[jp] デジタル家電はこうやって開発する ~スタートアップ企業流~

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[日本語版編集部注:3/25(木)に実施するStartup Meetingのテーマは『ネットと家電』だ。日本が得意としてきた家電はネットの力をどう活用するべきなのか。その課題に挑戦するスタートアップ、Cerevo代表の岩佐 琢磨氏にイベントを前に寄稿して頂いた。※イベントへの参加登録はこちらから]

Webサービスのスタートアップを起業する方法は、割とイメージがつきやすい。PCを1台買ってきて画材やコードをつくり、レンタルサーバーなりAmazon EC2なりを契約してデプロイするだけだ。勿論、実際にヒットするサービスを作ることは想像もつかない難易度だが、TechCrunch読者の皆様ならToDoリストはだいたいイメージがつくよという方が多いのではないだろうか。

ところが、一転ハードウェア(デジタル家電)となると「何をどうやったら出来上がるのか、そのステップもよくわからない」というご意見をよく耳にする。結果、なんだか難しい領域なんだねという先入観が付いてしまっているように思う。まぁ実際のところ難しい部分は多々あるのだが、それはWebサービスを作って「ヒットさせる」のが難しいというのと近い部分がある。この記事では、Cerevoでの経験を通じて誰と何を開発すればデジタル家電を作って売ることができるのか?を説明していこう。

6通りのHW販売方法

デジタル家電を作って販売したいと考えたとき、取れる選択肢はざっくりと2×2のマトリックスになる。ハードウェアに手を入れるか入れないかと、ソフトウェアに手を入れるか入れないかだ。ハードにもソフトにも手をいれないとなると、あまりやることはない。中国や台湾のEMSが「ODM用」として持っている汎用的なハードウェアにロゴだけ入れてもらえば完成だ。

あとは箱と説明書をデザインして終了となる。EMSは箱の制作、説明書の印刷なども合わせて請負う業態がほとんどで、メーカーからは箱表面にどんな絵柄を印刷するかを指示するPDFファイルをemailすれば終了だ。ただ、似たようなハードウェアが原価ぎりぎりで販売されるような現代において、この方法では熾烈な価格競争とマーケティング合戦になってしまうことは必至だろうが。

難易度1:筐体だけ変える

そういう競争をしたくない場合は、ソフトウェアとハードウェアに手を入れて差別化していこうとなる。電子基板レベルでは手をいれず、筐体のみを入れ替えるという手が一番簡単な差別化方法だ。USBメモリーなんかもその典型である。プラスチックの外装を作るには3つの手順が必要だ。まず、デザイナーと協力して商品企画がイメージ図を作る。次に、イメージ図をCADを使って3Dデータ化する。右の画像はCEREVO CAMプロトタイプの3D CADデータである。

3Dデータができたら、これを金型化してもらう。金型とは金属を削って作るプラスチック成形用の型で、無垢の銅の塊から削って作るためかなりの時間とコストがかかる。簡単な型でも2~3ヶ月、1千万円~ といったところだろうか。しかしプラスチックとは難儀なもので、机上の3Dデータ通りに型を作ってもうまく成形することができない。

表面がフラットになっていなかったりするので、何度か試射、金型修正を繰り返して数カ月かけて金型が完成する。金型にいきなり掛かるのは稀な例で、通常は3Dデータをもとにアクリルなどを削ってワンオフのデザイン・モックアップを作る。お金と時間がある場合は、何度もモックアップを作っては評価し、満足ゆく完成度になってから金型削りへと入ってゆく。ちなみにCEREVO CAMプロジェクトでは2回モックアップを作成した。

こうやって外装を変更してしまうと、落下試験や長時間動作テスト、場合によってはESD試験(静電気を撃ってみる)やなどの試験類がやり直しになる。これらは試験代行会社に依頼する手もあるが、EMSで請け負ってくれるパターンも多い。いずれにせよメーカーとして決めなければいけないことは、どれぐらいの試験を課すか、合格ラインはどこかという情報を規定することだ。EMSに依頼する際は、彼らのベーシックな基準値に合わせてくれとお願いすることで省力化することも可能である。

と、割と大仰に書いたが、ToDoはユースケースを考えて3Dデータに落とすことだけ。プロダクトデザインを専門とするデザイン会社さんは幾つもあるので、彼らと協業することで少ない人的リソースで筐体の変更ができる。極論を言えば、金型代とデザイン会社への支払が可能であれば、商品企画1名でもユニークな筐体を被ったODM商品をリリースすることができるのである。

難易度2:ソフトウェアに手を入れる

とはいえ「新しいユースケースを生み出して競争力にしよう」というスタートアップの皆様にとっては、ガワだけ変えるのでは物足りないことだろう。そうなると、ソフトウェアに手をいれることになる。EMSが既にWindowsCEやAndroidを動作させているハードウェアを買ってきて、自社専用アプリケーションをCEアプリやAndroidアプリとして載せる、という方法がもっとも簡単な方法だ。

