AppleとGoogle―「500日の恋」が破局した理由を検証する

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[CG]Snow Leopardのボックスを比べると・・・

500daysposterまだ(500) Days of Summer を見ていないのなら見るようにお勧めする。すばらしい映画だ(予告編)。一見して何の理由もないのに破れてしまう恋が描かれている。テクノロジー業界の巨人2社がFCC〔連邦通信委員会〕に提出した文書を読んでいると、この映画とそっくりなストーリーだったことに気付かされる。一時はあれほど親密だった関係がどうしてこうも華々しく破局を迎えることになったのだろう? 私が言っているのはもちろんAppleとGoogleのことだ。

両者がFCCに提出した文書には重要な情報が満載されている。それに加えてGoogleはFCCに提出した文書の一部について公表を避けている。われわれはGoogleがどういう主張をしたのか推測した記事を書いているが、一番興味深いのは、Googleがいったいなぜ文書のこの部分の公開を拒んでいるのかだ。おそらく、その部分ではGoogleがAppleの主張に対して真っ向から反論しており、公表されれば両者の対立がのっぴきならないところに進んでしまうことをGoogleは懸念しているのだろう。

最初はソフトウェア企業とハードウェアの企業が恋に落ちた

数年前、テクノロジー業界はAppleとGoogleが組めばMicrosoft帝国に対抗できる勢力になるのではないかと期待していた。AppleはMicrosoftの心臓、WindowsをOSXで攻撃する。GoogleはMicrosoftの脚、OfficeをGoogleドキュメントで攻撃する。両者ともこうした大規模な戦争を戦うだけの資金があった(AppleはMacとiPodというハードウェアがあり、Googleにはもちろん検索広告がある)。

そして事実、2006年には両者は接近した。GoogleのCEO、Eric SchmidtAppleの取締役に就任した。Steve Jobsは「Appleと同様、Googleはイノベーションを中心に据えた会社であり、われわれはEricの洞察と経験がここ何年にもわたってAppleの進路を導く大きな助けになるものと信じている」と述べた。一方、Schmidtは「Appleは私が世界でもっとも尊敬している会社のひとつだ」と書いた。Schmidtに加えて、Appleの取締役会にはGenentechのCEO、Arthur Levinsonとアル・ゴア元副大統領も加わった。LevinsonはGoogleの取締役であり、GoreはGoogleの上級顧問だった。

その後AppleはGoogleと密接に連携した製品を次々にリリースした。iMovieはYouTubeと、 iWebはGoogle Maps、AdSense広告と連動可能だった。Apple TVにはYouTube専用チャンネルが設けられていた。そしてもちろんiPhoneはGoogle検索を標準検索エンジンとして採用した。GoogleはiPhoneでYouTubeが見られるようにわざわざH.264でエンコードし直すほどの協力ぶりをみせた。(YouTubeはウェブではAdobe Flashフォーマットを利用しているが、iPhoneはFlashをサポートしていない)。

その後AppleはGoogleにAndroid携帯にマルチタッチ機能を含めないよう要請し、傍目には不可解だったが、Googleはその要請を受け入れた。また両者は互いに従業員の引き抜きをしないことを暗黙の了解で合意した。

ここまでAppleとGoogleの関係はまったくの「お仲間」だった。

500-days1それから何が起きたのか?

映画(500) Days of Summerでは主役のTomが恋人のSummerに、彼女の過去の恋が終った理由を尋ねるシーンがある。“別に。それが人生でしょ。”というのが答えだった。どうやらAppleとGoogleにもこの答えが当てはまるようだ―ただし、この2社の場合は「人生」という言葉を「成長」に置き換えたほうがいいかもしれない。

Appleが主としてハードウェア企業であるのに対して、Googleはオンラインを舞台にするソフトウェア企業だ。当初、両者の活動領域はあまりバッティングしなかった。しかしモバイル事業の登場がすべてを変えた。

iPhoneは2007年にリリースされた。最初のAndroid携帯が登場したのは2008年だ。その時点でもまだ両者は仲良くやっていけた。しかしその後iPhoneが爆発的に成長し、Appleの第2の収益事業(1位がMac、3位が各種iPod)に躍り出た。そしてiPhoneが将来Macを抜いて1位のビジネスになることさえ十分に考えられる情勢になった。

一方、Android携帯はiPhoneほど劇的に離陸はしなかったが、プラットフォームとしては着実に成長を続けた。Google側では今年中にさらに1ダースほどのAndroid携帯をリリースするものとみられる。BlackBerryは(本体はすぐれていても)アプリ・プラットフォームとしては弱いので、AndroidとiPhoneは現在、携帯プラットフォームを支配する2大陣営となっている。iPhoneファンは多いが、Androidファンもいる。つまり両製品はライバルなのだ。これがひいてはAppleとGoogleをライバルにしていった。

もちろん携帯電話市場での両者ビジネスモデルは異なる。しかし1980年代に起きたAppleとMicrosoftとの戦争に似ているところがある。MicrosoftはWindows OSをできるだけたくさんのマシンにインストールしようとした。Appleはハードウェアとソフトウェアをバンドルしてクローズドで高品質の製品づくりを目指した。現在、GoogleはMicrosoft流の数のアプローチを取り、Appleは伝統の高品質アプローチを取っている。

一方、携帯以外の分野では、Googleは経済危機をものともせずに成長を続け、いよいよ事業の多様化を図る時期が来たと決断した。まだリリースされていないものの、Chrome OS開発の発表はAppleの中核事業への打撃となる可能性を秘めている。Appleへの影響はさほど大きくはならないという見方もある
、これほど多方面でライバル関係が発生してきてはいつまでも「お仲間」でいることが難しいかもしれないと予感させるのに十分だった。

