インドの“ケータイ銀行”Ekoの奮戦と苦闘–銀行とは無縁な人びとに口座を与える

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この前の記事では、インドのデジタル格差をモバイルが埋めつつあると書いた(アナログ…電話そのもの…ももちろんだが)。インド全国のインターネットユーザの総数は、今年の1月に(==たった1か月の)新たにケータイのユーザになったインド人の約半分にすぎない。この、膨大な人口が利用している“ケータイネットワーク”をめぐって、素朴な、しかしおもしろい企業が続々と登場している。それだけケータイスタートアップが活況を呈しているのは、インドではWeb人口はわずか5000万人にすぎないからである。つまり、インドでは、スタートアップ=Webサービス、という公式が成り立たない。

昨年11月にインドで出会った企業の中で、とくに野心的と思えたのが、“モバイル銀行”Ekoだ。SMSを利用する銀行アプリケーションはインドにすでにいくつかあるが、Ekoが独特なのは、電話が単に口座を利用するためのチャネルであるだけでなく、電話機そのものが口座であることだ。つまり、支払いも送金もすべて、電話機のダイアル(数字キー)をプッシュすることによって行う。非常に簡単で、SMSすら使わないから、SMSの使い方を知らない人でも利用できる。

これは、特定の層の特定の目的だけをねらった、巧妙なサービスだ。まず、対象は、インドの巨大な人口の60%を占める、銀行と無縁な人びと。現在Ekoはデリーとビハール間の1000キロメートルの回廊にサービスを限定している。

厳しい制限の枠の中で、おそろしく単純なものを構築するのが、いかに難しいか。Ekoはその教科書的な例だ。Twitterの140文字も、単純だからこそ大きく普及したのだ。Ekoには、おかず的な要素がまったくない。その余地がないし、それに結局のところ、そのニーズもほとんどないだろう。

口座の実際の所在はState Bank of Indiaで、ここが1口座あたり10万ルピーを保証している。しかしEkoの顧客は決して銀行へ行かない。“窓口”はインドの過密都市にも広大な農村部にも必ずある道端の雑貨屋だ。たまにしかない仕事や、施しで食べている人たちは、そこで買い物をする。薬は一錠いくら、シャンプーは一人一回分の小袋で売っている。ケータイは分(ふん)単位で課金されるPaisa、ここは、必要な人には支払い期限を延ばしてくれる。Ekoは、インドの貧困層の日常の中に定着している地域の商人に、売る物を一つ提供しているのだ。

インタフェイスは単純なので、言葉の違いを超え、あるいは文盲の人でも、すぐに使える。支払いは、受取人と金額と自分の署名、以上3つを入力するだけだ。Ekoのトランザクションは、どれも同じ3つの要素だ。Ekoの顧客は、まず短い銀行コード、アスタリスク、そして受取人の電話番号、アスタリスク、金額、アスタリスク、そして最後に自分の署名だ。しかし電話機そのものが口座だから、盗まれることもありえる。

EkoのファウンダのAbhishek Sinha(上の写真でEkoの看板の前で笑っている人)は、RSAトークンの安上がりなやつがほしいと思い、それのポケベルバージョンを作った。口座を開いた人は手帳サイズの薄い本をもらい、そこに11桁のコードが書かれている。そのうちの7桁は乱数で、残りの4桁はランダムな位置に置かれている黒いマークだ。そこに、その人の暗証番号を入れる。その小冊子が盗まれても、暗証番号を知らないかぎり口座にはアクセスできない。小冊子の裏表紙にはVeriSignのロゴがある。SinhaはVeriSignに、もっと良い方法を求めたが、Sinhaの考えたやり方がいちばん良いと言われた。

お金をつねに肌身離さず持っていることは、自由と安全と強さを人に与える。しかしインドのような国でそのための会社を作ることは、とても難しい。銀行と無縁な人びとが信用している近隣社会の雑貨店を“窓口”にするという、このいちばんかんじんの部分が、費用と時間を食う。村や近隣社会の規模は小さいから、そんな雑貨店は大量にある。Ekoの口座の保有者は現在3万人だが、“すぐに100万人になると最初は思っていた”とSinhaは言う。“最初はたくさん、ヘマをやったよ”。

費用と時間にはトレードオフがある。サービスの立ち上げは2007年だったが、当時Ekoは雑貨店の管理を店に品物を卸しているサードパーティにやらせた。しかし彼らの教育指導に手間取り、口座は増えなかった。昨年11月にEkoは管理を自社でやることにし、各近隣社会に社員を張り付け、屋外広告に投資し、店頭を看板で飾り、ボリウッド…インドの“ハリウッド”…顔負けの派手なコマソンを流した。すると、新規口座がうなぎ登りで増えた。それまでわずか6千だった口座が、この1月には1万増え、その後は15日ごとに1万増えている。

しかし、費用もうなぎ登りだ。Sinhaは、前に創業したSix DEE Telecom Solutionsで少し儲けていたので、今日までEkoを自分の金で支えている。そのほかに、World Bank(世界銀行)とGates Foundation(ビル・ゲイツの財団)から$1.78M(178万ドル)の補助金を得ている。でも、これらのお金は今年中に消える。彼はベンチャーキャピタルに期待し、1000万ドルという大金を目指している。前に興した会社では、文字どおり何百ものVCに断られたから、今のほうがましだ、と彼は言うが、もちろんそれは冗談で、前のときと違って、資金繰りがこれ以上悪くなっては困るという意味だ。彼は、60ページのPowerPointプレゼンを頑張って作っても無駄だ、という学習をした。

太陽光発電によるモバイル機器を作っているVNL も、やはりファウンダの自己資金だけの会社だが、インドでそういう会社を作って維持するのは非常に難しい。社会のニーズとビジネス機会はとても大きいから、それに応えるためには会社も大きくならなければならない。しかし、会社をそこまで育てる資本がインドにはない。300万から500万ドル程度までならなんとかなるが、それ以上の資金調達はよほど成熟している企業でないとムリだ。インドのプライベートエクィティは、投資先の安定と成熟を求める。Ekoも、Sinhaが自分の金を投じたからこそ、なんとかここまで来れたのだ。

どこも金を出さなかったらどうするのか、とSinhaに尋ねたことは何度もある。そのたびに彼は笑い、その目は“インドでテク系の起業家であることが、どんなにつらいことか、あなたにはお分かりかな?”と語っていた。彼曰く、これまでの苦労から学んだのは、道は必ずあるということだ、と(この記事を読んだ読者なら、彼の言葉の意味を理解しただろう)。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))