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[jp] スタートアップは国の新しい経済を創造する。香港サイエンス&テクノロジーパークの取り組み

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香港にやってきたーー。日本で東京CampStartupMeetingを開催し、約半年の期間に50社近くのスタートアップや、投資側の方々と会って話をしてきた。しかし彼らを取り巻く環境は厳しい。新しいアイデアを考え、マーケットを探し、スタートアップするだけでも大変なのに、彼らの扱いは決して優遇されてるとはいいがたい。他の国のインキュベーション事情はどのようになっているのだろうか? たまたま手にした機会をもとに、香港での取材を開始した。

香港サイエンス&テクノロジーパーク(HKSTP)は、香港特別行政区政府が2001年に設立した香港サイエンス&テクノロジーパークコーポレーション(HKSTPC)の運営する複合企業集積地だ。観光地でよく知られる九龍の北部にあり、公共交通機関(MTR)では市街地から約30分圏内に位置している。広大な約22ヘクタールの土地に存在する20のビルには、22.5万平方メートルのオフィスがあり、約300社の企業(約80社のインキュベート対象企業を含む)、約8000人の人々が仕事をしている。しかもこの開発はまだ続いているそうだ。

彼らが取り組む主なテーマは電子、精密工業、バイオ、グリーン技術、そして情報技術とテレコミュニケーション。プロジェクトそのものの開始は2001年だが、これだけの広大なテーマをカバーするファシリティが完成したのは2008年頃から。今回取材にあたったインキュベーションプログラムそのものは1992年から存在するが、ファシリティの完成によってさらに加速しているようだ。

インキュベーションに用意された3つのプログラム

取材にあたり、HKSTPCのビジネスデベロップメントおよびテクノロジーサポートのVP、Allen Yeung氏がHKSTPの概要、およびインキュベーションプログラムの内容と目的について語ってくれた。

「インキュベーションプログラムは香港で登記をした、成立2年未満の企業が対象。特に技術系の会社の場合、最初の数年「死の谷」と呼ばれる大変難しい期間があるので、これを乗り越えてもらうための支援をし、さらに成長を維持してもらうことがねらい」で、このために彼らは「2年のデザイン(非技術系)プログラム、3年の技術系プログラム、そして4年のバイオ技術プログラム」の三つを用意している。バイオ技術プログラムが他のものよりも期間が長いのは製品を市場に投入するまでの時間を考慮したためだ。

企業を育てるための支援とは

具体的な起業支援は、オフィス環境や実験施設などへの財政支援、教育やメンターシップなどの人材教育支援、さらにプロモーションやビジネスマッチングという分野にわかれておこなわれる。まず財政的な支援については「オフィス施設を1年目は賃料無料、2年目以降は50%の賃料負担として彼らの負担を軽減している。また、何らかの購入コストについても支援をしていて、例えば特許申請をする際にプログラム側が50%を提供し、スタートアップは50%を負担する」という方法が取られている。

これは助成金を与えるだけでなく、意味のあることに使うようにするためだそうだ。写真はこのようなプログラムによって提供されているオフィス。施設内にはレストランやコンビニなど、就業時に必要なさまざまなテナントも備えている。

実験施設については高額な実験等の環境をHKSTPがファシリティ、さらに運用する人員まで雇用することで、スタートアップに貸し出しをしている。使うごとに支払うタイプのものや企業側が購入して利用する場合もあり、自由度は高いという。ここにはバイオ技術、太陽光技術、LED技術、IC技術、ワイヤレス技術、素材技術のテーマに分かれた10の施設があり、高度な技術開発を推進するために必要な環境をスタートアップに提供している。

例えば、現在このプログラムを受けているEcophytonという会社は、ある微生物が光合成をする過程でディーゼルオイルを作り出すグリーン技術を開発するスタートアップ。これまでの技術よりも効率的(同社ChairmanのJonathan Chong氏によると3倍)にディーゼルオイルを作り出すことができるという。今年の4月にあるイベントで注目され、このHKSTPに入居を許された。

Chong氏にHKSTPの利点を聞くと「まず、知名度が高く連携するさまざまな大学の教授の承認が終わっているのでサービスの紹介がしやすい。また実験施設は質がよく、コストが節約できている。しかもオフィスの家賃が無料。さらに世界の大学と連携をとっているので、情報交換がしやすい」と語ってくれた。「ビジネス的なプレッシャーが少なく、互いに自らが創業ファウンダーとして投資をしている面々がいるので、夢や可能性を語ることができる。こういう雰囲気は大変嬉しい」そうだ。

教育や人材支援も豊富だ。「教育カリキュラムは企業マネジメント、技術、セールスマーケティング。大学教授や技術者などの起業経験が若い人達の多くはどうやって企業を立ち上げればよいかわからない部分が多いので違うタイプのトレーニングを用意している」そうだ。人材面ではメンターシップ制度も提供していて、例えばスタートアップが中国市場を狙いたい場合、そこに精通した人をメンターとしてそのスタートアップに提供する。

またスタートアップが頭を悩ませる雇用の問題も、彼ら独自のタレントプールプラットフォームという仕組みを通して、連携する大学から雇用を募り、HKSTP内にある企業に就職できるようにしている。私の知るスタートアップもたった半年で人数が倍近くになっていた。その裏にはこういう取り組みが成果をだしているというわけだ。

プロモーション支援も彼らの仕事だ。メディアへの露出、テレビ、ラジオの取材支援や、インタビューの受け方、さらにイベントの開催もしている。そうして有望な企業が育てばエンジェルやVCからの資金調達も支援。例えば、香港ビジネスエンジェルネットワークという、60人ほどのエンジェルネットワークを立ち上げて、定期的にイベントでスタートアップのプレゼンテーション機会をつくっているそうだ。

当然これらのプログラムを誰でも受けられるわけではない。入居の条件として先に挙げた香港登記や創業2年以内等の条件の他に、持っている技術や創業者の経験、ビジネスプランなども審査の対象になる。また定期的に設定されるレビューも受けなければいけない。

「ナレッジオブエコノミー」という目標

このようにしてプログラムを受けたスタートアップはまず、グローバルに展開をはじめる。世界のどこかにあるマーケットを見つけて市場をつくり、そこで得た利益を自国に還元する。もちろん還元の内容はお金だけではない。影響力や経験、さまざまな要素が含まれている。

まだ本格的にスタートして数年の若いプログラムなので本当の結果がでるのはこれからだろうが、すでに私をここに引き合わせてくれたスタートアップは香港、日本、北米と展開している。彼らはまだインキューベーション中なのに、だ。

Yeung氏はこのインキュベーションに最も大切な考え方を「ナレッジオブエコノミー」だと教えてくれた。香港は過去、サービス中心の経済構造だった。しかしこれはたいへん心もとない。新しい経済基盤が必要であり、そのためのインキュベーション活動は国を支える重要な活動になる。

例えば、香港には8つの大学があり、技術系の学生が35%もいる。彼らのような個性を集積し、経済、国の発展に寄与させる、という強い目的意識がこの言葉に込められていると感じた。本稿ではひきつづき、現地で取材をつづけ、どのようなスタートアップが生まれているかお届けしたい。