[jp]「文学」よ死ね, 「会話」よ支配せよ…TechCrunchのコメントの意義を考える

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猫も杓子もブログをやる時代なので、ブログの性質も多様だ。TechCrunchは、個人や企業/団体のブログではなく、複数者ただし固定ライター数名+編集長が依頼したゲストが書いている。WordPress multiというやつを使っているはずだが、“任意の複数者”ではない(が、実質的に任意の複数者的でもある…後述)。またTechCrunchは、世の中に最も多い私的文章のブログではなく、ニュース記事が主体だ。ただしニュース記事とはいっても、単なる客観報道ではなく、そのニュースの意味解釈をめぐって筆者の私見がほとんど必ず入る。それが、このブログの記事の、重要な、欠かせない味付けになっている。

またブログには、コメントの多いのと少ないの、コメントが非常に良いのとかなりくだらないの(あるいはその中間)など、コメントのあり方でも差異がある。TechCrunchは、コメントがとても多くて、しかも優れた内容のコメントが多いという特徴がある。くだらないコメントも、それなりに娯楽的に寄与している雰囲気がある。

おもしろくて優れた内容のコメントが多いというところから、私が抱いている明確なTechCrunch像は、『記事だけでは<面>または単なる<線>、多様なコメントがあることによって個々の記事が、まるで多面カットのダイヤモンドのような<立体>になっている』というものだ。言い換えるとTechCrunchの記事は、原文のコメントを読まないとその真価を味わったことにならない。記事本体だけ読む読み方は、二汁十菜ぐらいの豪華献立の中の「一飯一菜」だけを食ってるようなものだ。

以上のことは、だいたいどの記事もなので、具体的な記事を挙げるのはためらいを感じるが、最近私が訳を担当したものの中では次の二つがとくに、コメントによって生彩と味わいをぐーんと増している。[遠くから赤ちゃんやペットを監視できるHighlightCam][2010はタブレットの年か?それはありえない!]。また、陳腐なPR用語を扱ったこの記事は、すでに300以上も寄せられている原文のコメントを読むことによって、言葉に対する理解の幅と深さが得られると思う。

というわけでTechCrunchの記事は、コメントが付与している付加価値が大きいので、ある種「任意の複数ライターによるブログ」という性質も帯びている(本文記事そのものもコメントに促されたアップデートがよくある)。しかもそれらのコメントは、Amazonのリビューセットなどに見られる、各個人書きっぱなしではなく、「会話による意味の進化や変様」が見られる点が、スリリングだ。

私はかなり青少年のころから、文学というものに対して強烈に否定的で、小説などに代表されるいわゆる文学は、言葉の自慰行為的使用/消費形式だと感じていた(中にはごく稀に本当に啓発的なパワーを持つ作品もあるかもしれないが)。某作家の新作が3日間で何十万部売れたといっても、その何十万の人たちのあいだに何が起きるのか。心や脳の拡大(expansion)、拡張(extension)、増強(augmentation)、刷新(disruption)、それに、相互的コミュニケーション、などなど何も起きず、安全で閉鎖的で不毛な自慰行為があるのみだ。

思えば神様は、こういう私のような人間を、新しいインターネットの時代、(more
generic→)コンピュータとネットワークの時代、(much more generic→)「対話」と「会話」のネットワーキングの時代に放り込んで泳がせるべく、地上に産み落としたのである。そのエヴァンジェリストが、私の天職なのかもしれない。

最近は、たまに新聞というものを読む機会があると、「なんでこんなにつまらないのだろう?」とつくづく思う。それはつまり、それらの言葉が「人が人に語りかける言葉になっていないから」なんだよね。出版人に対してはこれまで何度も「一冊の本はこれから展開するであろう多面的なコミュニケーションの契機にすぎない、言い換えると、本自体は永遠の未完成情報体である」と言ってきたが、分かってもらえたためしはない。彼らは、本は立派な完成商品である(べきである)と誤解している。そして超長期の出版不況に反省の色もない(彼らのインターネット利用は、世の中でいちばん遅れとるわ)。

というわけでTechCrunchの記事とそれに集まる大量のコメントは、「会話」の持つパワーをとても明瞭に、そして楽しくおもしろく、思い知らせてくれる点で、今の地球上における貴重な文化資産の一つだ。最後に繰り返しておこう: TechCrunchはコメントがおもしろい!

そして、今後は、日本版TechCrunchも、みなさんの力でどんどんおもしろくしてね! お願い!。

[写真クレジット: eHow]

(筆者:iwatani(a.k.a. hiwa))