夏期ダボス会議レポート:脳に刺激を与えてインターネット経由の「現実的ふれあい」を実現する研究プレゼンテーション

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夏期ダボス会議(Summer Davos)では、経済についてのハイレベルな議論がかわされる横で、マッドサイエンティスト風の奇抜な発明についても発表が行われている。そのひとつが日本の慶応義塾大学およびNational University of Singaporeで教授を務めるAdrian D. Cheokによるものだ。発表内容だけでなく、彼の笑い声は甲高く、まさにマッドサイエンティストという印象を受ける。

彼の開発したのは、電気的刺激を制御して脳に特定の感覚を感じさせるという拡張現実技術だ。たとえば電子ロリポップキャンディーを、好みのワイン味にしたり、お母さんが焼いてくれたクッキーの味に感じさせることもできる。あるいは夜遅くまで仕事のあるお父さんの場合、電子ジャケットを利用して子供におやすみのハグを届けることもできる。あるいは味蕾を刺激することで、特定のテキストメッセージに「甘味」や「苦味」を持たせることもできる。

不気味さを感じさせる発明だとも言えるだろう。果たして実用化の可能性はあるだろうか。言うまでもなく科学的ないし倫理的な問題は山積みだ。MySpaceでも小児性愛者の問題があったことをご記憶だろうか。実際に触れ合うように感じさせる仕組みを持ち込むことで、問題がさらに大きなものとなると疑問の声をあげる人も多いことだろう。

あるいは麻薬的作用を合法的にするものではないかという疑念もあり得る。そもそも私たちの社会生活に、一層の「バーチャル」を持ち込む必要があるのだろうか。バーチャルハグが実現できれば、親として夜遅くまで子供を放置したり、あるいはずっと旅行に出て家に帰らずとも平気だと言えるのだろうか。技術的側面からのみでなく「現実体験」の意味を考えるべきではないだろうか。あるいは脳が判断できない以上、技術のもたらす「バーチャル」体験も「現実体験」であるということになるのだろうか。

ネガティブな疑問もいろいろと出てくるのだが、もちろん有益なビジネスアプリケーションも考えられる。たとえばダイエット用アプリケーションなどはどうだろう。炭水化物なしで、お気に入りながら太りやすい料理を味わうこともできるわけだ。禁煙用としても利用できるだろう。他にも学習面での応用も考えられる。味覚や音楽がきっかけとなって何かを思い出すことがあるのは有名な話だ。記憶を思い出す神経経路を利用して、たとえば九九の表などの暗記に使えるかもしれない。またCheokの研究を耳にして、免疫不全のために人と接することができない娘を抱きしめるのに使えないかという相談も受けたそうだ。これまでも携帯電話、メール、Skype、あるいはソーシャルメディアが人間同士の「関係」に変化をもたらしてきたように、ここに述べた科学技術もやはり変化をもたらすものと考えることができるかもしれない。

ちなみに、Cheok以上にきわどい研究内容のプレゼンテーションも行われた。たとえば遺伝学分野でDNAが解析されたように、ニューロン経路についての解析が進んでいることを示すプレゼンテーションもあった。ニューロンの研究に基づき、既に蝿やマウスについては脳への信号を操作することで行動の制御ができるようになっているらしいのだ。発表者はまるで悪役科学者のような雰囲気を出しつつ、聴衆に向かって行動コントロールの被験希望者を募りつつプレゼンテーションを締めくくっていた。これはもちろん冗談だったのだろう。少なくとも私の理解では、冗談だったはずだ。

こうした科学系プレゼンテーションはかなりの人気を集めていた。発表される知見には驚きの声が上がり、ジョークには笑い声が沸き起こる。質疑応答も活発に行われていた。こうした状況を見て、自身、現在研究されている最先端の科学技術に基づくイノベーション分野の重要性を見損じていたことに気付かされた。プロダクトの製品化を重視するシリコンバレー風の発想に囚われていたわけだが、シリコンバレーには多くの「マネー」もある。製品化云々を度外視して、SF的なものにも目を向ける必要があるのかもしれない。

あるいは現代版のスプートニク問題と捉えるべきなのかもしれない。クローンや幹細胞の研究を神の御業に反するものと考えるうちに、中国や中東諸国などにおいて、こうした科学技術が実用化される可能性はある。アジア諸国における急速な経済成長を目にしても、国内における科学技術に対する意識はなかなか変化しない。そうであれば外国の技術が私たちをマインドコントロールしてしまうかもしれないという恐怖が、私たちの目を覚まさせてくれるかもしれない。

訳注:Cheok教授の開発した技術については、YouTubeなどでも動画が公開されている。

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(翻訳:Maeda, H)