Rupert Murdoch
News-Corp.

Googleとルパート・マードックの件については一言も書くまいと私が固く決意している理由…

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〔日本版:TechCrunchのユーモア・コラムニスト、Paul Carrのうがった観察。長文のため後半のみ訳出しました〕

イギリスのメディア王、ルパート・マードックがMicrosoftと組んで、News Coprp.傘下のメディアのコンテンツをGoogleから引き上げると脅している件について、私に記事を書けというメールが1千万通くらい来ている。 あやうく私もこのテーマでコラムを書くという誘惑に屈しそうになった。しかし私はTechCrunchに長々しい無駄口を叩くために雇われている。ところがコラムを書くとするとその全文は以下のようにならざるをえない。

a) MurdockがGoogleを締め出すような事態が起きるか? b) 起きた場合にGoogleやインターネット全般に対する影響はどのようなものになるか?

a) 起きそうにない。

b) まったくない。

…いかにいいかげんな奴だと悪評高い私でも、これはいささか怠けぐせが過ぎるというものだ。

ちなみに、私は英国人なので、マードックのやり口にはアメリカの皆さんよりずっと詳しい。News Corpが経営する Sunは英国でナンバーワン、世界でも2番目に大きい英語の新聞だが、大きな国政選挙があるたびに必ず勝つ方を推薦してきた(しかも英国の選挙ばかりではない。Murdockはアメリカで保守系のFoxNewsを所有しているにもかかわらず、Sun紙は前回の大統領選挙ではオバマ候補を推薦したものだ)。

Sunの推薦がいつも当たるので、一部ではマードックを「キングメーカー」だと持ち上げている。世論を誘導して結果を左右する力があるというのだ。なるほど、Sunは最近、ゴードン・ブラウン首相への支持を止めて、デビッド・キャメロン保守党党首を支持することを発表した。同時に世論調査でキャメロン党首の支持率がはね上がり、次期首相の有力候補とみられるようになった。

しかし誤解してはいけない。マードックがキャメロンを推薦したからキャメロンの支持率が上昇したのではない。原因と結果が逆だ。マードックに世論を動かす力があるのではなく、世論の動向を見極める目があるのだ。マードックはぎりぎりまで風向きを読んでいて、こちらが絶対まちがいなく勝つという確信を得てからそちらを大声で応援する。そしてまるで自分が勝たせたような手柄顔をするという段取りだ。ある選挙の後でこの新聞は「Sunが勝たせた」という図々しい見出しを掲げたが、実は「Sunが気付いた」というのが本当のところだ。

マードックがGoogleからコンテンツを引き上げるのはGoogleの没落の始まりだ、などというのはとんだ寝言である。おっちょこちょいな中小メディアの中にはマードックの思うツボにはまってGoogleボイコットの呼びかけに追随するところも出てくるかもしれないが、マードックにしてみればそれはオマケの効果にしか過ぎない。統計が示すように一般の検索ユーザーはWall Street Journal始めNews Corpの全媒体がGoogleから消えても、そのことに気付きもしないだろう。逆にNews Corpのページビューが大幅に減るのは絶対に間違いない。マードックがそのデメリットをBingとの提携で補えるかどうか大いに疑問だ。ところが、Sun(と、ニューヨークのPost)についていくらかでも詳しい人間なら、マードックが直接の売上収入よりも部数を常に優先することを知っている。そのためマードックは部数を上げるために定価を自殺的ともいえる採算割れの水準まで引き下げてきた。

しかし、運がいいことに、マードックは検索エンジンを一つに選ぶ必要はない。政治の場合、対立候補を両方推薦することは不可能だ。しかし検索エンジンのレースの場合、勝ち馬を1頭に絞らねばならない理由はないのだ。マードックの腹にあるシナリオは、News Corp のコンテンツは従来どおりGoogleとBingの両方に提供しながら、双方を競わせて最大限のトラフィックと広告収入をNew Corp.に呼び込もうというものだろう。それが現在のキャンペーンの裏の戦略だ。

「金を払えばBingに有利な提携を結んでGoogleのシェアを奪うことができるかもしれない」という希望をMicrosoftに抱かせるのがマードックの狙いだ。これでマードックは労せずして検索結果に対する影響力を大きく拡大することができる。案の定、Microsoftは検索エンジンのウェブサイト・クロールのための次世代プロトコル、ACAPの開発に資金援助することに合意した。ACAPはNews Corpのようなコンテンツ所有者が何を検索エンジンに提供するか、きめ細かいコントロールができるようにする技術だ。

一方、コンテンツ所有者が突然大挙してBingに殺到するなどという事態はないにせよ、検索エンジンとの関係を見直したいという空気が広がれば、Googleとしても、すくなくともACAPの採用を真剣に考える必要が出てくるだろう。世界中の価値ある情報をすべて検索したいとするなら、そのうちの一定の部分はマードックが握っていることは認めねばなるまい。となればマードックはどちらに転んでも得をすることになる。つまりGoogleにコンテンツの提供は続けるが、ACAPのような技術によって、どの部分を提供し、どの部分を提供しないかコントロールできる力を残しておくわけだ。

ここがマードックの天才たるゆえんだ。彼は自分に巨大な影響力があるという幻想を巧みに作り上げ、それによって対立勢力の一方と心中する危険を犯すことなく成果を手に入れるのだ。NewsCorpのコンテンツがGoogleから消えるなどということは起きない―しかし「もしマードックがコンテツを引き上げたらGoogleへの影響はどうなるだろう? 他のメディア企業も追随するだろうか?」という見出しが世界中のメディアに踊れば、マードックのキングメーカーとしてのイメージはこの上なく強化される。しかも我々がマードックのあくどいトリックに手を貸さないでも、まずいことに、彼は自分自身のメディアに何百万もの読者をもっている。

そういうわけで、私はこの件について書けというメールが何千通来ても、書く気になれなかったのだ。英国のジャーナリズムで長年飯を食ってきた
間としてマードックの手口をあまりによく知っているので、事情に疎いTechCrunchの同僚には申し訳ないが、みすみすマードックに手を貸すようなことはしたくない。

だから今週のコラムのテーマが何になろうと、マードックについては一言も触れまいと私は固く決心…

…おや?

しまった。どうやら私もマードックの手に乗せられてしまったようだ!

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01