しかし、EMSが載せたOSはチップセットの能力を100%活かしきれる形になっていないことも多い。そこで、OSやドライバのチューニングを行えば、同じハードウェアでも高いパフォーマンスを出すこともできるようになる。ここまでやりたいとなると、ICEやデジタルオシロスコープなどの組込みソフトウェア開発用機器を用意して、OSやデバイスドライバのレベルで開発を行う必要が出てくる。とはいえ、これらの機器も低価格化されスタートアップでも購入できる範囲のものとなった。実際にCerevoでは30-40万円程度のICEとデジタルオシロのみで開発を行ってきた。

少し話は脱線するがCerevoのエンジニアは半数が組み込みソフトウェア開発を行うソフトウェアエンジニア。この領域こそが強みであるとして、内部のリソースの大半をソフトウェア開発に費やした。やればやるほどキリがない領域でもあるので、協力会社さんにお願いするのではなく自社開発を選ぶことにしたのだ。

難易度3:電子基板に手をいれる(&ほぼスクラッチ開発)

ソフトウェアを徹底的にチューニングしても、ハード的にない機能を作り出すことはできない。そして最後に行き着く禁断の扉は、電子基板再設計に手を出すことだ。大きな工数がかかるが、間違いなく大きな差別化を行うことができる。例えば、ネットワーク接続機能がないハードウェアにWiFiやZigbeeといった通信機能を付与することができるというわけだ。電子基板開発は、大きく「部品選定」「回路設計」「アートワーク」「試作&試験×数回」のフェーズにわかれる。

まず、どんな機能を実現したいのか?から部品を選ぶことになる。実現したい商品企画からメインのCPU(MPUと呼ぶこともある)を選択するのが最初のビッグイベント。続いて、LEDを光らせたいなら発光素子とLEDドライバICが必要、充電電池を使うなら充電制御ICと過放電保護回路が必要、といった具合で周辺部品を選択してゆく。

そしてこれらの部品をどう電気的に接続してゆくかを決めるのが回路設計フェーズだ。LEDはAに接続したらただの点滅しか制御できないが、Bという部品を用いてCに接続すればフェードインフェードアウトするようなぼんやりとした光り方ができる…など、部品ごとの特性があるのでこれを設計図に落としこんでゆく。繰り返すが、回路設計はあくまで電気的な設計。

←回路図

これに対し、アートワークは物理的な電子基板の設計、わかりやすく言えば「銅線引き」だ。皆さんがよく目にする緑色の電子基板の上に、どういう風に電気信号を流す線をレイアウトするかを決めてゆく。高い電圧を流す線と、繊細な信号を流す線が近づいていてはいけなかったり、30本ほどの線をコンマ1ミリの誤差もなく当長配線しないとデータがうまく転送されない規格があったりと課題は様々。回路図から物理結線図を起こし、最終的に基板を打つ機械に食わせる配線&穴空けデータである”ガーバーデータ”を出力するのがアートワーク工程の最終アウトプットとなる。

←CEREVO CAM試作基板でのアートワークの様子

ガーバーができれば、それを用いて試作基板を発注する。”PCB 試作”などで検索すると、無数の業者さんがヒットする。1枚からでも作ってもらえるのは、便利な時代になったものである。とはいえ、試作基板が問題なくするりと動くことなど滅多にない。人間のやる作業にミスはつきものだからだ。電源すら入らないところから、プログラムを動かしてみたら画面に謎のノイズがあらわれるなど様々な問題が起きるので、テストプログラムを走らせながら原因を特定して修正してゆく。

回路設計のミスもあれば、アートワークのミスもある。そもそも部品選定がまずかった、なんてことも起こる。問題箇所を修正し、再度試作基板を作り直す工程を何度か繰り返し、やっと量産に耐えうる基板が出来上がるというわけだ。気の遠くなるようなプロセスだが、それでも数カ月~1年程度で終わる。どこまでを自社でやるかにもよるが、全てを協力会社にお願いしたとして、1千数百万円ぐらいの費用をイメージしておけば大丈夫だろう。

尚、ODM品の回路図をベースに少しだけ手をいれるのか、チップメーカーが提供するリファレンスデザインと呼ばれるサンプル回路図をベースにほぼゼロから起こすかによって難易度が大きく異なる。勿論、後者のほうが難易度が高いが、できることの範囲は広がる。CEREVO CAMではTexas Instruments社のリファレンスデザインをベースに、ほぼゼロから起こして開発を行った。

おわりに

まぁざっくりと書けばこんなところになるが、Webサービスと違って一度リリースしてしまったものに修正をかけられないというのはハードであるが故の限界なので、起業してハードウェアを作ろうという思いのある方は、家電メーカーやPC周辺機器メーカーなど何らかの電子機器販売メーカーの経験者を絡めたほうがよいだろう。

それでもハードを絡めたビジネスを始めたいという個人並びに法人の方は、Cerevoで様々なハードウェア&ネットワークサービスの受託開発も行っているので、ご相談いただければと思う。CEREVO CAMで開発した回路などを活用することで、短期間・低予算での開発ができる場合もあるので、まずはご一報を。

実はこういった流れは、Cerevoオフィシャルtwitterアカウントで随時流してきた情報でもあるが、TechCrunch Japan StartupMeeting vol.3に向けて良い機会なのでまとめてみた次第である。CEREVOが次の商品に取り掛かる際はまたtwitterで情報発信してゆくので、興味のある方はフォローしてみてほしい。

(株式会社Cerevo 代表取締役 岩佐 琢磨:Official twitterOfficial Web