
新潮社の「考える人」はエッセイ、ノンフィクションをメインとする季刊誌で、各号じっくり練りあげた読み応えのある特集を組む。10/3発売の秋号の特集は「活字からウェブへの…。」だった。
内容はおおまかに言って活字側からのウェブ観とウェブ側からの活字人向けウェブ解説の二本立てになっている。実は滑川も(おそらくは)ウェブ側の一員として「アイコンの銀河系へ」というタイトルでマーシャル・マクルーハンの主著『グーテンベルクの銀河系』の意義を改めて見直す小論を載せている。
巻頭は売れっ子コピーライターから「ほぼ日刊イトイ新聞」というウェブコンテンツビジネスに転身して成功を収めた糸井重里氏のロングインタビューだ。ほぼ日・コルクボードによると、糸井氏は「考える人」の松家仁之(まさし)編集長がお友達だったのでリラックスした雰囲気で話ができたそうだが、「インターネットにはまずエロではまりました」というあたりから柔らかく入っているのは糸井氏らしい。ネットアレルギーのオールドメディア人間にインターネットの本質を説明しようとするときに徹底的にギークな用語を避けて進める糸井氏の「話芸」というか、話の運びと切り口は大いに参考になる。
インタビュー・コーナーではコバヘンことインフォバーンの小林弘人社長もこの二十年の活動を振り返っている。小林氏も若かりし頃は「絵でひく英和大図鑑ワーズ・ワード」などの凝った本を手掛けた生粋の活字人間だった。それが日本初のインターネット・カルチャー・マガジン『ワイヤード』日本版の創刊などを経てしだいにウェブの世界へ入っていく過程がおもしろい。
『日本語の亡びるとき』の水村美苗氏もインタビューに登場している。水村氏は「これさえあれば老人ホームに入ってももう平気」というほどiPodのポッドキャストとYouTubeの動画の愛好家だそうだが、なぜ日本ではポッドキャストが普及しないか、という理由として「日本語は耳で聞いだけでは分からない」という点を上げていた。この点については拙論「アイコンの銀河系へ」でもアルファベット文化に対する日本文化の特異性として触れていたので大いに意を強くした。
偶然だが、「考える人」のこの号には水村氏の『日本語の亡びるとき』の小林秀雄賞受賞が発表されており、抜粋も掲載されている。アメリカ(に限らず、英語が支配する世界)への進出を考えている方にはぜひ『日本語の亡びるとき』を一読していただきたいと思う。水村氏の下した結論について賛否は分かれるだろうが、考えさせるところが多い。
「考える人」秋号を書店で見かけたら手にとってみていただきたい。
