AppleのiPadニューススタンドがやって来る―新聞社、雑誌社に新しい可能性

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iPadが発表されてから1月後のこの5月、私はiPadでメディアに対する接し方が変わったという記事を書いた。驚いたことに、私は数年ぶりで活字メディアをまた読み始めるようになった―もちろん、その電子版、という意味だが。ただ、そうは言っても、一般ユーザーが広く電子版の雑誌や新聞を読むようになるには大きな障害があることも指摘しておいた。高すぎる価格である。どうやらAppleはこの問題への対策を実行に移す寸前らしい。

ここ数日現れたいくつか記事によれば、Appleはデジタル版のニューススタンド〔アメリカで雑誌、新聞を専門に販売する小型の売店〕の設立に向けて雑誌社、新聞社と話し合いを行っているという。これはAppleがすでに作ったiBooksの雑誌、新聞版のようなものになるようだ。新しいストアでは新聞雑誌を定期購読(もちろん1冊買いも)できるようになる。今日のWall Street Journalの記事は、このストアは早ければ来月か11月にもスタートすると観測している。遅くても来年のiPadの新バージョンの発表には間に合わせたいようだ。

新聞、雑誌の電子版ストアはAppleと版元の双方が当然に必要としているサービスだというのがこうした観測記事の論調だ。現在、iPadの新聞、雑誌の状況は混乱の一語に尽きる。なぜかといえば、それぞれが独立のアプリとして提供されているからだ。iPadのスタート当初は1号ずつがそれぞれ別のアプリとして発行されていたので、混乱はさらにひどかった。その後大部分の刊行物は一つのアプリに切り替えられ、アプリ内で新しい号を販売する方式が採用された。11月にiPad向けにiOS 4.2がリリースされれば、ユーザーはフォルダが利用できるようになるので事態はさらに改善されるだろう。

しかし新聞雑誌の販売を一元的に管理できるレポジトリが存在する方がはるかに理にかなっている。サードパーティーのZinioなどがそうしたサービスを試みているが、Apple自身が提供した方が物事が簡単になるのは明らかだ。その大きな理由は支払い手段だ。Appleの電子版ニューススタンドはすべてのiPadに備えられているiTunesの支払いシステムを利用することができる。いちいちクレジットカード情報を入力する必要なしにワンクリックで新聞雑誌を買うことができる。しかもプッシュ配信で新しい号が発行されると同時にユーザーのもとに届く。

アメリカでは新聞雑誌の発行部数の70%が定期購読によるものだ。したがってiPadにも当然定期購読機能が必要だ。現在、iPadでの新聞雑誌の価格は1号あたり$4から$5している。これは現実のニューススタンドでの1号売りの価格にほぼ等しい。しかしAppStoreで新聞雑誌のレビューを見ると、例外なく「値段が高すぎる」と評されている。印刷費も郵送料も要らないのだからもっと安くできるはずだというのはもっともだ。しかしAppleのニューススタンドでの価格が1号あたり$1程度(印刷物での価格もほぼそれくらい)に抑えらればそうした不満もほぼ収まるだろう。

しかしここにはさらに問題がある。実は発行者が定期購読モデルを好む最大の理由は詳細な購読者データが得られるからだ。定期購読の申し込み時に得られる住所、氏名、クレジットカード情報などは広告主を惹きつけるための重要な要素となる。ところがWSJの記事によると、Appleの管理するニューススタンドでは購読者情報はAppleだけが独占し発行者には引き渡さないことになるらしい。これは発行者にとっては大きな問題だ。現在Appleニューススタンドに参加を承諾した発行者はまだ1社しかないというが、当面の不人気の原因はここにあるのかもしれない。

しかしWSJはAppleは発行者がユーザー情報をある程度得られるような方法を別途提供するかもしれないとしている。たとえばユーザー情報をフォームに記入して提供したユーザーには日曜版を無料で提供するなどの方式だ。

もう一つ、発行者をためらわせているのは、現在Appleがストアで販売されるコンテンツの売上の30%を手数料として徴収している点だ。もちろんAppleはこの方式を単発売りのアプリについてすでに適用している。発行者としてはもしAppleニューススタンドが大ヒットした場合、Appleにみすみす大金を払わねばならなくなることを警戒しているらしい。しかし私に言わせれば、新聞雑誌業界の現在の困難な状況を考えれば、そんなことになったら嬉しい問題というべきだ。

そういった理由でAppleのシステムを利用して定期購読を募るのを好まない発行者に対して、Appleは発行者がアプリ内に独自の定期購読受付システムを組み込むことを認める、とWSJは報じている。WSJ自身に加えて、Financial Times、Zinioが現在この方式を採用している。しかしユーザーにとっては〔別途クレジットカード情報を入力しなければならないなど〕手続きが非常に面倒だ。Appleニューススタンドの狙いはまさにエコシステム全体のシンプル化にある。すべての発行者がニュースタンドに参加し、ユーザーがすべてのコンテンツを簡単にダウンロロードできるシステム―ちょうどiTunesのようなシステムが理想だろう。

さらに発行者側で留意しなければならない問題がいくつかある。1)電子版発行までのタイムラグ 2)ファイルサイズ、の2点だ。第1の問題は相当に苛立たしい。たとえばWiredの場合、最新号の印刷版が発行されてからiPad電子版がで読めるようになるになるまで数週間も待たされる(しかもウェブ版はもっと早く、しかも無料で提供されている)。また印刷版の定期購読の大きなメリットの一つは、ニューススタンドで売られる前に手元に届くことだった。もしAppleニューススタンドにコンテンツが最初に提供されるということになれば大きな魅力となるだろう。もう一つ、多くの読者にとって新聞を定期購読することのメリットは早朝に届くことだ。iPad版の新聞も同じことだろう。

第2のファイルサイズの問題は、刊行物ごとに大きく事情が異なるので、ここでもWiredを例に取る。この雑誌は1号あたり(!)500MB以上の容量になる。定期購読を前提とするので
あればファイルサイズをずっと小さくする必要がある。低容量のiPadではわずか32号(あるいはそれ以下)で一杯になってしまう。そうなれば古い号を削除していけばよいわけだが、そんなことせずに済ませればそれに越したことはない。

それともこんなアイディアはどうだろう? 数年に渡る長期間の定期購読を契約したユーザーに対してアプリをプレインストールしたiPadを無料でプレゼントするのだ。比較的安い雑誌では成立しないだろうが、新聞の長期契約では考えられないこともないだろう。新聞雑誌の収入の大半は依然として広告から入ってくる。とにかく現在の新聞雑誌業界の最大の悩みは逃げていく広告主をどうやって引き止めるかにある。デジタル・ニューススタンドはそのために有効だろうし、もしかしたら新しい広告主を呼び込むことさえ可能かもしれないのだ。

[画像:Disney and Paramount]

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01