シアトルに逃れた人が描く、傷モノのシリコンバレー観

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Redfin社CEOのGlenn Kelmanが先日、シアトルのハイテク社会との対比でシリコンバレーを紹介するブログ記事を出した。好意的な記事ではない。

両方で長い時間過ごしている私から見ると彼の観察も一理あるとは思う(ここの人は死ぬまで戦うが、あっちの人はハイキングに出かけてしまう、とか)。だが、年がら年中シリコンバレーをこき下ろしている自分が言うのもなんだが、その分析には完璧に間違ってるところもある。シリコンバレーは確かにバランスの取れた人生を送りたい人の住むところではない。が、世界を変えたい人、夢の実現のためなら何でも喜んでやる人にとって、ここ以上の場所はない。

シアトルでは、みんな隙あらば自分の会社を立ち上げようと機をうかがってるわけじゃないから社員は繋ぎとめておき易い、と彼は言う。こいった議論を尽くすべきポイントもいくつかあるが、それ以外は結局「シアトルには欠点もあるが、それにはそれなりの価値がある、何故ならここは住み良い場所なんだから…」とKelman自身まるで自分に言い聞かせるため書いてるような文章がほとんどなのだ。

もちろんテクノロジー漬けの暮らしを送ってないと取り残されてしまうし、最先端のアイディアはなかなか思いつけないもの。それは彼も認めている。:「自分と知人みんなが1日18時間ウェブでダウンロード、ハック、ブレイク、共有、噂、非難、議論三昧暮らしてるんなら、本当に新しいアイディアも普通より簡単には見分けがつくだろう。そういう生活を送ってない人にとっては追いつくんだって不可能に近い」

…と言いつつ、その話は全部ひとまず脇にどけといて、シアトルのスタートアップは最先端…つまり“クール”なだけじゃなく、素晴らしいビジネスの構築を目指している、と自説を展開するのである。「しかしシリコンバレーから離れることでやっと起業家は、「何が流行か」ではなく「何が実現性のあることか」腰を据えて考えることができるのだ」(Kelman)

ただ問題はKelmanが自説の裏付けとなる証拠を何一つ提示してないことだ。探してやろうにも私自身なんにも思いつかない。本当のところはどうなのかというと、人は何がなんでも実行するというモチベーションと知性を持ち合わせた時はじめて素晴らしいアイディアに辿り着けるのであって、自分で自分が何しゃべってるのかも分からない人たちに囲まれていても何も思いつけない。文字通り何万という頭脳明晰な周りのテクノロジーマインドに話を聞いてもらって、アイディアに挑戦してもらうことで、ようやく起業家には、なくてはならない競争力が身につく。これはシリコンバレーではみんなやってることだ。

シリコンバレーの真理、それは何にも増してアイディアが重要だということ。スタンフォード(UCバークレーも)の学生はアイディアさえあれば、それをヤフーに発展させることができる。グーグルにも。こういうサクセスストーリーはそれこそ数え切れないほどある。彼らは「この学生には成功させてやりたい」と願う人たちに囲まれている。アイディアの実現を支援する資金を進んで彼らに与え、成長を助ける人たちだ。こんな場所は世界広しと言えども他にはない。

シアトルはもちろん美しい街だ(Kelmanは記事で湖やアウトドアの話をいっぱい書いてる)。 バランスの取れた健康的なライフスタイルを望む人には絶好の場所だろう。とてもシリコンバレーで生き抜く資質がないと思う人はたぶんシアトルとか、もっと小さなハイテクのハブの方が向いてるのかもしれない。だが、ベストの中のベストは果たして先人のレジェンドと自分が互角に渡り歩けるほどのものなのか、それを見極めるためシリコンバレーにやって来る。ここにいることそれ自体が競争のアドバンテージなのだ。 そして自分のクレイジーな起業アイディア実現のプラスになるなら、どんなアドバンテージでもいいからひとつ残らず確保したい、そういう気概がない人はたぶん起業家なんてなるべきではない。

確かにシリコンバレーは“心を失った記憶喪失症な場所(a heartless amnesiac)”かもしれない。ここに古き良き時代を偲ぶノスタルジーはない。何故ならわれわれは常に古いものをズタズタに引き裂いて棄て、それに代わるより良いものを探し求めているからだ。

そもそもシアトル(別にシアトルでなくても、どこでも構わないが)の良いところは全部シリコンバレーにおけるビジネスの代償と文化的アドバンテージとは全くなんの関係ない話じゃないか。自分らしいライフスタイルの選択は結構なことだが、こうした選択がトレードオフに過ぎないと勘違いしないでもらいたい。湖を眺めること、仕事帰りにスキーに行くことが大事なら、自分のスタートアップがどん詰まりになってアラびっくりと驚くフリはやめることだ。

君はシアトルに逃れるまでここで16年働いてたんだろう、Glenn。戻ってこいよ、挑戦したいなら。君には成功者としての資質があると思う。ここにいても。

*元記事は12日付けNYタイムズの記事を受けたもの。「次なるシリコンバレーはシアトル」という同紙の皮相的観察に対し、バレー以外の場所でビジネスをやる苦労を語り、バレーにはない価値の創造は可能なのではないかと思索する痛い内容です。

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(翻訳:satomi)