現在登場しつつあるAdobe AirやMozilla Prismのような新しいプラットフォームはインターネットの情報の流れとデスクトップ・アプリケーションのパワーや柔軟性を結び付けようとしている。これによって作られたアプリケーションは、一部はブラウザー、一部はデスクトップ・アプリケーションで、ジャンルによっては極めて効果的な存在になる。
Flash、Silverlight、Ajaxはユーザビリティーを大きく改善させた。 これらのテクノロジーがデスクトップ・アプリケーションを急速にウェブ上に移行させた秘密だ。しかしまだウェブ・アプリがデスクトップ・アプリに全面的に取ってかわるかどうかは不透明だ。この2つの世界の架け橋となるのがAdobe AirやMozilla Prismnのようなプラットフォームなのかもしれない。
Matthew Gertnerは今年に入ってAllPeersが閉鎖されるまで共同ファウンダー兼CTOだった。 現在はMozillaでPrismプロジェクトに携わっている。私は彼にPrismについて寄稿を依頼した。以下のGertnerの記事では、Airその他(Firefox 3, Google Gearなど)、ウェブ・アプリをオフラインでも利用可能にするいくつかのテクノロジーのエコシステムにおけるPrismの位置が解説されている
さらに詳しくはMatthewsのブログ、Just Browsingを参照。
AjaxやFlashビデオのようなイノベーションのおかげで、ウェブ・アプリは急速にデスクトップ・アプリに対抗する地位を築くことができた。 FirefoxとSkypeという大きな例外を除けば、近年のソフトウェアのヒットはすべてFlickr、YouTube、Facebookのようにウェブ・ベースのサービスである。しかしデスクトップ・ネーティブのアプリの最良のケースに比べると、まだウェブ・アプリはユーザーの使い勝手の面でまだまだ対等となるまでに至っていない。これが、当初AppleはSafariをiPhoneアプリ開発のための公式SDKに選定していたのに、結局、撤回せざるを得なかった理由である。これはまたオフィス生産性ツールの分野で、Googleドキュメントが依然としてMicrosoft Officeのような古株のデスクトップ・アプリとの競争で苦闘している理由でもある。ウェブ・アプリは反応速度、処理速度、高度なグラフィックス、ローカル・データへのアクセスなどいずれの面でもユーザーが望むようなレベルに達していない。それにもちろん、インターネットから切断された状態ではまったく作業ができない。
単一サイト・ブラウザ(Single-site browsers = SSB)はウェブ・アプリとデスクトップ・アプリのいいとこ取りをしようという試みである。現在のウェブ・アプリはFirefoxやSafariなどのブラウザ上で、New York TimesやTechCrunchの記事のタブの間に挟まれて実行されている。SSBでは、その代わりに、それぞれのアプリケーションが専用のブラウザのプロセスを割り当てられる。ユーザーがデスクトップでお馴染みであり、利用したがっている機能が、対象サイトに応じてこのブラウザにカスタマイズされて組み込まれる。多くの利点があることは一見して明らかがだ。GmailやFacebookといった常時利用するアプリケーションは(Macの場合)Dock、あるいは(Windowsの場合)タスクバーにアイコンとして格納される。そして、たとえばGmailアイコンの場合、「アイコン中に新着メッセージの数を表示する」という伝統的なデスクトップ・メール・アプリの機能が実現できる。さらに従来の汎用ブラウザで必要だった「進む」、「戻る」のよう余計な要素が必要がなくなり、メニューもはるかにシンプルにできるし、URLバーも隠してしまってかまわない。ユーザーインタフェースのごたつきを最小限に抑えることが可能になる。さらに一見して目につきにくい他のメリットもある。それはたとえば、それぞれのウェブ・アプリがOSから独立のプロセスを割り当てられているため、何らかの原因で一つがクラッシュしても影響が全てのブラウザ及ぶことが避けられる。
