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symbolics.com:売却された世界最古のドメインと、それにまつわるコンピュータの歴史

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最初に登録された.comドメインが何かご存じだろうか。現在は既に活動していないが、マサチューセッツのコンピュータ製造を手がけるSymbolicsが1985年3月15日に登録したsymbolics.comが第一号だ。

最初に作られたのは同年1月に登録されたnordu.net(最初のルートサーバであるnic.nordu.netの識別用として用いられた)だが、その数ヶ月後に正式なDNS管理手順に則って最初に登録されたのはsymbolics.comだ。もちろん当時はWWW(ワールドワイドウェブ)なんてものもない。しかし既に「インターネット」はあったのだ。nordu.netが作成された時点で、TCP/IPベースのワイドエリア・ネットワークは既に2年の稼働実績をもっていた。米国では当時、全米科学財団(NSF)が大学間を毎秒56Kビットの速度によるバックボーンで結ぶ伝説的なNSFNETの構築に着手したところだった。1985年当時において、ルートサーバ上にドメインを確保することに興味を示したのはわずか5社に過ぎなかった(Symbolics社以外に獲得されたドメインはbbn.com、think.com、mcc.com、dec.comおよびnorthrop.comだった)。その中で最初に活動を開始したのはSymbolicsだった。

このSymbolics.comは最初の登録から25年間、同じ所有者が所有してきていた。しかし一時代の終焉を象徴するように、ドメイン名運用会社のXF.com Investmentsに売却されることとなった。売却額については明らかにされていない。

元々の所有者について、簡単に歴史を振り返っておこう。

Symbolics, IncはMITのAI Labからのスピンオフ組で結成され、マサチューセッツ州ケンブリッジに本社を置き、後に同州コンコード(Concord)に移った。同社はLispマシンの設計および開発を行っていた。このコンピュータはシングルユーザ向けのもので、Lisp言語を走らせるのに最適化されたものだった。同社の開発したコンピュータは商用に供された最初の「汎用コンピュータ」であり、かつ単語はまだ存在しなかったが「ワークステーション」と呼び得るものだった。

さらに同社は1980年代および1990年代に、主要な開発環境のひとつを発表してもいる。こちらは現在HP Alpha上で動作するTru64 UNIXのOpen Generaとして販売されている。

80年代終わりになって、同社は次第に緩やかな崩壊に向かって歩を進めることとなった。このあたりの事情は元Symbolics社員であるDan Weinrebのブログ記事に、わかりやすくまとめられている。

水面下の状況は迅速に変化していった。まず「ワークステーション」なるものが登場してきた。たとえばSun、Apolloなどがこの分野の製品を発表した。Lispを実装する新たなテクノロジーも登場してきて、従来のハードウェア上でLispを動作させることが容易になった。もちろんSymbolics製品の性能が上回っていたが、それでも通常の目的には十分なものだった。そのような流れで特別な仕組みでLispアーキテクチャを実装していたSymbolicsのメリットは消えてしまった。さまざまなUnixソフトウェアが登場して、Unixワークステーション上で手軽に利用できるようになってきたのだ。もはや特定のベンダーが関連ソフトウェア群をすべて手がけることはなくなってきたのだ。ワークステーションの開発社は、Symbolicsなどとは比較すべくもない規模のインテルやモトローラ、ないしIBMといった各社が開発するより速く、より安価なCPUを利用して製品を開発するようになった。Symbolicsはこのような時代の波に乗り遅れてしまった。真実から遠く離れてしまっても、我々の「教義」が正しいものと思いこんでしまっていたのだ。疑義があっても「わかってない」とか、Symbolicsのやり方を理解していないなどとして排除されてしまっていた。このような文化の中で、悲観的な見通しを含む分析は排除されてしまったのだ(これは誰にでも起こり得ることだ。あなたの身の上に起こらないことを祈る)。

Symbolicsの話に戻す。社内には業務管理上の問題が山積みとなっていた。上級管理職が次々と退社し、新任のCEOが取締役に就任したりもしたが、そういった人々が良い仕事をしたとは言えない。問題を認識するビジョンにも欠けていたと思う。Symbolicsは大きなオフィスや工場を長期でリースする契約を結んだが、支払いに充てるべき利益をあげることはできなかった。また膨れあがったオフィス備品などもあり、資産を又貸しするようなこともできなかった。これで多額の金が消えてしまった。そして次は何度かのレイオフが行われた。こうして次第に状況を認識する人は増えていき、Symbolicsがきちんと対処できていないことも理解できてきた。私自身について言えば、StaticeというLisp処理系用オブジェクト指向型データベースシステムを開発した1988年、仲間数人とObject Design, Incを立ち上げるためにSymbolicsを退社した。こちらでの目的は新たに主流となってきたC++というオブジェクト開発言語にて動作するオブジェクト指向データベースシステムを開発することだった。

Symbolicsは、今でもその名を残している。しかし同社が一番最初に登録した.comドメインは、小さなドメイン名運用会社の所有物となってしまった。この運用会社はウェブサイトに住所を載せているだけで、従業員の名前も明らかにしていない。歴史上最初の.comドメインとなったsymbolics.comの将来に何が待ち受けているのかはわからない。ただ、ドメインを買い取ったXF.comは来年、世界最初の.comドメインの25周年記念を祝うことにしているそうだ。

『指輪物語』から、サムワイズ・ギャムジーの言葉を引用しておこう。「なんでだかわからねえけれど、悲しくなっただ」。

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(翻訳:Maeda, H)