そしてChrome OSという爆弾の影響は当初考えられたよりも大きいものだった。この発表がきっかけてとなって連邦通信委員会(FCC)はAppleとGoogleの関係、特に両者の間での取締役の兼任問題に厳しい目を向けるようになった。まさにそこへAppleがGoogle Voiceアプリを拒否した(拒否ではなく承認しなかっただけ、とAppleは主張)。FCCはただちに両者の関係の調査を開始した。数日後、SchmidtはAppleの取締役を辞任した

2009_500_days_of_summer_0011Voiceの前にもAppleに憎まれたアプリがあった

しかしGoogle Voice騒動の前にもAppleがGoogleのサービスをiPhoneアプリとして受け入れなかったことがあった。それが位置情報をベースにしたソーシャル・アプリ、Latitudeだ。Googleが実際にiPhoneアプリを申請し、Appleが拒否(あるいは不承認)したのかどうかははっきりしない。しかし問題は、そこにあるのではない。AppleがGoogleのアプリを嫌いったことははっきりしている。しかもこの事件は孤立したものではなく、一連の事件の始まりにすぎなかった。

複数のGoogleの情報源によると、AppleはGoogleにiPhoneを乗っ取られるのではないかと被害妄想になっている、という。Google Maps、YouTube、検索などがiPhoneで人気がある分にはかまわない。しかし、LatitudeやVoiceが登場するに及んで、AppleはGoogleアプリがiPhoneのトップ画面を完全に占領する状態を恐れ始めた。

普通の会社なら、別に恐れることはない。ユーザーの選択に任せるはずだ。しかしAppleは普通の会社ではない。Appleが公表したところによると、LatitudeとVoiceを拒否した理由は「これらのアプリはiPhoneの中心的な機能に類似しているため(LatitudeはMapsに、VoiceはiPhoneの電話機能そのものに)、ユーザーに混乱を生じる」というものだ。いくら「お仲間」だろうと、AppleはGoogleに製品の重要な部分をコントロールされたくないのだ。

これは推測にすぎないが、AppleはGoogleがiPhone上でGoogleアプリがいかに優れているかを宣伝し、結局はユーザーをAndroidに奪おうと企んでいるのではないかと恐れたのかもしれない。

たとえば、GmailはiPhoneからも使えるが、なぜかプッシュ配信機能はサポートされていない。しかしAndroidではプッシュ配信だけでなく、ラベルやスター機能もサポートされている。Google MapsもiPhoneにあるが、Mapsを利用したLatitudeは使えない。もちろんAndroidからは使える。Latitudeはブラウザ版はiPhoneで使えるが機能はずっと制限されている。Androidではアプリがバックグラウンドで作動するのでずっと優れた機能が使える。Google Voiceにしても、仮にiPhone版が承認されたとしても、バックグラウンドでは動作できない。

500-days-of-summer-bench-tom金の切れ目が縁の切れ目

しかし、AppleeとGoogleの衝突の根本的な原因はカネだ。表面的にみれば、AppleがGoogle Voiceを閉め出すというのはナンセンスに思える。AppleはGoogleと協力してGoogleVoiceをiPhoneに移植すれば、Appleは携帯キャリアに対して独立性を発揮できるようになるはずではないのか?

Google Voiceは現在でこそ、いずれかの携帯キャリヤとの契約を必要とするものの、最終的にはVoIP機能を組み込むことによってすべてのキャリヤをバイパスする通信手段になるはずだ。現在までのGoogleの携帯用電波帯域のオープン化の主張を考えれば、ほんの数社の携帯キャリヤがアメリカの携帯ビジネスを牛耳るという現状をGoogleは変えようとしていることははっきりしている。 Googleは多数の携帯プロバイダが自由に競争するオープンなシステムのビジョンを抱いている。これが実現すれば、現在のような不透明きわまる馬鹿げて高い料金体系は終わらせ、音声に関してもデータに関しても公正かつ適正な料金体系が導入されるだろう。

これはわれわれユーザーにとっては理想的な未来だ。しかしGoogleにはもちろん独自の目論見がある。Googleがこういった改革を行おうとしているのは、ウェブへのアクセスが容易になればなるほどGoogleの利用が増え、最終的には売上が増えると考えているからだ。

ではAppleはなぜGoogleを助けて携帯ビジネスの改革に乗り出そうとしないのか? なぜならそれをするとAppleの売上に響くからだ。AppleがiPhoneで稼いでいる金の出どころをご存知だろうか? AT&TはiPhoneが1台売れるたびに高額の販売奨励金をAppleに支払っている。

最初のiPhoneにはこの販売奨励金がついていなかったため価格は$600にもなった。これではあまり売れなかったのも驚くにはあたらない。そこでAppleは方針を変え、AT&Tから月極めのライセンス料を受け取るのを止めて、その代りAT&TはiPhoneに販売奨励金を払うことにした。もしAT&T(あるいはそれに代わるキャリヤが)通信料であれほど暴利をむさぼることができなければ、Appleに巨額の販売奨励金を払うことはできない。販売奨励金がなければAppleはiPhoneを$200で売ることはできず、そうなれば今のような売れ行きは期待できない。

AppleとGoogleの関係をいくつかの側面から見てきたわけだが、相当に込み入ったものであることが分かっていただけたかと思う。どの側面にも非常に重大な利害関係の衝突が隠されている。こうしてGoogleとAppleの関係は、企業の成長、市場支配権、そして最後にはやはりカネの問題によって破局を迎えることになった。なんとも興ざめなラブストーリーではあった。

[画像: Fox Searchlight]

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01