スタートアップ諸君:貧乏力をあなどるな。金が無いことを喜ぶべし

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ベンチャーキャピタリスト(VC)から何百万ドルもの資金を調達することは、未だに起業家の夢だ。起業家たちは、自分の口座に膨大な現金があれば、より良い製品を作り、それをマーケティングし、たくさん売って収益をかき集め、ついには上場できると信じている。しかし、それ以上に金は元凶でもある。企業がギリギリの予算で動いている時の方が、資金が裕福な時よりもはるかによい成積をあげる。私の経験によれば、金は持ちすぎると必ず悪い癖がでる。

第一に、CEOは出資者たちから、経営陣を強化して「大人」による監視を導入するよう圧力をかけられる。これは計画通りに行くとは限らない。経験豊かな経営者は高い給料と多量の取り分を欲しがる。VCは概して、投資先企業にお気に入りのヘッドハンターを使ってスター営業担当VPを探すことを求めてくる。当然、ヘッドハンターは6桁付近の紹介料に加えて、株式も要求する。

そんなスターマネージャーが(多くは大企業から)やってくると、スター並みの扱いを期待する ― 専属秘書、飛行機ひファーストクラス、空港へはリムジン、等々。これらの要因が、あらゆるスタートアップにとって焦点の中心であるべきこと ― 生き延びるために、できるだけ早く収益を上げる ― の妨げになりうる。金使いの荒い上司を見た従業員は、コスト削減の心配をしなくなり販売サイクルが伸びても気にしない。この姿勢が会社をダメにする。

第二に、外部資金は非常に早い成長を期待し、収益性を軽視しがちになる。VCが求めるのはホームランであり、シングルヒットや二塁打ではない。しかもそのホームランを5年以内に打てという。ファウンダーたちは、VCと異なり、企業の適性な成長ペースを知っている。そしてファウンダーたちは、自分の生涯の貯蓄がなくなりそうな時に企業の収益性に重点を置く可能性がはるかに高い。この立場のファウンダーは、社員全員を営業マンに変える。それは根性のあるスタートアップにとって理想的モデルである。結局これが、何よりも収益性を重要視する企業DNAを生み出す。

これは、私の両方のスタートアップで起きた。会社に外部資金を導入した時、私はすぐに、取締役会や企業判断の焦点が早期収益に向けられ、それは必ずしも維持可能なものではないことに気付いた。顧客のニーズに構わずできるだけ多くの商品をできるだけ早く売ることを期待されている状況で、信頼に基づく顧客関係を維持することは困難である。たしかに、営業担当者はハングリーでなくてはならない。しかし、同時に長期的な顧客との関係にも目を向け、売上よりも利益に焦点を当てる必要がある。

第三に、外部資金を入れるということは、経営陣が顧客のことを考える時間が減り、取締役たちを喜ばせ続けることを考える時間が増えるという意味である。創立者たちからなる経営陣が、取締役会よりもはるかに顧客に近いことはまちがいない。そして、経営陣が顧客に向ける時間と関心は多ければ多いほどよい。外部資金は、誰が金を出しているかという観念をあいまいにする。短期的には、企業に金を注ぎ込んだのはたしかにVCだ。しかし、長い目で見ればそれは常に顧客である。

これは、スタートアップのCEOだった私の経験そのものだ。ベンチャーマネーが入った途端私は、自分の行動を正当化することを心配したり、取締役会の支持を得るために決断をでっち上げることに、膨大な時間を費やすようになった。取締役たちを喜ばせることが最優先事項となった。こうして、顧客を喜ばせることに集中することが難しくなっていった。

学術研究の結果もまた、資金不足がスタートアップにとって必ずしも悪くないものであることを示している。ノースカロライナ州立大学のDavid Townsend教授と、オクラホマ大学のLowell Busenitz教授の2人が、ある10年間に出資を受けた企業79社を対象に調査を行った。その結果は、強力な経営チームと強力な技術の組み合わせが成功と相関する、という、当然ともいえるものだった。しかし、適正範囲の資金不足には ― たとえ資本比率が初期目標の20%まで下がっても ― そのベンチャー企業が存続する確率との統計的相関はみられなかった。

では、スター経営チームや取締役会やVCは悪なのだろうか。そんなことを言うつもりは一切ない。いずれも巨大な財産であり、会社が成功するための重要な貢献者たちである。また、大規模な資金が急成長に必要となることもある。物理的な製品を実際に作る必要のあるスタートアップの場合、たとえ契約ベースであっても工場を動かすためには、巨大な資金が必要になるのがふつうだ。スター経営者を連れてくることで、たとえば会社が火の車でほとんど選択の余地がない時でも、資金調達が楽になる。

要するに、金自体が成功を呼ぶわけではないということだ。むしろ、失敗の原因になることの方が多い。私はいつでも、未経験のハングリーで資金繰りに困っているスタートアップを、経験豊富なGoogleやMicrosoftのベテランチームに取って代わらせられる。ハングリーな会社は食べ続ける術を知っている、それは他に食べ物があるかどうか知らないからだ。ベテラン連中は、失敗の心配をあまりしないので、その結果失敗する可能性が高い。これこそが、複数の会社を一定規模に育てあげた人たちの例を見つけるのが難しい理由だ。そして、多くのスタートアップにとって金がない方がチャンスが大きい理由でもある。資金不足は革新を呼ぶ。少ない銀行残高は営業チームの意欲を上げる最善の方法だ。だから、資金が足りなくても心配することはない。むしろ、その切迫感に喜びを感じてほしい。

編集部より:ゲストライターのVivek Wadhwaは起業家出身の学者である。現在UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学起業・研究商用化センター研究担当ディレクターを務める。Twitterでは@vwadhwaでフォローできる。】

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(翻訳:Nob Takahashi)