経済と雇用を活性化させるのは既存の大企業ではない―それはスタートアップだ

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ソフトウェア特許について私が書いた前回前々回の記事は議論を巻き起こすだろうとは思っていた。しかしこうもはっきり賛否が分かれたのにはいささか驚かされた。起業家は「ソフトウェア特許はイノベーションを妨げるので廃止すべきだ」という私の意見に圧倒的に賛成だった。しかしMicrosoft、IBM、Googleといった大企業の幹部はこの意見に大いに腹を立てたようだ。大企業の幹部たちは「ソフトウェア特許が廃止されると自分たちの事業のイノベーションに差し支える。それは経済成長を妨げる」と主張した。彼らは自分たちのような大企業が大部分のイノベーションと、ひいては雇用を作り出していると信じている。そして、特許による保護がなければイノベーションを継続することができないと主張している。

しかし私はそうは思わない。たとえば、ソフトウェア特許のおかげでGoogleがMicrosoftやYahooに対する優位性を確保しているとは思えない。同様にIBMのデータベースが特許のおかけでOracleのデータベースより優位に立っているとも考えられない。しかし、次の点は確実だ。画期的なテクノロジーの開発によって新しい雇用を創りだしているのは大企業では全くない―それはスタートアップである。だからどちらかに味方しなければならないなら、私はスタートアップを選ぶ。

まず第一に誰が雇用を創りだしているのかという点から明らかにしていこう。私はこの点に関して、BusinessWeekの記事でIntelの共同ファウンダー、Andy Groveを強く批判した。Groveはアメリカの製造業の雇用が海外に奪われていることを嘆く好戦的な記事を書いた。雇用機会の減少に関する懸念については私も同意する。しかしアメリカの競争力を回復するためにAndyが提案している保護主義的な処方せんは、Intelのような既存の大企業が大部分の雇用を創りだしているという誤った前提に基づいている。私はBusinessWeekの記事でGeneral Motors、AIG、Citibankのような衰退企業を保護して退出を妨げることとスタートアップを育成することの得失についても論じた。この問題は一見するよりもずっと重大なのだ。

Kauffman Foundationは雇用の創出過程について広汎な調査を行ってきた。上級フェローのTim Kaneは、アメリカ政府が新たに公表したビジネス動態統計(Business Dynamics Statistics)詳細な分析を加えた。この統計は、1977年以降に創立された企業について、創立以来の年数と雇用の関係を調査したものだ。この統計で明らかになったのは、スタートアップが雇用創出に大きく寄与しているというだけではなかった。スタートアップだけが雇用を創出していたのだ。スタートアップがなければアメリカ経済において雇用の純増は存在し得なかった。1977年から2005年にかけて既存企業は一貫して雇用の減少に寄与している。年間平均100万人の職が失われてきた。それに対して、スタートアップは創立後1年間に年間平均300万人の職を産み出している。

企業の創立以来の年数を分析すると、データはさらに驚くべきものになる。1992から2005年にかけて、創立1年以内のスタートアップが生み出した職は年間平均300万と述べたが、これは他のあらゆる年数区分の企業が生み出した職の4倍にも当たる。創立1年以上の既存企業は、全体として新たに生んだ職の数より失った職の数の方が多い。すなわち純減に陥っている。

スタートアップの半数は創立後5年以内に消えている。しかしそれでも全体としてみれば最大の雇用の創出者であることに変わりない。Kauffman Foundationは企業が創立されてから5年間の平均雇用数を年数ごとに分析した。同時期に創立されたスタートアップの集団が5年経過すると平均して社員数は創立当初の80%に減少する。たとえば2000年に創立されたスタートアップの全雇用数は309万9639人だった。これらのスタートアップの2005年の全雇用者数は241万2410人、つまり創立当初の雇用者数の78%となっていた。

つまり、こと雇用の創出にかけてはIntelやMicrosoftに頼るわけにはいかないのが明らかだ。スタートアップが必要なのだ。多くの自治体はDellやGoogle、Intelのような大企業を誘致するために巨額のインセンティブを提供している。しかし本当はこうした自治体は巨大企業に延命措置を施すことを止めて、スタートアップの育成にその資源を使うべきだ。

ここでイノベーションについて考えてみよう。テクノロジー分野でイノベーションに関して模範的な企業はAppleだ。同社はこれまで次々に革命的製品を生んできた。しかしそんな会社はAppleの他に思いつかない。iPod、iTunes、iPhone、そしてiPad―全く新しいジャンルを切り開くようなこうした製品を次々に開発してきた企業がApple以外にあったら教えてもらいたい。Googleはこうした定義には当てはまらない。最初の検索エンジンと広告プラットフォームは確かに革命的だった。しかしその後、同じレベルで革命的な製品はついぞ生んでいない。優秀なメールサービスを開発したし、地図ソフトも優れている。しかしこれらは漸進的改良であって革命的なイノベーションとはいえない。考えてみれば、IBM、HP、Microsoft、Oracle、Ciscoといった会社が革命的なイノベーションの主役になったことが最近あっただろうか? こうした巨大企業イノベーションというのはスタートアップを買収してはその製品を資金力と販売チャンネルにモノを言わせて大量に売りまくることに過ぎない。スタートアップにリスクを取らせ、成功
たproductとビジネスモデルだけを利用しているのだ。

ということから興味深い疑問が生まれる。GoogleやMicrosoftはソフトウェア・デベロッパーに最良の人材を獲得することを誇りとしている。この2社に採用されるのは信じられないほど難しい。しかしIT分野の最良の人材がこうした会社に入社した後、思ったほど大きな影響を与えない例が目立つ。それならいっそ、トップクラスの人材を社内に囲い込んでおかず、シード資金を与えて独立させスタートアップを作らせたほうが効果的なのではないか? GoogleやMicrosoftには設立された会社の持分や将来の買収の際の拒否権を与えればいいだろう。このやり方のほうがイノベーションには効果的だと思う。

一言でいえば、アメリカ経済を現在の沈滞状態から脱出させようとするなら、われわれはインセンティブ(税の減免、シード資金供与など)、教育、インフラなどすべての面で全精力を起業家を援助することに向けなければならない。また公共政策としてはスタートアップを保護する方向で特許制度を改正する必要がある。「巨大すぎて潰せない」会社、「巨大すぎてイノベーションができない」会社に付き合うのはいい加減にしようではないか。

編集者注記: ゲストライターのVivek Wadhwaは起業家から学者に転身し、現在はカリフォルニア大学バークレー校情報科大学院客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学起業・研究商用化センター研究担当ディレクターを務める。Twitterでは@vwadhwa、彼の研究を知るにはwww.wadhwa.comで。

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01