Mozilla Prismは単一サイト・ブラウザ(SSB)としてはもっとも古いもののひとつだ。 もともとMozilla開発者のBenjaminSmedberのWebRunnerプロトタイプから生まれたものだ。Smedberが2006年のXTechconferenceでMozillaプラットフォームの能力を実証するデモのひとつとして公開した。これを見た別のMozilla技術者、Mark Finkleが大きな可能性があることに気づいてプロトタイプを引き継いで開発を始めたという経緯がある。 2007年10月に、名称を新たにPrismとして、公式の Mozilla Labのプロジェクトが開始された。ウェブ・アプリ開発のための新たな独自プラットフォームを作ろうとするのではなく、Prismは既存のウェブ・アプリをいかにスムーズかつ容易にデスクトップ環境に溶け込ませるかという点に重点を置いている。
2週間前にリリースされたPrism 0.9は、専用のFirefoxエクステンションに組み込まれて提供される。このエクステンションではユーザーがFirefox3を利用してサイトをブラウズ中にクリック1回でそのサイト専用のSSBを生成することができる。たとえばGmailを開いてFirefoxのメニューから「Convert to Application〔アプリケーションに変換〕」を選択するとGmailのアイコンを表示したショートカットがユーザーのデスクトップの上に現れる。アイコンをクリックすると専用ウィンドウの中にGmailが現れる。ここでDock用バッジだとか、システムトレイアイコン、ポップアップ通知など非常に多様なカスタマイズのオプションが提供される。Prismを利用するとウェブ・デベロッパーは、コードに特別のフックを埋め込んで、ユーザーがアプリをデスクトップ上にインストールした場合に、こういった便利な機能が自動的に含まれるようにすることができる。Prismは依然として開発途上のプロジェクトだが、すでにいくつか初期の成功を収めている。たとえばYahooが買収したZimbraだが、人気のあるウェブ・ベースのメールクライアントのデスクトップ版にPrismが採用されている。
Adobeは2007年3月にアルファ版の「Apollo」プラットフォームを発表した。6月にはベータ版に進歩して名前も「Adobe Integrated Runtime (AIR)」と改名された。AIRはいろいろな面でPrismに似ている。ただし、AirはオープンソースのWebKitレンダリング・エンジンを利用している。(これはAppleのMac用SafariブラウザやiPhoneでも利用されている)。もう一つの大きな違いはAirがHTML、CSS、JavaScriptに加えてAdobeの独自技術、FlashとFlex言語をサポートしている点だ。Adobeが公開したAirアプリケーションのサンプルをざっと眺めただけでもスマートかつ独自のルック&フィールを実現するためにFlashとFlexを多用していることが感じられる。Airの有力な初期採用者には、eBayやAOLのようなビッグネームが含まれる。
もう一つの注目すべきSSBはFluidだ。この製品には非常に豊富が機能が用意されている。Todd Ditchendorfというデベロッパーの個人プロジェクトであることを考えると驚くべきことだ。大きな制限は、作動するOSが「Mac OS X 10.5 Leopard」のみという点だ。もっとも注目すべき機能は「Greasemonkey互換のユーザー・スクリプト」をビルトインでサポートしていることだ。Greasemonkeyになじみがない読者のために説明しておくと、これはアプリがロードされるたびに実行されるシンプルなJavascriptファイルを書くことによってアプリを自由にカスタマイズできる機能だ。 すでに膨大なGreasemonkeyスクリプト が書かれており、GmailからSMSを送信したり、YouTubeから所望のビデオをダウンロードしたり、ウェブサイトから目障りな広告を抜いたりするスクリプトが利用可能だ。この種のユーザー・スクリプトはアプリをデスクトップ版として利用するときに便利なようにユーザーインタフェースを改良することができるので、SSBの場合特に有効だ。たとえば、特定の機能を他サイトへのリンクではなく、SSBアプリのウィンドウ内のメニューバーに変換するなどができる。 長期的に考えると、ウェブ・デベロッパーがアプリをSSBに適合するように改良してくれるよいのだが、短期的にはクライアントにユーザースクリプトを書いて直接機能を追加する方法が利用できるのはよいことだ。
