[日本語版編集部注:記事は新井俊一氏による寄稿。本誌でも度々伝えているが、例えばY Combinatorスタートアップスクールは大入り満員のように、スタートアップを育てる土壌についてはやはり米国、特にこの記事”共同ファウンダーの見つけ方”にあるようにシリコンバレーは模範的と云えるのだろう。新井氏が - 一人のスタートアップとして - 西海岸で何を感じ、見てきたのか。是非この興味深いレポートをご覧頂きたい。]
皆さん、こんにちは。本稿では、日本語版ゲストライターとして、米国西海岸のソフトウェアビジネスのカンファレンスやセミナーに出席して見聞きしたことのレポートをしたいと思う。
筆者は、11月に米国西海岸で行われたBusinessofSoftware2009というカンファレンスに参加し、また、その前後にサンフランシスコ・ベイエリア(サンフランシスコを中心とするシリコンバレーなどの地域)で行われたセミナーに出席したり、現地の日系起業家に話を聞いてきた。
BusinessofSoftware2009(以下、BoS)は、起業家であるNeilDavidson氏とJoelSpolsky氏によって毎年開催されているソフトウェアビジネスのカンファレンスである。本年はサンフランシスコのウェスティンホテルで開催された。
3日間ぎっしりと講演の詰まったカンファレンスであるため、筆者がとくに印象を受けた部分をかいつまんで記述したいと思う。
カンファレンスは、ビジネス書のベストセラー「キャズム」の著者であるジェフリー・ムーア氏の講演から始まった。
ムーア氏は、イノベーションとは差別化することであり、効率化・最適化とは他社にキャッチアップすることであると述べた。イノベーションでは一点に特化して他社と圧倒的な差をつけるべきであり、キャッチアップでは他社に大きく遅れをとらない程度の努力にすべきだと述べた。
ボトムアップでイノベーションの試みを行っていると、結局どこにも集中できず全くイノベーションの効果がなくなることが多いとも語った。筆者はそうした事例は日本の企業研究所などにありがちであると思う。
研修会社の経営者であるPaulKenny氏は、「セールスストーリー」を作れ、と話した。人が物を買うのは、「欲しいという感情があるから」であり、「欲しいと頭脳で考えたから」ではない、と述べた。
営業社員を雇う前に、起業家が自ら営業を行って、うまくいく営業ストーリーを作るべきであると。人間は、物語に強く反応する性質を持っている。たとえば殆どの宗教は、ベースに物語を持っている。
物語としては、他の顧客の話や、企業自身の話などをうまくストーリーにすることができる。技術や機能の話ではなく、人や感情や冒険や体験についての話をするべきであると氏は述べた。
HeadFirstシリーズの著者であるKathySierra氏[1]は、「素晴らしい製品」や「素晴らしい企業」や「素晴らしいサービス」を作ろうとするよりも、「素晴らしいユーザー」を作るべきであると話した。
「よりよい製品や機能」ではなくて、「ユーザーの何かをよりよくする」と考えるべきだ。
究極的には、製品はユーザーを「スーパーヒーロー」にするものであるべきだ、と氏は述べた。「空飛ぶヒーロー」みたいな超能力をユーザーに与えられるとしたら、あなたの会社はユーザーにどんな超能力を与えたいだろうか?
