PS:アイラブユー―1行のメッセージがHotmailを成功させ、バイラル・パワーを世に知らしめた

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この記事はAdam L. Penenbergの新刊、バイラル・ループ FacebookからTwitterまで ―現代でもっとも急成長したビジネスの秘密(Viral Loop:From Facebook To Twitter, How Today’s Smartest Businesses Grow Themselves からの抄録。

Pennenbergはアメリカのノンフィクション作家。New Republic誌のスター記者が記事を捏造していたことを突き止めたことでも有名(「ニュースの天才」として映画化されている)。

正しく製品を作るだけで、ゼロから信じられないようなスピードで急成長する会社が作れるのがインターネットだとPennenbergは言う。広告も販促も必要ない。営業部隊さえ要らない。資金はベンチャーキャピタリストが争って提供してくれる。

MySpace、YouTube、eBay、Flickr、それに最近のTwitterなども含めて、Web 2.0企業の成功はすべてPenenbergの言う「バイラル・ループ」に基づいている。バイラル・ループとは、そのサービスを使うことがすなわちそのサービスを広めるようなサイクルのことだ。その結果、企業の歴史上かつてないような事態が起きている。これらのWeb 2.0企業以前には、かくも少額の資本でスタートしてかくも巨大な富を築いた例はなかった。

本書は、 バイラル・ループの力を最初に認識し、またたく間に巨大なオンライン企業―あるものは評価が数十億ドルにも上る―を創りあげた起業家たちについての実に面白い読み物となっている。バイラル・ループの秘密は、その製品がきわめて優れていれば、ユーザーは喜んでPRを買って出るという点にある。

そうした優れた製品の一つの例がHotmailだった。 共同ファウンダーのSabeer BhatiaとJack Smithは元Appleのハード関係のエンジニアだった。彼らはベンチャーキャピタリストへの売り込みを繰り返し、ついに20回目で有名なベンチャーファンド、DraperFisher Jurvetsonからの資金調達に成功する。〔以下、Viral Loop抄録〕

PS. アイ・ラブ・ユー:Hotmailで無料メールアカウントを開こう!

(…)

(…)そこでSmithは2週間以内にプロトタイプを作り終え、小人数の友達グループにテストしてもらった。貴重なフィードバックが得られた。多くはページ・デザインやルック&フィールに関するもので、件名一覧のページやカラム表示のレイアウトはこうしたほうが見やすいなどというアドバイスだった。Smith はさっそく改良を加えて次回のミーティングでDraperとJurvetsonに見せた。2人はいちおう感心した。

しかしDraperは尋ねた。「どうやって製品の評判を広めるつもりかね?」

「屋外広告を考えている。ラジオも検討中だ」とBhatiaは答えた。

「おっと。それじゃ金がかかりすぎやしないか?」とDraperは懸念を示した。「ウェブのユーザー全員にメールを送ったらどうだ?」と少し考えてからDraperが提案した。

「それじゃスパムになってしまう」とSmithが言った。

スパムという言葉を聞いたのは初めてだったが、「それはまずいな」とDraperは言った。そこでDraperはハーバード・ビジネス・スクールのMBAクラスである教授が講義してくれたケース・スタディーを思い出した。女性が友達を集めてパーティーを開き品物を売る。パーティーの参加者の何パーセントかは自分自身その品物のセールスレディーになってくれる―タッパーウェアのビジネスモデルだ。教授は当時成功していたMCIの「友達とファミリー・プラン」も例にあげて、ソーシャル活動によるバイラル(クチコミ)マーケティングの力を強調した。Draperは同じようなことをウェブサービスでもできないかと考えた。

「Hotmailの下部に独自のメッセージを表示することはできないかね?」とDraperは尋ねた。

「それはできるが、そんなところに何も載せるつもりはないよ!」とBhatiaは反論した。

「しかし技術的には可能なんだろう?」とDraper。

「もちろん技術的には可能だ」とSmith。

「そりゃいい。ならそれを拡大することもできるだろう? ユーザーがメールを誰かに送ったらその最後にメッセージをくっつけることもできるはずだな?」とDraper。

「ああ、まあね」とSmithは答えたが、そんなことをするつもりはなかった。

「それじゃ、すべてのメールの最後に『PS:アイ・ラブ・ユー:Hotmailで無料メールアカウントを作ろう』と入れよう」とDraperは提案した。

BhatiaとSmithは困ったよう視線を交わした。「どうやら『とんでもない、絶対ノーだ』という意味に見えた。私はそういう表情は何度も見ているからすぐわかる。世の中に投資家も多いのによりによってこんな大バカものに出くわすとは、と思っていたに違いないんだ」とDraperは回想する。しかしDraperはひるまなかった。クチコミPRは絶対に良い考えだと彼は確信していた。

「ちょっと考えてくれ。メールの下部にメッセージを入れるのはすごい効果的な無料の広告になる。ユーザーがメールを送る。そうするとそれが広告になる。新しいユーザーが登録してメールを送る。それがまた広告になる。Hotmailはすぐにブレークする」

