ、、業界のベテラン技術者並みの実績を上げられることなど、めったにない。

もちろん彼らは金のためには仕事をしていない。彼らの願望は、知識のための知識を得ることおよび世界のためになることの2つがセットになっているのが普通だ。一部の読者にとっては全く未知の概念だということはわかっているが、学問の世界とはこういうものなのである。ちなみに、ビジネスの世界は、大学研究者の純粋な発見を奪い、ありとあらゆるものに値段をつける「悪の帝国」であると言われるのが常である。

こうした数々の理由により、大学では、知識を広めたり学術論文を載せることの方が、その知識をどう使われるべきかを規定する特許を取得することよりも重要視されている(学界人で、特許は申請しない、なぜなら信用できないからだという人を何人も知っている)。この手の純粋主義者たちは、企業から金を受け取ることで生じる利害の対立によって、自分たちの研究に色が付くことを恐れている。そして自分たちの教育活動が、商業的活動に費した時間によって悪影響を受けない確証が欲しいのである。

さらに事態を悪化させているのは、大学が政府から受ける援助金が、通常はいくつか論文を書く費用にしかならないことだ。プロトタイプを作ったり、テクノロジーを証明できるほどの金額はもらっていない。ほとんどのVCがテクノロジーに投資する前に、自分が「科学プロジェクト」(業界用語で、科学の研究的発見に対する妄信的投資のこと)に投資しているのではないという確証を得るために、最低限見ておきたいのがそれである。大学で生まれるテクノロジーの大部分が埋もれてしまうのも無理はない。この前途有望な実験結果と、投資対象になるプロトタイプとの間や、教授やVCたちにできる事と、やるつもりのある事との間にある溝は、「死の谷」とも呼ばれている。

課題は、そういう研究者たちと、アイディアを発明に変える方法を知っているVCやアイディアを求める起業家たちとの間を、橋渡しすることだ。多くのアイディアやブレークスルーは、容易に活用できるから、必要なのは積極的な気持ちと探求的精神を融合させることだけた。しかし、その他のアイディアには、VCにのみ可能な投資とサポートが必要だ(私はベンチャーキャピタルが重要な役割を果たしてこなかったとは一度も言っていないので念のため。VCが革新を求めなかっただけだ)。

基礎学問的発見を実験室から工場に移すことは、とてつもなく難しい場合があり、大抵はVC資金や、分厚い名刺ファイル、それに法規や業界固有事情の専門家が必要になる。しかし、誰かがそうやって、発見に「科学プロジェクト」の壁を越えさせてやらなければならない。これこそが、起業家が介入して、VCたちに彼らが期待している「据え膳テクノロジー」を手渡してやる場面だ。

デューク大学の同僚であるBarry Myersは、先端バイオ医学の世界的研究者であるとともに、(どういうわけか)あるVCファームでパートタイムで働いている人物だが、私は彼に、冒険心あふれる起業家になるための指針を書くのを手伝ってくれるようお願いした。容易な内容ではないと忠告しておこう。次回は、Barryの話してくれたたことを、解説していくつもりだ。

緊迫の結末は次回へ。

[写真提供:Jon Sullivan]

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi)

  • kigoyama

    ”課題は、そういう研究者たちと、アイディアを発明に変える方法を知っているVCやアイディアを求める起業家たちとの間を、橋渡しすることだ。”

    やりたい

  • http://maclalalalink.wordpress.com/2009/10/01/%ef%bc%92%ef%bc%90%ef%bc%90%ef%bc%99%e5%b9%b4%ef%bc%91%ef%bc%90%e6%9c%88%ef%bc%90%ef%bc%91%e6%97%a5%ef%bc%88%e6%9c%a8%ef%bc%89/ 2009年10月01日(木) « maclalala:link

    [...] ベンチャーキャピタルと大学教授と死の谷と | TechCrunch Japan [...]

  • http://jp.techcrunch.com/archives/20090930shooting-for-the-moon-how-universities-can-turn-innovation-into-companies/ 不可能を可能に:大学のイノベーションを商品化する法

    [...] 前回、イノベーションの鉱脈は、大学や研究施設の棚に積まれた特許と発見の中に眠っているということを書いた。次のiPhoneアプリを作ろうと、先を争うシリコンバレーの起業家たちは、次のインターネットや、画期的なメモリーデバイスや、あるいは伝染病の治療法に繋がるかもしれない初期段階の大発見を無視している。大学では研究者たちが、膨大な数の世界を変えるブレークスルーを発見している。しかし、その実績の殆どは陽の目を見ることがない。助成金の付いた基礎研究の中で、商用ベンチャーになったものは0.1%にも満たない。 [...]

  • http://life.is.ideaful.net/stanford-life/artificial-openness-and-glass-high-walls-of-silicon-valley.html スタンフォード思考分解留学日誌

    シリコンバレーの二面性 – 経験者が語るオープンな雰囲気と見えないガラスの壁…

    昨日Stanfordから車で15分くらいのSushitomi(@Mountain View)で、現在3度目の会社としてMiselu, Incを起ち上げている吉川欣也さんと、東大のイノベーション政策研究センター助教でVisiting ScholarとしてStanford Universityで研究する柴田尚樹さん(いつもお世話になってます笑)とランチをする機会がありました。2日前程に東大院技術経営戦略学専攻の同級生たちがSilicon Valleyに研修で訪れた時に、自分も一緒になって吉川邸を訪問し…

  • http://jp.techcrunch.com/archives/jp-20091201-web-symposium/ [jp] 第1回ウェブ学会シンポジウム

    [...] )による寄稿。大学とTechの現場は切っても切れない関係がある。本誌もベンチャーキャピタルと大学教授と死の谷と、不可能を可能に:大学のイノベーションを商品化 [...]

  • A2013378

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