BoSでは、他にも「ハッカーと画家」の著者であるPaulGraham氏や、「誰のためのデザイン」の著者であるDonNorman氏など、豪華な講師による講演が行われた。参加費が2,000ドルと高額なカンファレンスではあるが、その価値は十分にあったと思う。
BoSの前後には、他のセミナーや、日系起業家を訪問したので、それについてこれから記述する。セミナーは、KeizaiSocietyとSVaseに出席した。日系起業家は、BrandonK.Hill氏と、高坂悟郎氏を訪問した。
KeizaiSocietyは、日米のビジネスパーソンによって運営されている日米経済交流を目的とした会である。筆者の出席した会は、シリコンバレーを代表する弁護士事務所であるWilsonSonsiniGoodrichandRosatiの会議室で行われた。シリコンバレーでは、投資会社や弁護士事務所がセミナーに会議室を無償で貸し出すことが一般的に行われているようである。
本会では、Linkedinの共同創業者であるKonstantinGuericke氏が講演を行った。講演ではLinkedinの機能や特徴などの説明が行われた。講演はやや不得手の様子であったが、会場の聴衆の多数は、Linkedinのユーザーであり、質疑が大変盛り上がった。
KeizaiSocietyでは、多くの日本人のビジネスパーソンや経営者にお会いした。
とくに印象に残っているのは、茂森勇氏である。
茂森氏は、脳性麻痺により重度の障害を持っており、歩いたり手を動かしたり喋ったりすることに障害がある。だが、彼は日本で大学を卒業後、単身渡米し、カリフォルニア大学バークレー校で学び、SunMicrosystemsのエンジニアを10年間勤めた。今は不況のためレイオフされ、大学院で学びながら、再就職先を探している。
彼は趣味として、車いすで山歩きをしたり、スカイダイビングをしたりしているという。
日本在住のエンジニア諸氏も、茂森氏のような挑戦精神を持つべきではないだろうか。人生は一度しかないのだから、チャレンジを諦める理由なんてなにもないのだ。
SVase(SiliconValleyAssociationofStartupEntrepreneurs)は、起業家を支援する米国最大の非営利法人であり、起業家のためのセミナーなどを数多く開催している。筆者は、サンフランシスコで行われた人材確保に関するセミナーに参加した。
セミナーでは、ベンチャー投資家やヘッドハンターなどの複数のパネリストを中心に、会場の参加者を交えてディスカッションが行われた。
良い創業チームや従業員を見つけるにはどうしたらいいか、という話題が中心であった。「面接をするときは、なるべく面接室の外に出て、夕食を一緒に食べたりして、どんな人間か知るのがよい」などの意見がでた。
「ベンチャー投資家は、投資するかどうかは厳しく判断するが、起業家には気軽に会って話したりプレゼンテーションを聞いたりしている。だから、まずは気軽に連絡をするといい」との話もあった。
ランチ時間に、気軽な形でセミナーが行われ、そのセミナーの内容も講演ではなくディスカッションが中心であった。このような形のセミナーは、筆者には新鮮であった。
BrandonK.Hill氏は、日本育ちの起業家であり、日米バイリンガルで双方の文化に精通していることを活かして、ウェブサイトの制作やローカリゼーションや、日米の市場への参入のコンサルティングなどを行うbtrax社をサンフランシスコで経営している。
Brandon氏は、ベイエリアのIT系イベント情報を紹介する日本語のブログを運営している。今後は、その人脈や背景を活かして、日本企業の米国進出を助けて行きたいとのこと。米国進出したい企業の方は、気軽に連絡してみてはいかがだろうか。
高坂悟郎氏は、シリコンバレーの日本人起業家の会であるSVJENの理事であり、個人でウェブサイトの制作を行う傍ら、デジタルガジェットの日米貿易や小売りを行っている。また「シリコンバレー地方版」というシリコンバレーのニュースを日本語で掲載するブログを運営している。
高坂氏からは、地元の商工会議所などを通じた地域密着型のスモールビジネスの経営などについて話を伺った。米国にも商工会議所(ChamberofCommerce)があり、そこには主に地元の商店主などが所属しており、活発にお互いのビジネスの支援や顧客の紹介などを行っている。高坂氏が日系企業以外から得ている仕事は、ほぼ100%が商工会経由だそうである。
高坂氏が憂慮しているのは、SVJENでいくら日本人起業家をサポートすると言っても、グリーンカードなどの永住権を持たない日本人では、ビザの問題から米国で起業することは難しいとのことであった。親戚や仲間のビザのサポートを積極的に行う中国人やインド人らと違い、日本人は起業するのは難しい。米国で起業したい人は、ビザの問題を慎重に考える必要がありそうだ。
高坂氏は、ハイテク王国シリコンバレーで、非常に地に足のついたビジネスを展開しており、中小企業向けのビジネスをしている筆者には大変共感するものがあった。
サンフランシスコ・ベイエリアでは、起業家や投資家など多様な人々がカジュアルに活発な交流を行っており、こうした中から新しい企業が生まれてくるのだと実感できた。
日本と違うのは、技術ではなくビジネスに特化したイベントが多く開催されていることである。技術者もそうしたイベントに参加して、経営センスを磨いたり、経営能力のあるパートナーを探したりして、積極的にビジネスを見据えて活動をしている。またBos2009は参加費が2000ドルの高額イベントである。日本のソフトウェア業界では、高額な参加費で、超一流の講師を招いて行うイベントというのは、あまりないのではないだろうか。
現地では、いつも多くのセミナーが行われているので、ソフトウェアビジネスに関心のある方は、是非とも現地を訪問して、その雰囲気を感じて欲しい。
[1]KathySierra氏のエッセイの日本語訳-http://www.aoky.net/articles/kathy_sierra/index.htm
[新井氏が主催の一人でもある、12月5日に迫った福岡開催のソフトウェアビジネスカンファレンス2009はこちら]