「それはしかし…」とSmithが言いかけるとBhatiaが「とりえあず、この話は後回しにしよう」と提案した。

Draperは同意したが、諦めるつもりはなかった。彼は2人のファウンダーが納得するまで食い下がる覚悟でいた。

HoTMaiLは1996年の独立記念日にローンチした。Smithはその日までに製品を完成させるとずっと以前から公約していたからだったが、象徴的な意味あいでもあった。誰もが世界のどこからでも自由に利用できるというウェブメールは民衆に力を与えるツールであるとSmithは信じていた。ユーザー登録機能をオンにした後、Smithと数人のエンジニア・チームはサンノゼのメキシコ・レストランにささやかなお祝いに出かけた。ユーザー登録の状況をモニタするためにSmithは長いアンテナを立てた無線モデムを取りつけたノートパソコンを持参した。ケサディージャを食べながらノートパソコンを調べると、最初の1時間ですでに100人が登録していた。(…)ユーザーの間でこのサービスの評判は高くなっていた。ユーザーは家族や友達にメールでこのサービスのことを知らせ、登録するよう勧めていた。アンケートに対して登録ユーザーの80%は「友達から聞いた」と答えていた。

ローンチ後1週間、ユーザーは順調に増加していたが、驚くほどの数ではなかった。次のミーティングでTim Draperは若い起業家2人に
たあの問題を持ち出した。BhatiaとSmithはメールの悪用だとして頑強に反対した。それはとてもできない。メールの汚染だ。プライバシーはどうなる? Hotmailを広告する1行を入れれば、ユーザーはどう思うだろう? こんなことをする連中は他にどんな悪事をやっているかわからない、と思われてしまう。ユーザーはメールに1行広告を入れるなど倫理に反する行為だと思うに決まっている…。しかしDraperは粘った。「そういうリスクがあるとしても、メリットの方が比較にならなないくらい大きい。この分野では規模がすべてだ。できる限り急速にユーザー数を増やすためにあらゆる努力をすべきではないか」とDraperは説いた。P.S.アイラブユー。HoTMaiLで無料メールアカウントを作ろう。繰り返せば繰り返すほどDraperにはこれがますますよいアイディアに思われた。

翌日、BhatiaはDraperに電話して、アイディアに同意した―ただし、『P.S. アイラブユー』の部分だけは勘弁してもらった。その結果は即時に現れた。ものの数時間でHotmailの成長は「ホッケースティック形」を描いて急上昇し始めた。当初新規登録は1日3千ユーザーだったが、日一日と加速度的に増加していった。レイバー・デーには75万、ローンチ後半年で100万の大台を突破した。そしてさらに5週間後には200万を超え、毎日2万のペースで増加を続けた。(…)

BhatiaとSmithに対してDraperが強く主張したタグライン―すべてのメールの最後に挿入されたHotmail登録用のクリックできるURL―はすばらしい販促効果を発揮した。ユーザーはこの製品を日々単に利用しているだけで、意識せずにHotmailのセールス要員になったようなものだった。友達や同僚が使っているという事実が暗黙のうちに強力な推薦効果を発揮した。伝統的な広告とは比較にならないくらい強力だった。Hotmailからのメッセージの受け手は、a)友達がユーザーである。b)現に正しく機能している。c)無料である、ということを即座に知る。消費者にブランドを確立するためにはユーザーの交友関係を利用するのが近道だ。(カッコいい友達はみんなローカットのジーンズを履いている。だから自分もローカットのジーンズを買うetc)。これはわれわれの部族的共同意識に訴えるのだろう。これによって一団となったユーザーの獲得が可能になる。Bhatiaが故国のインドの友達にメールを1通送っただけで、3週間のうちに、インドのHotmailの登録ユーザーは10万を超えた。広告にもマーケティングにも1セントも使わないうちに、スウェーデン最大のメール・サービスになっていた。ライバルのJunoは$20M(2千万ドル)を広告・マーケティングに使っていたが、Hotmaiは3分の1の期間で同じ数のユーザーを獲得することに成功していた。

Jurvetsonはこの事例を後に有名になったレポートで紹介した。彼はHotmailの普及をウィルスが近隣と遠隔地へ感染を広げていくプロセスになぞらえて説明した。あるユーザーのメールのアドレス帳は地理的に限定されない小さなソーシャル・ネットワークだ。一部分はおそらく地理的に近所に住む家族や同僚だろう。しかし他の連絡相手は世界中に散らばっている可能性がある。遠い場所に住む相手に送られたHotmailメッセージは、そこに新しいユーザーのコロニーを作った。JurvetsonはHotmailの初期のユーザー数の増加曲線が数学的に模範的なまでに指数関数に適合していることをレポートで指摘している。ユーザー1人が多数のユーザーを増やし、さらに新しいユーザーのそれぞれがさらに多数のユーザーを獲得するというサイクルが連続した。「大学の所在地やインドの町に新たに1人のユーザーが現れると、たちまちその付近に多数のユーザーが現れた。疫学的見地からいうと、〔Hotmailの大流行は、まるでギリシャ神話の〕ゼウスが天空から地球めがけてくしゃみをしたようなものだった」とJurvetsonは書いている。

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01