最後に、もう一つの挑戦者Google Gearsを見ておこう。これは当初ウェブ・アプリをインターネットから切り離されたオフラインでも利用できるようにするためのプラットフォームという位置づけだった。しかし現在そのようなGearsがサポートするオフラインで利用できるGoogleアプリといえば、 Google Readerだけだ。プラグインをインストールしたユーザーはニュースフィードをローカルに保存してオフラインで読むことができる。最近になってGoogleのGearsに関する計画は単にデスクトップ化にとどまらずさらに野心的であることが分かってきた。たとえば「デスクトップ・ショートカットAPI」を利用するとGearsのユーザーはデスクトップに置いたアイコンから直接アプリを起動できるようになる。Gearsのデベロッパー、Dion Almaerは将来サポートされるべきAPI―メールなどの通知から暗号化、画像処理までありとあらゆる処理―のリストを書き出している。
こういうものとして、GearsはGoogleがブラウザの世界に大きく進出しようとする意欲の現れと見ることができる。その中には間違いなく単一サイト・ブラウザ(SSB)によるウェブ閲覧も入っているはず。しかし、根強く流れていた噂とは違って、Googleは自身で独自の「Googleブラウザ」を開発するつもりがないことがはっきりしてきた。その代わりに、Gearsは既存のウェブ・ブラウザ(現在Firefox、InternetExplorer、Safariをサポート)に、新たなカスタム機能を容易に追加できるような機能の提供を目指している。この機能はGoogleのアプリだけでなく、サードパーティーも利用できる。GoogleはMS Officeと本当に張り合うためにはウェブ・ブラウザの機能を大幅に強化する必要があることを明らかに認識しているようだ。同時に、全く新しい独自ブラウザを開発して広く普及させるのは極めて困難なことも分かっているGearsというのはこの問題に対処するのになかなかエレガントなアプローチではないだろうか。
SSBというパズルを解く上で鍵になる要素はオフラインでの機能だ。インターネット接続は、将来ユビキタス化するかもしれないが、現状では、ウェブ・アプリがデスクトップ・アプリに対抗していくにはオフラインで作動することが必要だ。HTML 5規格にはオフラインのウェブアプリのスペックも含まれている。これはすでにSafari 3.1とFirefox 3によってサポートされている。Gearsはいろいろな意味で直接のライバルになるが、HTML 5規格の有力編集者の1人、Ian HicksonはGoogleの社員だ。近い将来GearsがHTML 5をサポートすることは大いに考えられる。オフライン機能というのはSSBにとって本質的な要素というわけではないが、この2つを組み合わせた場合にこそきわめて強力なプラットフォームが生まれるだろう
単一サイト・ブラウザーの世界で誰が最終的な勝者になるか、予測するにはもちろんまだ早い。AppleとMicrosoftという巨人も近くこの分野に参戦してくるはずなのでなおさらだ。しかしPrismには一つ大きな優位性がある。Firefoxというキラーアプリの存在だ。PrismをFirefoxの将来のバージョンに組み込めば、Mozillaは急速にこのテクノロジーを1億5千万のユーザーに普及させることができる。一方、AIRはFlashとFlexというテクノロジーのおかげで、ウェブ・アプリのユーザーインタフェースに大いに魅力を加えることができる。ただし、これらのテクノロジーの採用はデベロッパーとってかなりの負担になる可能性はあるのだが。しかしいずれに落ち着くにせよ、アプリケーションを現在のようなタブ・ブラウザから実行する時代が終わりに近づいていることだけは確かだ。
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(翻訳:Namekawa, U)





> ただし、PrismはオープンソースのWebKitレンダリング・エンジンを利用している。
ここ、”Prism” じゃなく “AIR” ですね。
念のため原文も見ましたが、該当する主語 it は明らかに AIR を指しています。
>”Prism” じゃなく “AIR” ですね。
ご指摘のとおり。訂正しました。